「ハプニカを殺した後はあいつらも全員死刑だ」 

「な、何を言ってるんだ!?」 

「レンら四姉妹やミル・・・うるさい奴等がいなくなると思うとせいせいするぜ」

「お前、まさか・・・!?」 

「一回戦ではダバダが世話になったな、今度は貴様が気絶する番だ!!」 

 

ギャイィィィン!!! 

 

強引に力任せで剣を降り、 

俺を弾き飛ばし、体制が崩れた所を真上から! 

 

「もらったあああああ!!!」 

「うわああああああああああ!!」 

 

ガキイイイイイィィィイイ!!! 

 

俺の兜にヴェルヴィの剣が・・・ 

しかし間一髪でよけたため、 

完全にヒットはしていない、だが・・・ 

 

「ぐああ!・・ヴェ・・・ヴェルヴィ〜〜〜!!」 

 

兜の上部にあたった剣は見事に角を砕いていた、 

俺の頭にもかすめ、激痛とともにそこから血が・・・ 

俺の顔に生暖かい血が1筋、2筋と流れてくる! 

 

「ふ、どこの誰だか知らぬが怨むならハプニカを怨むのだな!!」 

 

剣を振りかぶるヴェルヴィ! 

ハプニカ様を怨むだと? 

許せない!絶対に、許せないいいいい!!! 

 

「うおおおお!ヴェルヴィ、お前はあああああ!!!」 

 

俺は倒れたまま両足でヴェルヴィを力いっぱい蹴り飛ばす! 

意外な攻撃に吹っ飛ぶヴェルヴィ、その刹那、 

俺はまるで重過ぎる鎧が羽衣ではないかと思うほど軽々と飛び上がると、 

床に背をつけたヴェルヴィに間髪入れず剣で殴り掛かる! 

相手に攻撃の構えをまったくさせないまま斬りつけ殴る!殴る!殴る! 

 

「う・・・!!」 

 

頭に血が登ったためか、 

それによって流血の量が多くなったためか、 

俺はクラッと意識が遠のいた、同時に腕も止まる、 

ヴェルヴィはしめた!といった表情でにやりと笑い、 

逆に俺を蹴り飛ばし剣で俺のむき出しの頭を・・・!! 

 

「覚悟!」 

「ぐあっ!!」 

 

ガキィ!! 

 

反射的に剣で防ぐ俺、 

ヴェルヴィと剣を交えたまま動けない! 

膠着状態・・・互いに力を入れたまままったく動けない!! 

 

・・・・・やばい、この状態は明らかに俺の方が不利だ、 

ただでさえ1分1秒でも早く決着をつけなくてはいけない体なのに、 

俺の頭からは血が少しづつではあるが着実に流れ、量も増えてきている、 

ベストの状態ならまったく問題はないのに、このままだと俺の方がじきに崩れてしまう! 

これだけの膠着状態で一瞬でも隙が生まれれば・・・今度は間違いなく気絶させられてしまう!!

 

くそう・・・ヴェルヴィもハプニカ様暗殺の一味だったなんて・・・ 

意外ではあるがありえない話ではない・・・くそう、絶対負けちゃいけないのに・・・ 

意識が・・・うう・・・血が目に・・・視界もぼやけて・・・だ、駄目だ・・・だが、しかし・・・ 

 

そのまま互いに動けず、 

シャクナの言ったリミットの5分を遥かに越えて、 

15分・・・20分・・・・・そして30分がたとうとしている。 

こうなるともう気力だけだが・・・その気力ももう限界に・・・ううう・・・ 

そんな俺を嘲笑うかのようなヴェルヴィの声が俺にあびせられる。 

 

「この国はハプニカのような売女が治めるべきではない! 

ジャイラフ様とその王子・・・ジャヴァー様こそふさわしいのだ! 

ハプニカのような売女こそ我がダルトギア王国の裏切り者・・・ 

今こそ我が国を取り戻すチャンス!そして国軍を整え、王国を復活させ、 

憎きセルフどもを倒し世界をダルトギアが治めるのだ!!!」 

 

こいつ、今までこちらに寝返ったフリをしていたのか!? 

そして世界が平和になった頃合いを見て反旗を振り返し、 

一気にダルトギアを・・・そして世界まで!? 

 

「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」 

 

俺は全身に力が湧き出した! 

これは本当の戦争だ、まだ戦争が続いているんだ! 

そう思うと痺れていた全身に血が駆け巡り気合いがオーラとなって吹き上がる!! 

 

「なにぃ?貴様、なぜ・・・なぜ動けるのだあ!」 

「ぐぐぐ・・・ヴェルヴィ、許さねえ!!」 

 

一気に形勢が逆転し、 

ヴェルヴィが苦しみ出す! 

完全にこちらが押している、 

ヴェルヴィは汗をだらだら流す・・・ 

俺も顔面は完全に血に覆われて赤くなってるが・・・負けられない!!! 

 

「小僧!小僧ーーー!!!」 

 

逃げるように後ろへ引くヴェルヴィ、 

その勢いで剣を振り下ろす俺!!! 

直後・・・・・・・・・・!!!!! 

 

バキィッッ!!! 

 

「ぐわああああああああああああ!!!」 

 

ヴェルヴィの悲鳴が闘技場に響いた、 

俺の剣が奴の体にめり込みあばらを砕いた感触が伝わる、 

口から血を吐き白目をむくヴェルヴィ・・・奴は動かない・・・ 

 

「そこまで!!!」 

 

女審判が割って入りヴェルヴィに近づく、 

何か確認しているようだが・・・一体何を!? 

 

「・・・・・よし、生きてるわね・・・・・ 

そこまで、勝者・・・・・トレオ!!!」 

 

四方八方から割れんばかりの歓声が上がる、 

いや、怒号の方が大きい、そうか、相手はヴェルヴィ、 

この国のかつての英雄・・・それを倒したからか!? 

 

女審判は俺の腕を上げながら言う。 

 

「・・・注意します、次もあのような闘いをすれば・・・ハンデを加しますよ」 

 

そ、そんな・・・これはあいつが・・・ 

確かに殺してはいけないルールだが、奴は・・・ 

でも、反論する気力すらもう残っていない・・・ 

 

ふらふらとステージから降りる・・・ 

・・・・・踏み外して前のめりに倒れた・・・ 

そんな俺に客席から物が投げ込まれている・・・痛い・・・ 

なんで俺がこんな目に・・・うう・・・でも・・・でも・・・・・ 

まだ、まだ闘わなくっちゃ・・・ハプニカ様を・・・守る・・・ために・・・・・ 

 

「い、今すぐ癒します!しっかりしてください!!」 

 

ぱあっと眩い光に包まれ視界が真っ白になる、 

かなり強い治癒魔法だ・・・普通なら鼻血が出るくらいの・・・ 

この声はシャクナさん・・・うう・・・全身の激痛が・・・少し治まっていく・・・・・ 

 

「・・・・・やめましょう、もう終わりにしてください」 

 

暗いシャクナの声に俺は体を反転させ仰向きになる、 

今にも泣き出しそうな顔で俺を覗き込むシャクナ・・・ 

俺は全身に最大級の治癒魔法を浴びながら担架で控え室に運ばれる・・・・・ 

 

 

 

「・・・・・トレオさん」 

「シャクナさん、ごめん・・・5分で片づけられなかった」 

「そうですね・・・30分以上もかかってしまって・・・もう闘えませんね」 

「・・・・・そうだな、もう・・・ここまでにしよう」 

「はい・・・・・」 

 

つーっと一筋の涙を流すシャクナ、 

俺のために・・・・・よし、もうあきらめよう、 

あのヴェルヴィを倒したんだ、あとはもう・・・・・ 

 

「ウオッホン、トレオ君、大変な事をしてくれたね」 

 

いつのまにか俺の近くに軍部大臣のスロトがやってきた。 

 

「我が軍のかつての英雄・ヴェルヴィ殿をあんな状態にするなどとは・・・ 

あくまでも闘技大会であるぞ、これはただではすます訳にはいくまい」 

 

や、やば、説明しなくては・・・ 

俺は激痛に歯を食いしばりながらさっきの試合の事を話すことにした。 

 

「ぐ・・・あの、スロト様、どうか聞いてください! 

あの、あのヴェルヴィも・・・ハプニカ様暗殺の一味だったのです!!」 

 

信じられないといった表情のシャクナ、 

スロトは眉をひそめて怪訝そうな顔をする。 

 

「・・・ほう、あのヴェルヴィ殿が!? 

信じられぬな・・・で、証拠はあるのか?証拠は!!」 

「証拠は・・・ヴェルヴィがそう言っていました、戦闘中に」 

「うむ、しかしヴェルヴィ殿はそなたとの闘いで気を失っておる、

今は懸命な手当てが続いておるが、そなたやりすぎたようだな、 

しばらくは目を覚まさぬであろう、少なくとも3日はかかるそうだ」 

 

ま、また気絶か・・・ 

いや、起きていたところでしらばっくれられればそれまでだ、 

それにしてもヴェルヴィほどの奴が暗殺を企てていたなんて!! 

 

「オホン、しかしもしそれが事実だとしても、

それならばヴェルヴィ殿が首謀者であろう、ならもう安心ではないか?」 

「そうですね・・・いや、まだ手下が残って勝ち進んでいるかもしれません! 

スロト様、気をつけてください・・・敵は・・・まだトーナメントに!!」 

「ホウホウ・・・しかし我々としてはヴェルヴィ殿がハプニカ様を暗殺とはとても考えられんのだ、

そなたに言われていろいろ探ってみたがそれらしい動きは他には見当たらぬ、 

今、勝ち残っている選手で不信な者は1人しかおらぬのだ」 

「そ、それは誰ですか!?」 

「そなたじゃよ、トレオ君、名前と性別以外全て不明・・・そんな人物を信じられるかね?」 

 

し、しまった・・・そういえばそうだ、 

俺は身分を隠して参加している・・・よく考えると不信極まりない! 

うーん、正体をばらしてしまうしかないのか・・・だが、しかし・・・ 

 

「前も言ったがハプニカ様の護衛は任せてくれたまえ、 

どうしても不安ならそなたが勝ち進めばよかろう! 

優勝者のみハプニカ様から直々に賞をさずかれるのだからな」 

「う・・・・・・・・・・はい、わかりました・・・・・」 

 

俺はガックリとうなだれる。 

そりゃそうだ、今のこの状態では俺よりヴェルヴィを信じるだろう、 

かといって俺が正体を明かしたら暗殺部隊がどう動くかわからない、 

悪い方向に行かないとも限らない・・・ここは無理してでも俺自身が勝ち進んで、 

着実に対戦相手をつぶしていって、もっと探る必要がある・・・スロトはもうあてにできない。 

 

「トレオさん、まさか・・・!?」 

 

治癒魔法をかけ続けているシャクナ、 

心配を通り越してまるで脅えているようだ。 

 

「ああ、俺が闘って身の潔白を証明しなくちゃ」 

「駄目です!絶対に駄目です!」 

「だけど、このままだとハプニカ様が殺されるかもしれない」 

「で、でも・・・わ、私、スロト様にもう一度かけあってきますから!」 

「無駄だよ、逆に俺が疑われてるんだ・・・優勝するしか、もう方法がない」 

「だって、だって、トレオさんの体・・・・・もう、むちゃくちゃ・・・」 

 

時間を見る・・・次の闘いまであと20分・・・ 

こっから北闘技場へは上り坂・・・全力で走って間に合うかどうか・・・ 

うだうだ考えていても仕方がない!闘うと決めた以上、行くしかない!! 

 

「ぐうあっっ!!」 

 

言葉にならない気合いとともに俺は立ち上がる! 

兜は上の部分が少し砕けて髪が見えるが顔は隠せたままだ、 

このままでも正体はわかるまい・・・血もとりあえずは止まっている! 

 

「トレオさぁーーーん!!」 

 

シャクナの悲鳴にも似た呼び声を振り切り、 

俺は控え室を飛び出し北闘技場へひた走る! 

もう、もう俺のからだはどうなってもかまわない! 

ただ、暗殺部隊をハプニカ様に近づかせないため・・・ 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・優勝あるのみだ!! 

 

 

 

 

 

「そこまで!勝者、トレオ!!」 

 

北闘技場第2ステージ、 

俺の足元にはジェフェニが横たわっていた、 

間一髪間に合った俺はもはや気力のみで倒すことができた、 

こいつも国の衛兵ではあったが実力不足で戦争の前線には連れていってもらえなかった奴だ、 

それでも今の俺には中ボスクラスの相手に思えた・・・何はともあれ勝ったのだ。 

 

会場からは罵声に包まれる、 

まったく正体の知れぬ全身を隠した謎の男が、 

続けて国の衛兵を倒したのだから無理もない、 

投げつけられる空き瓶を払いながら控え室に戻ると、 

シャクナさんはあわてて俺の鎧を外し無言で治癒魔法をかけ続ける。 

 

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