「強くなくなって、もう2度と強くなれない俺は、ハプニカ様に時期が来たら捨てられるだろう」
「どの国の国王もみんな強い力を持っている、俺はもうその権利すらないんだ」
「これから世界は平和になるんだからぁ、力なんてなくていいよぉ、それにぃ・・・」
「おにぃちゃんは強い心を持ってるもん!誰よりも強い、この国で一番強い心を!!!」
顔を真っ赤にしてやってきた・・・手を構えた!またビンタされる!!
俺に向かって放たれたシャクナさんのビンタは、ミルちゃんが割って入って手で受けている・・・!?
「ミル様、邪魔しないでください!トレオ様は、トレオ様はひどすぎます!!」
「おにぃちゃんを悪く言うのは、誰だって許さないんだからぁ!!」
「おにぃちゃんを攻撃する人は、誰だって敵よぉ!おにぃちゃんは、おにぃちゃんは命に代えても守るんだからぁ!!!」
「シャクナさん、いいぃ?おにぃちゃんがこうなっちゃったのはぁ、全部、私たちのせいなのぉ」
「たった一人でボロボロになって、100回死んでもおかしくなかったんだよぉ、それを、私たちのためにぃ・・・
最後はあんなことになってぇ、あれだけ体がめちゃくちゃだったんだからぁ、当然心もボロボロになってるよぉ、
そんなおにぃちゃんを、私たちは絶対に攻めちゃいけないのっ!体はこれだけ治せても、心はもう治らないかもぉ・・・
だから、だから、私たちがしたことなんだからぁ、もう、もうこれ以上、おにぃちゃんを、傷つけちゃ嫌ぁ・・・
おにぃちゃんを、守るのぉ・・・私1人になってもぉ、絶対にぃ・・・」
「俺が出て行くんだから、シャクナさんまで出て行くことないよ!」
「・・・ごめんなさぁい、結局ぅ、みんなおにいちゃんを傷つけてたのねぇ・・・」
「みんな、よく面倒みてくれて感謝してるよ、きたない排便まで・・・」
「おにぃちゃんを喜ばせたかっただけなのぉ、本当にぃ、ごめんなさぁい・・・」
「もう俺を傷つけたくないんだろ?だったらさ、もう、俺のことは忘れてほしい」
「・・・俺の心は、俺1人でしか治せない、そしてここでは治せない・・・」
「やっぱり、この国のこと全部忘れないと治せないみたいだから・・・ごめんね」
これで、これでいいんだ、これで・・・これで・・これで・・・・・
「えーと、これは俺のでいいよな・・これは返さなきゃ・・これは・・・」
ミルちゃんの涙のあとでまだ湿っている俺の胸に顔をうずめるハプニカ様・・・
「そなたに・・・私の愛が偽りだと言われてしまう夢・・・まさに悪夢だ・・・」
「あんな悪夢、もう、2度と見たくはない・・・現実なら窓から飛び降りていた」
しかし、そうとうショックだったみたいだ、だから自分の中で夢にしてしまったのだろうか・・・
「もう、1人では寝られぬ・・・これから、今夜から毎日、一緒に寝てくれまいか・・・」
でも、嘘をつくわけにも、これ以上期待させる訳にもいかないし・・・
「そなたとの結婚式・・・ウエディングドレスなど、似合うであろうか・・・」
「もちろんですよ、ハプニカ様ほどの美人、似合わないはずがありません」
「モアスは海の民です、穏やかな時もあれば激しいときもある海・・・
しかも、強い者が全ての国に思えます、ドラゴンのあの迫力を見るとわかります・・・
俺は海のシャチやイルカと仲間になったり、海に浮かんだ舟で昼寝する事の方があってます、
海の民が山の民の気持ちをわかる事など、できないと思います、その逆も・・・
海で慣れ親しんだ俺が山に親しむのは、やっぱり無理です、もちろんその逆も。
それに・・・、もう力もない俺が、この国を守る事は・・・・・できません・・・・・」
トクトクトクトク、と速い胸の鼓動が聞こえる・・・この心臓の音を聞くと、
ひょっとしたら俺は取り返しのつかない事をしようとしているのではと思ってしまう、
ハプニカ様は俺を本当に、本心から俺を愛しているのではと・・・そんな震え、鼓動・・・
「うっ、うっ・・・私は・・私はそなたに償う事すら叶わぬのか・・・うぅぅ・・・」
「・・・・・・・・・・すみません、もうじゅうぶん償っていただきましたから・・・」
「・・・せめて、せめてそなたのその温もりを、今だけでも・・・心に焼き付かせてくれぬか・・・」
激しい震えが俺の身体振動し、想いが伝わってくるような、そんな感じが・・・
そうなると、ひょっとしてハプニカ様は本当は、ものすごく弱い女性なのでは・・・!?
全てが本当に心の底から本心で愛しているとすれば、これは相当なものだ・・・恐いくらいの・・・
・・・逆にそうだとしても、だったらよけいにその想いには応えられない、無力の俺には・・・力がなさすぎる・・・
「ハプニカ様、私も、この瞬間を・・・一生、宝物にして生きていきます・・・」
「・・・もう、もう取り返しはつかぬのだな・・全て私の責任だ、言い訳はせぬ・・・」
「その、う、うまく言えませんが・・・これからもハプニカ様は、ハプニカ様でいてください・・・」
「ハプニカ様は・・・ハプニカ様であるべきです、ハプニカ様らしく、ハプニカ様でいてください・・・」
「・・・私は私だ、偽った事など一度もない・・・信じてもらえなかったがな・・・」
「そうですね、私はハプニカ様に幻想を抱いていたのかもしれません・・・」
俺は自らを傷つけてしまっただけで終わってしまう・・・太陽に向かって飛んだイカロスのように。
「うっ・・・愛しい・・愛しい人・・・そなたが・・・愛しい・・・」
「私も夢のようです・・・でも、夢なんです、これは、今は・・・」
「いや、現実だ・・・そなたがいるのも・・・別れが待っているのも・・・ううぅ・・・」
長い長い、しかしあっという間の幸せな夜が明けようとしていた・・・
俺はベットから出る・・・ハプニカ様は重い表情で俺を見つめている・・・
服を着て、荷物を手にする俺・・・そうだ、まだやらなくちゃいけない事があった。
「はい、剣はもう使えません、メダルは・・・偽りの物などいりません、指輪は・・正式にお断りします」
「そうか、そうだな、剣はそなたにプレッシャーを、メダルはそなたに疑心をあたえてしまった、
指輪は・・・渡し方を間違えたようだ、すまない、私には恋愛などはじめてであったので・・・
人の心を第一に考えて戦っていたつもりであったが、もっとも大切な恋の勉強がおろそかであった・・・すまない」
「やっぱり俺にはハプニカ様はハプニカ様です、そんなハプニカ様が好きでした・・・どうかお元気で」
「私は私らしく、か・・・わかった、それがそなたの望みなら、そうしよう」
それが、最後のそれが、俺には何よりハプニカ様らしく思った・・・