上空からいきなり白竜が舞い下りてきた!!

びっくりした、突然・・こ、この白竜は、確かハプニカ様の・・・?

俺の前に着地して・・こ、この紫の実が、欲しいのか・・?手を伸ばして渡そうとすると・・・

 

しゅるっ・・・ぱくっ!

 

舌を伸ばして食べた・・ごくっ、と飲み込んだ・・・

 

グルグルグル・・・

 

気持ちよさそうに喉を鳴らす白竜・・・

鼻先を俺の胸に軽くこすり付けて甘えてきた・・・

大人の白竜でもこうやってじゃれたりするんだ・・ん?伏せた?

そして首をかしげ・・というか背中の方へ首を何度も向けて・・

これって、乗れって事か?俺に乗れと?だ、大丈夫かな・・でも、乗ってみよう。

 

「んしょ・・手綱とかついたままなんだな・・わ、うわっ!!」

 

手綱をつかむと一気に飛び上がる白竜!

急上昇したかと思うと館からあっという間に離れ・・・

あれよあれよとスバランの木から外へ・・そんな、急に・・・!!

 

「白竜!こら!ちょっと!」

 

手綱をいくらぐいぐい引いても操れない・・・

白竜の行くがまま・・ああ、スバランの木があんなに遠くに・・・

どこへ行くんだろう・・でもまあ、もう戻れないってことは・・・あるかも・・

そんな、何も言わないままハプニカ様やみんなとお別れ?こんなにあっけなく?

それは・・嫌だ・・でも、でも、・・ど、どうなるんだろう・・俺はどこへ・・・・・?

 

「寒い・・・」

 

スバランの木を離れると一気に上空の寒さが俺を襲う、

あそこにいた時は長袖のシャツ1枚でじゅうぶんだったが、

今はさらに厚い服を着ないと凍えそうだ・・白竜は高度を下げていく・・・

思ったより白竜の上は快適だ、ハプニカ様に乗せてもらった時はたまに揺れたけど、

今はまったく揺れないというか・・ひょっとしたら白竜が気を使っている?わ!雲に突っ込む!

 

「・・・・・わあ」

 

雲を抜けると下には白い街並みが見える、

雪に覆われた街・・懐かしいダルトギアだ、

ガルデス城が見える・・・沢山の闘技場も・・・

3ヶ月ぶりの地上だ・・どんどん近づく・・ん?闘技場が賑わっている?

しかも全ての闘技場が・・またあいかわらず闘いをしているのだろうか?俺の巨像もまだある・・・

 

白竜はぐんぐんぐんぐんと降りて・・そして・・・

街の端にある広場に着地した・・積もってる雪の上に・・・

飛び降りる俺・・寒い!寒いっ・・・ううう、寒いよおおーーー・・・・・

 

バサバサバサバサバサバサバサバサ・・・・・

 

俺が降りたとたんに飛び立つ白竜、

お城の方へ一直線・・ああ、行ってしまった・・・

 

「ハクション!!」

 

寒い・・あたたかい所へ・・・

 

「ごほごほごほ・・・」

 

う・・空気が悪い・・・

なんて淀んだ空気なんだ・・・

でも、ここってもともとこうだったと思う・・・

スバランの木が、あまりにも良い空気すぎたのだろう、

それよりこのままだと凍死しそうだ・・雪が今、降ってない分まだましかも知れないけど・・・

 

「とにかくあの家で休ませてもらおう・・・」

 

近くにある家に駆け込む、

こんな見ず知らずの男を助けてくれるかどうか・・・

駄目だったら片っ端から家を尋ねれば・・・扉をノックする・・・

 

「はい、どなた?」

 

女性が出てきた、主婦といった感じだろうか、30歳前後かな?

 

「あの・・ハックション!」

「どうしたの?」

「はい、その、えっと・・・」

 

どう言おう・・・

 

「とにかく、助けてもらえませんか?その・・お金とか持ってないんですが・・・」

「ひょっとして、盗まれたの?だからそんな格好で・・?」

「いや、そういう訳ではないんですけど、えっと・・・」

 

確かに長袖とはいえシャツ1枚、身包みはがされたと思われてもおかしくない。

 

「とにかく入りなさい、寒いでしょう?」

「あ、ありがとうございます!!」

 

助かった、1発で入れてもらえた・・・運が良い。

中に入ると赤ん坊の泣き声が聞こえる、お姉さん(と言っておこう)は慌ててそちらの方へ・・

おしめを変えている・・・暖かい室内、でも相変わらず空気は・・・うっ!

 

「げほごほごほ・・・」

「大丈夫?今、タオル持ってくるわ、お風呂も・・・」

「すみません、そういうんじゃないんです、その・・」

「この国、治安は良くなったはずなんだけどね、まだいるのね、そういうの・・」

「いや、その」

「でも犯人は他の国の人かもしれないわね、一気に旅行客が増えたから・・」

「実は強盗とかそういうのにあった訳じゃないんです、なんていうか・・その・・・」

 

不思議そうな表情のお姉さん、

まさか、本当の事を1から説明する訳には・・・

 

「ねえ、君、どこかで会った事なかったかしら?」

「え?」

「どこかで見た事あるのよねー、その顔・・・」

 

どこかでって、このお姉さんと会ったの、多分はじめて・・・

って、俺の顔は町中にあるじゃないか、英雄の像として・・やばい!

 

「あの、その、羽織る物を・・できればフード付きのとか・・」

「そう?ちょっと待ってね・・・お風呂も沸かすから」

「いえ、そこまで気を・・ごほごほごほ」

「風邪かしら?じゃあお風呂はやめておいた方がいいわね」

「いえ、風邪ではないです、どちらかというとお風呂、入りたいかも・・・」

 

お姉さんはホットココアを出してくれて、

飲み終えるとお風呂が沸いていた、お言葉に甘えて早速入る、

気持ちいい・・せまいけど・・って、お城やあの別荘のお風呂と比べちゃ悪いか。

 

「ごほごほごほ・・・」

 

それにしても地上って空気が悪い、

でも、それと同時になんだか、なんというか、

意識がはっきりする、いかにあのスバランの木の上の空気が特殊だったかよくわかる。

ハプニカ様・・今頃、俺がいなくなった事に気づいて慌ててるのかな・・・?

俺を癒してくれた・・一生懸命に・・3ヶ月も・・・3ヶ月・・ん?待てよ?

元は1週間で逃がしてくれるはずだったんじゃあ・・でも、延び延びになってしまった、

そしてこうして俺は自力で降りてきた・・白竜が来てくれなかったら、あそこにずっと囚われていたかもしれない。

 

そうだ!俺は囚われていたんだ!!

そもそもハプニカ様は俺をこの地上から連れ去って、拉致したんだ!

しかも普通じゃ絶対に逃げられない天然の城壁、いや、天然の牢獄へと・・・

よくよく考えてみると、あの木から飛び降りようとしても白竜が助けてくれる、

って白竜たちが逃げないように監視してるって事じゃないか!?俺、騙されていた!?

 

よーく考えたらわかる事じゃないか・・でも、考えられなかった・・・

うまく言いくるめられて肉体に溺れさせられ拉致されていた事を、気づかなかった・・・

そこまで頭が回らなかったのも、あのおかしな空気のせいだ、スバランの木が出す、あの・・・

そうか、深く考えようとしても考えられなかった、疑う事ができなかったのは、あの木のせいだ!

どうりで俺の中で危険信号が鳴り響いていたはずだ・・それは最後に残った本心みたいなものだったのだろう。

 

ようやく俺本来の意志を取り戻してきたぞ、

きっとハプニカ様は俺を完全に手なづけた所で、

お城に戻って俺を国王にしたに違いない!!あぶないあぶない・・

4姉妹だってきっと・・そう考えるとハプニカ様、白竜の調教というか操作に最後で失敗したな?

俺を白竜が自分の意志で逃がしてくれたんだから・・白竜に感謝しなくちゃ、それに都合が良い、

ハプニカ様は今、スバランの木の上・・・ここへ追いかけてくるには時間がかかるだろう、

白竜もまだこっちにいるかもしれない、ならなおさら・・・とにかく早く逃げた方がいいかも?

 

 

「はい、この上着でいいかしら?」

「すみません、必ずお返ししますから・・」

「いいのよ、古着だから・・それで1つお願いがあるの」

「はい、何ですか?」

「うちの亭主にお弁当を持っていってほしいの、東3ステージまで。お願いできるかしら?」

「お安い御用です、任せてください!」

「・・まあ、君に何があったか深くは聞かないけど、最近増えた観光客でたちの悪いのいたらすぐに通報するのよ」

「ごめんなさい、心配をおかけして・・」

「ううん、いいの、ただ治安はものすごくよくなったはずなのにこんな事があって、私も心配で・・」

「そうですか、治安は良くなったんですか」

「ええ、新しい国王様のおかげで・・そういえば君・・・」

「じゃ、じゃあお弁当持っていきますね!東闘技場の第3ステージかあ!よおし!色々ありがとうございました!」

「と、闘技場って、いつの話・・あ、行っちゃったわ・・・うーん、誰かに似てるのよねえ、誰かに・・・」

 

俺は逃げるように出た、フードもかぶって、と・・・

街の中をどんどん行く・・うーん、華やかになってきた、

こんなに華やかだったっけ?華やかすぎるくらいだ・・えっと東闘技場は確か・・

ん?この道、昔通った覚えがあるぞ?そうだ、この先には確か・・あった、道具屋街だ、

体力や魔力の回復アイテムが並んでる・・やたら繁盛してる店があるぞ?あそこは確か・・え、ええ?

 

「はい、いらっしゃい、いらっしゃい、伝説の英雄・御用達の道具屋はこちらだよー」

 

ここって、あの・・・あの道具屋だよな!?

 

「この国の救世主・英雄トレオが使ったのと同じエリクサーもあるよー、いらっしゃいー」

 

間違いない・・・

すごい人の多さ、混み合っている、店も建て増し中みたいだ、

奥には・・あのおやじがいる!それと、エリクサーが展示されている?

 

「これがあの英雄・トレオが使ったエリクサーと同じ物だよー、

英雄様には10分の1の値段で売ったけど、みんなは定価で買うんだぞー」

 

綺麗なエリクサーだなー・・・

あの時、これを使っていれば俺の体は完治していたろうに・・

10分の1で売った?10倍だった記憶が・・しかも今の表示価格も普通のレートの倍だし・・

でも売れてる・・すごい勢いで・・あ、売り切れた・・店のおやじも相当儲けてるみたいだなー・・・

白く濁ったエリクサーが不良特売品としてクズみたいにしてワゴンにある・・

 

「はいはい、見るだけの奴は邪魔だ!出てけ出てけ!」

 

うーん、このおやじ、どうしてやろうか・・・

・・・・・・・・・・うーん・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・決めた!!

 

どうもしない!!!

 

今ここで正体を明かしてどうこうしても仕方ないし、

よくよく考えれば回復アイテムを売ってもらえた事実はあるんだ、

他の店じゃ売ってもらえなかったかもしれないし・・何よりあの時、俺は悪役に見られてたんだ、

そう思われても仕方ない立場だったし、正体も明かせなかった・・・

この店のおやじが取った行動を責められやしない、仕方がない事だ。

 

さ、東闘技場へ急ごう。

 

 

それにしても町中、きらびやかすぎる・・・

何かのお祭り?そういえば上空から見ても賑わっていたっけ、

闘技場も全部埋まっていた・・そうか、闘技トーナメントか何かの真っ最中なんだなきっと。

この国の人はつくづく闘いが好きなんだろうな・・俺が像になったのも闘ったから・・・

弱くなった俺を見たらさぞかし幻滅する事だろう、とっととこの国から去らないと。

 

・・・やっとついた、東闘技場・・入場券は昼の部はまだ売ってるみたいだ、

夕方と夜の部は売り切れ・・昼の部?2回戦とか3回戦じゃなく?

ま、どっちにしろお金持ってないし・・通用口へ・・確かこっちだ。

 

「あのー・・お弁当を届けてくれと言われたんですが、第3ステージへこれを・・」

 

守衛の向こうからバニーガールが出てきた。

 

「あら、そのお弁当はティドさんのですね?」

「は・・はい・・・」

 

ティドさんって言うんだ、

逃げるように出てきたから名前聞き忘れてた・・助かった。

と思っていたら奥から男の声が・・・

 

「おーいミームちゃん、時間だよー」

「はーい!じゃああなた、ティドさんに届けていただけます?」

「え、入っちゃっていいんですか?」

「もちろん!守衛さんもこの場所を離れる訳にはいかないでしょ?だから・・駄目?」

「いえ、いいですけれど・・」

「ついでに見ていくといいわ、ティドさんも始まったら控え室に戻ると思うから」

「はい・・では失礼して・・・」

「ミームちゃん早く早く!」

「はーーーーーい!!」

 

このバニーガールはミームちゃん・・

かあいいなあ・・そうそう、お弁当を届けないと、

ティドさんって闘うのかな?でもはじまったら戻るって審判?いや違う、

守衛かな?うーん・・ま、行けばわかるか、と控え室から会場を見ると・・・

 

「な、な、なんだこりゃあああああーーー!!!」

 

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