僕「でもまあ、みんなで出しあって・・あ、アトリエは僕の持ち物じゃないよ、友達の画商名義」
霧子「じゃあ、画家さんみなさんで共有してらっしゃるんですね」
僕「違う違う、それはジブリ美術館!そこは予約でないと入れないよ」
霧子「そうですか・・・平日なのにお昼から並んで、やっぱり東京は凄いですわ」
というのは置いといて、こうして手を繋いで歩いてるだけで、ほんっと幸せだ。
相手が霧子さんだから・・・もしこれが首輪つけられててリードで引きずられても、幸せに感じたかも。
僕「そこまでしなくても・・・まあ、霧子さんがそうしたいなら」
頼まれ物でない限り、なかなか売れないからなぁ、展示スペースも限られてるから・・・
僕「地下もあって倉庫になってるんだ、1階が絵の展示、2階が絵を描く貸し部屋」
画商「聞いてくれよ、すげえんだよ、昼前に綺麗な女の人が3人ばかり来てよぉ・・・あ」
僕「妻の霧子、電話で話した、恋人っていうかもう結婚しちゃった」
画商「どうもはじめまして、俺、高校のときからの同級生で・・・」
画商「おお、3人組の綺麗な背の高いお姉さん達が来てよ、絵を見回してて・・・」
画商「飾ってたのは宮古島の絵だけだったけど、それ見たその人たちが気に入ったらしくって、他の絵も見たいって」
僕「他の絵も見せたんだ、確か預けてあるのって20枚ちょっと・・・」
画商「21枚だ、で、残りのうち風景画をさらに3枚、合計4枚も売れたんだぜ!すげえよ!」
僕「そんなに気に入ってくれたんだ・・・ちょっと待て、その3人組、眼鏡かけてなかったか?」
画商「かけてたけど?なんだ?知り合いか?それともお前にまず問い合わせが来たのか?」
僕「いや、そんな事は・・・う〜ん、そうなると、もしや・・・これはひょっとして・・・」
だとしたら複雑な気分・・・同族だからってそんな、おかしな形で買って欲しくは無いかも。
画商「ええ、聞かれれば答えますけど、インスピレーションで選んで欲しいから」
画商「しなかったな、特にサインを探す感じも無かったし、ほんと、純粋に気に入った風だったぞ」
僕「そっか、それならまあ、いいんだけど・・・気にしてもしょうがないか」
画商「で、現金で置いて行ったぜ、金庫に入れてあるから来てくれ」
画商「おいおい、すっげー美人じゃねえか!どうしたんだよ一体!」
僕「まあ、な、言っただろ?北海道で絵を描くって、そこのペンションの人なんだ」
画商「良い姉さん女房を見つけやがって!披露宴やるなら呼んでくれよ!」
ははは・・・姉さん女房か、100歳くらい年上のような気がするけど。
画商「それか?古いやつだよ、何十年前だかわかんないくらい・・・まだ整理ついてないやつだ、見ていいぜ」
僕「これ作者は?・・・感じからしてかなり手馴れた画家みたいだけど」
画商「・・・無いな、年号と題名だけある、1922年、我が愛しの一江像、だってよ」
まさか、霧子さんが昔吸い尽くした夫も画家で、この絵を残したんじゃないか!?
だとしたら、物凄い廻り合わせだ・・・寒気がしてきた、恐ろしい・・・まさしく運命的なものを感じる。
画商「ま、まあ、世の中には3人、そっくりな人がいるって言うしな」
僕「この絵・・・いや、いいや、買おうかと思ったが、やめた方がいいな」
画商「売れた絵から税金と仲介手数料とアトリエ維持費プール金を引いた155万円だ、って持ち運ぶの物騒か?」
僕「いやいいよ、このまま貰っておく、ありがと、そっか・・・売れたなら他の絵ももうちょっと置いておいた方がいいのかな」
画商「もちろん!空いた場所にまた飾らせてもらうよ、今度は岡山の小川を描いたやつにしようかと・・・」
その想いを胸に刻んで、今の時代の夫として、『霧子さん』を愛するんだ。
僕「ただいま、じゃあ裏のマンションにある僕の部屋から荷物をまとめるから」
霧子「物置でしたらホテル跡にいっぱい部屋が余ってます、私も倉庫として使っていますわ」
画商「なんだよゆっくりしてけよ、朝まで飲み明かす・・・のは無理か、もう新婚だもんな」
霧子「よろしければ是非、私達のペンションにいらしてくださいませ」
僕「ああ!じゃあまた連絡するから!本当にありがとな、またな!」
僕「4枚も売れるなんて、めったに無い事だから、ほんとびっくりだよ」
霧子「・・・でもマージンで45万円も引かれてしまうのですわね」
そもそも4枚200万円で売った、なんて事すら僕は聞いてないぞ?
ひょっとして裏で手を回したのは霧子さん!?・・・いや、もうこの事を考えるのは無粋だ、やめておこう。