「旦那様、あれは、白竜ではありませんか!?」
「本当ですー、ご主人様ー、ではあれに乗っているのはー・・・」
「ぐんぐん降りてくるぞ!?アナタ、あぶないっ!!」
「ダーリンはぁ、私たちのぉ、後ろに隠れてくださぁい」
「じゃあやっぱり・・・ハプニカ様!?」
舞い下りてくる白竜、
身構える4姉妹・・・戦闘スタイルで構えている、
相手はハプニカ様だというのに・・・なぜだ!?
「ハプニカ様!あなたに私の愛する旦那様はお渡しできません!」
「もう無関係ですー、ご主人様と幸せに暮らさせてくださいー」
「私の亭主に指一本触れさせないからな、たとえハプニカ様でも!」
「ダーリンはお城に戻りたくないんですぅ、来ないでくださぁい!」
・・・白竜の上が見えた!
完全武装しているハプニカ様だ!
そのまま4姉妹に向けランスを振るう!は、速い!!
ガキィ!
ガキャァン!
ガシャァーン!
ガッキャーーーン!!
「ああっ!!」
「あんっ!!」
「あうっ!!」
「ああぁ!!」
つ、強い!!
4姉妹が束になっても、
ハプニカ様はまるで埃を払うかのように・・・!!
ここまで力の差があったとは・・剣を飛ばされ倒れ込む4姉妹、
そのまま白竜ごと俺に突っ込むハプニカ様・・・うわ、うわあああーーー!!!
ガシッ!!!
「うわ、うわあ!!」
「暴れるな!怪我するぞ!!」
ハプニカ様は俺を捕まえると、
強引に白竜に乗せ、そのまま上空へ・・・!!
「旦那様ーーー!!」
「御主人様ーーー!!」
「アナターーー!!」
「ダーリーーン!!」
叫ぶ4姉妹の声が遠くなっていく・・・
ああ、4姉妹が・・・4姉妹がぁ・・・・・
遠く・・・小さくなって・・・いく・・・・・ああぁ・・・
「すまない、親衛隊が迷惑をかけたようだ」
「ハプニカ様・・・なぜこのような事を・・・」
「そなたを救ったのだ、あの4姉妹から」
「ええっ!?」
「言い寄られて迷惑だったであろう、あそこまでついていってしまって・・・」
そ、そういえば・・・
俺はそういう風に思っていたんだっけ・・・
でも、でも、助けるのが遅かったかも・・俺の体は、もう・・・
「その、ハプニカ様、実は・・・」
「大丈夫だ、良い隠れ家がある、そこでしばらく身を隠すといい」
「隠れ家、ですか!?」
白竜はガルデス城を越え、
さらにズバラン山脈を上がる・・・
雲を越え・・・どんどんどんどん上へと・・・さ、寒い・・!!
「そろそろだ・・・もう少しの辛抱だ」
「どこまで上空へ・・・あ、山頂だ、あれは・・・!?」
「大きな木であろう、世界最大の木・スバランの木だ」
とてつもなく大きな大木が山頂からのびている・・・
いつもは雲に隠れて見えなかった、ハプニカ様と空中散歩した時でさえ・・
それだけ高い標高にそびえる木・・・その木に向かってどんどんどんどん上がる・・・
「あれ?あたたかくなって・・きた!?」
「ああ、この木が熱を発しておるのだ」
「そうなんですか・・・薄かった空気も濃くなってきました」
「この木は生きておるからな、良い酸素を出してくれる」
「それにしても、この木、どこまで・・まさか天国まで!?」
「・・似たような所だ、もっともっと上がる、しっかりつかまっているのだぞ!」
「は、はい・・・うわっ!!」
びゅーーーーーん・・・・・
スバランの木を幹伝いに上がる・・・
本当に大きく迫力のある木、まるで塔のよう・・・
ぐんぐんぐんぐんぐんぐんぐんぐん上がって上がって上がると・・・・・
「見ろ、ここが我が王国に伝わる隠れ家だ」
「す、すごい・・・すごすぎる・・・!!」
ようやくたどり着いた木の上、
そこは巨大な木の枝がいくつにも別れてすり鉢状になっている広い広い場所が広がる、
ガルデス城が20個は建てられそうな・・・そんな広い木の上の空き地だ・・・
いや、よーく見るとその中央に小さな家がポツンとある、3階建ての・・・
これだけ広い所にあるので、実際はそれなりに大きいのだろうけど・・・・・
「あれが私の別荘だ」
「あれが、ですか!?」
「そうだ、降りるぞ」
白竜はその空中別荘の前に着地した、
やはりあらためて建物の前に来るとそれなりに大きい、
と同時にこのスバランの木の大きさが気の遠くなるほどだという事がわかる。
「疲れたであろう、さあ中へ入ろう」
「こんな所に別荘が・・・」
「もしもの時の避難場所だ、この場所はほんの一握りの者しか知らぬ」
「立派ですね、どうやって・・・!?」
「先祖代代、自らの手で作ったのだ、落ち着くまでここにともに住もうぞ」
「ともに・・・!?」
「そうだ、私は女王の座を降りてきた、代わりのものに任せてある」
別荘に入るハプニカ様、すると・・・
「いらっしゃい、お姉様、おにいちゃん!」
「ミルちゃん!?」
「うん!私もお城出たのぉ」
「出たって・・・じゃあ、お城、空っぽなんじゃ?」
「平気だよぉ、だってもう平和なんだからぁ」
「だからって、王様がいないんじゃ・・・」
「王様がおにぃちゃんじゃなかったら誰がやっても一緒だよぉ」
俺に飛びつくミルちゃん、
ごろごろと胸に甘えてくる・・・
ハプニカ様とミルちゃん、それに4姉妹も城を出たとなれば、
一体誰が国王に・・・とても責任感の強いハプニカ様が許す事とは思えない、
でもミルちゃんは1人でこんな高い所来れないし、ということはハプニカ様が・・・!?
「さあ、そなたも中へ・・・ミルも、甘えるなら後にするのだ」
「ハプニカ様、ダルトギアは・・・国はどうされるのですか?」
「そなたが心配する事ではあるまい、もちろん私ももう関係ない」
「ミルちゃんも、それで、いいの?」
「うん!お城よりおにぃちゃんと一緒にいる方がいいのぉ!」
うーん、わからない・・・
混乱してきた、えっと、どういうことなんだ?
国を捨てて俺をとるって・・・じゃあ、俺についてくるってこと!?
「いつまでもそこにいても仕方あるまい、詳しい話は中だ」
「あ・・・はい」
「おにぃちゃん、ミルもおにぃちゃんにお話したいこといっぱいあるのぉ」
別荘の中は古めかしくも落ち着いた雰囲気で、
しばらく住む人がいなかったためか少し寂しい雰囲気が漂う、
しかし生活感がまったくないという訳ではなく・・まさしく隠れ家といった感じだ。
静かな室内、メイドや衛兵は1人もいないようだ、窓の外はやわらかい日差しが・・・
なんだか心底リラックスできそうな別荘だ、まさに時が止まった楽園といったような・・・
「ここがリビングだ、まあ座るがいい」
「はい・・それにしてもびっくりしました、ズバラン山脈の頂上にこんな場所があるなんて」
「おにぃちゃん、すごいでしょ?ここをしっているのは王族だけだよぉ」
「うん、ハプニカ様から聞いた・・・ここなら大戦の時も安全だったのでは?」
「そうだ、実際、大戦中も父の目を盗んでもし我が血脈が途絶えたときのための遠縁を住まわせていた」
「へえ・・・そうですよね、そういう可能性もありましたから・・で、今は?」
「私たちだけなのぉ、隠居してきたからぁ、ここにずっと住んでいいことになったのぉ」
「ここに・・・住む?」
「そうだ、私たちは疲れた・・もう疲れきってしまった・・・だから、ここで余生をおくる事もできる」
「そんな、ハプニカ様はまだ26歳ではないですか!ミルちゃんなんて16・・・」
「私はぁ、おにぃちゃんと一緒にいられるならどこでもいいのぉ」
「えっ!?」
俺の胸に潜り込むミルちゃん。
「おにぃちゃん、ミル、おにぃちゃんと一緒に行くぅ、ついてく事に決めたのぉ」
「ミルちゃんまでそんな事を!?」
「・・・ミル、それはミルだけでは決められる事ではあるまい」
ハプニカ様も俺の横で迫ってくる。
「・・もちろん私もそなたについて行きたいのだが、それはそなたの決める事だ、
とりあえずここへは私の白竜でしか来れぬ、邪魔者はおらぬ、1週間ほどここで身を隠し、
4姉妹の目の届かぬ所へ送ろう、私達がついて行ってもよいか、その時に決めてほしい」
「1週間ですか・・・」
「ああ、今すぐ行っては追われてしまうかもしれぬゆえ・・・」
「念のためだよぉ、それまでおにぃちゃんのお世話、ちゃんとするねぇ」
「・・・ちゃんと逃がしてくれるのですね?」
「もちろんだ、私達の心配はいらぬ、そなたと別れてもここでミルと幸せに暮らすつもりだ」
うーん、俺はハプニカ様に助けてもらった・・・のか!?
なんか、強引に連れ去られたような気がするのだが・・・
「とにかく今はここでくつろぐがよい」
「はぁ・・・」
「おにぃちゃん、またミルの日記聞いてくれるぅ?」
「う、うん・・・」
「では私はここの掃除をもう少しするとしよう」
そう言いながら微笑んだハプニカ様は・・・
何かふっきれたというか、心からとても嬉しそうに思えた。
「・・・ミルちゃん?」
「くー・・・くーー・・・」
「・・・寝ちゃった」
日記を読みつかれて眠るミルちゃん・・・
まだ昼下がり、暖かい日差しが眠気を誘う、
俺も眠くなってきた、ここにいるとなぜか全身の力が抜ける・・・
ミルちゃんを起こさないようにそーっと部屋を出て、別荘の表へと出る、
真上にはいくつもの木が揺れ、その間から流れる雲と眩しい太陽が覗かせる、
まわりを見ると・・・本当に何もない、ただの木の地面が広がっている、いや、
その地面の端に木の枝がまわりから伸びてすり鉢場になっている・・・その端の方へ行ってみる。
・・・なるほど、端の方へ行くと木の斜面の角度がだんだんと急になり、登りきれず外を見る事もできない、
まるで天然の城壁で守られているような・・・逆を言えば天然の牢獄のような気もしないではないが。
木を登ろうにも傾斜がきついうえ昇る足場がない、外の景色、というか下の景色を見てみたかったのだが・・・
・・・チロチロチロ・・・
あれ?水の流れる音がする・・・
音の方へ行く・・・木の大きな裂け目を見つけた、
その中に水の流れが・・・どうやらこの木のさらに上から流れて来てるみたいだ、
これだけ大きな木なんだから、木の全体に水が流れているんだな、まるで血液のように・・・
本来なら空気もほとんどなく、とてつもなく寒いはずの高度なのにこんな楽園のような環境になっているのも、
全てこのスバランの木のおかげか・・・でも水はあっても食べ物は・・・!?
ドスッ!!
背後に物音が!何だ!?
と振り返るとそこには・・・木の実だ、
赤く大きな林檎のような・・・よく見渡すと他にもいろんな色や形の木の実が・・・あ、ハプニカ様が来る!
「どうした、散歩か?」
「はい・・・外の景色を見たかったのですが・・・」
「別荘の屋上からなら見渡せるぞ」
「そうですか・・あと、この木の実は、食べられるのですか?」
「もちろんだ、スバランの木の実は種類・栄養豊富、全て美味であるぞ」
・・・ガサガサガサ!!
「な、何かいる!?」
「心配いらぬ、あそこを見よ」
「あそこ?・・あ、白竜!あれ!?」
ハプニカ様の示した方法、
木の枝の上の方を見ると・・・
白竜がいる、しかも、何匹も・・・!?
「白竜の親子だ」
「本当・・あ、あっちにも!」
「あそこにいるのが私の白竜だ、丁度子供に餌をあたえておる」
「本当だ、小さい白竜が3匹・・そのとなりの大きいのは、白竜の奥さん?」
「そうだ、この場所は元々は白竜の棲み家なのだ、今も200匹ほどの白竜が住んでいる」
「なるほど、そうだったんですか、気づかなかった・・・よく見るとちらほら上にいますね」
「白竜は平らな場所は本来好まぬからな、皆、上の枝にいる」
「恐く・・・ないですか?」
「よく見るがよかろう」
言われた通り、ハプニカ様の白竜をよく見る・・・
なるほど、あれだけ迫力があって恐いと思っていた白竜も、
奥さんと子供の前では、やさしい顔つきになっている、親しみさえ感じる・・・
「そなたが恐れていた山の神も、真実はこのようなものだ」
「そうですね、白竜への考えを改めさせられました」
「ダルトギアの民も同じだ、戦いが全てではない」
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めくる |