「どうしてそんな無茶なさるんですか!」 

 

控え室に入ったとたん、怒鳴られた・・・ 

白く清楚な服の少女、1回戦の後にお世話になった僧侶のシャクナだ。 

 

「はぁ・・・はぁ・・無茶って・・・?」 

「その体で!動いてはいけない状態なんですよ!」 

「なるほど・・・体が重いはずだぁ・・・」 

「何を言っているんですか!すぐにその鎧を脱いで!」 

「う、うん・・・よいしょ・・・脱ぐのも大変だなあ・・・」 

 

苦労して脱ぐとまた血だらけ・・・ 

1回戦の怪我の傷口がぱっくり割れている、 

俺は思い出したかのように激痛に苦しみだした。 

 

「うう・・・傷口が・・・熱い・・・!!」 

「ほら!横になって!今、処置しますから!」 

 

ぽーーーっとまたやさしい光が患部を包む、 

また魔法がかかり、みるみるうちに癒えていく・・・ 

痛みはやわらいでいくが・・・今度は完全に傷口が治まっても、 

鈍い痛みだけは残っている、それでもじっとしていれば全然ましだ、 

シャクナさんは一息ついてまた僕を怒鳴りだした。 

 

「死にますよ?もう、絶対に動かないでください!」 

「でも、ハプニカ様が・・・」 

「お城の方にはちゃんと話しておきましたから!!」 

 

かなり怒っている・・・ 

それだけ俺のことを気遣ってくれているのか、 

それだけこの傷が深刻なものなのか・・・ 

俺は懐からサイフを出すとシャクナの方へ差し出す、 

う・・・手を差し出しただけなのに、腹がいたむ・・・ 

 

「・・・これは?」 

「治療費です、俺を看てもらった」 

「・・・まあ!こんなに!!」 

「全部受け取ってください、それは・・・」 

「これは!?」 

「今までの、そしてこれからの治療費です」 

 

痛みを振り切るように立ち上がる俺、 

鎧をまた装着する・・・重い重い! 

持っただけで傷ついていた腹や腰に激痛が! 

 

「いた、いたたたた・・・」 

「どうして立てるんですか?もうやめてください!」 

「次の試合で負けたらやめるよ・・・うぐう・・・」 

 

兜も装着し終わり外へと歩く、 

シャクナさんは怒りを通り越してあきれているようだ・・・ 

とそこへ、1人の初老が入ってきた、立派な服装・・・この服は・・・ 

た、確かガルデス城の大臣とかの制服に似ている!ひょっとして・・・!? 

そういえばこの顔、見たことがあるようなないようなあるような・・・・・?? 

 

「オホン、えー、私はハプニカ様に仕える軍部大臣のスロトという者だ、 

今回の闘技トーナメントの実行委員でもある」 

 

軍部大臣・・・でもこの人、大戦では見た憶えはない、 

きっと、ずっとこの城を守っていたか、大戦のあとに就任したか・・・ 

スロトはいばった感じでなんだか不愉快にさせるオーラを持っている。 

 

「大僧侶のシャクナ様から話は聞かせていただいた、ハプニカ様の暗殺を企てる奴等がいると?」 

「そうです!まだトーナメント参加者にいるようです」 

「フム、そなたの言う一回戦の相手も調べてみたのだが、それらしき物は何も・・・」 

「あいつは目を覚ましたんですか?」 

「いや、おそらく明日まで気絶したままだろう」 

 

スロトは兜の隙間から俺の顔を覗き込む・・・ 

やばい、正体がばれるか?と思ったらスロトは顔を引いた。 

 

「ふむ、そなた・・・トレオと申したな、 

とりあえず今は様子を見るが、そなたに不穏な様子がまたないか、 

トーナメントを勝ち進んで報告してはもらえぬか?」 

「・・・わかりました!」 

「ですからその身体では無理です!!」 

 

シャクナが割って入るが、 

スロトは話を続ける。 

 

「何があろうとハプニカ様の護衛は我々に任せておいてもらって良いが、 

念のため、そなたにもお願いする、不穏な様子があれば報告してくれたまえ」 

「はい、わかりました!俺が優勝すれば何の問題もないと思います」

「ほほう、それは良い考え、心意気であるな、がんばってくれたまえよ」 

 

去っていくスロト・・・嫌な感じの男だが、 

任された以上、俺はハプニカ様のために・・・ 

勝ち進んで優勝するしかない!より義務づけられた格好になった!! 

 

「・・・トレオさん、わかりました」 

 

シャクナが悲しそうな顔で俺の前に立つ。 

 

「今回、トレオさんのこのお金で専属の僧侶にならせていただきます、 

でも・・・限界を超えて戦うんですから、命の保証はできません」 

「・・・大丈夫さ、ハプニカ様を守り切るまでは、死ねないから」 

「ご立派な忠誠心ですね、傭兵の方ですか?」 

「ま、そんな所かな」 

「わかりました、では次の会場へ急ぎましょう」 

 

歩くと激痛が全身をむしばむ、 

走ると激痛がさらに体内を暴れまわる、 

しかし俺は走らずにはいられない、 

全力で走っているつもりなのにシャクナに追いつかれている、 

早く行かないと・・・集合時間切れになってしまう・・・!!! 

 

・・・・・南闘技場へは下り坂になっているのが幸いしてか、 

試合時間の50分前につく事ができた、ちょうとお昼どきだ、 

おなかもすいた・・・何か食べ物は、とまわりを見ると、 

食事の乗ったテーブルに見覚えのある2人の女性の姿が・・・ 

背の低いその2人の女性、いや少女は聞き覚えのある声で会話している。 

 

「ミルちゃんはぁ、新しい国王様にどうしたら喜んでもらえると思うぅ?」 

「レンちゃんはおにいちゃんにもう何か喜んでいただける事したの?」 

 

ハプニカ親衛隊・天馬4姉妹の末っ子・レンちゃんと、 

ハプニカ様の妹君のミルちゃんだ・・・な、なぜこんな所に? 

俺は2人に気付かれないようにゆっくりとできるだけ遠い位置に座った・・・

シャクナは不思議そうな顔をしながらもだまって俺のとなりに座った、 

なーんとなく俺が2人に気づかれたくない事を感じ取ってくれたのか・・・!?

 

「私はぁー・・・料理とマッサージぐらいかなぁ、ミルちゃんはぁ?」 

「おにいちゃんじゃなくって、お姉様に編み物教えてるの!」 

「そぉいえばハプニカ様もぉ、私たちにぃ料理教えてほしいってぇ・・・」 

 

うーん、どうやら俺の話題らしい・・・ 

そ、それよりおなかすいた・・・ 

近くのメイドさんを手を招いて呼ぶ。 

 

「お食事ですね、お持ちします、失礼ですがお名前は・・・」 

 

無言でモリモ・トレオと書かれた身分証を見せる、 

声さえも出せない・・・この2人、ひょっとしてハプニカ様暗殺部隊を探しに来たのか?

ふと貼ってあるトーナメント表を見ると・・・・・あ、ある!レンちゃんの名前が! 

気付かなかった・・・昨日の時点で気付いていてもいいはずなのに・・・ 

他の姉妹やミルちゃんの名前は見当たらない、参加しているのはレンちゃんだけだ。 

 

「やっぱりぃ私が優勝するのがぁ、いっちばんの王様へのプレゼントだと思うのぉ」 

「そうだよね、親衛隊4人のうち一番力の弱いレンちゃんが優勝すればおにいちゃんも安心よね」

「おねえちゃんたちみんな優勝した大会だからぁ、私も優勝しないといけないのぉ」 

「前回がルルさん、その前がリリさん、さらに前のララさん、みんな圧勝だったから、レンちゃんもきっと楽勝ね」

「うん!だからぁ絶対優勝してぇ、ハプニカ様や新しい王様に誉めてもらうのぉ!」 

 

まだ幼さを残す甘くも大きな声が部屋にこだまする、 

そうか・・・レンちゃんもいるのか・・・でも順調に行っても、 

闘うのは決勝戦、最後だ・・・うーん、決勝で負けてくれれば誉めてあげよう。

 

ふとシャクナさんが俺の兜の中へ小声で話す。 

 

「あのおふたり・・・王室の・・・こんなに近くでお顔を拝見するの初めてですわ」 

「・・・シャクナさんはお城に何度か入ってるんですから面識はないんですか?」 

「とんでもない!あのようなご立派すぎる地位の・・・大戦のスーパースターじゃありませんか」

「それじゃあ話したことも?」 

「そんな、恐れ多い・・・近寄れません、あなただってそうでしょう?だから避けてこの席へ・・・」 

 

なるほど、そうとってくれたのか。 

・・・大戦のスーパースター、か、 

じゃあ俺の正体を知ったらシャクナさんは・・・ 

 

「はーいお食事でーす、おまちどうさまー」 

 

御馳走が俺とシャクナの前に並べられる、 

すごい・・・よ、よだれが・・・うまそうだ・・・ 

フォークを握ると顔を覆う兜の隙間に食事をさし込んで食べる、 

うう、兜を脱ぎ捨ててパクつきたいが・・・正体をばらす訳には・・・ 

むぐ・・・むぐむぐ・・・もぐもぐもぐ・・・ごくごくごく・・・もぐもぐもぐもぐもぐ・・・ 

 

「あー!レンちゃん見て見てー!あの人、おもしろーい!」 

「ほんとだぁー!器用に食べてるぅ!兜の隙間にぃ!きゃはははは!」 

 

う・・・ミルちゃんとレンちゃんに笑われてしまった・・・ 

しかし今はとにかく食事で体力を回復するしかない! 

俺は側目もふらず一心不乱に食べ続けた。 

 

「ふう!ごちそうさま」 

「すごい・・・そんなにおなかすいてたんですね」 

「これでも食べにくかったのと闘いの前だから腹八分目にしといたんだけど・・・シャクナさんは?」 

「私も結構いただきました、ごちそうさまでした」 

「さて・・・少し休んだらまたすぐ闘いだ」 

 

俺は横になって出番を待つ、 

その間、シャクナさんが魔法で傷を治癒してくれる、 

遠くでレンちゃんはミルちゃんとはしゃいでたわむれている・・・

 

「そろそろお時間です!」 

 

呼び出しがかかり、 

俺は気合いを入れて起き上がる! 

 

「イテテテテテテ・・・」 

「トレオさん、あの・・・」 

 

シャクナさんは真剣な表情で言う。 

 

「・・・5分以内で勝ってください、でないと体が」 

「・・・・・ありがとう、大丈夫だ」 

 

ゆっくりステージへ向かう。 

後ろからキャッキャと騒ぎながらレンちゃんとミルちゃんが通り過ぎる、

そうか、ミルちゃんはレンちゃんの専属僧侶か・・・これは手強すぎる。

 

「両者、上がって!」 

 

女審判の声がかかる。 

南闘技場第1ステージ、 

対戦相手は3回戦シードのヴェルヴィ・・・

あのヴェルヴィか、もう50代目前だが彼もかつての英雄だ、

昔・・・大戦のずっと前、この国の衛兵で最も強かった別名「暁の戦士」 

 

さすがに今や衰えこの間の大戦もずっとお城の中にいた、

初めは王の参謀として、ハプニカ様が王を、いや父を倒してからは、 

敵だった残りの兵士をこちら側へとりまとめる役をかってでてくれた、 

未だカリスマを残す衛兵・・・大戦が終わって引退したと聞いていたが、 

ここにきて初めて剣を交える事になろうとは・・・正直、その実力は!? 

 

こちらは連戦でかなり体調がヤバイ、動きも鎧の重さでのろい。 

ヴェルヴィはシードで今回が初戦だ、体力はじゅうぶん。 

・・・・・互角か?互角だといいなあ・・・でも経験では向こうが断突か?

 

などと考えていると視界にレンちゃんが入る、 

となりの・・・第3ステージだ、久々にレンちゃんの戦闘装備を見た、 

あいかわらず可愛いなあ、あの赤い服に銀色の装備・・・何を着ても可愛く似合っている。 

 

「第3回戦、ヴェルヴィ対トレオ、はじめ!!」 

 

ゴーーーン!! 

 

銅鑼が鳴り響いた! 

一瞬にしてヴェルヴィが飛び掛かってくる! 

しまった!ぼーっとして油断してしまっていたー!! 

 

ガキィーン!! 

 

ヴェルヴィの剣が俺の兜の数ミリ手前で止まる! 

俺は何とか剣で食い止めたが・・・ぐぐぐ、押されている・・・ 

ヴェルヴィは不敵な笑みを浮かべた。 

 

「小僧・・・闘いは先手必勝!おぬしの負けだ!」 

 

ガキィ! 

キィン!! 

ガシャーン! 

ガキィーーン! 

ギャイーーーーン!! 

 

うう・・・ステージの角に追いやられる・・・ 

強い!とても衰えて引退したとは思えない! 

何より的確に急所を狙ってくるその熟練技がすごい!ぐぐぐ・・・ 

 

はっ!真後ろが騒々しいぞ!? 

 

「そこまで!勝者レン!!」 

 

も、もう!? 

やっぱり強いなあ、レンちゃんは・・・ 

などと感心している場合ではない!何とかしないと・・・ぬうう・・・ 

 

「ふっ・・・レンか、こざかしいガキめ」 

「な、なんだと!?」 

 

ヴェルヴィの目が鋭くなった。 

 

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