街から書店が消えるとき



 『出版に未来はあるか?』のPart2である『出版クラッシュ!?』を読んだ。Part1が出版社や編集者にスポットをあてていたのに対して、Part2は書店が中心的な話題である。

 冒頭からショッキングなデータを並べている。出版社を経営する小田光雄がまとめた「出版業界クロニクル:1999-2000年」には、毎月のように倒産や自己破産の文字が並ぶ。本の業界が大変なことになっていることがよくわかる。

 その一方で「書店バブル」と呼ばれる大型店の出店や売場面積の増床が続いている。いつか金融業界と同じ道を歩むだろうと小田氏は予測する。私が一番驚いたのは、書店が仕入れ代金を取次(問屋)に一部しか払っていないということだ。そんな店は他の業界ならとっくの昔に取り引き停止になっているはずである。なぜかそれでも書店はつぶれない。ここがこの業界の不思議なところ。

 やがて従来の古本屋とブックオフなどの新古本屋に話がおよぶ。
(古本屋は)日本の出版業界特有の過剰生産のリサイクル、あるいは第二市場的役割、それと何よりも本を内容によって評価し、値付けするというシステムを独自に打ち立て、いうならば少部数の人文書は出版社の大小を問わずきちんと扱っていてくれたと思います。しかしブックオフの成長というものは、そうした従来の古本屋を解体させようとしている。(中略)ブックオフが上場して、1000店規模になったら、最大のバイイングパワーを持つことになる。それが蔦屋とドッキングしたら2000店規模になっちゃう。そんなことやって、ビデオと一緒に安い金額で売られたら、もうどこの郊外型店だって古本屋だってパンクしちゃいますよ。
 でも一読者としていうならば、そうなっても困ることはない。大型店は遠くてめったに行けないし、古本屋などどこにあるのかもわからない。

 20坪の書店である往来堂の店長をやっていた安藤哲也の話は、具体的で興味をそそる。小さな書店の仕掛け人として業界では有名らしい。
 (ホームページは)往来堂の場合、書誌データも検索機能も持たずにやっていますから、宣伝のツールみたいなものです。ホームページを立ち上げてから、来店客数は40%くらい増えたんですよ。
 安藤氏の話を聞いていると、近所にこんな本屋があったらいいのに、とさえ思う。

 そして話ががぜんおもしろくなるのは、「これからどう変わるか」というテーマからだ。オンデマンド出版、オンライン書店、書店の脱書店化、出版界のダウンサイジング、図書館や小さな出版社の役割などなど。これだけ刺激的な話題が並ぶと、この本を「業界人必読」といっても過言ではない。

 Part1と同じように本の最後に、小田氏が出版業界再生のために13の試案をまとめている。でも再版制と委託制を廃止して、書店が販売価格を自由に決められるようになれば、かってに再生していくのではないか。それでなくなってしまうなら、それまでのことだ。インターネットが普及した今、ちゅうちょなくそう言える。

 本の近未来像は、出版業界のことは知らずに書いた。この業界人必読シリーズを読んでみても、それほど意見は変わらなかった。むしろ光を見出した気分である。

 なお、安藤氏は往来堂店長からオンライン書店「bk1」のサイト・コーディネーター(店長)へと転職した。これからの活躍に期待したい。

 この本はある程度業界のことを知らないとちょっと理解しにくい点がある。そこで本屋さんの仕事を知るために、『ただいまこの本品切れです』も読んでみた。
  • 出版クラッシュ!? 出版に未来はあるか?U 安藤哲也、小田光雄、永江朗 編書房 2000 NDC023 \1500+tax

  • ただいまこの本品切れです 鈴木廉也 ミオシン出版 1998 NDC024.1 \1200+tax
     大手チェーンの100坪規模の書店の実態をわかりやすく書いている。
(2000-09-22)
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