「お友達と遊んだりは?」

「みんな、塾で忙しくって、僕も・・」

「じゃあ家でテレビゲームとか?」

「ううん、親が許してくれなくって、そういう遊び」

「じゃあ、何して遊んでるの?」

「囲碁」

「あ・・なるほどね」

「うん、家でも学校でも勉強ばっかりだから、おじいちゃんに連れてってもらう囲碁クラブだけが、遊べる所なんだ」

「・・ふうん、なんだか可哀相ね」

「でも勉強よりは楽しいから」

「そう・・そうよねえ・・うーん、私、君にこれか何でも言う事をきく約束として、

 何でも好きなおもちゃ買ってあげようと思ってたんだけど」

「そんな!お父さんやお母さんに怒られちゃう!持って帰れないよ・・」

「うーん・・困ったわ、じゃあ、食事でもどう?」

「さっき打つ前、おじいちゃんとイワシどんぶりいっぱい食べた・・」

「そう・・どうしましょうね・・・遊園地って訳にもいかないし・・時間は大丈夫?」

「うん、今日はおじいちゃんと囲碁クラブが閉まるまでいるつもりだったから」

「じゃあ全然平気ね、どうしようかなぁ・・・囲碁の道具もきっと怒られちゃう?」

「おじいちゃんがいっぱい買ってくれてるから、もういい・・」

「そう・・・」

 

考え込む流香さん、

思い切って聞いてみようかな・・

 

「あの、池永さんは・・」

「流香でいいわよ」

「あ、はい、流香さんは、もう、結婚してるんですか?」

「な、何聞くのよこの子は・・まだよまだ、恋人もナシ、

 こういう仕事してると言い寄ってくるのもおじさんばっかりだしね、お見合いは何度かしたけどどうも・・

 って私は小学生相手に何話してるんでしょ?とにかく、いい出会いがなくて、ね」

「そうなんですか!」

「・・ちょっと声、はずんでない?そんなにおかしい?」

「う、ううん、そんなんじゃ・・なくて・・」

「ま、気長に待つ事にしたわ・・・それにしてもどうしようかしら、

 おもちゃも駄目、食事も駄目・・・映画?何か見たい映画とかある?」

「映画・・何やってるかかわんない」

「映画・・子供向け映画・・何かやってたかしら」

 

言わなきゃ、僕のお願い・・・

恥ずかしいけど、でも、何でも言う事きいてくれるって約束のはずだから・・・!!

 

「流香さんっ!!」

「な、なに?どうしたの?何かあったの?」

「うっ、ううん、る、流香さん・・・ぼ、ぼく、お願いが、あるの・・だけど・・・」

 

胸がどきどきしてる、

言わないと、とっても恥ずかしいけど、言っちゃわないと!

 

「なあに?どんなお願い?」

「その・・流香さん、約束したよね、1回勝って、もう1度する時、また僕が勝ったら何でも言う事きいてくれるって」

「ええ、熱くなってたけど憶えているわ」

「ほんっとうに、何でも、言う事きいてくれる?・・くれますか?」

「まあ、私にできる事で、無理がなければ」

「ほんっとうにほんっとうにほんっとう?」

「うん・・じゃあ言ってみて、聞いてから考えるから」

「そんな!何でもきいてくれるって言ったのに・・」

「どうしたの?顔を真っ赤にして興奮して・・車に酔っちゃったの?あ、トイレ?」

「ち、ちがう・・その、お、お願いが・・そ、その・・・」

 

ああっ、心臓が爆発しそうだよお!

言ったら怒られちゃうのかなぁ・・・

でも、でも、流香さんなら、僕、流香さんにならぁ!!

 

「じゃ、じゃあ、言う・・い、言います・・・」

「イタル君のお願いは、何?」

 

やさしい口調だ、僕はありったけの勇気をふりしぼる!

 

「ぼぼぼ・・ぼ、ぼくに、その、教えて欲しいんですぅ・・」

「教えるって、囲碁?」

「は、はい・・い、いえ、そうじゃなくって、その・・・え、えっちなことを・・教えてください」

 

キュルキュルキュルキュルキュル!!!

 

「うわー!!」

 

ゴンッ!!!

 

「い、痛ぁい・・頭ぶつけた・・」

「ちょっと、何言い出すのよ、今、事故起こす所だったじゃないの!」

「ごっ、ごめんなさいっ!」

「・・・まったく、今時の子供は・・まだ小学生でしょ?」

「で、でも・・・」

「・・・・・もう一度言ってみて、今度は心の準備するから」

 

う・・怒ってる・・のかな?でも、今更別の事言えないし・・・

言い方を変えて、恋人になってください、とか?

駄目だ、そんなの無理に決まってる、だから、せめて望みがある、最初に言ったままの方が・・・

 

「ねえ、やっぱり私の聞き間違い?そうよね?」

「い、いえ・・流香さん・・流香さんに、え、えっちなことを・・して、欲しい・・教えて欲しいんです・・・」

「・・・ちょっと待ってね、深呼吸するから・・・」

 

すー、はー、すー、はー、と息を落ち着けながら車を走らせている・・・

いつのまにか駅近くまで来ている。

 

「ごめん、もう一度ハッキリ言って」

「は、恥ずかしいですっ・・」

「もう一度だけ、ね?もう一度だけしか聞かないから」

 

・・・ああ、やっぱり駄目なんだ、

もう一度しか聞かないって事は、囲碁に置き換えれば、

もう外堀を埋め終える最後の一手なんだろうな・・・

逆に考えれば、もう1度だけ言い直すチャンスを与えられているのかもしれない、

ここで例えば「メル友になってください」とか「これからも囲碁クラブに来てください」って言えば、

何度でも会えるチャンスはある、でも、もう一度言ってもし怒られて、車から降ろされてカンカンになって、

囲碁クラブに来てくれなくなったら・・おじいちゃんたちにも迷惑かかるし、

厳しいお父さんお母さんに僕が言った事も全部ばれて、囲碁をやらせてもらえなくなっちゃうかも・・

そんなの嫌だ、そうなったらもう、勉強しかする事がなくなっちゃう・・い、いやだよう・・な、泣いちゃいそう・・・

 

「イタルくん?震えてるけど大丈夫?」

「ごっ、ごめんなさいっ・・・」

「謝らなくてもいいのよ、ねえ、どうしてえっちしたいの?」

「そ、それは・・」

「彼女とかいるの?」

「ううんっ、いない、いません!だから・・」

「好奇心とか?駄目よ、そういう事は好きな者同士でしなきゃ」

「その、流香さんだから、し、して欲しいんですっ!」

「・・・・・小学6年生よね?」

「はい、小学6年生ですぅ」

 

顔が熱い・・ずっと足元を見てる僕・・・

でも思い切って顔を上げる、ミラーに映る流香さんの顔・・も、赤い!?

 

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