院長「はい、検査は以上です」

 

あっけなく終わった東京砂丘病院での診断・・・

カルテを書き上げボードに貼った、といってもフランス語だかドイツ語だかなので、

読めはしない・・・まさか今度は訳すと「じゅげむじゅげむごこうのすりきれ・・・」とかになるんじゃ!?

 

僕「その、採血とか、レントゲンみたいなのは・・・」

院長「人間の時にしていただきましたし、まだ完全なインキュバスに成りきってはいませんから」

僕「まだ、これから何かする必要があるんですか!?」

 

それにしても綺麗な先生、大柄だけど・・・

名札の羽生園綾麗って文字が金色になってる、

それよりも、はちきれんばかりの大きな胸が気に・・・なっちゃ駄目だ!

 

院長「自然になります、細胞が徐々に造り変わっていくと考えて下さい」

僕「それは、どのくらいで・・・?」

院長「インキュバスになって36時間後から、全身の感覚が敏感になります、

 通常の10倍から20倍、ピークの時間になると50倍程度感じる体に変化します、

 それが過ぎると徐々に、敏感な神経に脳や皮膚が慣れてきて戻ってきます、完全に治るのは、

 敏感になりはじめてからおよそ20時間後、インキュバスになってから56時間ですね、そこで、

 ようやく肉体的に100%完全なインキュバスとして生まれ変わります、もう後戻りはできません」

 

ええっと、今が午前10時半、

インキュバスにされたのが午前0時だったとして、

あと25時間半か、ペンションに帰ってからだなそうすると。

 

院長「全身が敏感な時期は安静にしていてくださいね、

 ちょっと足がつまずいただけでも痛みのショックで、

 本来の意味で心臓が止まってしまう恐れもありますから」

僕「それは・・・怖いですね」

院長「その期間についての説明は今、別室で鏡さんが受けられていますでしょう」

 

そっか、だから一緒には入ってこなかったんだ。

 

院長「20時間の間の食事も熱すぎず冷たすぎず、刺激の少ないものにして下さい」

僕「お風呂とかも・・・無理そうですね」

院長「そうですね、インキュバスがいかに痛みに強いといえど感覚が何十倍になっている状態なら・・・

 これが痛みではなく快感となると話は別ですが。そのあたりの詳しい話は鏡さんから聞かれると良いでしょう」

 

う・・・今、眼鏡の奥から上目使いで見られた視線が、ゾクッとするくらい怖かった。

 

院長「他に何か聞いておきたい事があれば今のうちにどうぞ」

 

う〜ん、そう言われてもなぁ・・・

カルテをじっと見る・・・ん?性別の所かな?

A、H、P、S、Mって並んでてMに○がついている。

 

僕「すみません、このアルファベットってどういう意味なんでしょうか?」

院長「これはインキュバスになられた経緯、種類の区別ですね、A型、H型、P型、S型、M型です」

僕「なるほど・・・てっきりインキュバスになったときの血液型か何かかと」

院長「血液は人間と同じです、輸血しても人間が感染してインキュバスになったりという事はありません」

僕「じゃあ、普通に献血とかしてもかまわないんですね?それは良かった」

 

だったらどういう区分なんだろう?

 

院長「A型はaccident、事件や事故でインキュバスになった方です」

僕「事件事故っていうと・・・あ!僕が巻き込まれたあの事件みたいに!」

院長「そうですね、そのまま応急処置としてインキュバスになっていればA型でした」

僕「なるほど・・・そういう事例も結構あるんですか」

院長「それとこれは少なくなりましたが、サキュバスが我慢しきれず襲ってインキュバスにした場合もこれにあてはまります」

 

そっか、それはそれで事件だし、された方にとっては事故だ。

 

院長「H型はHospitality、これは病気の延命行為としてインキュバスにした場合です」

僕「事故とはまた別ですか」

院長「はい、これは主に我が砂丘病院にいる末期患者が、延命を希望し同意を得てインキュバスになった方です」

僕「それで、末期の病気が良くなるんですか?」

院長「末期で確実に半年以内に亡くなるという方のみ、これにより余命がさらに半年以上、平均1年もつ事となります」

 

そっか、健康な人間の寿命をインキュバスにする事で半分に縮める事もあれば、

余命半年の命をインキュバスにして丈夫な体にし、倍に伸ばす事もできる・・・痛みとかはどうなるんだろう?

 

僕「苦しみも倍になったりはしないんですか?」

院長「苦痛を伴ってらっしゃる患者さんの場合、肉体がインキュバスに切り替わる20時間を薬で麻痺させれば、

 完全なインキュバスになってしまえば肉体の苦痛に対する抵抗力も、また治癒力もグンと上がりますから痛みは無くなります、

 もちろん完治させるものではありませんし消耗はしますが、亡くなる時は安らかに、眠るようにという方ばかりですね」

 

しかもサキュバスのナースさんたちと、うはうはなんだろうな・・・ある意味、最高の安楽死だ。

 

院長「P型はPure bloodすなわち純血、生まれながらにしてのインキュバスです」

僕「あ!VTRで見た、例外中の例外っていう・・・日本では確か・・・」

院長「3例程ですね、最新で明治6年生まれの方でした、それ以降はまだ・・・海外では2名、今もご健在ですが」

僕「もしインキュバスとして生まれた場合、寿命はどうなるんですか?」

院長「これは面白い偶然なのですが、淫魔としての長寿と、インキュバスとして吸われる短命が丁度、相殺して普通の人間と同じ寿命となります」

 

じゃあ80年くらいか、確かに面白いな。

 

院長「S型はSlave、直訳すれば奴隷ですが、早い話が犯罪者ですね」

僕「はっ、犯罪者をインキュバスにするんですか!?」

院長「昔の話ですが日本でも、刑の確定した死刑囚をインキュバスにし、死ぬまで精を搾り取っていた時期があります」

僕「じゃあ、今はもう、いないんですね?」

院長「日本ではそうですが、外国ではまだ数カ国・・・それともう1つ、インキュバスの重罪人もS型にされてしまいます」

 

インキュバスになった後、犯罪を起こした場合って事か。

 

院長「日本の法律はもちろん、私たち淫魔の淫魔法を破って重罪が確定したインキュバスは、強制的に淫魔の方法で処刑されるのです」

僕「処刑って、じゃあ死刑に!?」

院長「その方がまだマシかも知れません、体中の性感帯、前立腺や脊髄、脳に電気パルスを繋がれ、快感波を送られ続け、精を強制的に出さされ続けるのです」

 

うわ・・・それは・・・むごい。

 

院長「何度も見たことがありますが、もはや人やインキュバスではなく、あれは肉ですね、精を放出させるためだけの肉の塊・・・」

僕「じ、人権も何も無いですね」

院長「死刑と同じ罪ですから・・・流動食や点滴で無理矢理に生かされますから、嫌でも十年はもたされます」

僕「その間、反省するんでしょうね、反省したってもう取り戻しはつかないでしょうけど」

院長「いえ、開始30分もすればいかにインキュバスといえど快感に耐え切れず精神が崩壊するでしょう、ですから死刑と同じ、もしくはそれ以上なのです」

 

・・・淫魔法はちゃんと守らなきゃ、帰ったら法律書を熟読しよう。

 

院長「最後にM型ですが・・・」

僕「あ、これが僕ですよね?ええっと・・・マゾ!?」

院長「いいえ、これはごく普通にMaleです、FemaleとMaleのMaleです」

 

あう、じゃあノーマルってことか。

 

院長「まあ、健康でごく普通なのに自ら進んでインキュバスになるという事は、物好きのMかも知れませんわね」

僕「ははは・・・はは」

 

ここ笑う所・・・だよな?

 

院長「インキュバスとしての精液提供も体が完全体になってからですから、砂丘病院へはそれからで良いでしょう」

僕「はい、札幌砂丘病院ですよね・・・ええっと・・・鳥取砂丘病院は無いんですか!?」

院長「そのあたりですと広島砂丘病院、岡山砂丘病院、下関砂丘病院・・・米子市と隣・島根の松江市に提携病院がありますわね」

 

・・・こういうシャレは通じないのか、まあ病院だしな。

 

僕「わかりました、ありがとうございました」

 

超巨乳院長先生とナースさんたちに見送られ診察室を出ると、

すでに霧子さんが待ってくれていた、すぐさま横へ付き、腕を絡ませ手を握ってくる。

 

霧子「さあ、行きましょう」

僕「はい、もう説明は終わったんですね?」

霧子「ええ、ペンションに戻ってもまだする処置は残っていますから」

 

・・・べったりくっついてきてる、

そうだよなあ、新婚さんだもんなぁ、

インキュバスになるまでは、それでもまだ少し遠慮があったみたいだけど、

今はもう、ごく自然に愛し合ってる感じだ、僕も嬉しくて繋がれた手を握り返す、

はぁう・・・手のひらで犯されてる気分になるのは何故だろう?インキュバスの本能かなぁ。

 

僕「じゃあ、僕の絵を預けてもらってるアトリエと、荷物の置いてあるマンションへ・・・」

霧子「車で送っていただきましょうか?」

僕「いや、地下鉄で行きましょう」

霧子「・・・私も今回、あなたのおかげで運転免許を取ることができますわ」

僕「え?じゃあ今までは、取りたくても取れなかったんですか?」

 

病院を出て地下鉄の方向へ歩く、

やっぱり結構、距離がありそうだな、

来るときは車だったからなぁ、かといって今更タクシーは・・・

 

霧子「戸籍的にはそれなりにしっかりしたものですが、その、なんといいましょうか」

僕「認められてはいても偽りは偽りで、免許までは許可が貰えないとか?」

霧子「んー、まあそんな感じですわね、でもきちんと人間の男性の籍に入った訳ですから・・・」

僕「それで胸を張って、偽りではない籍になったから、運転免許も取得できると」

霧子「教習所まで通うのはペンションが閑散期になってからですから、もう少し先ですわね」

 

そっか、免許取れば駅への送り迎えや食材の仕入れなんかも、

霧子さんが自らできるようになるな、よし、自動車代を稼ぐために頑張ろう!

 

僕「駅に着いたらまず新宿まで行って、そこから中央線かな」

霧子「昼食は何にいたしましょうか」

僕「そうだな・・・ここは・・・軽くカレーでいっか」

 

今のうちに刺激のある料理を食べておこう。

 

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