夜の街・・・普段着の霧子さんは抜群に美しく見える、

それは彼女が夜の魔物だからなのか、僕が心を奪われているからなのか・・・

今夜、僕は人間としては生涯を終える、その事実に少しだけ足が重くなりはじめた。

 

僕「・・・あれ?砂丘病院に、戻ってますよね?」

霧子「予約したホテルは病院の裏手になります」

僕「へえ・・・見えてきた!あれかな?『ラブホテル・サバト』・・・えええええ!?」

 

ホテルはホテルでも、ラブホテルだったのか!!

 

霧子「はい、同族経営の・・・一番良い部屋を用意してくださっているそうです」

僕「大きな病院の裏にラブホテルって・・・まあ問題はないか」

霧子「立地が立地ですし、それに急な患者の家族は泊まれる場所に困るそうで、いざとなったらあちらへ」

僕「なるほど、そこまで考えて配置してるんですね、家族に未成年がいたらどうするかは置いといて」

霧子「病院とはあのホテルとも地下で繋がっていますから、不測の事態にはすぐに駆けつけていただけますわ」

 

・・・今から入っても、すぐにはしないよな?

注射や飲み薬がきいてくるのも4時間たってからって言われたから、

まだ時間はある・・・それまで、あともう少しだけ、人として、外の空気を吸っていたい。

 

僕「すみません、あそこの公園で座っていいですか?」

霧子「どうぞ・・・暖かい飲み物でも買ってきましょうか」

僕「ううん、いいよ、蟹いっぱい食べて、ドリンクでも入れるのきついから」

 

病院の庭にある公園、そのベンチへ腰を下ろす・・・

すっかり暗い中、電燈に照らされ無邪気に遊ぶ幼女たち、

確か夕方も遊んでたよな?あれからずっとか・・・親は何してるんだろ?

 

僕「・・・いよいよ、か・・・」

 

隣で心配そうに僕を見つめる霧子さん、

決して後悔なんかしないのに・・・もし騙されていたとしても。

これで騙されてたとしたら・・・何のためだろう?保険金?確かに保険はかけられたよな・・・

 

霧子「・・・・・」

僕「・・・・・・・・・」

 

疑おうと思えばいくらでも疑える、

サキュバスの翼や尻尾なんて、ハリウッドの最新特殊技術と言われれば納得してしまう。

実は怪しい宗教でした、なんて結末もおかしくは無い、こういう方法で信じ込ませ保険をかけさせ、

保険金目的で殺すとしたら・・・心臓を止めて蘇生する、とか言えば素直に殺されちゃうだろう、

あの薬も全て自然死や腹上死みたいな事故に見せかけるものだとしたら?組織的な美人局、証拠の残らない保険金殺人・・・

 

霧子「あの・・・」

僕「はい?」

霧子「あなたを産んでくださったご両親に、感謝させてください・・・ありがとうございます・・・・・」

 

胸で十字を切った・・・淫魔なのに。

食事のとき、食材に『命をありがとう』って祈るみたいだ。

そう考えれば僕ってやっぱり餌なんだな・・・詐欺師だとしたらまさに僕は獲物だ。

サキュバスの役所で翼を見せてもらったとはいえ、わざと地味な女性を選ぶと予測し、仕込んで用意したのかも知れない、

昔の超能力番組じゃないけど、あの中にいた全員が仕込みだったら、誰を選んだって周到に用意されてたら意味は無い。

 

霧子「私の・・・私の本当の気持ちは、全て終わってから・・・お伝えします」

僕「う、うん、ぬか喜びじゃ、申し訳ないからね」

霧子「まだ・・・まだ私も、信じられないでいますから・・・」

 

・・・少しでも疑問を伝えれば、霧子さんはあっさり『ではよしましょう』と全てを無しにするだろう、

あの同意書も破棄、婚姻届もシュレッダーにかけられ、かに大魔王の料金は霧子さんに請求が・・・それくらい僕が弁償するよ。

でも、1度も変に疑わずに、真っ直ぐに突き進んできたからこそ、ここまで来れたんだと思う、もし騙されて死んだなら・・・素直にあざけ笑われよう。

 

僕「あの子たち、人間として精一杯、生きていくんだろうな・・・」

 

こんな夜でも夢中で遊ぶ幼女たちを見て、

もう少し人間としての残り時間を有意義に使うべきかとも考える。

でも、有意義に使いたいからこそ、早くインキュバスになって、インキュバスとしての時間を増やしたい。

 

霧子「お迎えが来たようですわ」

僕「え?あ、ほんとだ」

 

幼女の所へ両親たちが・・・あれ?見たことある顔だぞ?

確か・・・つい最近、というか今日だ、今日見た顔と言えば・・・

 

僕「ああ!!」

 

そうだ!地下のプレイルーム!

あそこで無残に精を搾り取られていた男性と、

搾り取っていた女性・・・そうか、部屋のサキュバスのうち1人は奥さんだったのか!!

家族で仲良さそうに去っていく、旦那さんはみんな痩せてはいるけどしっかりした足取りで、

普通の幸せそうな一家って感じ・・・はは、じゃああの子供はみんなサキュバスだったのか、なーんだ。

 

僕「・・・・・夜空が・・・綺麗だ」

 

見上げた星々・・・都会の夜は北海道に比べ確かに澱んでいる、

でもなぜかここで見る星は1つ1つの輝きが僕の胸に何かを感じさせてくれる。

死に行く者への慰めというよりも、新しい魔物の誕生を祝ってくれているかのように・・・

 

僕「・・・・・行きましょう」

霧子「はい、あなた」

僕「・・・うぅ、体がちょっと冷えてきた」

 

早足でラブホテル・サバトへと向かった。

 

 

 

フロント「いらっしゃいませ」

 

ビシッとかなり畏まったスーツの女性、

普通のホテルでもここまでしっかりした感じのフロントは、かなり高級でないといないぞ?

ラブホテルなのにフロントがちゃんといるっていうだけで凄いのに・・ボタン押して部屋選ぶ所しか行った事ないよ。

 

霧子「予約が入っている鏡霧子と・・・」

フロント「はい、お伺いしております、ではこちらを・・・」

霧子「ありがとうございます」

 

キーと何か小冊子を受け取った、

何だろう?薄っぺらい聖書みたいな見た目だけど・・・

 

霧子「・・・最上階のようですわ」

僕「うん、景色が良さそう・・・それより、その紙は・・・?」

霧子「マニュアルですわね、手引きというか、インキュバスにするための説明をまとめてあるようです」

 

ちょっと覗いてみたいけど、駄目なのかな・・・

と考えながらエレベーターで最上階についた、豪華な廊下だ、

その一番奥、スイートルームへ・・・鍵を開けて中へ入ると・・・

 

僕「凄い!本当に一流ホテルみたいだ・・・あれ?ベッドは?」

霧子「ここはリビングで、ベッドがある部屋は奥に3つあるようですわ、まずはこちらから」

僕「来たことあるの?・・・あ、案内図が貼ってある、これか・・・」

 

1つ目の部屋・・・豪華なベッドの洋室、お城の中みたいだ。

天井にはシャンデリア、掛けてある絵も立派・・・一瞬にしてヨーロッパ旅行に来たみたい、

シーツも触り心地がスベスベ・・・部屋にあるスリッパだけでも何万円はしてしまいそう、電話もちゃんと引いてある。

 

僕「ちょっと落ち着かないな・・・」

霧子「そうですか?では隣にいたしましょう」

 

2つ目の部屋・・・うわ!ピンク!しかもぬいぐるみがいっぱい!

少女趣味な部屋、フリフリとかいっぱいあって、ベッドもハートマークだし、

照明も桜の花びらっぽい、枕もカーテンもじゅうたんもピンク、電話までピンク色だ。

 

僕「ちょっと趣味に合わないな・・・」

霧子「では残りの、3つ目の部屋にいたしましょう」

 

3つ目の部屋は、こうなると和室かな?・・・うおっ!これは!!

黒い!!しかも妖しい器具がいっぱい!三角木馬とか、壁には鞭やローソク、

ベッドなんて十字架の形で手枷足枷がついてる、下の箱には手錠がいっぱい・・・電話は懐かしの黒電話だ。

 

僕「これはこれで・・・いや、やっぱり・・・」

霧子「そうですか、では上へ行きましょう」

 

へ?と思うとリビングへ戻り、

バスルームの方へ・・・あ!その隣に階段があった!

なるほど、2階があったのか、つくづく贅沢な所なんだな・・・

 

霧子「こちらは寝室が1つとクローゼットルームがあるようですわね」

僕「うん、寝室はわかるけど衣裳部屋・・・何があるんだろ?とりあえず寝室を・・・」

 

2階の部屋は・・・うわぁ、凄い!天井が無い・・・わけ無いか、

上一面がガラスになってて星空が綺麗に見える、照明は壁にあって・・・

ベッドは・・・わ!ウォーターベッドだ!あとはシンプル、電話がちゃんと引いてあるくらいだ。

 

僕「ここが・・・いいかな」

霧子「はい、では汗を流しましょう、ご一緒に・・・」

僕「う、うん、リビングへ戻ろう、テレビも冷蔵庫もそっちだから」

 

階段を降りて大きなソファーで落ち着く・・・

寝室が4つもあって自由に選べるなんて凄すぎる、

さすがは東京の高級ラブホテル、1部屋1回ずつ回っても4回楽しめるよ。

 

霧子「・・・バスルームはすでにお湯が入っていますわ」

僕「凄いね・・・ふむ、薬がきくのはあと1時間半くらいかな・・・」

霧子「ほんっとうに・・・・・後悔・・・なさいませんか?」

 

念を押される・・・そんなに心配してくれてるんだ。

 

僕「もう、僕の命は霧子さんのものだから・・・助けてもらったとかじゃなく、愛してしまったから」

霧子「・・・でも、その愛を、私は、食べてしまうのですよ?ゆっくりと時間をかけて、溶かして飲み込んでしまうのです」

僕「なら、僕は喜んで、霧子さんの餌に、糧になるよ・・・霧子さんの中で、僕は、生き続けるから」

 

生き続ける・・・こんな時でも『イキ続ける』なんて想像してちょっと興奮しちゃう、

もうすでに心がインキュバスになってしまっているのか、単に僕が助平なだけなのか・・・

 

僕「テレビでもつけようかな・・・そんな雰囲気じゃないか」

霧子「・・・洗ってさしあげますわ、お体を、隅々まで・・・」

僕「うん、じゃあ一緒にお風呂へ入ろう」

 

 

 

バスルームはディープブルーの落ち着いた色で、

何となく『蒼の洞窟』を彷彿とさせる・・・アロマキャンドルにマッチで火をつける霧子さん、

ふとその横のボタンに目が止まったかと思えば押すと・・・ジャグジーだ!たちまち泡が吹き出した。

 

霧子「さあ、脱がしてさしあげますわ」

僕「う、うん・・・って僕はもうお客さんでもないし・・・」

霧子「お客様を脱がすのではなく、私の旦那様を脱がすのですわ」

 

旦那様・・・ちょっと人間らしい言葉に嬉しくなった、

夫婦になるんだから、例え餌になるとはいえ、その言葉に間違いは無い。

丁寧に服を脱がしてもらう、でもなんとなくプレゼントの包装紙を開けるみたいな表情というか、

パイ包み焼きのパイをめくる感じというか・・・それはきっと僕が食べられたがってるからそう感じるのだろう。

最後にするりとトランクスを下げられ、足を交互に上げて素っ裸になった。嬉しそうにまじまじと視姦してくる霧子さん。

 

僕「ぼ、僕も脱がしましょうか」

霧子「あら、ではお願いいたしましょう」

僕「はい・・・では後ろから失礼します・・・」

 

丁寧に丁寧に、服を1枚1枚脱がしはじめた。

 

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