まわりで大人が騒いでいる、この女の人、本当に有名な囲碁の女流プロだったんだろうか?
でも僕は勝った、確かに今まで打った相手で一番うまかったかもしれないけど・・・
学校のきつい先生みたいな人だ、あれ?名前なんていったっけ・・・
怒りながら碁石を器に戻す流香さん、でも、よく見ると美人かもしれない、
きつい感じの眼鏡かけてるからちょっと近寄りがたいけど、背が高く肌が白くて、
太い眉毛と細い目がなんだか僕の好きな感じで、首のアクセサリーとか
濃い口紅とかがちょっとおばさんくさいけど、でも、こんな人に甘えてみたい気がする・・・
「きゃっ!ちょっ、写真撮らないでよ!小学生に散々負けたの記事にする気?」
きつい人なんだな・・そうだ!今日、最初に流香さんと打って勝った時に約束したんだ、
もう一度打つかわりに、僕がまた勝ったら、何でも言う事を聞いてくれるって・・・結局3連勝しちゃったんだよな。
あ、怒って帰っちゃう、おじさんやおじいさんたちが引き止めてる、
でも、帰った方がいいと思う、いづらいだろうし、いてもまともに・・それより・・
「ああ、どうしろっていうの?ここで土下座でもすればいいの?」
あ、最後に「帰ります」なんて言って冷静になろうと思いながらも頭に血が登ってる!
だから負けるのに・・って、出てっちゃった、どうしよう、思い切ってお願いしちゃおうかな、
僕のお願い・・・囲碁クラブの偉い人がぺこぺこ謝ってる、僕も謝った方がいいかもしれない、
ここに出入りできなくなったら困っちゃう・・・僕は流香さんを追いかけた。
外ではすでに駐車場で黒くて高価そうな車に流香さんが乗ろうとしてる、
おじさんたちと話をしながら・・急がなくっちゃ!僕は流香さんが車に入りドアを閉めようとした所へ割って入る!
「あのっ、ごめんなさいっ!生意気なこと言って、僕・・ごめんなさいっ!」
ちゃんと頭を下げないと・・大人があんなに頭を下げてたんだから、僕だって・・・
「もう気にしてないから、でも・・そうね、ねえ君、時間あるならちょっと車に乗っていかない?」
「いいから・・いいでしょ会長さん?ちょっとこのボクを借りても」
車内も豪華だ、広くって、女性の車だからといって変に飾ってない、
ぬいぐるみなんてないのは流香さんが大人すぎるから当たり前か、
代わりに囲碁の本や、あ、ちゃんと碁盤と碁石もある、持ち歩いてるんだ、やっぱりプロなんだなあ・・・
「いえ、おば・・い、池永さん、僕も失礼な事を言ってしまって」
「そう、じゃあ我流であそこまで強くなったの?あの置き方はそうそう勉強してできるもんじゃないわ」
「そう、誰か有名な名人から習ったか、そういう本でも読んだのかなあって」
「・・・わかんないです、でも、ずっと小さいときから囲碁で遊んでたから」
そう思うと3連勝した直後にお願いしようと思った事がさらに僕の胸に膨らむ、