☆本の迷宮に住む魔少女☆

 

「うわー、大きなお城だなぁー」 

 

僕は目の前にそびえ立つその建物を見上げた、 

天にも届かんとばかりの高く大きなお城、 

これほど大きなお城は今まで見たことがない・・・ 

 

「これが図書館だなんて・・・」 

 

そう、このお城に見える巨大な建物、 

実は世界最大の図書館・バンデルン図書館である。 

高さは地上1000m以上、まさに雲の上までそびえるこの巨大建造物の中に、 

古今東西のありとあらゆる本がびっしりと貯蔵されている、 

別名「図書館の王様」「本のラビリンス」「困ったときの最終手段」である。 

 

「うー、わくわくするなあ、一体どんな珍しい本があるんだろう?」 

 

わくわく☆

 

僕は小さい頃から本を読むのが何より大好きで、 

勇者や剣士や魔法使いよりもとにかく学者になりたかった、 

しかし僕の住む片田舎じゃたいした本は読めず、 

街まで出かけ、あっという間に手に入る本を読みつくし、 

新しい本を求めて16歳で旅に出るようになった。 

 

特に何の研究をしてるという訳じゃなく、 

とにかく何でもいいから勉強になる本を読みたい・・・ 

僕は珍しい本の売買で生計を立てながら、 

より難しい本、より珍しい本を求めて世界中を渡り歩き、 

18歳と5ヶ月17日の今日、ついに最終目的地であろう、 

ここに辿り着いたという訳だ、長い道のりだった・・・ 

噂通りなら、ここにない本など絶対にないという。 

 

たくさんの人が行き来している、 

勇者、商人、兵士、国王、僧侶、遊び人・・・ 

力を強くしたければここにある本の通りにすればいい、 

国を豊にしたければここにある本の通りにすればいい、 

盗人として極めたければここにある本の通りにすればいい、 

商人として成功したければここにある本の通りにすればいい、 

死んだ恋人を蘇らせたければここにある本の通りにすればいい、 

世界を全て消滅させたければこにある本の通りにすればいい・・・ 

とにかくありとあらゆる方法が、この図書館に来れば必ずあるのだという。

 

「さあ、行こう」 

 

いつまでもぼーっと見上げている訳にはいけない、 

ありとあらゆるいろんな本が僕を待っている、 

僕は期待を胸に膨らませてその巨大な門をくぐった。 

 

 

「えーっと・・・」 

 

にぎやかな館内、 

さまざまな受付所がある、 

これだけ広いとすぐに迷子になってしまいそうだ、 

さて、どうしたものか・・・いざ入ったがいいが・・・ 

大きな図書館には案内所とかがあるはずなんだけど、どこだろう・・・ 

 

「いかがなされました?」 

 

綺麗な声が僕に話し掛けてきた、 

スラッと背の高い、眼鏡をかけた知的な女性・・・ 

分厚い本を手に持ちながら僕の方に近づいてきた、何やら腕章をしている。 

 

「ようこそバンデルン図書館へ!ご来館は初めてですか?」 

「はい、そうですが・・・あなたは?」 

「申し遅れました、当バンデルン図書館案内係のローラ・ジーマと申します」

 

美人☆

 

美人だ・・・なんというか「美人女教師」といった感じだ、 

彼女は慣れた様子で僕に続けて問い掛ける。 

 

「本日はどんな御用でしょうか?調べ物ですか?」 

「その・・・えっと・・・」 

「初めてでしたら、もしよろしければ館内をご案内いたしますが」 

「あ・・・はい、お願いします・・・」 

「では、こちらへどうぞ」 

 

僕は彼女のあとをついていく、 

あたりは大都会の街中のように人で溢れかえっている・・・ 

これが図書館の中・・・何もかもスケールが違う・・・ 

 

「こちらが中央受け付けカウンターになります」 

「こ、これが・・・長いカウンターですね、端が見えない・・・」 

「はい、1度に最高1000人が受け付けできます」 

「1000人・・・待ち時間を気にしなくて済みますね、これだと」 

「それでも忙しいときは1つのカウンターに20人ぐらい並ぶんですよ」 

 

20人が1000列・・・1度に2万人も本を調べに・・・ 

 

「じゃ、じゃあ1日何人が調べに来るんですか?」 

「そうですね、だいたい中央カウンターで平均100万人ぐらいだと」 

「そ、そんなに・・・さすが世界一・・・」 

「これ以外に直接、それぞれの部所に行かれる方がかなりいらっしゃいますから、 

実際はこの5倍とも10倍とも・・・実際の人数はちょっと計り知れないですわね」 

 

僕はあまりのその巨大さに気が遠くなった。 

 

「今はまだ午前中の早い時間ですから、すぐに調べられますわ、 

どうします?これから本を検索いたしますか?」 

「・・・こ、これだけ大きいと、本の数もすごいんでしょうね」 

「それは言わずもがなだと思われますが」 

 

にこにこと僕に微笑みかける案内係のジーマさん。 

うーん、本当にどんな本でもあるのだろうか? 

僕は恐る恐る聞いてみた。 

 

「で、では、その、不老不死の本とか・・・」 

「はあ、たくさんありますが、どういった不老不死の本でしょうか?」 

「たくさん・・・どういったといいますと?」 

「簡単な入門書から専門書まで・・・不老不死の核心まで調べるとなると、 

それ相応の専門知識や翻訳能力が必要になりますが」 

「そうなんですか?ちょっと読めば簡単に不老不死になるとか・・・」 

 

ジーマさんは丁寧に説明をはじめる。 

 

「確かにこの図書館にはありとあらゆる本がありますが、 

利用率の高い簡単な内容の本はすぐ閲覧できます、 

しかし死者蘇生や錬金術など高難度の本は見つけるのも大変ですし、 

専門用語はもちろん古代文字や解読不能な記号を1から調べる作業など、 

普通に今から何の知識もない人が不老不死を手に入れようとすれば、 

ざっと25000年ぐらいはかかる計算になりますわ」 

 

うーん・・・熱が出そうだ。 

 

「もし私どもに依頼なされたとしても、 

調べるのに最上級検索士50人で20年はかかりますし、 

料金も多分、この世の中にあるお金の半分以上を集めていただかないと・・・」 

「うわー、そんなにかかるんですか」 

「こちらも命懸けですから、先日も最強無敵の力を手に入れる本を探していて、 

間違った記述の本を出してしまい仔猫に変身してしまった方とか・・・」 

 

なるほど、願う本がなんでもあるからといって、 

そう簡単に願いは叶うわけではない、 

やはりそれ相応の労力が必要となるのだ。 

 

「どうなされます?不老不死を得る勉強の入門書でもお読みになりますか?」

「いえ、そこから勉強して25000年も探してはいられないので」 

「ちょっと読むだけでも楽しいですよ」 

「それはわかってますが・・・うーん・・・」 

「はい?どうなさいますか?調べないのでしたら、この図書館の歴史資料館でも廻ってみますか?」

 

どうしようか、 

あまりにも何でも本がありすぎて、 

どこからどう手をつけていいやら・・・ 

 

ふと横を見ると、 

ジーマさんと同じ腕章をした女性が、 

同じように新しく来た人に説明をしている、 

あの女性も綺麗だなあ・・・うーん、案内員かあ、 

ここで働くのも悪くない気がするなあ。 

 

「あのう、ジーマさんはこの図書館で働いてるんですか?」 

「はあ、そうですが・・・それがどうかいたしましたか」 

「その、僕も働いてみたい、って言ったら働けるんでしょうか?」 

「まあ嬉しい!就労希望なんですね?この図書館は万年労働者不足なんですよ」 

「えっ、そうなんですか?」 

「これだけ大きいと利用者に対して図書館の係員が追いつかなくて・・・ 

では、ご案内しますのでついてきてくださいね」 

 

ジーマさんは楽しそうに僕を連れて行く、 

確かにこれだけ巨大な図書館、働く人数も超巨大なはずだ、 

せっかく辿り着いた最終目的地、ここで働けるにこしたことはない。 

 

「こちらで〜す、さ、お入りください」 

 

妙に高いテンションでジーマさんが案内してくれたのが、 

「館内就職案内所」と看板が掲げられた立派な部屋だ、 

中には受け付けカウンターが十数席・・・すでに何人かの人が話し合っている。 

 

「すいません、こちらの方、就労希望者です」 

「あらまあ、ありがと、あなたは?」 

「はい、2級総合中央案内士、587601番、ローラ・ジーマです」 

「えっと、5・・・8・・・7・・・」 

 

ジーマさんは僕の前で就職案内所の年配女性と話してる間も、 

とても嬉しそうにしている・・・そんなに僕がここで働くことが嬉しいのかな・・・ 

僕もなんだか嬉しくなってくるよ・・・ 

 

「はいジーマさんご苦労様、就職誘致料の1000ゴールドよ」 

「ありがとうございます!」 

 

な、なるほどね・・・そりゃあ嬉しいはずだ、 

でも、それだけ労働者不足なんだなあ。 

 

「はい、半分あげるわ、だって私、何にも勧誘してないから」 

「いいんですか?」 

「もちろんよ、逆に500ゴールドも貰っちゃって悪いぐらい」 

「ど、どうも・・・」 

「で、就職はどうするの?最後まで案内してあげるわ」 

 

僕はジーマさんに促されて席についた、 

カウンターごしにさっきの年配の女性が座る。 

 

「はい、ではどういった仕事をしたいのですか?」 

「あのー・・・できれば楽な仕事が・・・」 

「楽な仕事もいろいろありますが」 

「・・・うーん」 

「お給料もボランティア的なものから本格的なのまで・・・ 

もちろん労力と給料は比例することをお忘れなく」 

 

そう言いながら分厚い就労先リストを渡された、 

ぱらぱらとめくるとさまざまな仕事がある、 

本を調べる仕事から翻訳係、本運搬の肉体労働、閲覧室の清掃、 

食堂のコック、お土産売り場の店員、ドラゴンの世話、闘技場の審判・・・そんなのまであるのか・・・

宿屋・・・理髪店・・・私設警察官・・・本当に何でもあるんだな・・・もう立派な1つの国だ。

あとは・・・呪術士・・・ってなんだ? 

 

考え込んでいる僕の後ろから、 

ジーマさんが顔を覗かせる。 

 

「それは、本に一番大敵な火事に備えて本が燃えない魔法をかけたり、 

盗まれないように館内から持ち出せなくする魔法を本にかける仕事よ」 

「じゃあ僕には無理だ」 

「ねえ、あなた得意な仕事とかないの?」 

「得意っていっても・・・珍しい本の売買で生計たててきたけど・・・」 

「古本屋?それもいっぱいあるけど・・・とりあえずは1日で終わる簡単なのからはどうかしら?」

 

ジーマさんは後ろから手を伸ばし、ぱらぱらとページをめくる。 

 

「このへんが1日就労のページね」 

「いっぱいある・・・うーん、僕の得意なこと・・・あとは小犬や仔猫を探すのがうまいけど・・・」 

 

正面から声が掛かる 

 

「じゃあ、これはどうかしら?」 

 

僕らと同じように就労資料をめくって探してくれていた、

目の前の年配の係員が声をあげた。 

 

「712ページの新規覧、人探し、難易度E、一番簡単なやつ」 

 

僕もそのページをめくる、 

確かに人探しだ、詳細を読むと・・・ 

 

「2週間前から地下倉庫で行方不明の当図書館館長の捜索、 

発見した者は100万ゴールド、捜索に参加すれば5000ゴールド」 

 

人探し・・・館長って? 

後ろからジーマがつぶやくように話す。 

 

「地下倉庫ねえ、あそこ広いのよねえ・・・でも参加するだけで5000っていいわね」

「館長失踪って・・・大変なことじゃあ」 

 

目の前の係員があきれたように話す。 

 

「よくあることなのよ、うちの館長ったら、 

地下にこもると1ヶ月は出てこなくって・・・ 

別に本当は行方不明ってほどのことじゃないんだけど、 

上の方、急用がちょっとできたらしくって、館長を呼んできてほしいんですって、

こんなの自分たちの部隊ですればいいのにねえ・・・まあ人海戦術なんでしょうけど」 

 

なるほど、館長探し・・・ 

しかも地下倉庫っていうのがなんだかそそる・・・ 

きっとそれはそれは珍しい本がいっぱい・・・ 

 

「じゃあ、とりあえずこれをやってみます!」 

「はい、これでいいんだね」 

 

僕は紹介状をもらい、署名にサインをした。 

 

「集合場所は地下10階A−937だね、ジーマさん、案内してあげてくれる?」 

「はい!まあ、もうこんな時間!もうすぐ集合時間だわ、急ぎましょう」 

 

ジーマさんにせかされながら、僕は就職案内所を後にした。 

 

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