☆空〜☆

こうして楽園での時間は過ぎていった、

毎日ハプニカ様やミルちゃん手製の食事を食べ、

ミルちゃんと一緒に白竜の子供と遊んだり木の上を探検したり、

ハプニカ様とたくさん話をして、また俺の話もたくさん聞いてもらって・・・

昼は3人で大きいハンモックで昼寝、夜は部屋いっぱいのベットで愛にまみれたり・・・

 

そして約束の1週間はすぐにやってきてしまった。

 

「ハプニカ様、おはようございます・・」

「ああ、おはよう・・どれ、すっかり濡れてしまったシーツを洗うとするか」

「その・・あの・・・」

「何だ?まだ腰が痛むか?ゆうべは激しかったからな」

「いえ・・・えっと・・・・・」

 

どうしよう・・・

このまま、約束は無かった事にして、

ずっとここに住んでしまうのがいいかもしれない・・・

 

でも・・・

で、でも・・・・・

 

「・・・・・まだ眠いのならば上のハンモックまで行くか?私が抱いて運ぼうぞ」

「そうじゃなくて・・・」

「おうそうか、おなかが空いておるのだな、食卓の朝食を運んでまいろうか」

「・・・やっぱり・・・地上へ・・・戻ります・・・」

「地上・・・戻る・・・のか?」

 

・・・ハプニカ様の顔が見れない。

 

「その・・・最初の約束通り・・地上に・・帰りたいと思います・・・」

「・・・・・訳を・・聞かせてもらえぬか・・・」

「はい・・・うまく言えませんが・・これ以上、ハプニカ様に甘えると・・自分が駄目になってしまうような気が・・」

「・・・・・駄目になるというのは・・どういうことだ・・・」

「その・・・えっと・・俺・・あれ?何だか・・よく・・わからない・・でも・・・」

 

心の整理がつかず混乱してる・・・

でも、俺の最初の信念が本能のようになって、

今のこの状態を拒んでいるんだと思う・・うまく伝えられないけど。

 

「とにかく・・約束は・・約束ですから・・・」

「そんなに急ぐ事なのか?」

「・・多分、急いだ方が・・いい気がします・・・」

 

直感的にそんな気がする・・・

どうもこのスバランの木から出る空気が、

俺を、何というか、不自然に癒しすぎているような気が・・・

 

「・・・・・そなたがそう言うのなら仕方あるまい・・外へ出よう」

「はい・・・」

 

ハプニカ様は素直に外へ出る・・・

いいのか?これで・・本当にいいのだろうか?

まだ、まだ俺は迷ってる・・何かを・・でも、出ていきたがってる・・よな、俺・・・

 

「・・・・・困った」

「どうしたん・・ですか?」

「白竜がおらぬ」

「え!?」

「私の白竜の姿が・・見当たらぬのだ」

 

白竜が、いない!?

 

「そ、そんな・・?でも白竜は、ここにいっぱい・・・」

「ちゃんと調教した私の白竜でなければ、言う事はきいてくれぬのだ」

「そんな・・・」

「おそらく夕方には戻ってくるであろう、それまでしばらく待ってはもらえぬか」

「わ、わかりました・・・・・」

 

何か、少しほっとしたような、それでいて軽い胸騒ぎがするような・・・!?

 

「おにぃちゃん、白竜と遊ぼうよー」

「う、うん・・」

 

白竜の子供とじゃれあうミルちゃん、

俺もあやして遊ぶ・・・楽しいんだけれども・・・

うーん、やはりおかしい、俺の意志が・・定まらないというか揺れ動きすぎているというか・・・

不自然なようで、それでいて・・・混乱している・・・頭が・・・その、なんというか、

うう、ハプニカ様を疑おうとしても、その、思考回路がなぜか回らない・・・!?

 

「おにぃちゃん、どうしたの?具合悪いのぉ?」

「い、いや、大丈夫だよ、ちょっと休めば・・・」

「じゃあ、おうちに入ろぉ♪」

 

中の巨大ベットで横になる俺、

もちろん胸の中にはミルちゃんが甘えている・・・

窓の外を見ると・・ハプニカ様が剣の・・いや、木の棒を素振りしている・・・

一生懸命に・・本気の素振りだ・・汗を撒き散らしながら・・・

・・・なぜ?ここにはもう敵はいないはずなのに・・あんなに必死に・・・?

 

「お姉様、がんばってるぅ」

「その、ミルちゃん・・ハプニカ様、どうして・・・」

「うふふ、お姉様ねぇ、おにぃちゃんのために頑張ってるんだよぉ」

「え?その・・・俺を、守るため?」

「守るってぇ、ここ、絶対安全だよぉ」

「じゃ、じゃあ、どうして・・?」

「ふふふ・・・教えてあげるぅ、お姉様ねぇ・・・」

「うん?」

「ダイエットしてるのぉ」

 

ダイエット!?

 

「ここの食事、おいしいでしょ?だからつい食べ過ぎちゃうからぁ・・」

「そ、そうなんだ・・」

「おにぃちゃん、お姉様を抱いてる時に、重い、って言わなかったぁ?」

「う・・・言ったかも?」

「・・・お姉様には内緒だよぉ、聞いちゃだめだよぉ、ダイエットのこともぉ」

「わ、わかったよ・・確かに聞けないな・・・」

「ミルも痩せた方がいーい?」

「そんなことないよ、ミルちゃんはじゅうぶん可愛いから」

「うれしぃ・・・」

 

1時間ほどしてハプニカ様は館に戻ってきた、

汗をぬぐい、髪を整えながら俺の元へ・・

 

「ハプニカ様、おかえりなさい・・その、お疲れでしょう・・」

「ん?見ておったのか?」

「はい、素敵でした・・・」

「白竜には1週間も乗らなかったからの、再び乗るには体の感覚を研ぎ澄まさなければならぬ」

「そうですか、俺のために・・・」

「ふ、風呂にでも入ってくる・・もしよければ、そなたも一緒にどうだ?」

「は、はい・・・じゃあ俺も汗を流した方がいいですね、運動しないと・・俺も素振りを」

「いや、そなたはもうじゅうぶん、毎晩運動をしておるではないか・・それにこれからも・・ふふ」

「は、ははははは・・・」

 

ハプニカ様、もうすぐお別れなのに笑顔を絶やさない・・・

今のこの瞬間を心から楽しんでいるのか、それとも必死で我慢しているのか・・・

今になって、あれだけ疑っていたハプニカ様の気持ちを、素直に信じずにはいられない、

俺は・・・俺はハプニカ様のために・・ここに・・・残る・・べきか?

でも、でも最後に1つ何かひっかかっている・・何か・・でもそれが、わからない・・・!!

 

結局、その日は白竜は戻ってこなかった、

次の日も、その次の日も・・ハプニカ様も心配そうだ、

俺はというと白竜が来ない事をまんざらでもないと思ってしまっている、

あれだけここにいてはいけないと思っていたのが嘘のように・・このままいつまでも、

白竜が来なくて、ハプニカ様とミルちゃんと、3人で暮らすのもいいんじゃないかと・・・

 

「あれからもう1ヶ月ですね」

「そうだな、白竜・・とても心配だ」

「その・・白竜以外にここから去る方法はないのでしょうか?」

「ないな・・ここは天然の城壁だからな、木から外へは空からしか出れぬ」

「そうですか・・でも、調教してない白竜にうまく乗って、パラシュートか何か作って淵から飛び降りれば・・」

「そうはいかぬ、普通、白竜は人間が大好きだからな、もし木から飛び降りればすぐさま飛んで拾ってここまで戻してくれる」

「賢いですね」

「ああ、だから、もし間違って木から落ちても安全だ、24時間いつ落ちても察知してくれるぞ」

 

遠くではミルちゃんがあいかわらず白竜の子供と遊んでいる・・・

 

「ミルちゃんも俺以外に良い遊び相手がいますね」

「・・実は遊んでいると同時に調教もしておるのだ」

「調教・・ですか」

「ああ、ああやって遊んで・・あと1年もすればミルもあの白竜に乗ってこの木の上ぐらいなら自由に飛べるようになるだろう」

「ハプニカ様、あの・・」

「私も新しい白竜を調教しはじめた方が良いかもしれぬな、そなたのために」

 

ビュウッ、と風が吹いた、

ここに来てはじめての突風・・

何か懐かしい空気を切る音が聞こえてくる、これは・・・

 

「こ、これは、ハプニカ様、これは・・」

「む・・白竜が帰ってきたようだな・・」

 

ああ、帰ってくる・・

帰ってきてしまう、白竜が・・・

やがて姿が見えて来た・・でも何かおかしいぞ?

よろよろしてる・・背中に誰か・・・乗っている?

しかも、1人じゃない・・2人、3人・・よ、4人も!?

 

「旦那様〜!」

「ご主人様〜!」

「アナタ〜〜!」

「ダーリ〜〜ン!」

 

あの声は・・・4姉妹!!

ふらふらしながらも近づいてくる・・・

よ、4人がかりで操縦している!なんて器用な・・・

白竜も迷惑そうだ・・でもなんとかこっちへやってきて・・・

・・・・・降りてきて・・着地した・・・4人飛び降りで俺の方へ走ってきて・・・うわっ!!

 

「やっとお会いできましたわっ、旦那様っ!!」

「夢にまで見たお姿ですー、感激ですー、ご主人様ー!!」

「はぁ、はぁ、大変だったけど、諦めなかったからね、アナタ!!」

「わぁい、嬉しいよぉ、ダーリンですぅー!!」

 

ガバッ、ガバッ、ガバッ、ガバッ、と俺に抱き着く4姉妹、

勢いあまって後ろに倒れてしまうが、それでも覆い被さってくる・・・

ちゃんと倒れる時に彼女たちの腕が俺の後頭部や背中に回されて守ってくれている、嬉しい・・・

 

「そなたたち、何をしておるのだ!」

 

ハプニカ様もあわててやってきた、

再会を喜ぶ4姉妹とは対照的に、怒ってるみたいだ・・・

 

「そなたたちが白竜を捕まえておったのだな?」

「いえ、白竜の方から私達のところへいらっしゃったのです」

「そうですー、それでー、スバランの木へ登ろうとー」

「別に白竜に傷つけたり、怒らせるようなことはしてないけど・・」

「1ヶ月かけてよぉやくなんとか操れるようになりましたぁ」

 

バサバサバサ、と白竜が自分の巣へ戻っていく・・家族も嬉しそうだ。

 

「そなたたち、こんな所までつきまとって、迷惑を考えぬのか?」

「あら?迷惑なのはハプニカ様ではありませんこと?」

「ご主人様ー、私達、迷惑なのでしょうかー?」

「えっと、ハプニカ様とはもう師従関係にはないから遠慮しなくていいんだよね?」

「一生お世話させていただくお約束をしましたー、ね、ダーリン♪」

 

う・・そうだ、俺は1ヶ月前、4姉妹の手に落ちたんだった・・・

そしてもう溺れきってしまった次の朝、ハプニカ様にここへ・・・

 

「・・・そなた、本当であるか?」

 

悲しそうに俺に問い掛けるハプニカ様、

俺を守るように前に出て言い返す4姉妹。

 

「もう私達は旦那様と愛し合っているのですわ」

「そうですー、ご主人様もー、嬉しそうでしたー」

「惚れた男がいなくなったから見つけて取り戻すだけの話だよ」

「ハプニカ様も一緒にダーリンを愛してもいいですよぉ」

 

そ、そうだ、とりあえず落ち着こう・・・俺は口を挟む。

 

「とにかく、せっかくまた会えたんだから、ひとまず落ち着きましょう!ハプニカ様も!」

 

うう・・・焦ってしまう俺・・・

4姉妹VSハプニカ様の三角関係とでもいおうか・・・

とにかく落ち着いて考えをまとめる時間が欲しい・・・

 

「そなたがそう言うのならば・・仕方あるまい」

「さ、旦那様、別荘へ入りましょう・・ここ来るの、3度目ですわ」

「そうですー、ハプニカ様に連れてきてもらった事があったのでー、なんとか来れましたー」

「ちょっと最近体が硬くなったんじゃないか?マッサージマッサージ!」

「あ!ミル様だぁ!わぁい、お久しぶりですぅ!!」

「レンちゃん!上がってきたのぉ?嬉しいなぁ♪」

 

ミルちゃんとレンちゃんも再会を喜んでいる、

この2人、大の仲良しだったもんな・・でも・・・

俺のせいで、この2人も俺の奪い合いをするのかな・・それは嫌だな・・・

 

 

 

7人での豪勢な食事を終え、

4姉妹は揃ってお風呂に行った・・・

後片付けをするミルちゃんを除き、

俺はハプニカ様と2人っきりだ・・・

なぜか沈黙・・・しかし先に口を開いたのはハプニカ様だった。

 

「明日・・白竜も戻ってきた事もあるし、朝1番に下へ降りようか」

「下に、ですか・・・」

「ああ、約束が1ヶ月もオーバーしてしまったが、こういう事情だったので仕方あるまい・・・」

「そうですか・・・明日・・ですか・・・」

「嫌ならばいいのだぞ?出発を遅らせても、また、ここに住みたいというのならば・・・」

 

俺の中でまた、正体不明の危険信号が鳴り響いた。

 

「いえ、明日の朝、ここを去ります!」

「そうか・・・わかった」

 

言い終えた後、何ともいえない後味が残ったが、これでいい、と自分をなだめた。

 

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