「トレオさん、歩けますかー?」 

「ああ、なんとか・・・」 

「ふらふらじゃないですかー!」 

「なぁに、あと30分・・・なんとかついてみせるよ」 

「無理ですー、無茶ですー」 

 

よろよろと進む俺・・・ 

あと・・・2試合・・・たった・・・2試合・・・ 

長い・・・長い苦痛が・・・もうあとちょっとで・・・・・ 

 

ザザザザザザザ・・・ 

 

!? 

 

まわりを・・・囲まれた!? 

今度は10人以上もの、黒い鎧をまとった奴等が・・・ 

 

「きゃー!トレオさーん」 

「バニーさん、俺から離れないで!」 

 

一斉に飛び掛かってきた! 

 

「でやあ!でえい!どりゃ!!!」 

 

 

 

・・・・・ 

ふう、敵は15人もいやがった・・・ 

しかも・・・ダルトギアの紋章をつけていやがった・・・ 

彼らはこの国の衛兵・・・いったい何人裏切り者がいるんだ!?

バニーさんは何とか無傷だ、俺が必死に守ったから・・・でも・・・ 

 

「トレオさーん・・・」 

 

震えている・・・バニーさんが・・・ 

恐くて震えているのではなく・・・俺を・・・ 

血まみれの俺を見て・・・さっきのエリクサーの意味がなくなっちゃった・・・ 

 

「行こう」 

 

せいいっぱいの笑顔をバニーさんに見せて進む俺、 

もう考えるのはよそう、激痛もかまうのはよそう、進むだけだ・・・ 

剣を杖がわりに前へ前へと闘技場を目指す・・・ようやく見えてきた・・・・・ 

 

 

 

「ウッホン、待っていたぞ」 

 

控え室にはスロトが待ち構えていた。 

 

「そなたに良い知らせがある、ハプニカ様のことだが・・・ 

正式にハプニカ様から、そなたが優勝したあかつきには、 

自らを優勝賞品に加えても良いとの返事が出された」 

「ええっ!?」 

「よって優勝すればそなたがこのダルトギアの国王だ」 

 

・・・・・これは、俺の正体が・・・ばれている!? 

後ろからバニーさんが顔を出す。 

 

「そんなー!あの、大戦の英雄様とのお噂はー!?」 

「ああ、あのお方でなくてもハプニカ様は良いそうだ、

私もその方がいい、トレオ殿が優勝すれば実力的に申し分なかろう」

 

やっぱり・・・でも、あらためてはっきり聞くと・・・ショックだ・・・ 

ハプニカ様は・・・本当に・・・名声さえあれば誰でもいいんだ・・・ 

いや、「トレオ」という人物は名声より罵声しかないのに・・・

うう、ハプニカ様は強ければ誰でもいいのか・・・そうか・・・ 

でも、もう後には引けない・・・これでますます・・・ 

 

「トレオ殿が優勝すれば悪い噂も晴れるであろう、頑張りたまえ」 

「・・・・・はい」 

「トレオさん、お時間です!!」 

 

スロトとすれ違いに係員が呼びに来た、 

準決勝・・・まともには闘えないけど・・・ 

もう俺には勝つことしか、生き残る道はない・・・ 

 

そう、あの大戦のように・・・!! 

 

 

 

「準決勝、フレシュ対トレオ、はじめ!!」 

 

ゴ〜〜〜〜〜ン!!! 

 

夕焼け空に銅鑼が鳴り響き、 

フレシュが空を舞い飛び掛かってきた! 

直前にバニーさんから聞いた話によるとこの男、ヴェルヴィの弟子・・・!!

 

キィン!ガキィ!ガシャッ! 

 

俺の装備したぼろぼろの剣と鎧がさらにひどくなっていく、 

攻撃する暇をまったくあたえてくれない・・・やられっぱなしだ! 

観客も喜んでいる・・・俺がやられるのは時間の問題に見えるだろう・・・ 

 

しかし・・・俺は一瞬の隙をひたすら待つ! 

この体ではまともに闘ったら間違いなく負ける、 

いや、それ以前にもうまともに闘える体ではない! 

 

そこで・・・ただひたすら隙を待ち、 

たった一瞬のチャンスに捨て身の一撃を与えれば・・・ 

相打ち覚悟の一発で敵を沈めるしか、もう俺には勝機がない! 

 

「フフ、観念したか?師匠の仇はとらせてもらう」 

「ぐう・・・お前も・・・ハプニカ様を・・・殺す気が・・・」 

「当然」 

 

ガキィ!バキィ!ギャイィン!!! 

 

うう、隙がない・・・ 

 

「そろそろトドメを刺してやろう、大戦の英雄さんよ」 

「何!?俺の正体を!?」 

「ああ、ハプニカは気づいてないが、スロト様はとっくにお気づきだ」 

「スロト様!?」 

「そう、ハプニカを殺したあと、ダルトギアを影で支配する真の王になるのが・・・スロト様だ!」

 

スロトが黒幕だったなんて!! 

 

「あんたをたきつけたのも作戦さ、今のあんたなら俺でも楽勝」 

「ぐ・・・きさま!」 

「しかもすっかり悪者のあんたを倒せば俺が英雄って訳さ」 

 

許せない! 

でも・・・力が・・・!! 

 

「おっと、しゃべりすぎたようだ・・・いくぞ!!」 

 

大きく構えた!今だ!! 

 

「ぐぬおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーー!!」 

「何ぃ!?」 

 

ガッシイィィィィィィィィィィーーーーーーーンンンンン!!!!! 

 

 

・・・ 

・・・・・ 

 

「・・・ぐはぁ!スロト・・・様・・・」 

 

ドサッ 

 

 

「勝者、トレオーーーーー!!!」 

 

ドサッ・・・ 

 

勝ち名乗りを受けた直後、俺も倒れた・・・・・ 

 

 

 

 

 

「・・・ん・・・」 

 

ここは・・・控え室!? 

気を失っていたようだ・・・ 

 

「う・・・いたたたたた・・・」 

「動かないでください」 

「その声は・・・シャクナさん!?」 

 

シャクナが俺の全身に包帯を巻いてくれている・・・ 

 

「マリーさんは大丈夫でした、意識が戻るまでは数日かかりますが・・・」 

「そう・・・」 

「顔の傷はなんとか元どうりになるそうです」 

「・・・いいのかい?俺の治療をして」 

「はい、治癒魔法はもう解禁ですが、でもここまでひどいとかけても同じです、だからせめて包帯を・・・」 

 

・・・本当にありがたい、涙が出るよ・・ 

・・・・・はっ!そうだ、スロトの野郎が!! 

 

「シャクナさん!こんなことしてる場合じゃない!よく聞いてほしい!」 

「な、何ですか?」 

 

俺は手短にスロトのことを話す。 

 

「ええーーー!?」 

 

うしろのバニーさんも驚いている、というか、いたんだバニーさん・・・ 

シャクナは驚きのあまり口を大きく開けている・・・ 

 

「早く、ハプニカ様の所へ行って・・・伝えて欲しい!急がないと!」 

「は、はい!わかりました!」 

 

慌てて出て行くシャクナさん。 

外は暗い、時間は・・・6時半か。 

時計の下に張ってあるトーナメント表に目がいく、 

今から出れば決勝戦には間に合いそうだな・・・ 

そういえば、最後の闘いの相手は誰だ!? 

 

「バニーさん、決勝の相手は?」 

「は、はい!レン様ですー」 

 

そうか、レンちゃんか・・・よかった。 

という事は、もうトーナメントに暗殺部隊は勝ち残っていない事になる、 

よかった・・・あとはスロトさえ取り押さえれば・・・ 

 

「トレオさん・・・もう闘うなんて言いませんよねー?」 

「いや・・・行くよ」 

「どうしてですかー?」 

「レンちゃんを疑ってるわけじゃないけど・・・優勝しないと闘ってきた意味がないんだ」 

「意味と申しますとー?」 

 

そう、俺のこの闘いの意味・・・ 

 

優勝してハプニカ様と結婚する!!! 

 

ハプニカ様は強ければ誰とでも結婚するだろう、 

なら名実ともに最強になれば、ハプニカ様と胸を張って一緒になれる! 

正体を気づかれていない今ならなおさらだ・・・!! 

 

「いたた、いたいいたいいたい!!」 

「起き上がらないでくださいー!」 

「う・・・鎧と・・・兜を・・・」 

 

ラストバトルだ、最後の気力を振り絞ろう! 

 

「どうして動けるんですかー?」 

「・・・愛する人のために」 

「こんな怪我で動けるなんて、あの伝説の英雄でもないかぎりー・・・」 

「・・・・・」 

「ま、ま、まさかー!?」 

「違うよ、人違いだよ」 

「で、ですよねー・・・」 

「・・・行くよ」 

 

外へ出る俺・・・暗い・・・ 

ふらふらの俺を誘導してくれるバニーさん・・・ 

意識朦朧・・・バニーさんの白く丸いしっぽだけを頼りに・・・ 

うーん、国王になったらバニー大臣に任命してあげよう・・・ 

バニー大臣・・・どんな大臣だ・・・でも、楽しそうかも・・・・・ 

 

 

 

「つきましたよー」 

「よかった・・・敵に襲われなくて・・・」 

「そうですねー」 

「さすがに今、襲われたら・・・何もできなかったよ」 

「・・棄権しないんですかー?」 

 

俺の顔を覗き込むバニーさん・・・ 

あと1回、レンちゃんを倒せば終わりなんだ・・・ 

これが最後の最後の最後の、本当に最後の・・・試練なんだ!! 

 

「・・・ありがとう」 

 

心からバニーさんに感謝し中央闘技場の控え室に入る、 

豪華だ・・・やはり造りが違う・・・休もう・・・ 

 

「トレオ様、決勝戦の時間になりました!」 

 

休ませてくれないのね・・・ 

係員に連れられ闘技場へ出る・・・ 

観客の熱気はさらに輪をかけて渦巻いている、 

闘技場を取り囲む大きなたいまつも燃え盛って・・・ 

あ、正面2階席に一番いい所、ゴンドラにハプニカ様がいる・・・え!?あれ!? 

そのとなりにいるのは・・・スロト!?嘘?あいつ、なんでまだいるんだ? 

シャクナが伝えに行ったのでは・・・ええ!?えっ、なぜだ!? 

 

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