「日記を聞いてて、思ったんだ、ハプニカ様は強かった俺が好きだったんだなって」 

「それは・・・確かにあるけどぉ・・・」

「強くなくなって、もう2度と強くなれない俺は、ハプニカ様に時期が来たら捨てられるだろう」

「そんなことないよぉ」

「どの国の国王もみんな強い力を持っている、俺はもうその権利すらないんだ」

「これから世界は平和になるんだからぁ、力なんてなくていいよぉ、それにぃ・・・」

「それに?」

「おにぃちゃんは強い心を持ってるもん!誰よりも強い、この国で一番強い心を!!!」

 

ガチャッッ!!

 

今度は怒りに満ちた表情のシャクナさんが入ってきた!

顔を真っ赤にしてやってきた・・・手を構えた!またビンタされる!!

 

バシイィィィーーーン!!!

 

・・・・・・・あれ?痛くないぞ?

と、思わず瞑ってしまった目をゆっくり開くと・・・

俺に向かって放たれたシャクナさんのビンタは、ミルちゃんが割って入って手で受けている・・・!?

 

「ミル様、邪魔しないでください!トレオ様は、トレオ様はひどすぎます!!」

 

バシッ!!!

 

シャクナさんの頬をありったけの力でビンタし返すミルちゃん!

 

「おにぃちゃんを悪く言うのは、誰だって許さないんだからぁ!!」

「ミル・・・様!?」

「おにぃちゃんを攻撃する人は、誰だって敵よぉ!おにぃちゃんは、おにぃちゃんは命に代えても守るんだからぁ!!!」

 

すごい・・・

こんなに怒ってるミルちゃん、はじめて見た・・・

 

「で、でもしかし、ハプニカ様が・・・」

「シャクナさん、いいぃ?おにぃちゃんがこうなっちゃったのはぁ、全部、私たちのせいなのぉ」

「でも・・・」

「たった一人でボロボロになって、100回死んでもおかしくなかったんだよぉ、それを、私たちのためにぃ・・・

最後はあんなことになってぇ、あれだけ体がめちゃくちゃだったんだからぁ、当然心もボロボロになってるよぉ、

そんなおにぃちゃんを、私たちは絶対に攻めちゃいけないのっ!体はこれだけ治せても、心はもう治らないかもぉ・・・

だから、だから、私たちがしたことなんだからぁ、もう、もうこれ以上、おにぃちゃんを、傷つけちゃ嫌ぁ・・・

おにぃちゃんを、守るのぉ・・・私1人になってもぉ、絶対にぃ・・・」

 

涙を流すミルちゃん・・・

うつむくシャクナさん・・・も、涙を流しているみたいだ・・・

 

「私が間違っていました・・・トレオ様・・・

本当に申し訳ありません、とんでもない過ちを・・・

・・・・・私はこの国を出て行きます・・・さようなら・・・」

「シャクナさん!そんな、出て行くだなんて・・・」

「もう、トレオ様に顔向けできませんから・・・」

「俺が出て行くんだから、シャクナさんまで出て行くことないよ!」

「・・・失礼いたしました・・・・・」

 

出ていったシャクナさん・・・

目を真っ赤にしてこちらを振り返るミルちゃん・・・

 

「・・・ごめんなさぁい、結局ぅ、みんなおにいちゃんを傷つけてたのねぇ・・・」

「みんな、よく面倒みてくれて感謝してるよ、きたない排便まで・・・」

「おにぃちゃんを喜ばせたかっただけなのぉ、本当にぃ、ごめんなさぁい・・・」

「もういいよ、俺、出て行くから・・・忘れてほしい」

「やっぱり嫌ぁ、出ていかないでぇ・・・」

 

俺の胸の中で震えるミルちゃん・・・

さっきだいぶヒステリックになったから、

神経がまだ高ぶっているのだろう・・・頭をなでてあげる・・・

 

「もう俺を傷つけたくないんだろ?だったらさ、もう、俺のことは忘れてほしい」

「忘れられないよぉ・・忘れたくないよぉ・・・」

「・・・俺の心は、俺1人でしか治せない、そしてここでは治せない・・・」

「んっ・・行かないでぇ・・・」

「やっぱり、この国のこと全部忘れないと治せないみたいだから・・・ごめんね」

 

黙り込むミルちゃん・・・

しばらくして・・・・・ 

 

「わかったぁ」

 

ようやく落ち着いたのか俺の胸から顔を上げた・・・

 

ちゅっ

 

俺の唇に軽くキスをした・・・

 

「・・・おにぃちゃん、好きぃ・・・大好き・・・」

 

そう言い残して部屋から出ていった・・・・・

これで、これでいいんだ、これで・・・これで・・これで・・・・・

 

「えーと、これは俺のでいいよな・・これは返さなきゃ・・これは・・・」

 

ガチャッ

 

またドアが開いたぞ、

今度は・・・ハ、ハプニカ様!?

 

「すまない、何か支度中であったか」

「は、はあ・・・」

「少し胸を貸してくれぬか」

 

うつろな目、乱れた髪、ラフな格好・・・

ラフというよりも、寝室を抜け出してきたという感じだ・・・

ミルちゃんの涙のあとでまだ湿っている俺の胸に顔をうずめるハプニカ様・・・

 

「突然すまない、とてもひどい悪夢を見たものでな・・・」

「悪夢、ですか?」

「ああ・・・そなたがこの城を出ていく夢だ・・・」

 

ぎゅうっとしがみつくハプニカ様・・・

 

「そなたに・・・私の愛が偽りだと言われてしまう夢・・・まさに悪夢だ・・・」

「ハプニカ様・・・」

「あんな悪夢、もう、2度と見たくはない・・・現実なら窓から飛び降りていた」

 

どうやらハプニカ様・・・

あれを夢だと思い込んでいるみたいだ・・・

しかし、そうとうショックだったみたいだ、だから自分の中で夢にしてしまったのだろうか・・・

 

「恐い・・・そなたを失うのが恐い・・・」

「ガタガタ震えてますよ、大丈夫ですか?」

「もう、1人では寝られぬ・・・これから、今夜から毎日、一緒に寝てくれまいか・・・」

 

どうしよう・・・

こんなハプニカ様、放っておけないぞ・・・

でも、嘘をつくわけにも、これ以上期待させる訳にもいかないし・・・

 

「わかりました、今夜は一緒に寝ましょう」

「・・・・・ありがたい」

 

そうだ、今夜一晩かけて、じっくりと説得しよう・・・

 

 

 

「ふふ、今夜はもう誰にも邪魔させぬぞ」

「そうですね、今夜は2人っきりで・・・」

 

夜になり、2人で一緒に俺のベットに入る・・・

これが、これがハプニカ様とすごす、最後の夜・・・

 

「結婚指輪、まだ持っておろう?」

「・・・あ!そ、そうですね・・・まだ・・・」

 

そうだ、あの時、返しそびれちゃった・・・

 

「そなたとの結婚式・・・ウエディングドレスなど、似合うであろうか・・・」

「もちろんですよ、ハプニカ様ほどの美人、似合わないはずがありません」

「そうか・・・ふふふ・・・そなたとの結婚式か・・・・・」

「・・・あ・・・そ、そういう意味では・・・」

「他に何の意味があるというのだ・・・」

 

・・・冷静になって、ちゃんと言わないと・・・

 

「ハプニカ様、ダルトギアは好きですか?」

「ああ、もちろんだ、生まれ故郷が嫌いなものか」

「そうですよね・・・私も故郷のモアスが大好きです」

「モアス・・・残念な事になった、悲しいであろう・・・」

「そうですね・・・でも、海の男としての誇りは持っています」

「たのもしいぞ」

「ハプニカ様も、ダルトギアの誇りを持っていますよね?」

「ああ、もちろんだ」

「・・・モアスとダルトギアって、正反対なんですよね・・・」

 

天井を見つめる俺。

 

「モアスは海の民です、穏やかな時もあれば激しいときもある海・・・

そんな海で生きてきた俺は、やっぱり海が恋しくなります・・・

ダルトギアは、確かにいい所ですが、山の民の住む国です、

しかも、強い者が全ての国に思えます、ドラゴンのあの迫力を見るとわかります・・・

俺は海のシャチやイルカと仲間になったり、海に浮かんだ舟で昼寝する事の方があってます、

海の民が山の民の気持ちをわかる事など、できないと思います、その逆も・・・

海で慣れ親しんだ俺が山に親しむのは、やっぱり無理です、もちろんその逆も。

それに・・・、もう力もない俺が、この国を守る事は・・・・・できません・・・・・」

 

・・・・・黙る俺、すると・・・

 

「・・・うっ・・・ううっ・・・」

 

ハプニカ様の泣き声が・・・

 

「わかっていた・・・夢ではなかった事を・・・

しかし、信じたくなかった・・・信じたく・・・ううっ・・・」

 

がばっ、と俺を胸に抱くハプニカ様・・・

その胸の中でハプニカ様のぬくもりと同時に激しい震え、

トクトクトクトク、と速い胸の鼓動が聞こえる・・・この心臓の音を聞くと、

ひょっとしたら俺は取り返しのつかない事をしようとしているのではと思ってしまう、

ハプニカ様は俺を本当に、本心から俺を愛しているのではと・・・そんな震え、鼓動・・・

 

「うっ、うっ・・・私は・・私はそなたに償う事すら叶わぬのか・・・うぅぅ・・・」

「・・・・・・・・・・すみません、もうじゅうぶん償っていただきましたから・・・」

「・・・せめて、せめてそなたのその温もりを、今だけでも・・・心に焼き付かせてくれぬか・・・」

 

ぎゅううっ、と俺を抱く腕に力が入る・・・

激しい震えが俺の身体振動し、想いが伝わってくるような、そんな感じが・・・

ぽたっ、ぽたっと俺の髪に、背筋にまで落ちてくる・・・・・

 

「ううっ、うっ・・・うううぅぅぅうぅ・・・」

 

ハプニカ様の号泣はこれで何度めだろうか?

本当に大戦中とは別人のように思える、だからこそ、

この涙は演技のようなもの、と思えたのだろう、俺は。

 

でも・・・今までの涙がもし、もし全て、

ハプニカ様の真実の涙だとしたら、どうだろう?

そうなると、ひょっとしてハプニカ様は本当は、ものすごく弱い女性なのでは・・・!?

全てが本当に心の底から本心で愛しているとすれば、これは相当なものだ・・・恐いくらいの・・・

・・・逆にそうだとしても、だったらよけいにその想いには応えられない、無力の俺には・・・力がなさすぎる・・・

 

「ハプニカ様、私も、この瞬間を・・・一生、宝物にして生きていきます・・・」

「・・・もう、もう取り返しはつかぬのだな・・全て私の責任だ、言い訳はせぬ・・・」

「1つ、お願いがあります・・・」

「・・・・・何だ?」

「その、う、うまく言えませんが・・・これからもハプニカ様は、ハプニカ様でいてください・・・」

「どういうことだ・・・?」

「ハプニカ様は・・・ハプニカ様であるべきです、ハプニカ様らしく、ハプニカ様でいてください・・・」

「・・・私は私だ、偽った事など一度もない・・・信じてもらえなかったがな・・・」

「そうですね、私はハプニカ様に幻想を抱いていたのかもしれません・・・」

 

・・・・・無言になる2人・・・

ハプニカ様の泣き声がたまに漏れる・・・

そうだ、このハプニカ様はきっと幻なんだ、

蜃気楼はいくら追いかけてもそこにたどりつく事はできない、

俺は自らを傷つけてしまっただけで終わってしまう・・・太陽に向かって飛んだイカロスのように。

 

「うっ・・・愛しい・・愛しい人・・・そなたが・・・愛しい・・・」

「私も夢のようです・・・でも、夢なんです、これは、今は・・・」

「いや、現実だ・・・そなたがいるのも・・・別れが待っているのも・・・ううぅ・・・」

 

 

こうしてただ、ただ泣きながら抱き合っているだけで、

長い長い、しかしあっという間の幸せな夜が明けようとしていた・・・

 

「ハプニカ様、夜が明けます・・・」

「もう、そんな時間か・・・」

「はい・・・もう、行かないと・・・」

「・・・・・どこへ行くのだ」

「・・さあ、でも・・・1人になれる所で・・・・・」

 

まだぎゅうっと抱きしめ続けるハプニカ様の腕をほどき、

俺はベットから出る・・・ハプニカ様は重い表情で俺を見つめている・・・

服を着て、荷物を手にする俺・・・そうだ、まだやらなくちゃいけない事があった。

 

「この3つは、お返しします」

「それは、国宝の剣と、モアスのメダルと・・・指輪・・・!」

「はい、剣はもう使えません、メダルは・・・偽りの物などいりません、指輪は・・正式にお断りします」

「そうか、そうだな、剣はそなたにプレッシャーを、メダルはそなたに疑心をあたえてしまった、

指輪は・・・渡し方を間違えたようだ、すまない、私には恋愛などはじめてであったので・・・

人の心を第一に考えて戦っていたつもりであったが、もっとも大切な恋の勉強がおろそかであった・・・すまない」

「やっぱり俺にはハプニカ様はハプニカ様です、そんなハプニカ様が好きでした・・・どうかお元気で」

「私は私らしく、か・・・わかった、それがそなたの望みなら、そうしよう」

「では・・・さようなら・・・ハプニカ様・・・」

 

もう引き止めはなかった、

それが、最後のそれが、俺には何よりハプニカ様らしく思った・・・

さようなら、ハプニカ様・・・さようなら・・・・・

 

もどる めくる