「間に合ったみたいね」 

 

地下10階の大広場にたくさんの人が集合している、 

さまざまな人たちが・・・だいたい2千人ぐらいだろうか? 

もういちいち建物の大きさに驚いていられない、もはやここは1つの国なんだから。

 

「じゃあ私はここまで、頑張ってね」 

「はい、何から何まですみません」 

「慣れたら本格的に就職先を探してね、ではまたね」 

 

ジーマさんはウインクをすると去っていた、 

近いうちにまた会えるといいな、これだけ広い館内だけど・・・ 

 

そうこうしているうちに、 

広場中央の台にちょび髭の偉そうなおやじが立った、 

丁度集合時間がきたようだ。 

 

「ウオッホン、私は当図書館の上級警備員、グガナンであーる、 

本日集まっていただいたのは他でもない、我が図書館の館長の捜索であーる」

 

おやじ☆

 

・・・変なおやじだ。 

 

「今から2週間前、我が図書館の名誉ある館長さまがであーる、 

地下へ調べ物へ行くと言って出掛けてしまってからであーる、 

まったく連絡がないのであーる、そこでであーる、 

ここに来てもらった者共にであーる、地下倉庫の中に入ってであーる・・・」 

 

うーん、ますます変なおやじだし、話しが長い、であーる。 

 

「地下倉庫は地下50階からであーるが、迷子になりやすいであーる、 

困ったらとにかく上へ上へ登るようにすればなんとかなるであーる、 

構造上そうなっているはずであーる、館長発見者先着1名には100万ゴールドであーる、

それではこれから館長の写真を配るであーる、前から順番に受け取るであーる・・・」

 

先着1名に100万ゴールド・・・狙ってみる価値はあるな、 

こうしちゃいられない!早い者勝ちと聞いたら即行動だ、 

館長の写真をもらいに並ぶ時間すらもったいない、早速地下50階へ行こう! 

僕はさっさと広場を後にして下りのエレベーターに乗った、 

なんだか楽しくなってきた、宝捜しみたいだ。 

 

 

地下50階に到着、頑丈な門に大きく赤く「書籍倉庫・立入禁止」と書かれている、 

まるで地獄の門とでもいおうか、ずいぶん物々しい。 

僕は門の前にいる警備員に名前を告げ、確認してもらい入れてもらった、 

中はとにかく広い、「わっ」と声をあげるとこだまする・・・ 

倉庫というわりには結構きれいに整備されており、ちゃんと照明もついている、

なんだ、それほど大したことじゃない・・・と思って歩きながら見渡す、 

本棚がずらーーーっと並んでいる、本だってちゃんとジャンル別、あいうえお順になっている、

なんだ、倉庫といってもこんなものか・・・さて、館長を探そう。 

 

しかし注意して見ても誰もいない、 

この階にはいないのか、と思って地下への大きい階段を下ろうとしたときは、 

他のみんなもすでにやってきて、迷わず地下へ降りていった、 

そういえばそうだ、こんな階で見つかるようならこんなに人を雇う訳がない、 

僕も人波にのって地下へと降りていくことにした。 

 

 

 

地下60階ぐらいから倉庫内も整理がおおざっぱになってきている、 

本棚もちゃんと並んではいなくなってきた、順番もばらばら。 

 

地下80階ぐらいだと本棚なんてなく、 

ただ広いフロアに本がいくつも山積みになっている。 

 

地下100階を超えるとその本の数も膨大になり、照明も暗く、 

本でできた巨大迷路のようになっていて、探しがいもでてきた。 

 

うーん、こりゃあ人海戦術が必要なはずだ、 

1つのフロアがこの図書館の敷地面積分の広さがあるうえに、 

これだけ本の山が溢れかえっていては・・・ 

 

地下120階でフロア全体は本によって足の踏み場はなくなり、 

地下140階でフロア全体は本のゲレンデのようになり、 

地下160階でフロア全体は本のプールのようになっている、 

地下へ行けば行くほど本の数は増えていき、 

地下180階では本と天井の隙間を這うのがせいいっぱいで、 

地下200階にしてついに・・・フロア全体が本で埋まった。 

 

こうなると本を掘り進むしかないが、 

さすがにこれより先に館長はいまい、とみんな引き返し、 

50階〜200階までのフロアを探している。 

 

それにしても、このへんの本ってどんな本なんだろう? 

と手にすると・・・読めない・・・当たり前か。 

 

僕は200階への入口のびっちり詰まった本をさらにいくつか引き抜く、 

ぱらぱらとめくりながらさらに本を引き抜くと・・・ 

 

どさっ、どさどさどさ・・・ 

 

「えっ?」 

 

びっくりして思わず声を漏らした、 

引き抜いた本から本が崩れて、 

びっちり詰まった本の中へ入っていく空洞が現われたのだ、 

内部はまるで洞窟の通路のようだ・・・これは・・・ 

僕は覚悟を決めて中に入る、念のため中から本を積み直して入口を隠して。 

 

中は真っ暗だ、ライトに明かりを灯す、 

まさに洞窟探検といった感じだ・・・全て本でできている洞窟・・・ 

僕はその迷路をさ迷いながら、どんどん突き進む、 

さらに下の階へ降りる階段まで本でうまっている・・・ 

でもちゃんと人が通れる穴が掘ってあるということは、きっとこの先に・・・ 

 

最初は立って進めるぐらいだった穴も、 

どんどん進むうちに小さくなって、這って通り抜けるようになる、 

本当にこの先に館長とやらがいるのだろうか? 

でも道がある以上、進むしかない・・・と思っていると、 

広い空洞に行き着いた、ライトを回すも誰もいない、行き止まりのようだ。 

 

「うーん、何もない・・・」 

 

そこは高さ2mぐらい、広さもそれほどない空洞、 

人がいた形跡もない、まさにただの空洞だ。 

 

「・・・引き返そう」 

 

そう思って振り向いたとき、本に足を取られた。 

 

「うおっと!本がすべる・・・気を付けないと」 

 

入ってきた横穴に戻ろうとするが、 

足場の本が横滑りしてなかなか進めない。 

 

「あれ?え?これは・・・」 

 

僕はようやく気付いた、 

この空洞はすり鉢状になっていて、 

ゆっくりと、しかしどんどん中央にすべり降りている。 

 

「こ、これは・・・本の蟻地獄!」 

 

しかし気付いた時にはすでに遅く、 

僕はどんどん本の渦の中央に吸い込まれていく、 

もがけばもがくほど、本の蟻地獄の中へ・・・ 

 

「た、た、たすけ・・・うわっ・・・」 

 

両足がずぶずぶと本の沼につかり、 

やがて腰、腹と吸い込まれていく、 

そして顔だけの状態になり、ついに・・・ 

 

「わ、わ、わあああああああああああああああ!!!!!!!!」 

 

ズボッと本の底無し沼に吸い込まれてしまったのだった・・・ 

 

・・・・・ 

・・・・・・・・ 

・・・・・どんどんどんどん落ちていく・・・ 

ああ、僕はここで死ぬんだ・・・と観念しかけたとき、 

スボッと本の底無し沼から抜けた! 

 

ズドーン! 

 

「あいたたたたた・・・」 

 

腰から着地した僕、 

ずっと夢中で握り締めていたライトをかざすと、 

また空洞に辿り着いたようだ、落ちてきた真上は本で塞がっている。 

 

「痛っ・・・ここは・・・」 

 

ライトをさらにかざす、空洞の出口は・・・・・・・あった! 

でも体がぎりぎり入るかどうか・・・しかも穴は下に向っている・・・ 

だが道は他には見当たらない、行くしかない・・・ 

 

僕はモグラのように地中を、いや本中を進む、 

本の角が体に当たって痛いが・・・行くしかない。 

うーん・・・僕は何をしているんだろう? 

そもそも戻れるのか?よくよく考えてきたら、 

こんな所に館長がいるのか・・・いても戻れなければ意味はない・・・ 

 

僕はうんざりするほどの時間、穴を進んだ。 

穴が行き止まりにつけばまだ引き返せるのだが、穴はどんどんつながる、 

そうして突き進んで進んで進んで進んだ先に・・・・・・・・・・ 

 

「あ、明かりだ!」 

 

僕はその明かりに向ってラストスパートをかける、 

あそこへ行けばなんとかなる、あそこへ・・・ 

 

スボッ! 

どさどさどさ・・・ 

 

「はぁ、はぁ、はぁ・・・」 

 

またまた空洞に出た、 

出てきた穴から本が崩れる、 

中は明かりが灯されて、様子がわかる。 

今度は空洞といっても膝で立てば頭がついてしまうような高さだし、 

横幅も両手を延ばせばついてしまうぐらいだ・・・ 

 

ぱらっ、ぱらっ・・・ 

 

奥の方から本をめくる音がする、 

灯かりのある方だ・・・僕はそーっと近づいてみる、 

そこには・・・・・ 

 

ぱらっ、ぱらっ、ぱらっ・・・ 

 

ランプに照らされた埃まみれの少女が一人・・・ 

一心不乱に本を読みふけっている、 

くせっ毛の、丸メガネをかけた小さく可愛らしい少女・・・ 

 

「だ、誰?」 

 

誰?☆

 

その姿相応の高く可愛い声が響く、 

びっくりした様子で僕の方を見る少女・・・ 

10歳ぐらいだろうか?顔も埃にまみれているが、可愛い。 

 

「あ、ごめん、別に驚かせるつもりはなかったんだ、 

その、館長を探していて・・・そしたらここについちゃって・・・」 

 

少女はちらりとランプのそばの懐中時計に目をやった。 

 

「あれ?えっと・・・あ、この時計、止まってるのね・・・」 

「その・・・館長さんって、見なかった?知ってる?館長さんって」 

「知ってるもなにも・・・私よ、シューム・エリス、このバンデルン図書館の館長だけど」

 

え、えーーーーーっ? 

という驚きを内心に押し込めた、が・・・ 

 

「信じてないでしょう、ま、いいけどね、こう見えても私、15歳のはずよ」 

 

15歳・・・見た目は10歳・・・声は8歳・・・ 

やっぱり信じられない・・・でも信じられないからといって、どうしよう。 

 

もどる めくる