「イタル君、キス、したことある?」

 

僕は首を左右に何度も振る・・・

 

「まだなのね・・キスもした事ないのに、私にえっちな事、教えて欲しいだなんて・・・」

 

流香さんは火照った僕の頬を両手で挟む、

冷たい手が心地いい・・そのまま首筋にかけて両手同時になでる・・

繰り返し・・ああっ、力が抜けちゃう・・・

 

「気持ちよさそうな顔してるのね・・」

「はぁぁ・・・」

「本当に若いわぁ・・恐いくらい」

 

僕の目を正面から見つめる・・・

きつい顔立ちの中で輝く潤んだ瞳・・・

 

「じゃあ・・・キス・・・する?」

「キス・・・」

「そう、キス・・・はじめてのキス・・キスしないとエッチな事、始められないわ、

 でも君の、イタルくんのとっても大事なファーストキスだから・・・自分で決めなさい、どう?私と・・・キスする?」

 

やさしくやさしく僕に問い掛ける流香さん、

きつい紅めに塗られた唇が僕に迫ってるみたいだ、

キス・・・どんな味なんだろう・・・・・

 

「ほら・・・勇気を出して・・・キスして・・・それとも初めては、取っておく?」

「うっ、ううん・・・流香さんが・・初めて・・が・・いい・・」

「そう、光栄だわ、君のものすごぉく大切なファーストキス、本当に私でいいのね・・・」

 

僕は目を逸らしてコクンとうなずく・・・

 

「私の目をちゃんと見て・・・」

 

きっ、と顎を両手で持ち上げられる、

本当に綺麗な目だ、眼鏡を外すときつい感じがやわらぐのかなあ?・・・

 

「キスしましょう」

「はい・・」

 

紅い唇の中からピンクの舌がちらちらと覗ける、

えっちだ・・・どきどきどきどきどきどき・・・・・

 

「眼鏡・・外した方がいい?」

「えっ・・」

「君の一生に残る大切なキスだから、君のしたいようにしましょう・・眼鏡外した方が、いい?」

「・・う、ううん、そのままが・・いいです」

「そう、眼鏡のままの私と初めてのキスをするのね、いいわ・・さ、いつでもいいわよ・・・」

 

ぺロッ、と舌を出して紅い唇を湿らせる流香さん、

口紅がより赤みを増したようで色っぽい・・・

 

「ふふ、さあ、初めてのキスは自分でするのよ、

 勇気を出して・・・したいんでしょ?私は待ってるから、ほら・・・」

 

手を放し、目を閉じで唇を閉じる流香さん・・・

キス、しちゃうんだ、僕、これから、自分で・・・

大人の人と・・こんな美人なひとと・・・

 

「流香さん・・・」

「・・・・・」

 

無言で待ってる、待ってくれてる・・・

ああ、心臓がバクバクバクバク、体が震えてる、

顔が体中がカーッと熱くのぼせる・・・ああ、流香さん・・・

僕が落ち着くためにも、この厚い眼鏡を外してあげようかな・・・

今考えると変だったかな、眼鏡してもらったままキスって・・・

でも、眼鏡のままの流香さんとキスしたかったのは本当だし・・・

だけどやっぱりキスの邪魔かな・・外して・・駄目だ、さっき、

眼鏡のままのがいいって言っちゃってるんだし・・・

あああ、あんまり待たされると怒っちゃうかな、

それよりも、時間切れでキスさせてもらえなくなっちゃうかも・・・

あーもう、囲碁でもこんなに考えた事ないや、

よし、相手は大人の流香さんなんだ、思い切って・・・えーい!

 

ゆっくり顔を近づける・・・

 

ふうっ、駄目だ・・顔を離す・・・

あっ、ため息が流香さんの顔にかかっちゃった・・・でも何も言わず、じっと待ち続けてる・・・

ね、寝ちゃったのかな?そんな訳ない・・落ち着け!落ち着くんだ僕!これは流香さんが僕に、

キスを教えてくれてるんだから・・キスしないと、そのキスがどうかの採点もしてもらえない!

流香さんはすでに先手で黒い石を置いてくれてるんだ、僕も後手で白い石を置かないと・・・

簡単な手、というかまだ僕の最初の一手なのに・・投了・・するのはもったいなすぎる、

これで帰ったら一生後悔しちゃう、それに、大事なファーストキスを出来なかったなんてなったら、

流香さんが言ってたみたいに僕の将来にも・・・キスしなきゃ、キス・・待ってくれている流香さんのためにもっ・・・!!

 

「流香さん・・キス、します・・」

 

息を止めて口を近づける・・近づける・・・

ぐっと顔を前に・・前に・・・目を閉じて前にいいい!!!

 

・・・・・・・・・・くっついたあああああ!!

 

やわらかい・・流香さんの唇が、ねちゃっ、と僕の唇とくっついてる!

ぴったりと合わせる・・息が苦しい!鼻に流香さんの眼鏡のレンズがあたって冷たい・・・

も、もうこれ以上は・・!ぐいっ、と顔を引く、流香さんの顔を見る・・・まだ目を閉じたままだ。

 

「はあっ、はあっ、はあっ・・・」

 

胸に手を当てて大きく早い息を繰り返す、

どきどきがおさまらない、頭がくらっときた、酸欠かも・・・

僕、き、ききききき、キスしちゃった・・・やわらかい感触・・・

唇と唇って、ちょっと吸い付くんだ・・下唇に指をつける・・あ、口紅が・・・!

 

「・・・・・」

 

ま、まだ無言の流香さん・・キスしたのがわからなかったのかな?

待ち続けているみたい・・もう一回、なんて、無理・・どきどきどき・・・

 

「流香さん・・あの、キス、し、しました・・」

 

目が開いた!

 

「・・・どうだった?」

「え?」

「ファーストキスの味は」

「味って・・・」

 

僕は唇をなめる、

ちょっと甘くて濃い口紅の味が・・・

 

「かわいらしいキスでよかったわよ」

「そ、そうですか・・」

「でも、もうちょっとして欲しかったなあ・・私の事、そんなに好きじゃないの?」

「えっ?」

「そうよね、私、教えてあげるだけだから・・私の事、本当に好きって訳じゃないものね」

「そんな事ないです!僕、流香さん、好きです、だから、だから・・・」

「じゃあ、もっとキス、して欲しかったなぁ・・」

「う・・ごめんなさい・・・」

 

両膝に手をあててうつむく僕、

ああ、キス、失敗しちゃったのかな・・・

 

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