・・・・・かろうじて見えていた太陽が、もうかなり沈んでいる。

夜になったら本格的に身動きが取れない、そうなれば確実に野宿だ。

この場に寝て、起きたら引き返そう、単なるやけに長い散歩で終わる。

 

「こういうのって、もうやめようと思うと、到着するもんだよな・・・?」

 

自分にそう言い聞かせ、さらにさらに歩く。

でも一向につかない・・・やがて太陽が半身となり、

自然に紫の霧も濃くなる、もう足元の道をなぞるので精一杯だ。

 

「まずいな、道そのものがわからなくなったら、帰れなくもなる」

 

仕方がない、脇で座って食事にして、寝よう。

明かりの魔法で進もうと思えば進めるけれど、

魔力よりも体力が限界になる、それにこの場所だとせっかくの魔法もすぐ地面に溶けちゃうだろう。

 

「そっか、じゃあ結界も難しそうだな・・・」

 

いくら魔族が降伏したとはいえ、

それに反対し続ける残党兵がいないとも限らないし、

知能をあまり持たない、それこそ猛獣や毒蛇、さらには怪物が出ないとも限らない。

 

「どうしようか・・・ああ、太陽が沈んでいく・・・完全に・・・・・消えた」

 

サキュバスの生き残りは何をやっているんだ!?

詳しいことは知らないが、俺がいないと滅びるんじゃないのか?

だったらしっかり迎えに来てもいいのに・・・うぅ、腹減った・・・メシだメシ。

 

「パンと水・・・まずい、水は半分どころか、あと3口くらいしかない」

 

こんな荒野じゃ川なんてもちろん無い、

町に行けばご馳走が、と思ったら、その町に着かないのなら、まさに蜃気楼・・・

ひょっとして、もうサキュバス族は滅びて誰一人いないんじゃないか!?

それで大戦の影響で、ここは更地に・・・その伝達が竜人王に届いてなかったとか・・・

迎えが来なかった時点で『話が違う』と魔城へ引き返せばよかった、それならそれでゴーレム族とか違う国へ回せてもらえただろう。

 

「よし、サキュバス族は国ごと滅びてました、めでたしめでたし、でいいや」

 

・・・・・

・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・

 

食事を終えた頃には真っ暗闇・・・

一応、道らしき所の上で寝るのはよそうと、

少しずれた場所で麻袋に身を包み横になる・・・

 

「夜中に気温が、急激に下がるとかないよな?凍死はごめんだぞ」

 

これが人間の国なら夜空の星を眺めて眠れるが、

ここはまるで生死の境を彷徨っているようで、気味が悪い。

夜中でも走って戻りたい気が湧いたが、さすがに方向がわからなくなっては遭難する。

 

「サキュバス・・・何度か見たけど、人間だったらセクシーだよな・・・」

 

しかもエネルギー補給に竜人や鳥人、人間を捕らえて吸い尽くす・・・

魔物だ、と忌み嫌うのはきっと、その色気に負けて落ちてしまわないために、

自分に言い聞かせているのかも知れない、今の俺がまさにそう、変な想像をしないように心がけている。

 

「ま、絶滅したならセクシーもエロティックも何もないな」

 

ごろん、と寝返りを打つ・・・

結界とか張らなくて大丈夫だよな?

どうせ地面に魔力を吸い取られるし、

寒くなったら体を温める魔法くらいが精一杯か・・・

・・・あんまり寝返り打つと、来た方向がわからなくなるな、荷物で位置確認を・・・

 

「・・・・・あれ?遠くで何か、光ってる!?」

 

ボワッと霧に紛れた、まるで人魂のような明かり・・・

距離的にいってどのくらい先なのだろうか?不気味だ・・・

でも、これはひょっとしたら、誰かいるのかもしれないぞ!?

 

「人が向かって来ているのか?それとも・・・」

 

じーーーっと見ていると、移動はしていないようだ、

という事は、あそこに行けば少なくとも何かはあるという事だ!

 

「どうしようか・・・単なる発光現象なら、迷子の危険があるな」

 

・・・ぼーっと発光物体を見つめていると・・・

 

「わ!2つになった!これは、誰かがいる!」

 

慌てて麻袋から抜け、荷物を手にし、

光のほうへと一直線に突き進む!やがてそれは、

細かく揺らめいているのがわかる・・という事は、炎だ!

 

「あそこへ向かって行けば・・・蜃気楼じゃない事を祈ろう」

 

一応、要所要所で足を使い地面を軽く掘って・・・

これならもし何もなくても朝になれば戻れるはずだ。

あとは目の前に谷底とかなければ・・・照明魔法を目の前に落としながら1歩1歩進む。

 

「すぐ地面に溶けちゃう・・・お、炎が近くなってきた!」

 

そこでようやく気付いた!

炎がゆらめいているのは、これは門!

城壁のようなものに囲まれた、門の入口、両サイドに炎が灯してある!

 

「おまけに、門が開いてる・・・」

 

と、その先、門の中に人影が見えた!

隠れながら見ると、青白い肌の、露出した服の女性・・・

いや、魔物だ!大きな黒い翼をつけ、おしりから伸びるしっぽで背中をポリポリ掻きながら両腕を空へ伸ばしている。

 

「ふぁあああ・・・夜早いの苦手・・・仲魔がいないからしょうがないけど・・・」

 

どうやら門を開けた直後らしい、

きっとその流れで炎を灯したのだろう。

さらに今度は奥から今度はローブに身をまとった女たちが・・・

ひい、ふう、みい、3人ほどやってきた、1人が先頭、後ろの2人は滑車を引いているようだ、

紫のもやで表情までは、はっきりわからない・・・でもおそらく、この女たちは、きっと俺が探していた・・・!

 

「おはようキャルミン、早夜の開門ご苦労様」

「まだ眠いわ、それよりこれから新しい領主様のお迎え?」

「ええ、約束の11時には今から出なくては間に合いませんもの」

「ついでに物資を貰ってくるのね、敵の大将が話のわかる人でよかったわ」

「でも、まだまだ安心はできないわ、とりあえずは今、できる事をしましょう」

 

11時に約束・・・確かにそう聞いていた、でもいなかった、

仕方がないから自力できたのに、まさか夜中の11時だったって事か!?

それに会話の様子からいって、生活自体が昼夜逆転しているようだ・・・

思い出した、大戦の時もサキュバスは夜襲が得意なんだったっけ、

昼に戦った方が奴らは弱いって話も聞いた覚えがある、夜行性の魔物だったのか・・・

 

「あら?おかしいわね、もうオトコの匂いが・・・しかもこれ人間ね、キャルミン、食べた?」

「いいえ、私はそんな事はしてないわ、でも・・・クンクン、ほんとだわ、美味しそう・・・」

「門の外ね・・・しかも門の影に隠れているみたいだわ、出ていらっしゃい!」

 

ギクッ!ば、ばれた!

ここは素直に出よう・・・一応、防御魔法も心の準備をして・・・

 

「お、おはようございます、かな」

 

先頭のお姉さんがローブのフードを脱ぐ、

そして俺の前でひざまずく・・・他の人たちも。

 

「失礼、ようこそいらっしゃいました、貴方が新しい領主様であらせられますね?」

「は、はい、そうするように、聞いて・・・きました」

「私はここサキュバス国の首都・サバトゥスで女王代理を務めておりますミルネと申します」

 

ローブの背中部分が盛り上がってるのはきっと翼のせいだろう。

 

「はい、俺は・・・」

「すでに伺っております、早速おもてなしを・・・マーサ、マサーナ、あなた達は支援物資を貰いに出なさい」

「では行ってまいります」「失礼いたします」

 

滑車をガラガラいわせながら門の外へ・・・

わ、低空で飛びはじめた!凄い勢いで走っていく、

そしてあっという間に姿が・・・真っ暗闇だから当然か。

 

「領主様、あまり猶予はございませんので、早速働いていただきたいのですが」

「あ、ああ・・・うん、いいけど、とりあえず現状を把握したい・・・」

「見ていただいて説明した方が良いでしょう、我々の女王様を」

 

サキュバスの女王・・・どんな姿をしているのだろうか?

魔物といえど、いや、女の魔物だからこそ、ムチムチのばいーんぼいーんの、

肉厚がありつつも決してデブとは言い切れないような要所要所シェイプされたダイナマイトボディとか・・・

 

「しばらく街中を通りますので、はぐれないように・・・」

「え?もう街中なんだ、門は確かにくぐったけど・・・って、ひっ!」

 

よく見ると紅い目が2つ並んでこっちを見てる、

それもいくつもいくつも、同じくらいの目線から高い所、

近くもあれば遠くもあって、結構な数のサキュバスに、見られてる!?

 

「危害は加えませんのでご安心を」

「でも、見られてるだけで、ちょっとゾクゾク・・・」

「視姦されている訳ですから仕方ないでしょう、直に慣れていただけるかと思います」

 

そっか、目で犯されてるのか、ならムズムズするはずだ、体も・・・そして・・・股間も・・・

 

「こら!手を出しちゃ駄目でしょ!」

 

パシンッ!と叩く音が背後から聞こえた、

どうやらちょっかいを出そうとしてきたのがいたらしい、

それを征してくれたのはキャルミンと呼ばれていた門番の子・・・ガードとしてついてきてくれてるのか。

 

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