「そうですね・・・国民は皆、すでにトレオ様が新国王だと信じていますから・・・」
「この国の全ての闘技場の入り口に、トレオ様の像が立っているのはご存知ないのでしょうか?」
「トレオ様がトーナメントで倒られた後・・・トレオ様の正体を知って・・・
事の全てが明らかになって・・・民衆は嘆き悲しみました・・・そしてその怒りは・・・
スロトとその一味はもちろん、ハプニカ様にまで向けられてしまいました・・・」
「ええ、もちろんです、だからなおさら・・・ハプニカ様のせいでもあると・・・」
「ハプニカ様自身はあれから1週間以上、精神の病気にかかってしまわれて・・・
民衆は暴動を起こしかけたのですが、とっさの判断で鎮圧させる事ができました、
トレオ様は生きていて、ハプニカ様と結婚なさると発表する事により・・・」
「民衆は大戦を戦い抜き、たった一人でこの国をも救った英雄が国王になるということで、
大喜びしました、それは『英雄トレオはなんて心が広いんだ、我々の罪を許して王にまでなってくれるなんて』と、
自主的に大きな像まで作るほどに・・・実際、我が国の治安はそれで保たれています」
「みんな、負い目を感じているんです、しかしそれと同時に、愛してもいるんです、トレオ様、あなたを」
「この国の王にふさわしいのは、いえ、この国の王になれるのは、トレオ様、もう貴方様だけなのです!」
「はい、ですからトレオ様がこの国を去ってしまえば・・・もう、むちゃくちゃに・・・!!」
「勘違いしないでください、皆様が、ハプニカ様たちがトレオ様を愛しているのは・・・」
「これじゃあ、俺の意志に関係無く、選ぶ道は1つしかないって事じゃないか」
やがて月日がながれ・・・季節が冬を迎えようとしていた・・・・・
「・・・いや、そうは思いません・・・ハプニカ様、あとでお話があります」
空からでなければ行き来できない孤島状態になる、そうなると歩いてここを去る事ができない・・・
「ハプニカ様、思い出してください、あの、トーナメントの戦いの時・・・」
「本当ですか?嘘ではないですよね?本当に私だとわからなかったのですか?」
「もちろんだ、わかっていたら、あんな事には決してならなかった・・すまぬ」
「本当にわからなかったのだ・・・許して欲しいとは言わない、だが、しかし・・・」
「そういう事を言ってるのではありません・・・これでわかりました」
「あのトーナメントの時、トレオという男は、優勝したらハプニカ様と結婚したいと言った、
それをハプニカ様は了承した・・・つまり俺でなくても強い男なら誰でもいいって事だ、
俺のことを最初から愛してはいなかった、いや、俺を愛していたにせよ、俺より強い男であれば・・・
スロトが嘘を、なんて言い訳は通用しない、ちゃんとハプニカ様自身がその条件をスロトから聞いて、
了承したという事はリハビリ中に聞いた、つまりハプニカ様が愛しているのは俺なんかではなく、
ただ単に強くて都合の言い男を、愛しているって事にしたいだけなんだ!!!」
まるっきり動けないハプニカ様に俺はたまっていた物を吐き出す。
「正直、裏切られたと思いましたが、仕方がない事なんだとも思いました、
同情はしますが・・・でも、それと結婚は別です、もうそれにつきあう気はありません、
俺がいないと困る事情も知っていますが・・・俺も困ります、もう力がないんですから」
まだ動けないでいるハプニカ様、視点が合ってないような・・・!?
「とにかく、私は明日、もうこの国を去ります、そして2度と会う事はないでしょう・・・
ハプニカ様なら国民をちゃんとなだめる事はできるはずです・・・頑張ってください・・・
「これはいらない・・・これもいらない・・・これは俺のだ、えっと・・・」
「ハプニカ様、部屋に篭っちゃったぞ、ミル様が面倒見てるけど・・・」
「ふ、ふえぇぇぇん、お願いですぅ、行かないでくださぁいぃぃ・・・」
「何がいけなかったんだ?教えて欲しい・・・すぐに直すから!」
「・・・はっきり言わせてもらうけど、君たち、ハプニカ様の親衛隊だろ、
だからハプニカ様と結婚する予定の俺を好きになった、って都合がよすぎるよ、
第一、大戦の時、俺のこと好きだったか?ここへ来てからも・・・急に第何王妃とか言って、
それってあのトーナメントの後じゃないか!結局はハプニカ様と同じ、単なる政略結婚だよ、
そんないいかげんな気持ちの愛情なんて、本当に俺の心を捉える事はできやしないさ!さっさと出てってくれ!」
「・・・看病してくれた事、動けないのを世話してくれた事の感謝はしてる・・・
本当にありがとう・・・でも、それで俺がこの国を救ったことと相殺にしてほしい、
この国を守るために、そして俺をハプニカ様と結婚させたいためにだけに、
人の心を弄んで・・・俺にも意志がある事を示すためにも、振り切らなきゃ。
「言い尽くせません、でも言わせていただけるなら、あの戦いで・・・」
「私たちもー、ハプニカ様と一緒に貴方を見ているうちにー・・・」
「確かに最初はハプニカ様に遠慮してたけどっ、もっ、もう関係ないよっ!!」
たとえそういう意図でなくても、強い強い言ってほしくないんだ、
はっきり言って不愉快だよ!俺をもういじめないでほしいんだ!!!
強さが、強いものだけが全てのこの国で、強い者を望むこの城に、ハプニカ様に、
もう強くない俺が強い強いともてはやされるのが、もう我慢できないんだよ!!!!!」
強大な敵が襲ってくるかもしれない・・・その時に俺はこの国を、
なによりハプニカ様を守る事が、もうできないんだ・・・だから、だから、
へたに民衆に期待させるより、俺はもう、さっさと去った方がいい・・・
何よりも、俺がもう、そんなプレッシャーに耐えられない・・補う力がない・・・
ハプニカ様にはもう相応しくない、大切な国を失うのは、もう、2度とごめんだ・・・・・」
でも、こう、本当のことを言わないとわかってくれないだろう・・・
「・・・私たちは、貴方様の心をひどく傷付けてしまっていたようですわね」
「体と心、両方癒していたつもりだったんですがー、とんだ思い違いでしたー」
「・・・わかった、言い訳はしないよ、私たちがどう考えても悪いんだから・・・」
「お姉様、ショックで寝込んじゃった・・・うなされてるのぉ・・・」
「おにぃちゃん、毎日日記聞いてくれたよね?お姉様の気持ち、わからないのぉ?」