親衛隊4姉妹☆

 

長女のララさんは腕一杯の綺麗な花束を抱えている。 

 

「これはハプニカ様からあなたへの贈り物です、飾っておきますね」 

 

次女のリリさんは大きなパイとジュースをトレイに乗せて持ってきた。 

 

「これもハプニカ様があなたにってー、アップルパイとアップルジュース、私たちで作ったのよー」

 

三女のルルちゃんは長く綺麗な剣を担いできた。 

 

「これ、ハプニカ様から、国宝よ、売らないでね」 

 

四女のレンちゃんは小瓶を持ってきてその蓋を開けた。 

 

「これはぁ、ハプニカ様がお疲れでしょうから足に塗ってさしあげてってぇー」 

 

レンちゃんに足をつかまれ、 

手早くズボンをたくし上げられ靴下も脱がされ、俺の素足があらわになる。 

 

「レンちゃん、いいよ、自分でやるから」 

「ハプニカ様のご命令ですー、じっとしててねぇ・・・あ、ルル姉様ぁ」 

「私も手伝うわ・・・ちょっと、豆がいっぱいつぶれてるじゃないの」 

 

ルルちゃんとレンちゃんが俺の右足、左足に丹念に薬を塗る、 

ちょっとくすぐったいが、とても気持ちいい。 

 

「じゃあ私はこのパイをー・・・はい、あーん」 

 

リリさんがアップルパイを一切れ俺の口に運ぶ、 

甘酸っぱくっておいしい。 

 

「ではお飲み物も・・・」 

 

続けてララさんがアップルジュースの入ったグラスを俺の口につける。 

それをごくごく飲む・・・まるでハーレムみたいだ。 

 

「ごく・・・ごく・・・ぷはぁ、みんな、ありがとう・・・まるで王様になったみたいだ」 

 

その言葉に4姉妹はクスクスと笑い出した。 

 

「何がおかしいんだい?」 

「だって、これから王様になられるんですよね?」 

「こういうのも私たちの立派な仕事なんですよー」 

「この国の国王になるんだから、これぐらい当然だよ」 

「毎日やってもいいですよぉ、ほんとにぃ」 

 

その言葉にびっくりする。 

 

「え、もうそういうことになってるの?」 

「だってハプニカ様からプロポーズされたんですよね?」

「やっぱりすぐにOKしたんですかー?」

「まさか断るなんて言ってないよな?」 

「王様ぁ、よろしくお願いしますぅ」 

 

この4姉妹、もうすっかりその気だ。 

 

「待ってくれ、まだ俺は何も決めてない」 

「え、そうなんですか?」 

「ど、どうしてですかー?」 

「何か不満でもあるのか?」 

「し、信じられないですぅ!」 

 

4人いっせいに顔を近づける。 

 

「い、いや・・・君たちはそれでいいのか?」 

「異存はありませんが」 

「問題ないと思いますー」 

「反対する訳ないよ」 

「結婚してくださーい」 

 

やいのやいのうるさい。 

 

「でも、ハプニカ様はなんで俺を・・・」 

 

「ハプニカ様はずっとあなたのことを御慕いしてたんですよ、 

ただどうしても戦争中はそれを表に出す訳にはいかないので・・・ 

気付いていたのは私たちとミル様だけだと思います」 

 

「たまにあなたの方をじーっと見つめてたんですよー、 

でもそれだけ・・・あの戦争中にできる事といったらそれだけでー、 

あとはそれがまわりに気付かれないようにずっと想いを胸に押し殺していたんですよー」 

 

「別に鈍感って訳じゃないと思うから安心しな、 

私たちだって気付くのにずいぶんかかったんだから・・・ 

相当前から目をつけてたみたいで、ひょっとしたら最初に会ったときからかも」 

 

「ハプニカ様は戦争が終わってすぐにでも告白したかったみたいですぅ、 

でもすぐに国に戻って復興しなくちゃいけなくってぇ、あわてて発つことになってぇ、 

気持ちだけでも伝えようとしたんだけどぉ、もうすでに・・・あのあとどこへ行ってたんですかぁ?」 

 

あのあと・・・戦争が終わった直後・・・ 

俺は真っ先に、沈んだ我が故郷に報告に行った・・・ 

1分1秒でも、我がふるさとに伝えたかった、「全てが終わった」と。 

 

その後、セルフ様のいるアバンス王国へ行って、 

逃げ延びてきたモアスの生き残りをそのまま住まわせていただくようにお願いして、 

さらにあちこちの国にも同様のお願いをしてまわって・・・ 

モアスの生き残りは港町に散らばっているので、どうしてもそっちを優先して挨拶回りをすることになり、 

結局、山の中にあるこのダルトギア王国のガルデスシティには、 

いくら大都市といえどモアスの民がいるとは考えられず、 

セルフ様の伝言係の用事がなければ来なかっただろう、 

結局最後に回ることになって・・・1ヶ月もたってしまっていた。 

 

「どうなさいました?考え込んでしまって」 

「迷うことないですよー、ハプニカ様、とってもやさしいんですからー」 

「そうだよ、別に他に恋人がいる訳じゃないだろ?だったら、さ」 

「お願いしますぅ、王様になってくださぁい、王様、王様、王様ぁ」 

 

うーん、うるさいぞ・・・ 

 

「ハプニカ様は俺のどこが気に入ったんだろう」 

「そ、それは・・・えっと」 

「そうですねー、うーん」 

「それはハプニカ様が知ってるよ」 

「えー、わかんないよぉ」 

 

もういいや 

 

「ありがとう、もう下がっていいよ、ご苦労様」 

「は、はい、それでは失礼いたしました」 

「あとで食器を下げに来ますねー」 

「何かあったらすぐに呼んでよね」

「おじゃましましたぁ」 

 

連なって出て行く4姉妹、 

バタン、とドアを閉めたとたん静かになる。 

 

「・・・・・ふぅ」 

 

俺は残りのアップルパイを頬張りながら再び考えた、 

あの4姉妹はあんなことを言っていたが実際はどうなのだろう、 

こんな夢みたいな話・・・いや、夢のままな確率の方が高い、本気にしない方が・・・ 

きっとハプニカ様のことだ、何か考えがあって俺と結婚したいと言ったに違いない、 

でも俺と結婚して、何があるというのだ?この国に俺を置いておく理由・・・うーん・・・何だろ。 

 

この国はまだ復興が始まったばかりだ、 

ハプニカ様を女王にして活気づいている、 

そこに俺と結婚となれば・・・さらに活気づくのだろうか? 

ハプニカ様は俺を英雄と言った、真偽は別として国民全員そう思っているとしたら、 

女王と英雄の結婚・・・その英雄が新国王・・・ふむ、確かに国民は喜ぶかもしれない。 

 

ハプニカ様は策略家だ、そういった計算で俺を置いておく可能性もあるかもしれない、 

国のために、平和のために、俺と結婚する・・・ハプニカ様の性格からするとありえるかも。 

しかし俺の知ってるそのハプニカ様の性格って、あってるのだろうか? 

よくよく考えると俺はハプニカ様の深い性格など、何も理解していないのかもしれない。 

冷静で真面目で正義感が強くて、かと思うとここ1番の時には激しくなる・・・・・ふぅ・・・ 

 

ということは、やはりハプニカ様は俺のことを愛してないということになる、 

まさに政略結婚っていうやつだ、そこまでして、俺と一緒になるメリットがあるというのならば、 

自分の感情を殺してまで、国民のために、景気を上げるために、英雄であった国王を作り上げる・・・ 

俺が一緒に戦ったあのハプニカ様なら、ありえない話ではない、俺の知っている限りでは。 

そう考えると、何もかも説明がつくぞ・・・この考えで合っているかも? 

 

ハプニカ様のぼろぼろ流したあの涙、迫力があったが、 

今考えるとあやしいものだ、ほとんど涙を出さないあのハプニカ様が、 

あんなに取り乱すなんて、どう考えても不自然すぎる、あれも芝居なのだろうか、 

そうだ、きっと芝居に違いない!あとは魔法をかけたかアイテムを使ったか尻をつねったか・・・ 

なるほど、これで結論が出た、あやうくすっかりその気になってのぼせ上がる所だった、うーむ・・・ 

 

じゃあ、俺はどうすればいいのだろうか? 

ハプニカ様は俺からしてみれば世界一の美女だ、 

あらゆる意味で完璧な、完全無比な、史上最高の女性・・・ 

そのハプニカ様のお力になれるのであれば、たとえ見せかけだけの結婚でも、 

これほど幸せなことはないのかもしれない、光栄なことではある、だけど・・・それが俺に務まるのか? 

 

俺にはもう帰る場所などない、 

ここでハプニカ様のために、張りぼての国王として生きていくのもいいだろう、 

「何もしなくてもいい」と言っていたのは、そういうことか、俺には何も期待してないということなんだな、 

でも・・・でも、もしそうやって生きていくとしても、本当に何もしないのでは申し訳ない、いくら期待されてないとはいえ、

もしもの時はハプニカ様を支えてあげたいし、本当に認めてもらえる男になりたい、そしていつしか本当に愛されてみたい。 

 

そのために、俺にできる事・・・ 

本当にハプニカ様を守ってあげられることを証明する・・・ 

どうすればいいのだろうか、闘うにしても、もう戦争は終わってるし・・・もっと活躍しとくんだった。 

 

 

コンコン 

 

「食器を下げに来ましたー」 

 

ハプニカ親衛隊・次女のリリさんの声だ。 

 

ガチャッ 

 

「失礼しますー・・・どうしたんですかー?ぽかーんとしちゃってー」 

「いや、考え事を、ね」 

「お皿とグラスをー・・・まあ、きれいに召し上がってー・・・」 

「とってもおいしかったよ、ごちそうさま」 

「それとー、ミル様がお会いしたいとおっしゃってましたよー」 

 

ミル様・・・ミルちゃんか、なつかしい、 

ハプニカ様の妹君で、戦争でも大魔術師として攻撃や治療に大活躍した功労者だ。 

 

「ミル様ですか、それは俺もお会いしたいです」 

「そうですかー、ぜひお部屋にいらしてくださいということでしたよー」 

「じゃあ、お邪魔しようかな」 

 

ルルさんに案内され、ミル様、いやミルちゃんの部屋の前に来た。 

 

コンコン 

 

「ミル様、お連れいたしました」 

「はい」 

 

中に入ると机に向かって座っている背の低い女の子が、 

くるりと回ってこちらを向いた、かわいらしい少女・・・ 

ハプニカ様の妹、ミルちゃんだ。 

 

「これはこれはミル様、ごきげんうるわしゅう・・・」 

「もう、おにいちゃん、かたっくるしい言い方はやめてくださいー」 

「ご、ごめん、ミルちゃん・・・どう言っていいか・・・」 

「おにいちゃん、お久しぶりです」 

「お久しぶり、元気にしてた?」 

「うん!!」 

 

このミルちゃん、 

とっても俺になついてくれている、 

戦争の最中もハプニカ様がみんなを引き締めたのと対照的に、 

ムードメーカーとしてみんなを盛り上げてくれた、アイドル的存在だ、 

俺の所へもおにいちゃん、おにいちゃんと言ってよく緊張をなごませてくれたものだ。 

 

「おにいちゃん、お姉様に会いにきてくれたのぉ?」 

「うん、いろいろと、ね」 

「じゃあ、お姉様と結婚するんでしょ?」 

「え?う、うーん・・・どうだろ」 

「お姉様、まだ言ってないのぉ?」 

「ううん、言われたよ、結婚してって」 

「じゃあ、おにいちゃん、これからお兄様だねっ」 

 

にこにこ微笑んでいる、 

ミルちゃんはやっぱり子供だなあ、 

なんせハプニカ様とは10も歳が離れているから・・・ 

 

「あれ?何か書いてたの?」 

「そうなの、あの戦争を思い出して、伝記にしようとおもってぇ」 

「へえ、じゃあそっちの本は?」 

 

あわてて机の上の本を伏せるミルちゃん。 

 

「こ、これは見ちゃ駄目!」 

「そんなに恥ずかしい本なの?」 

「これは戦争中、ずっとつけてた日記なのぉ」 

「初めて聞くなあ、日記つけてたなんて」 

「あとで平和になったら本にしようと思ってぇ」 

 

結構しっかりしている。 

 

「でぇ、おにいちゃんは、お姉様といつ結婚するのぉ?」 

 

この城の女性はハプニカ様も含め、 

俺が絶対に断らないと信じ込んでいるようだ。 

 

「・・・結婚しないって言ったら?」 

「えー、そんなの嘘ー」 

「まだ迷ってるとしたら?」 

「おにいちゃん、迷ってるってことはきっと結婚するよぉ」 

 

・・・ミルちゃん、案外するどいのかも? 

 

「じゃあ、結婚しない」 

「あーん、おにいちゃんの意地悪」 

「ごめんごめん、そんなにむくれないで」 

「じゃあ、お姉様と結婚してくれる?」 

「・・・そういえば、なんで知ってるの?プロポーズのこと」 

 

ミルちゃんは日記を手にとり、 

にやにやしながら中を覗き込んでいる。 

 

「お姉様、おにいちゃんのこと・・・くすくすくす」 

「ちょ、ちょっと、何が書いてあるんだ?」 

「お姉様と結婚してくれたら教えてあげるー」 

 

・・・無邪気なミルちゃんとはいえ、 

こう何度も結婚結婚と言われると、 

少しうんざりしてきたぞ、あの4姉妹といい・・・ 

 

「じゃあ、結婚しないから教えなくてもいいよ」 

「え、えー?じゃ、じゃあ教えたら結婚してくれますかー?」 

「ミルちゃんは無邪気だね、いっそのことミルちゃんと結婚しようかな」 

「えええええーーーーー!?」 

「・・・・・冗談だよ」 

 

くしゃくしゃっとミルちゃんの頭をなで、 

俺は部屋を出ようとノブの手をかけた。 

 

「おにいちゃんの・・・意地悪ぅ」 

「はは、またね」 

 

部屋を出ると丁度、ティーカップを2つトレイにのせたリリさんが来た。 

 

「もうお戻りですかー?」 

「ええ、その紅茶はミルちゃんとリリさんでどうぞ」 

「はいー・・・ではお言葉にお甘えしてー」 

 

リリさんとはすれ違い、 

そのまま元の客間へと戻る。 

 

 

廊下を歩きながら考える、 

やはり俺の推理は間違いなさそうだ、 

あれだけみんなでよってたかって「結婚、結婚」とせかしてくるのは、 

やはりこの国に平和の空気を広めるための、政略結婚に他ならない・・・ 

俺の意志なんで、もうどうでもいいのだろう、形さえ整えれば・・・ハプニカ様がそんな人だったとは・・・ 

正直言えばショックだが、でもそれは責められないことなのかもしれない、 

俺だって同じ立場だったら、好きでもない女性と結婚するかもしれないし、その時はできるだけ幸せにしてやりたいと思う。

 

・・・あれ?俺の部屋の前に誰か立っている、 

あの長身・・・あの長い黒髪・・・あのスタイルは・・・・・ 

俺はその女性に話し掛けた。 

 

「ハプニカ様、どうなされたのですか?武装なされて」 

「ああ、その・・・もしよければ、散歩でもせぬか?」 

「いいですが・・・その格好は少々堅苦しいですね」 

「いやその・・・どういう服が良いかわからなくて・・・着替えてくる」 

「そのままでいいですよ、その方がハプニカ様らしい」 

「それは・・・喜んで良いのか」 

「ハプニカ様はハプニカ様な方がいいですよ、無理なさらず・・それでどこへ?」 

「うむ、着替えてついてきてほしい・・・」 

 

ハプニカ様は城の上の方へ着替えおわった俺を連れて行く、 

あれ?散歩って、城の中なのだろうか?と思っていたら・・・・・ 

 

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