羊羹と白い恋人を食べ終え、

歯を磨いてベッドに入った。

明日も一日頑張らないと・・・でも・・・

 

僕「眠れない・・・」

 

甘いものでお腹が膨らんだから、

ぐっすり眠れると思ったんだけど・・・

温泉から出て、しばらく起きてたから目が冴えちゃったのかもしれない。

 

僕「テレビでも見よう」

 

プチッ、とつけると丁度0時だ。

NHKのBSでニュースをやっている。

 

アナウンサー「先日、北海道旭川で起きた強盗殺人事件の犯人グループは、

用意した車で検問をすり抜け、警察は依然、行方を追っております。

重体だった警備員の方は午後9時過ぎ死亡、これで今回の犠牲者は5人に・・・」

 

酷いニュースだ、旭川で起きてまだ捕まっていない・・・

どこに逃げてるんだろう?まさかここまで来ないよな?

事件の発生から今日この時間までを考えると・・・ふむふむ・・・

ここまではぎりぎり来れないかな、いや、来るはずないよな、遠すぎるし、

こっち方面に来ても、通り抜けるには回り道すぎる場所だし、何より真っ直ぐこのペンションへ向かってこないと無理だろう。

 

僕「もう一度、露天風呂に入ってから寝よう」

 

 

 

 

 

脱衣所の電気が消されている、

当たり前か、いくら24時間入れるからって、

つけとかなきゃいけない理由はないよな、入るときにつければいい。

 

僕「電灯は・・・あった、ここだ」

 

脱衣所と露天風呂のスイッチが別々にある。

まずは脱衣所をつけて・・・明るくなった、脱ごう。

あと露天風呂も・・・いや待てよ、星空だけの露天風呂も悪くないよな?

 

僕「自然の照明を、体感しよう」

 

流れ星とか見られるかもしれないし、

暗い露天風呂もワクワクする、髪を洗う訳じゃないし、このままでいこう。

 

僕「んしょ、んしょ・・・よし、完了」

 

誰もいないんだし、脱衣所の明かりも消して・・・

 

ガラガラガラ・・・

 

僕「・・・・・うわぁ、すごい」

 

雪雲が切れた間に輝く星々、

そこに流れる星々はまるで空中の滝・・・

露天風呂の照明が消えている分、それはまさに天然のシャンデリアだ。

 

僕「こういう景色こそ、絵にしたい・・・」

 

そう、星空や流れ星は写真や映像に撮っても、

その迫力や本当の色なんかは表現しきれないものだ。

だからこそ、実際にこの目に焼き付けなければ・・・そして、

それを絵にする事こそが、芸術なんだと思う。それは写真や映像ではできない、

人間の感性を筆に載せる事ができるから・・・でも今は、こうしてぼーっと眺めていたい。

 

僕「・・・・・・・・・・さむっ!」

 

そうだ、素っ裸だった。

温泉に浸かってゆっくり見上げよう。

大の字になって、星空を受け止めるかのように・・・

 

僕「湯加減は・・・良さそうだな」

 

・・・・・・ちゃぷっ、と足をお湯につける。

上空は明るくても温泉の水面は暗いから、ちょっと不気味だ。

それでも反射する星空を掻き分けるように入っていくと・・・・・

 

霧子「あら、まあこんな時間に」

僕「え?き、霧子さん!?」

 

うそ!?

いつのまにか奥に霧子さんが浸かってる!

びっくりした、いつ現れたんだ!?夢や幻じゃ・・・ない・・よ・・な

 

僕「す、すみません!」

霧子「いえー、よろしいですわ、今は混浴の時間ですし」

僕「は、はい・・・」

 

・・・いつ現れた、じゃなくって、

きっと最初っからいたんだろう、気配がまったくなかった・・・

脱衣所も露天風呂も明かり消えてたから、誰もいないって先入観があったせいで気付かなかったんだろう。

 

霧子「お酒でもお持ちしましょうかー」

僕「お、おかまいなく・・・でも、き、霧子さん・・・」

霧子「はい?何でしょうかー?」

 

暗い中、よーーーく見ると、湯船の中でも眼鏡かけてる。

 

僕「綺麗な、星空ですね」

霧子「そうですねー、毎日観ても、何年観ても飽きませんわ」

僕「流れ星がちょっと多くないですか?」

霧子「今夜は確か流星群の日でしたかとー」

僕「そうですか・・・あ、だから霧子さんもこうやって露天風呂へ見に来たんですね」

 

・・・・・星空に見とれちゃう・・・

でも、でもいま、霧子さんと同じお風呂に入ってる・・・

って霧子さんの方をみても暗いからあんまりよくわからないけど、

よーく見ると、大きすぎるおっぱいの上のほうがぷかぷか浮いてるのが、

なんとなくわかる・・・ってそんなとこにも見とれちゃ駄目だ!ちょっと離れよう・・・

 

僕「はじっこで、ちょっと雪でも入れようかな」

 

お湯を薄めて、っと・・・

ついでにのぼせ気味の僕の体も体温を下げよう。

ちょっと喉が渇いてきたかな、お酒はいいからジュースでも・・・

 

僕「あの・・・・・霧子さん?」

 

・・・・・・・・・・

 

僕「霧子さん?霧子さん??」

 

返事がない・・・

出て行った気配はないけど・・・

まさか、のぼせて気を失ってたりしてるんじゃ?

 

僕「どこですか!?」

 

バシャバシャと霧子さんのいた方へ突っ込む!

・・・・・いない、いた気配すらなくなってる、おかしい。

まさかお風呂の底に沈んでるんじゃ?くまなく探る・・・・やっぱりいない。

 

僕「おかしいなあ・・・」

 

脱衣所に慌てて戻り、

露天風呂の明かりをつける。

 

僕「・・・・・やっぱりいない」

霧子「まあ、慌ててらっしゃって、どうしたんですか?」

僕「うわっ!!??」

 

いた、後ろに!

脱衣所にいたなんて!

し、しかも、体を拭いてる最中だったのか、

バスタオルで胸と下だけ隠してる格好だ!!

見ちゃいけない・・・慌てて露天風呂の方へ目を移す。

 

僕「すみません、急にいなくなったので心配して」

霧子「まあ、それはとんだご迷惑を・・・ごめんなさい」

僕「で、でも、脱衣所戻ったなら真っ暗にしたままでなくても・・・」

霧子「夜空を見上げるのに邪魔してはいけないと思いまして」

僕「そ、そそ、そそそうですか・・・あ、お水をいただきます・・・」

 

明かりをつけ、脱衣所の水を飲む。

霧子さんは・・・服を着てるみたいだ。

眼鏡かけてるのに、脱衣所の真っ暗な中で着替えるつもりだったのかな?

 

僕「んぐ・・・んぐ・・・ぷはぁ、いただきました・・・あれ?」

 

今度は脱衣所からもいない、

着替えてたとこは・・・空の籠が傾いてるだけで、

まるで最初から誰もいなかったみたいな気配だ、おかしい。

 

僕「出て行った音、聞こえなかったよな?」

 

・・・・・僕は幽霊旅館にでも泊まってるのだろうか?

だったら落ちは美人女将の幽霊に憑り殺されるってとこだけど・・・

あ、あんな美人でグラマラスな幽霊だったら、いいかも・・・でも幽霊は薬なんて自分に注射しないよな。

 

僕「こ、怖くなってきた・・・・・もう出よう」

 

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