暗い表情になるシャクナさん・・・

 

「まだ、そのような事を・・・!!」

「いや、待って、もし、もしもだよ、もしそうなったら、って」

「そうですね・・・国民は皆、すでにトレオ様が新国王だと信じていますから・・・」

「信じてるって・・・!?」

「この国の全ての闘技場の入り口に、トレオ様の像が立っているのはご存知ないのでしょうか?」

「え、ええっ!?」

 

よろよろとベットから降り、

窓から中央闘技場をよーく見ると・・・

ある・・・!しかも、ばかでかいのが・・・!!

 

「トレオ様がトーナメントで倒られた後・・・トレオ様の正体を知って・・・

事の全てが明らかになって・・・民衆は嘆き悲しみました・・・そしてその怒りは・・・

スロトとその一味はもちろん、ハプニカ様にまで向けられてしまいました・・・」

「そんな、ハプニカ様は何も知らなかったはずでは・・・!?」

「ええ、もちろんです、だからなおさら・・・ハプニカ様のせいでもあると・・・」

「それで、ハプニカ様は?」

「ハプニカ様自身はあれから1週間以上、精神の病気にかかってしまわれて・・・

民衆は暴動を起こしかけたのですが、とっさの判断で鎮圧させる事ができました、

トレオ様は生きていて、ハプニカ様と結婚なさると発表する事により・・・」

「え、え、えーーーーー!?」

 

もう、そんな事が発表されてる!?

 

「民衆は大戦を戦い抜き、たった一人でこの国をも救った英雄が国王になるということで、

大喜びしました、それは『英雄トレオはなんて心が広いんだ、我々の罪を許して王にまでなってくれるなんて』と、

自主的に大きな像まで作るほどに・・・実際、我が国の治安はそれで保たれています」

「なんてことだ・・・」

「みんな、負い目を感じているんです、しかしそれと同時に、愛してもいるんです、トレオ様、あなたを」

「そう言われても・・・」

「この国の王にふさわしいのは、いえ、この国の王になれるのは、トレオ様、もう貴方様だけなのです!」

「じゃあすでに、俺が国王に!?」

「はい、ですからトレオ様がこの国を去ってしまえば・・・もう、むちゃくちゃに・・・!!」

 

・・・・・これはもう、立派な脅迫だ。

 

「勘違いしないでください、皆様が、ハプニカ様たちがトレオ様を愛しているのは・・・」

「もういいよ」

「も、もういいって・・・!?」

「これじゃあ、俺の意志に関係無く、選ぶ道は1つしかないって事じゃないか」

「それは、その・・・」

「・・・考えなくっちゃな、良い方法を・・・」

「何の方法でしょうか・・・!?」

 

国民が暴動を起こさず、俺がこの国を去る方法を、だよ・・・

 

 

 

それから俺は必死で歩くトレーニングをはじめた、

1日でも早く去らないと、快楽の渦に飲み込まれるからだ、

やがて月日がながれ・・・季節が冬を迎えようとしていた・・・・・

 

「いっちに・・・いっちに・・・」

「すごいではないか、城の中を走れるとは」

「まだ軽くですよ、ハプニカ様」

「これならばもう少し頑張れば、また元の力が取り戻せる」

「・・・いや、そうは思いません・・・ハプニカ様、あとでお話があります」

「何だ?・・・わかった、そなたの部屋に伺うとしよう」

「いえ、私が玉座まで・・・」

 

窓から外を見ると冷たい風が吹いている、

雪が降ってしまうとこの国は完全に地上の道が断たれ、

空からでなければ行き来できない孤島状態になる、そうなると歩いてここを去る事ができない・・・

 

「話というのは・・・やはり?」

「はい、これの事です」

 

俺はハプニカ様から預かっている結婚指輪を出した。

 

「・・・決心してくれたのであろうか?」

「その事で、1つだけ質問があります」

「・・・何だ」

「ハプニカ様、思い出してください、あの、トーナメントの戦いの時・・・」

「ああ、あまり思い出したくないが・・・」

「あの時、トレオという男が私だと気づいていましたか?」

「・・・・・いや、気づかなかった」

「本当ですか?嘘ではないですよね?本当に私だとわからなかったのですか?」

「もちろんだ、わかっていたら、あんな事には決してならなかった・・すまぬ」

「そうですか・・・よくわかりました」

「本当にわからなかったのだ・・・許して欲しいとは言わない、だが、しかし・・・」

「そういう事を言ってるのではありません・・・これでわかりました」

「な、何をだ!?」

 

一息ついて、俺は大きな声で言う。

 

「ハプニカ様は、俺を愛してなどいない!!」

 

絶句するハプニカ様、かなり驚いた表情だ・・・

 

「あのトーナメントの時、トレオという男は、優勝したらハプニカ様と結婚したいと言った、

それをハプニカ様は了承した・・・つまり俺でなくても強い男なら誰でもいいって事だ、

俺のことを最初から愛してはいなかった、いや、俺を愛していたにせよ、俺より強い男であれば・・・

スロトが嘘を、なんて言い訳は通用しない、ちゃんとハプニカ様自身がその条件をスロトから聞いて、

了承したという事はリハビリ中に聞いた、つまりハプニカ様が愛しているのは俺なんかではなく、

ただ単に強くて都合の言い男を、愛しているって事にしたいだけなんだ!!!」

 

まるっきり動けないハプニカ様に俺はたまっていた物を吐き出す。

 

「正直、裏切られたと思いましたが、仕方がない事なんだとも思いました、

同情はしますが・・・でも、それと結婚は別です、もうそれにつきあう気はありません、

俺がいないと困る事情も知っていますが・・・俺も困ります、もう力がないんですから」

 

まだ動けないでいるハプニカ様、視点が合ってないような・・・!?

 

「とにかく、私は明日、もうこの国を去ります、そして2度と会う事はないでしょう・・・

ハプニカ様なら国民をちゃんとなだめる事はできるはずです・・・頑張ってください・・・

では・・・これで、失礼します・・・・・」

 

ハプニカ様に背を向ける・・・

これで、これでいいんだ、これで・・・・・

 

「・・・あ・・・う・・・あ・・・・・」

 

言葉にならない声を背に、

俺は王の間を去った・・・・・

 

 

 

「これはいらない・・・これもいらない・・・これは俺のだ、えっと・・・」

 

荷物を整理する俺、

明日は夜が明ける前にもう出ていった方がいいだろう・・・

とガサゴソやっていると4姉妹が血相変えて飛び込んできた!

 

「こっ、この城を去るって、本当でしょうか?」

「嘘ですよねー?嘘って言ってくださーい!」

「ハプニカ様、部屋に篭っちゃったぞ、ミル様が面倒見てるけど・・・」

「ふ、ふえぇぇぇん、お願いですぅ、行かないでくださぁいぃぃ・・・」

 

「・・・もう決めた事だから」

 

「そんな・・・あれほど私たち、愛し合ったじゃありませんか」

「そうですー、なのにー、なのにー・・・」

「何がいけなかったんだ?教えて欲しい・・・すぐに直すから!」

「やっぱりぃ、やっぱり私のせいでぇぇぇ・・・」

 

「いいかげんにしてくれよ!!」

 

「ひっ・・・ひっく・・・ひっく・・・」

「ぐすっ・・・な、涙がぁー・・・」

「嫌だよぉ・・・行かないで・・・お願いだよぉ・・・」

「もぉ、もぉ、生きて・・・いけなぁい・・・」

 

「・・・はっきり言わせてもらうけど、君たち、ハプニカ様の親衛隊だろ、

だからハプニカ様と結婚する予定の俺を好きになった、って都合がよすぎるよ、

第一、大戦の時、俺のこと好きだったか?ここへ来てからも・・・急に第何王妃とか言って、

それってあのトーナメントの後じゃないか!結局はハプニカ様と同じ、単なる政略結婚だよ、

そんないいかげんな気持ちの愛情なんて、本当に俺の心を捉える事はできやしないさ!さっさと出てってくれ!」

 

「ひ、ひどい・・・」

「そんなー、そんなー・・・」

「誤解だよ・・・誤解だよっ・・・」

「えーんえーんえーんえーんえーん・・・・・」

 

「・・・看病してくれた事、動けないのを世話してくれた事の感謝はしてる・・・

本当にありがとう・・・でも、それで俺がこの国を救ったことと相殺にしてほしい、

もう・・・俺を解放してくれ・・・自由にしてくれ・・・・・」

 

「そんなっ、自由に、と申されても・・・」

「真剣に愛してますー、本当ですー」

「この命に誓っても言うよ・・・好きだ・・・」

「いやぁ、いやぁ、いやぁぁぁ・・・・・」

 

4人は俺に泣きすがってくる、

本気としか思えないような真剣さで・・・

いや、これはせっぱ詰まっての行動だろう、

俺への愛情ですがっているのではなく、あくまでも、

この国を守るために、そして俺をハプニカ様と結婚させたいためにだけに、

一生懸命なんだろうな・・・本当にもうつきあってられないや、

人の心を弄んで・・・俺にも意志がある事を示すためにも、振り切らなきゃ。

 

「じゃ、俺のどこが好きなんだよ!?」

「そ、それは毎日、申し上げたではありませんか」

「全てですー、何もかもー、全てー」

「誰にも負けない、その、強い心だよっ!!」

「好きなのはぁ、好きですぅ、好きぃ・・・ひっく」

 

泣き叫びながら聞こえてくるのはやはり抽象的な言葉のみ・・・

 

「もういいよ、具体的に言えないだろ?」

「言い尽くせません、でも言わせていただけるなら、あの戦いで・・・」

「私たちもー、ハプニカ様と一緒に貴方を見ているうちにー・・・」

「確かに最初はハプニカ様に遠慮してたけどっ、もっ、もう関係ないよっ!!」

「かっこよくってぇ、やさしくってぇ、つよくってぇ・・・」

 

らちがあかない、ここでビシッと決めよう。

 

「・・・はっきり言うよ、強さを永久に失った俺に対して、

たとえそういう意図でなくても、強い強い言ってほしくないんだ、

はっきり言って不愉快だよ!俺をもういじめないでほしいんだ!!!

強さが、強いものだけが全てのこの国で、強い者を望むこの城に、ハプニカ様に、

もう強くない俺が強い強いともてはやされるのが、もう我慢できないんだよ!!!!!」

 

静かになる4姉妹・・・

 

「もう俺は、君たちを・・・守ってあげられないんだ・・・

民衆に対して一時凌ぎにはなるかもしれないけれど、またいつ、

強大な敵が襲ってくるかもしれない・・・その時に俺はこの国を、

なによりハプニカ様を守る事が、もうできないんだ・・・だから、だから、

へたに民衆に期待させるより、俺はもう、さっさと去った方がいい・・・

何よりも、俺がもう、そんなプレッシャーに耐えられない・・補う力がない・・・

ハプニカ様にはもう相応しくない、大切な国を失うのは、もう、2度とごめんだ・・・・・」

 

俺も涙が出てきた・・・

本音を、さらけだしてしまった・・・

でも、こう、本当のことを言わないとわかってくれないだろう・・・

 

「・・・私たちは、貴方様の心をひどく傷付けてしまっていたようですわね」

「体と心、両方癒していたつもりだったんですがー、とんだ思い違いでしたー」

「・・・わかった、言い訳はしないよ、私たちがどう考えても悪いんだから・・・」

「いやぁ、あきらめたくなぁい、いやぁ・・・いやぁ・・・」

「・・・・・わかったら、出てってくれないかな」

 

黙って出て行く4姉妹・・・

レンちゃんは半ば強制的に連れてかれてるけど・・・

 

「では、失礼いたします・・・」

「はい、みなさん、お元気で・・・ありがとう」

 

バタン、とドアが閉まり、

すすり泣く声が遠のいていく・・・・・

 

「さて、荷物の整理を続けなきゃ・・・」

 

ガチャ

 

荷物を再び手にしたと同時に、

またドアが開いた、今度入ってきたのは・・・

 

「おにぃちゃん・・・」

「ミルちゃん・・・」

「お姉様、ショックで寝込んじゃった・・・うなされてるのぉ・・・」

「そ、そう・・・」

「おにぃちゃんの名前、呼び続けてるの・・・来てぇ・・・」

 

悲壮な表情だ。

 

「ハプニカ様の体が・・・何か?」

「うん・・・おにぃちゃんしか治せない・・・」

「・・・・・ごめん、これ以上、もうつきあえないんだ」

「おにぃちゃん、毎日日記聞いてくれたよね?お姉様の気持ち、わからないのぉ?」

「・・・やっぱり信じられないんだ、ハプニカ様を・・・」

「私のつけた日記が、作り物だと思うのぉ?」

「そうかも・・・しれないね」

「ひどい・・・ひどい・・・」

 

ガクッ、と膝から崩れ落ちるミルちゃん・・・

もどる めくる