とはいえ、さらに前でワインを飲みながら見てるテーブル席のVIP客が目に入り、
ちょっとうらやましく思える・・いや、結構うらやましい・・おなかすいたな・・・
お城に戻れば食事出してもらえるけど、俺はもう普通の身分なんだから、
俺の手を引いて闘技場・・いや演劇場のロビーへと連れ出すシャクナさん、
人ごみをぬって衛兵が立つ豪華そうな入口へと・・赤いじゅうたんが引いてある・・
「はい、一般のロビーですと聞かれるとまずい話もありますので・・」
みんなおめかしして・・俺のこんな格好、地味すぎて浮いちゃうな、
召し使いらしい人だってちゃんとしたタキシード・・え?さらに奥へいくの?
躊躇しても今や少女以下の力しかない俺はシャクナさんの思うがまま連れられる。
お城の来客室と遜色ないほどのゴージャスな貴賓席用ロビー、メイドさんがいっぱい・・
「う、うん、ふかふかの椅子・・壁絵が綺麗だなあ、これはドラゴン・・」
「ここならトレオ様の正体がばれても平気な地位の方ばかりですからご安心ください」
「はい、とはいっても今日は来賓のお客様2家族だけのようですので」
「チケット貰ったから・・シャクナさんはどうしてあの席だって気付いたの?」
「その事ですが、トレオ様が服をお返しした御婦人がお城に慌てていらっしゃって・・」
「謝礼のコートが高価すぎたうえに王家のマーク入りでしたから、びっくりなさって・・」
「というより、問い合わせのようでしたわ、あのお方は誰?っていう」
「本当に受け取っていいのかと・・こう言っては何ですが、盗品の可能性も疑ってらっしゃったようで」
「あ・・・そうか、俺みたいなのがあんな高価な物をプレゼントしたら、そりゃあ疑うよな」
「それで、あの御婦人にトレオ様へお渡ししたチケットの席を教えていただきまして・・
第1幕の途中からコッソリ警備させていただいてたのですよ、実は」
「御婦人にはしっかりご説明させていただきました、トレオ様の事をお聞きになって、
震えてらっしゃいましたので落ち着くようにシグリーヌ様直々にお礼を言わせていただきましたわ」
2つのワゴン・・来賓客用の豪華ディナーか、ぐうっ、とお腹が鳴りそうだ。
「そうだ、お弁当とパンフレット買いたかったんだ、シャクナさん、俺、一般のロビーへ戻るよ」
「そんな!もうすぐトレオ様のお食事が来ますから・・終わったらお土産も出ますから」
「だって俺のチケットは普通のだし、こんなすごい席で見る訳には・・」
「・・・私の隣で・・私と一緒に観覧していただけないでしょうか?」
胸にドキッと刺激がはしる、さ、逆らえない・・でも、でも・・・
「でも、俺、せっかくもらったチケットを無駄にする訳には・・」
「キャルさんに1つ指令を与えます、このチケットで客席へ行ってショーを楽しんできてください」
「そうです、いつも大変でしょうから今日は特別に、最後まで楽しんできてください」
「今日は平日で来賓の数に比べてあきらかにメイドが余っています、それにこれは命令です」
「キャルさんですね、後でメイド長やバニー大臣には心配無く伝えておきますから」
「う、うん、じゃ、じゃあ、お言葉に、甘えるよ・・ありがとう・・・」
そうそう、シャクナさんって結構強引というか真は強い女性だったっけ。
広い広いガラス貼りの観覧席、ちゃんとその外にはゴンドラ席がある、
寒かったり暑かったりすればガラスの内側でテーブルに座って食事しながらでも観れるし、
外へ出てより近くで観たければゴンドラへ・・どっちにしてもステージを見下ろす絶景席だ。
「あ、はい、すいません、俺、いや、私、その、急に、来てしまって・・」
「わたくしどもは急なお客様に備えてすぐに食事や接待の準備が出来るようしておりますので、
何もご心配やお心を痛めるような事はありません、どうぞごゆっくりお楽しみくださいませ」
「ありがとう・・でも休憩時間に来ちゃって迷惑かなって思っちゃって・・」
「シグリーヌ様や大臣の皆様等が仕事を切り上げていらっしゃる事もありますので、
急なお客様は珍しい事ではございません、例え最後の1秒でもご覧にいらしていただければ、
その1秒のために最高のおもてなしをさせていただくのがわたくしどもの仕事でございます」
「ペネルクさん、メイドのキャルさんに、トレオ様の一般席チケットをお渡しして
観覧するよう命じました、トレオ様がチケットがもったいないとおっしゃるので」
「それはそれは・・トレオ様ありがとうございます、キャルには最後まで観覧したら、
御褒美をあげる事にしましょう、トレオ様とシャクナ様のお心づかい、感謝させていただきます」
「とんでもない!トレオ様のためにキャルが指令を実行していますもの、
明日にでも昇進と臨時ボーナスとバカンス休暇を与える事にいたしますわ」
「あ、もうあと10分しかないや、急いで食べなきゃ!シャクナさんも早く!」
「そんなに急がなくても・・食事しながらでも観れますから・・・ねえ、べネルクさん」
「はい、ずっと中でお酒をたしなみながら観覧なさるお方もいらっしゃいますわ」
よく考えたらスバランの木の上では魚肉以外の肉って食べなかったよな、
白竜の卵は別にして・・そう考えるとここにハプニカ様たちも招待したいなあ。
「ぶわっは!あはははは・・・は・・あ、食べ物とばしちゃった・・・
ご、ごめん、こんな高級な席で・・マナーも何もなくって・・・あきれちゃった?」
「わ、私も教会の出といってもそんなに大きくありませんでしたから、いまだにマナーは・・」
「細かい事はお気になさらなくても結構でございますわよ、おほほほほほ・・・」
前の方の席へ・・あ、これは玉座?そうだ、懐かしい、これって確か、
ここから俺とレンちゃんの闘いを見てたんだっけ・・・ちょっと涙が・・
「ありがとうシャクナさん、さすがに玉座は座れないから隣のこのへんが丁度いいよ」
「たまたまです、本日の劇は恋愛がテーマですので、最後は国民全員が知っている、
あの絶対忘れてはならない悲劇の恋の物語を劇にしているんです」
いたいたメイドさんだ、メイド服でお茶かなんか飲みながら・・ちょっと浮いてる。
俺も劇を見なきゃ・・でも、手はぎゅーっと握られたまま・・恥ずかしい。
この劇を遠く旅出たれてしまわれたトレオ様とハプニカ様に捧げます、
切なく悲しいあの悲劇、繰り返さないためにもこの劇をしっかりと目に焼き付けましょう!ドーゾ!」
その反対側、高い高い櫓に灯かりがともる、そこにいるのは長髪の女性・・
ハプニカ様の役だろう、長身な所とか豪華な服装とかもそっくりそのままだ。