「どうだ、気分がいいだろう」
「はい、街があんなに小さく見える・・・」
「ここまで高く上がれるのは私の白竜だけだ」
ハプニカ様専用の伝説の白竜に乗って空中散歩・・・
少し風が強いが、とても気分がいい、地上の町並みがミニチュアのようだ。
「落ちないように私の背中にぴったりくっついているのだぞ」
ハプニカ様の大きな背中・・・ぬくもりを感じる・・・
たまに風で流されたハプニカ様の髪が鼻をくすぐり、とても良い匂いがする・・・
こうして見るとこの街が、山脈の中にある巨大な首都だということがよくわかる、
別名「城塞都市」と呼ばれるだけはある、大山脈に作られた「竜の巣」といった表現がぴったりだ、
他の街や国との移動手段がほとんど空しかないというのも納得いく、それだけ視界下をたくさんの竜や天馬が飛び交う。
「ではよくつかまっているのだぞ、しっかりな」
びゅーーーっと白竜が加速する、
重力がかかり、俺はハプニカ様にぎゅっとしがみつく、
すごいスピードだ・・・ぐんぐん城が遠くなる・・・
あの大戦で最強の力を証明してみせた伝説の白竜の名は間違いない。
それをいとも簡単に操るハプニカ様・・・やはり偉大すぎる女性だ。
「それで・・・その・・・少しは・・・考えてくれたか?」
「はあ、あの・・・ハプニカ様は・・・なぜ私を?」
「・・・それは、そなたの全てが・・・何もかもが・・・」
「私はハプニカ様が思っているほど・・・・・いえ、何でもないです」
「・・・・・そなたのことはずっと見てきた・・・よくわかっているつもりだ、そなたの魅力を」
俺は言おうとした言葉を飲み込んだ、
もう俺はすっかりハプニカ様のことを疑っている・・・
政略結婚に巻き込まれている俺・・・
何を聞いても堂々巡りになるだろうと思ったからだ、
何を言われてもハプニカ様の言葉を信じられないだろう、
信じろという方が無理な話かもしれない・・・
俺の中では「ハプニカ様は本当は俺を愛してはいない」という結論が出てしまった以上は。
「あの、ハプニカ様、贈り物、ありがとうございます」
「なに、つまらんもので申し訳なく思っているほどだ」
「あの花・・・とても嬉しかったです、それから、
あの食事も・・・とってもおいしかったです、
あの剣・・・とても立派で・・・もったいないです、
あの薬・・・とっても足が楽になりました、ありがとうございます」
しばらくの無言の後、
ハプニカ様は少し振り向いて言った。
「・・・・・よかった」
再び前を向くハプニカ様・・・
「見ろ、海だ」
「あ、本当だ・・・懐かしい・・・」

遠くにきらきら輝く海が見える・・・
海は俺の生まれ故郷ともいえる、
生まれ育ったモアス・・・海の真ん中にある孤島、
海で生きる人間のオアシス・・・俺は全て海とともに生きてきた・・・
そう考えるとハプニカ様のダルトギア王国は全てにおいて対照的だ。
海の神が治めるとまで言われたモアス・・・
山と空の神が治めると言われるダルトギア・・・
イルカとシャチを巧みに操り海の世界を自由に駆け巡るモアスの民、
天馬と竜を自由自在に操り空の世界を自由に飛び回るダルトギアの民。
広い海を泳ぎ魚や海草を捕って栄えていったモアス人と、
広い空を飛び獣や果実を捕って栄えていったダルトギア人、
そう考えるとモアスの民がダルトギアで、
またダルトギアの民がモアスで生きていくことは、
民族的にいっても不自然で無理なのかも知れない・・・
「・・・ハプニカ様、潮の匂いがしてきましたね・・・懐かしい匂いです」
「・・・・・そなたが好きなときに、いつでも、こうして海に連れてきてやろう」
「白竜だと海まであっという間ですね」
「ダルトギアでも、ガルデスでも新鮮な魚は手に入る・・・空は海に繋がっているからな」
「そうですね、そういう考え方もできますね・・・」
ハプニカ様の言いたいことがわかった・・・
俺のことを気遣ってくれて・・・嬉しい。
わざわざ海を見せてくれるために、白竜を・・・
海岸を旋回すると、
今度は違う方向に竜を飛ばす、
ダルトギアへ戻るでもなく、モアスのあった方へ行くでもなく・・・?
「一体どこへ・・・?」
「大切な所だ」
ぐんぐん速度を増す白竜、
大陸を海岸沿いに飛行する・・・
雲の隙間を割ってどんどんどんどん突き進む、
やがて・・・見覚えのあるお城が見えてきた、あそこは・・・
世界最大の都市、アバンス・・・解放軍リーダー・セルフ様の城だ。
急降下し、アバンス城の屋上に降り立つ、
まわりの傭兵がびっくりしているが、攻撃の構えは見せない、
きっと白竜なので、一目でやってきたのがハプニカ様とわかったのだろう、
白竜を操れるのはハプニカ様だけ・・・その白竜にまたがる女竜騎士伝説は、
世界中に轟いている、セルフ様のいるアバンスならなおさらだろう。
「私の名はダルトギア国王ハプニカ!セルフ様の遣いの者を、
こちらにお送りして参った!ぜひお会いしていただけるようお願いする!」
セルフ様の遣いの者・・・俺のことか。
ハプニカ様と一緒に白竜から降りると、
すぐに屋上から城の中へと誘導される。
「よくいらしてくれました、ハプニカ様、それと・・・」
セルフが結婚したばかりの王妃・リューム様と、
玉座に並んで座っている、その前で挨拶の構えをする俺とハプニカ様。
「セルフ殿、久しぶりだな、婚礼式には出席できずにすまぬ」
「いえ、いいんですよハプニカ様が忙しいのは承知してましたから」
「手紙の方、ついさっき受け取った、条文にある平和条約、全て異存はない」
「それを言いにわざわざ・・・?外で白竜が飛んできた時はびっくりしましたよ」
「実はそれだけではないのだが・・・とりあえずこの条文には署名しておいた」
ハプニカ様はすでに署名と拇印のしてある条文書をセルフ様に渡す。
「ありがとう。で、それだけではないとは?」
「ああ、実は・・・彼のことだが・・・」
俺の方を見るハプニカ様、それに気付くセルフ様。
「あ、すまない、今までありがとう、あちこち伝言させて・・・」
「いえ、ついででしたから・・・楽しい旅でしたよ」
「ひと月も働かせてしまって・・・お礼をしなくちゃ」
ハプニカ様が口をはさむ。
「そのことだが、セルフ殿は彼をこの後、どうするつもりだ?」
「どうするつもりって、彼にはできればこの国の参謀にでもと」
初めて聞いた、そんな・・・ばかな。
「セルフ殿の気持ちもわかるが・・・できれば私の国に欲しい」
「それは私も同じです、彼がずっとアバンスにいてくれれば、これほど心強いことは・・・」
「しかし、セルフ殿にその権利が明確にあるということはなかろう?」
「それはお互い同じです、しかし我が国では多くのモアス民を抱えています」
「なら我が国で全てのモアスの民を引き取ろう、それで文句はあるまい?」
なんか・・・俺を取り合ってないか?
その様子をずっと無言で見ていた、
セルフ様の王妃・リューム様が口を開く。
「どちらにしても、強制することはできませんわね」
2人はいっせいに俺の方を向く。
「どうか、このアバンスに残ってはもらえませんか?」
「私とともに・・・ガルデスの城で暮らそうぞ」
またそうやって結論を急がせる・・・
「ちょっと待ってください、俺、そんなこと急に言われても・・・
とりあえずは荷物がガルデス城にあるのでそっちへ戻ります、
・・・・・あとのことは・・・ゆっくり決めます」
その言葉に嬉しそうな顔のハプニカ様。
「そうか!それでは帰ろうか、ガルデスに」
「はい、セルフ様、それでは失礼します」
セルフ様は仕方ないな、という感じで頬杖をつき、
去ろうとする俺に声をかける。
「いつでもあなたを迎え入れる準備はできてますから、
この国はあなたの第2の故郷だと思ってかまいませんよ」
「・・・ありがとうございます」
「あと、ひと月働いてくれたお礼を・・・」
「いえ、旅前にいただいたお金がたくさん残っていますので、それで結構です」
「・・・うーん、ではあとで改めてガルデス城に届けましょう」
そう話してる最中にもかかわらず、
ハプニカ様は強引に俺を連れ出すのだった。
「セルフ殿、ではな、近いうちにまた会おう」
「あ・・・セルフ様、それでは・・・わっ、わっ」
「さ、日が暮れぬうちに早く!」
あわただしく俺とハプニカは謁見室から出ていった、
セルフ様の王妃・リューム様がセルフに話し掛ける。
「ハプニカ様も必死ね、多分、もう彼は当分ここには来れないわ」
「どうして?」
「次に会う時は、2人の結婚式ね」
「えっ!?あの2人、そうだったの?」
「彼は別としてもハプニカ様はね・・・ふふふ」
「リューム、君、知っていたのか?」
「男の人は戦争中はそういうことに鈍感だから」
城の窓から外を見たセルフの目には、
逃げるように飛び去る、2人を乗せた白竜が見えた・・・・・
白竜がガルデス城を目指しびゅんびゅん飛ぶ、
太陽もそろそろ暮れようとしている・・・
いくら白竜が速いといっても往復で半日もかかってしまった、
ちょっと散歩に出るつもりだったのに、
セルフ様への報告という最後の仕事を済ませてしまい、俺は・・・フリーになった。
「今夜はそなたのために豪華なごちそうが用意されておる、
私の親衛隊、あの4姉妹が力を合わせて作るとっておきの料理だ、
おなかをすかしているであろう、すぐに戻るのでもう少し待ってくれ」
手綱で竜に気合いをつけると、
さらに白竜は加速し、日が山にかかる頃には、
ガルデスの城が見えてきた・・・夕日に照らされたガルデスシティ、綺麗だ。
・・・あれ?あれは何だろう?
ガルデス城のとなりにある、まるいの・・・あ、闘技場か。
よく見ると、少し離れた所にもいくつか・・・3、4、5、
5つの闘技場が十字に・・・いや、サイコロの「5の目」のように並んでいる、
あんなに闘技場があるのか・・・やはり竜に乗ったりして闘うのだろうか?
「ハプニカ様、闘技場が多いですね」
「ああ、城の庭に1つ闘技場がある、他にあと4つ、
東西南北に・・・その4つの闘技場では1個所につきに5つステージがある
1度に5試合同時に戦闘が行える闘技場が4つ・・・我が国の自慢の1つだ」
「すごいですね、じゃあ4×5で20試合同時に行えますね」
「城の中央闘技場を合わせて21試合だ、それでも足りぬ時がある」
白竜が高度を下げだした、
闘技場がだんだんはっきりわかるようになる・・・
どこも何やら準備をしているようだ、あわただしく人の豆粒が動いている。
「実は我が国伝統の闘技トーナメントが復活することになってな・・・
明日は予選、明後日はいよいよ本選が行われる、私も楽しみにしている」
「トーナメントですか、面白そうですね」
「ああ、予選は見るに足りんが本選は迫力がある、
私も明後日は中央闘技場で1日中観戦するつもりだ・・・
どうだ?よければもうしばらくここに滞在して見ていかぬか?」
「面白そうですね、やはり竜に乗っての戦闘ですか?」
「いや、純粋な剣の腕を見たくてな、竜から降りての闘いだが・・・」
闘技トーナメントか、
なんかわくわくしてきた。
「わかりました、トーナメントが終わるまでは、お邪魔させていただきます」
「そうか、嬉しいぞ・・・ではトーナメントが終わったら・・・」
「・・・終わったら?」
「その・・・できれば返事を聞かせてほしい・・・私の・・こととか・・・」
「・・・わかりました、それまでには何らかの答えを出せるように・・・考えます」
白竜はゆっくりと減速し、
ガルデス城に降り立った、
城の傭兵がずっと待っていたようだ。
「おかえりなさいませっ、女王様っ!」
「ご苦労」
「すでにご夕食の用意ができておりますっ!!」
「さ、行くぞ、今日はめでたい、宴のようなものだ」
白竜から降りると、
ハプニカ様は傭兵が手に持つ籠の中にある、
山盛りの林檎を3つばかりつかみ、白竜の頭めがけてぽいぽいと投げた。
しゅるっ、ぱくっ、ぱくっ、ぱくっ
白竜は器用にそれを舌でキャッチすると、
おいしそうにそれを飲み込む・・・見ていてなんだか面白い。
「白竜よ、ご苦労であった・・・さ、我々も食事だ」
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めくる |