声をかけたところで返事はない・・・ 

あわてて担架で運ばれていく、はやく手当てをしないと・・・ 

ステージの外では審判が集まって何やら相談しているようだが・・・・・!? 

 

観客はもうパニック、ヒステリックに騒いでいる、 

その睨み付ける視線は全て俺の方に・・・うう、悪いのはマリーなのだが、 

さすがに今回は俺もやりすぎというか気が引ける・・・あんな無残な顔を見ては・・・

可哀相な事をした・・・いや、あいつはハプニカ様の暗殺を企てていたんだ、 

普通ならどうやっても死刑・・・ん?審判団の輪が解けたぞ? 

 

「えー、皆さん静粛に!静粛に!」 

 

騒いでいた会場が静かになる。 

 

「只今の試合について協議した結果を申し上げます、 

大会ルールにおいて『相手を殺してはいけない』と明記されていた部分について、

トレオ選手はルール違反ではないかとの指摘が予備審判からありました、 

しかしトレオ選手の攻撃は致死にはいたらないものであり、なおかつ、 

審判である私がストップをかけるのが遅れたミスであるため、判定通り、 

トレオ選手の勝ち抜けとします!!」 

 

静寂から一転、地響きのような怒号に変わる! 

 

「お静かに!説明はまだ終わっておりません!お静かに!!」 

 

間を置いて再び静かになる会場。 

 

「えー、しかしであります、トレオ選手は、1回戦・3回戦も、 

『闘技』というものの枠からはみ出した、非常に残念な闘いかたをしている事も、

認識せざるをえません、すでに1度警告が出されております、そこで・・・」 

 

そこで!? 

 

「最終警告をします、もう1度同じような闘いをすれば即失格、 

また同じでなくても度を越えたと判断されれば、重いハンデを加す事とします! 

なお、次の準決勝へはペナルティとして治癒魔法を一切禁止します!!」 

 

がーーーーーん!! 

 

おいおい待ってくれ! 

闘技からはみ出したって・・・ 

じゃあハプニカ様暗殺はいいのかよ!? 

 

騒ぐ観客・・・ 

審判がこっちへ来た・・・ 

 

「早く控え室に戻りたまえ、ここにはもう君の敵しかいない」 

「し、しかし・・・」 

「観客を押さえるのももう限界だ、はやく!」 

「わ、わかりました!でも、あなたは・・・」 

「我々審判はあくまでも中立だ、相手が憎むべき敵であってもな」 

 

憎むべき敵・・・俺が? 

そんな・・・そんな、俺の立場は・・・ 

・・・おっといけない、暴動になってしまう、はやく控え室へ引っ込もう。 

投げつけられる瓶やゴミが痛い・・・いや、全身の痛みの比ではないが、何より心が痛い・・・

俺は控え室の入ると兜を脱ぎながら自分の部屋に入った、すると・・・ 

 

バシィーーーーーン!!! 

 

部屋中に響くいきなりの強い平手打ち・・・ 

シャクナさんが目に涙を溜めて恐い顔をしている、 

俺の頬がみるみるうちに熱くなってじんじんする・・・ 

 

「なんてことをしたんですか!相手は女性ですよ!?」 

「い、いや、その・・・」

「トレオさん!見損ないました!あんなひどい事を・・・」 

「ご、ごめん、つ、つい、でも・・・」 

「私、マリーさんの治癒を手伝ってきます!」

 

激怒のまま俺の横をすり抜けるシャクナ。

 

「トレオさんにいただいたお金の残りは全てマリーさんの治療にあてさせていただきますから!」

「そんな・・・」 

「もう知りません!1人で勝手に闘ってください!」 

 

バタン!と激しく閉まるドア、 

後にはシャクナさんの残り香と嫌な空気だけが残った。

俺は傷む頬を隠すように兜を再び被る。 

 

・・・・・くそっ!! 

ここへ来て怒りと悲しみが込み上げる・・・ 

俺は・・・俺は・・・俺は・・・・・・・ 

 

ガチャ 

 

「オッホン、トレオ殿、準決勝進出おめでとう」 

 

・・・大臣のスロトだ。 

 

「何の用です?」 

「何を怒っておるのだ、戦いの後で気が立っておるのか?」 

「・・・貴方もさっきの闘いを注意しに来たんですか?」 

「とんでもない!そなたらしい戦いぶりであったぞ」 

「・・・どういう意味ですか?」 

「まあとにかく聞きたまえ、ハプニカ様からの伝言がある」 

「えっ!?」 

 

ハプニカ様が・・・俺に!? 

 

「うむ、暗殺部隊についての報告、ご苦労との事である、直々のお言葉だ」 

「そ、そうですか・・・光栄です」 

「そうそう、それと・・・」 

「まだ伝言が?」 

「いや、この大会の優勝者は賞金・賞品・称号とともに、

その者の願いをこの国のできうる限りの叶える事になっているのは知っておろう?」

「い、いや・・・知りませんでした」 

「その願いを聞いておこう、何が良い?」 

 

・・・俺の願い・・・それは・・・1つ・・・ 

 

「では・・・俺は、ハプニカ様が・・・欲しいです」 

「なんと!?」 

「優勝したら・・・ハプニカ様をください」 

「ほっほー、それは大胆な願いであるな、よし、聞いておこう」 

「はい、よろしくお願いします・・・」 

 

嫌な含み笑いを残し去るスロト・・・ 

それにしても、ハプニカ様の伝言だなんて、 

ひょっとして俺の正体がすでにばれて!? 

・・・いや、それはないだろう、ハプニカ様が気づいているなら、 

おそらく今の俺のこの状態を放っておくはずはない、無理矢理止めるだろう。 

 

と、なると、さっきスロトに言った俺の願い・・・ 

優勝したらハプニカ様が欲しいという願い・・・あれは却下だろう、 

何せ今の俺は「トレオ」という訳も分からぬ戦士なのだから。 

でも、本当に優勝してハプニカ様の前で兜を脱いだ時・・・ 

その時こそ・・・胸を張って・・・ハプニカ様と・・・結婚を・・・!! 

 

コンコン 

 

「は、はい」 

「失礼しますぅ・・・」 

 

今度の来訪者はバニーさんだ。 

 

「何か?」 

「あのー、実はー・・・」 

「汗を拭きたいから後にしてもらえないかな」

「それがー・・・治癒魔法をかけられないように私が見張りをする事になりましてー」

「あ・・・そうか、そんなペナルティが・・・」 

 

何がペナルティだ・・・ちきしょう 

 

「大丈夫ですー、後ろ向いてますから」 

「ありがとう」 

「終わったら声をかけてくださいー」 

 

鎧・兜を脱ぐ・・・ 

汗でびしょびしょだと思っていたが、これは血だ・・・ 

そういえば、気で強引に止血してからもうすぐ20分に・・・ 

 

って、確か準々決勝と準決勝の間は1時間しかないはずだ! 

次の会場までの残り時間は・・・もう40分しかない!! 

気での止血のタイムリミットもあと10分ぐらいしか・・・とにかくまた急がないと! 

 

血を適当に拭き取る、 

タオルが傷口にこすれて痛いが・・・ 

このあともっとすごい激痛が待っている!気の麻酔が切れる・・・ 

 

ガチャ、ガチャ、ガチャ・・・・・ 

 

「バニーさん、もういいよ」 

「はいー・・・あれ、また鎧を着てー・・・?」 

「さ、行こう、西闘技場だね」 

「えー?えー?もう行かれるんですかー?あと40分もー」 

「あと40分しかないんだ!出るよ!」 

 

慌てて出る俺についてくるバニーさん、 

あと10分で全身を激痛がぶり返す、

それまでにできるだけ移動しなければ・・・!! 

 

「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ・・・」 

「トレオさーん!待ってくださーい!」 

「ぜえっ・・・はぁっ・・・ぜぇっ・・・」 

 

・・・・・ん?あれは道具屋・・・大きいな・・・そうだ! 

 

「バニーさん!」 

「・・・・・は、はいっ、待って・・・はぁ、はぁ・・・」 

「あの、俺って治癒魔法は禁止だけど・・・治癒アイテムはいいの?」 

「はい、はぁっ、あのっ、アイテムはっ、大丈夫ですがっ、はぁっ、はぁっ」 

「じゃあここで回復アイテムを買って使うよ!」 

 

そろそろ気が切れる、 

アイテムでせめて傷口をちゃんと塞いで、 

ほんのちょっとでも体力を回復させないと・・・ 

 

「いらっしゃーい」 

 

中にはじじいが一人・・・あとはがらーんとしている。 

 

「あのー、回復アイテムを・・・」 

「もうほとんど売り切れだよ、残ってるのは高価なエリクサーだけだ」 

「いくらですか?」 

「交渉ってとこだな・・・ん?あんた、ひょっとしてトーナメントの・・・?」 

「はい、そうなんです!だから回復しないと」 

「お前・・・知ってるぞ、悪魔のトレオってな」 

「あ・・・悪魔!?」 

「ああ、我が国の英雄を次々と殺そうとする悪魔って有名だ」 

 

ひどい・・・何て言われようだ。 

 

「トレオ、あんたに売る物なんてないね」 

「そんな!」 

「どうしてもってんなら10倍の金は取るよ、嫌ならいいんだぜ、どうせ他所じゃ売ってくれないだろうよ」

 

うう・・・むごい・・・ 

 

「金は・・・あ!」 

「どうした?」 

 

そうだ、全財産、シャクナさんに渡したんだった・・・・・ 

 

「バニーさん、お金貸してもらえるかな・・・」 

「えー、私、今3000Gぐらいしか持ってませーん」 

「じゃあ駄目だ・・・そうだ!」 

 

俺は腰にしまっていた小袋の中から金のメダルを取り出して渡す。 

 

「これは・・・俺の命の次に大切なものだ」 

 

そう、このメダル・・・ 

大戦に向けモアスを旅立つとき、 

モアス国王様に直々さずかった、名誉の騎士メダル・・・ 

今は亡きモアスの形見、俺とモアスを繋げる最後の証・・・!! 

 

「これでエリクサーを・・・」 

「金のメダルか・・・モ・・・ア・・何だ?」 

「モアスの純金製メダル、希少価値も高いはずだ」 

「どうせ盗んだか奪ってきた物だろう・・・まあいい」 

「じいさん、これでエリクサーいくつぐらいになるんだ!?」 

「希少価値よりもうちは目方だ、本物かどうか溶かさせてもらう」 

「う、それは・・・待ってもらえ・・・い、いや、急いでる!早く!」 

「ふん、これ1個がせいぜいだな」 

 

ポンとエリクサーを1つ投げ渡すじじい。 

 

「1個だけか!?」 

「文句があるなら返せ!」 

「い、いや・・・し、仕方ない!バニーさん行こう!」 

「は、はいー」 

「おいトレオ!このメダル、純金じゃなかったら後でひどいからなー!」 

 

うう、命の次に大切なのに・・・ 

終わったらあとで買い取ろうと思ってたのに・・・ 

溶かされちゃうなんて・・・し、仕方ない・・・あきらめよう。 

 

「う・・・うぐぐぐぐ・・・」 

「トレオさん!大丈夫ですか?トレオさん!」 

「き、傷が・・・そうか、もうリミットか・・・ぐぐぐ・・・」 

 

やばい・・・ 

気で無理矢理止血してたのがきれた・・・

はやくこのエリクサーで・・・んっ!?こ、これは・・・ 

エリクサーは透明なはずなのに・・・白く濁ってる!? 

あのじじい、不良品を・・・ちゃんとしたエリクサーだったら、 

完治できたかもしれないが・・・ううう!もう耐えられない!使おう! 

 

俺はエリクサーを使った!! 

 

・・・・・ 

・・・・・・・・・・ 

・・・・・・・・・・・・・・・ 

 

「・・・ぐあっ!駄目だ!」 

「トレオさん!」 

「やっぱり完治しない!ましにはなったが・・・うぐう!」 

「トレオさん!トレオさん!」 

「それでも・・・傷口はなんとかくっついては・・・い、るみたい、だ・・・ぐふう!!」 

 

痛さに悶える・・・ううう・・・ 

 

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