「はい、思ったより高い場所にあって・・・でも良い運動でしたよ」
確かに空を飛んで来れば楽だった、こんなに歩くには距離があったとは・・・
「いえ・・・ふもとから見るぶんには近く感じたんですが、こんなにかかるとは・・・」
その中心にあるのがここガルデス城・・・ふもとからは近く見えたのだが、
やはり歩いて来るにはかなり無理があったようだ、丸2日もかかってしまった。
はじめは冗談だと思ったらしい、機嫌を悪くしていたら詫びよう」
「・・・ハプニカ様にそんな言葉をかけていただけるなんて光栄です」
この容姿端麗、知的でありながらしなやかで力強くもある完璧な美女こそ、
「・・・これもあの戦争のせいだ、あの大戦はいろんな物を失ってしまった・・・」
先の大戦で魔に操られた敵将・ザムドラー率いるスルギス王国と同盟だったこの国は、
前の国王であったハプニカ様の父・ジャイラフ王と兄・ジャヴァーの凶行により、
それに反発したハプニカ様は妹のミル様と部下の天馬騎士4姉妹を連れ、
「一応、各国に平和になったお礼の挨拶回りをと思いまして・・・
俺は解放軍リーダー・アバンス王国の国王に就任したセルフ様からの手紙を、
ハプニカ様に手渡した、内容は各国の平和条約制定についてである。
「ふむ、セルフもいろいろ大変だな、戦争が終わっても休む暇が無いと見える」
「お言葉ですが・・・ハプニカ様もこの国に戻って不眠不休で再興に尽くしてらっしゃると聞きました」
「私は仕方あるまい、父や兄のつぐないがあるのだから・・・それよりそなたは?」
俺はかつて海上都市と呼ばれたモアス島のモアス王国の騎士だった、
しかし敵の魔法攻撃により島ごと沈められてしまい、母国を丸ごと失ってしまった・・・
かろうじて逃げ延びた旧島民が世界中の港町でなんとか生きている。
「何を言っておる、あの戦争の影の功労者はそなたであろう、そなたがいなければ・・・」
その作戦会議もここにいるハプニカ様が考えた奇策や罠が功を奏しただけで、
「・・・少なくとも私はそなたをセルフと同等・・・いや、それ以上の働きをしたと思っている」
リーダーだった15歳のセルフ様をはじめ、解放軍は10代後半から20代前半のメンバーが多かった、
かくいう俺もまだ20歳になったばかり、そんな中で26歳のハプニカ様は、
部隊のよきアドバイス役として、ある時は母として、ある時は姉として、やさしくきびしくみんなを取りまとめた、
場合によってはリーダーのセルフ様にさえ平手打ちをくらわせたほどである、
それだけみんなに信頼が厚く、またここぞという時のハプニカ様の激がみんなの力の源となった。
「そうですね、今はとりあえず各国を廻って解放軍に参加してくださったお礼を言いに行っていたのですが、
それもこの国で最後ですし、伝言役の仕事ももうハプニカ様のお返事で終わりでしょうから、
セルフ様の所へ戻ったら、そのままアバンスに住もうかなと・・・」
「とんでもない、平和になったことですし城下町で道場でも開こうかと・・・」
「そんなこと、セルフが許すはずなかろう、それ相応の仕事があるに違いない」
「確かにセルフ様はそういう感じの事を言ってくれていましたが・・・私には・・・」
「しかし私にできる事などもう何も・・・竜や天馬には乗れないし、
あとは・・・戦術などの講師ぐらいですか、でもそれはもっと専門家が・・・」
俺は目を逸らすように自分の手の甲にうっすらついた薄紅色のキスマークを見つめる・・・
「ハプニカ様だからこそ国民は慕っているのでしょう、私では無理です」
「・・この国最大の特産物は天馬や飛竜です、それに乗れない国王だなんて・・・」
「私が1から教えよう、難しいことなどない、事によれば私がすべて操る、そなたは後ろに乗っているだけでよい」
「・・ハプニカ様がよくても、妹のミル様やあの親衛隊、それにこの城の方たちが・・・」
「この城の今の王は私だ、大臣に文句は言わせぬ、ミルや天馬4姉妹も喜んでくれよう」
「・・・この国と・・ハプニカ様には・・・それ相応のふさわしい方がいらっしゃるはずです」
「私にはもったいなさすぎます、もっとハプニカ様を支えられる方でないと・・・」
私が一緒になりたいのはそなただけ、誰がふさわしいかは私が決めることだ!
もったいない?そなたは私にとって最高の宝石、その自分を卑下するということは私を侮辱することになるのだぞ、
もしそなたが私より格が下でつりあわないというのなら、私がそなたと同じ身分になろう、
その時はもうこの国など知らぬ、それだけの覚悟でそなたと結婚したいと言っておるのだ、
国のためではない!私の心が・・・そなたを求めておるのだ!!!!!」
戦争中、まれにしか見たことがない・・・5・6回ぐらいだろうか。
「私を支えられないというなら・・・その分、私がそなたを支える・・・
普通の夫婦が普通に支え合う倍、いや、何倍、何十倍も、そなたを支え・・・愛する・・・
そなたがそばにいてくれるだけで・・・私には・・・何よりの支えだ・・・・・」
・・・それはこのダルトギア王国で、敵についていたハプニカ様の父・ジャイラフ王と兄・ジャヴァーを、
ハプニカ様が自らの剣で倒した時・・・その時、つーっと一筋の涙が流れたが、すぐに拭き取ってしまった。
まわりの傭兵の目など気にもせず、俺にすがって号泣している・・・・・
「・・・・・う・・・すまない・・・取り乱して・・・しまった・・・」
慌てて涙をぬぐうハプニカ様、傭兵が慌ててタオルを持ってきた。
声が震えている・・・こんなハプニカ様・・・ハプニカ様じゃないみたいだ・・・
本当にすまない、自分よがりであった、そなたの気持ちも考えず・・・
さっきのは何だったんだろう・・・本当にあったことなのか・・・
あのハプニカ様が・・・あんなに感情を激しく表に出すとは・・・
俺と結婚してほしいだなんて・・・どういうつもりなのだろうか・・・
まさに勝つことと平和を取り戻す事しか考えていないように思えた、
たまにやさしい顔で戦地で幼い子供たちをあやしていたことがあったが、
その子供たちのためにもこの戦争に勝つと自らを奮い立たしていたっけ・・・
本当にそんなことは微塵も感じなかった・・・アプローチがまったくないのだから当然か。
俺はハプニカ様の事は嫌ではないが、その・・・なんというか・・・
あまりにも眩しすぎる存在なのだ、強くて美しくて凛々しくて・・・
あまりにも完璧すぎて、男としては近寄りがたい存在とでもいおうか、
ハプニカ様ほどの女性につり合うのは、それこそリーダーのセルフ様か・・・
でもそのセルフ様は歳が11も違うし、早々に戦争前からの恋人・リューム様と結婚なされたばかりだ。
と思案し続けるものの、どうしても「冗談」「ただのいたずら」「人違い」といった考えに・・・