病院のロビーへ行くと霧子さんと久喜さんが待っていた。

 

霧子「あなた、おかえりなさい」

僕「はい・・・その、これ、この薬・・・」

霧子「それは!!・・・では、私に・・・・・?」

僕「ごめんなさい、霧子さんに負担かけちゃうけど」

霧子「とんでもありませんわ!う、嬉しい・・・・」

 

ちょっと涙ぐんでる。

 

久喜「ではホテルの手配をしておきますね、あと夕食ですが、

 このあたりは日本砂吸舎グループのお店が多いのでそちらで食べていただくと助かります、

 その場合も、そうでない場合も必ず領収書をいただいてきてください、

 宛名は色々事情がありまして、できればTissus chers structures fines Japonで、

 Tcsf Japonと略しても構いません、綴りを忘れてしまったりした場合は、

 日本砂吸舎で切っていただいても何とかします、そのかわりくれぐれも『上様』だけは駄目ですから、

 領収書が切れなくなって自腹になってしまいますのでご注意ください、では私はここまでです」

 

何から何まで面倒してくれて、本当に感謝だ。

 

霧子「ありがとうございます」

僕「あ、ありがとうございました!」

久喜「今度、東京へいらっしゃる時は・・・・・吸わせてくださいませ」

 

そういい残し出て行った・・・

最後の、吸わせてくださいませ、の時の表情、

さすがに淫魔だ、ゾクッとした、ほんと、今度はお礼に吸われないと・・・

 

霧子「さあ、何を召し上がりましょう」

僕「領収書ってことは、全部、向こう持ち・・・?」

霧子「もちろんですわ、ですから何なりとお好きなものを」

 

とりあえず病院を出て夕暮れの繁華街、飲食店の並びへと向かった。

 

 

 

僕「う〜ん、美味しそうなお店だらけで目がチカチカする・・・」

霧子「今、一番食べたい物で良いと思います」

僕「といっても、どれも食べたい・・・でも片っ端からって訳にもいかないし・・・」

 

真っ先に目についたのが焼肉・・・でもなぁ、

高いとはいえ、食べようと思えばいつでも食べられるし、

それにこの後、ニンニク臭いまま霧子さんとするのはどうも・・・

 

僕「他の人とかは何を選んだんだろう?」

霧子「確かお寿司が人気だったと記憶してますわ」

僕「それもいいけど、なんかこう、こういう時でしか食べられないような・・・」

 

最後の晩餐だから、慎重に選ばなくちゃ。

 

霧子「あちらの和食料亭ではスッポン鍋が名物だそうです」

僕「いいかも・・・食べた事が無いし、精がつくんだっけ?」

霧子「はい、馬刺しとか、鯨肉の天麩羅も美味という話です」

 

・・・でも何か違うんだよなぁ・・・う〜む。

 

僕「あ、あっちに屋台が!ラーメンと、おでん・・・」

霧子「そういう選択肢もおかしくは無いですわ、最後はご飯とお味噌汁だけで良いという方もいますし」

僕「さすがにそれはもったいない・・・それだったら霧子さんの手料理の方がまだ・・・」

 

とは言っても霧子さんだってご馳走になれるんだよなこれは。

だとすれば屋台はまずい、上品なフレンチレストランとか・・・は肩が凝りそうだ、

日本食なら、うなぎ・・・焼き鳥もつけて日本酒で一杯、駄目だ!最後の晩餐には、相応しくない!

 

霧子「一応、選べない方のための指定されたお店がありますが」

僕「そこだ!連れて行ってください」

霧子「はい・・・あちらです、高級韓国料理のお店」

 

へー、かなり立派な・・・中の店員さん、みんな眼鏡に韓国衣装だ。

 

霧子「では入りましょう」

僕「うん・・・あ!待って!ここっていくらくらいするの?」

霧子「2人で6万円から8万円程度ですわ、さあ・・・」

僕「だ、だめえええええええ!入っちゃだめえええええええええええええ!!」

霧子「・・・お気になさらなくても、あなた・・・」

 

良かった、入る前に値段を聞いておいて!!

 

僕「あ!あそこ行こう!あれ、ほら!かに大魔王!コース8900円だって!」

霧子「・・・あなたがそうおっしゃるなら・・・同族経営店ですし」

僕「かにかにかに〜♪かにをお腹いっぱいたべちゃうぞ〜♪」

 

もう何を食べるかより、大事なのは、誰と食べるかだ!

 

・・・

・・・

・・・

・・・

・・・

 

僕「ふぅ〜〜〜、おなかいっぱい!かにみそも、デザートのメロンも美味しかった」

霧子「お土産に、かにみその缶詰をいただいていきましょうか」

僕「うん・・・服部先生や香奈々ちゃんの家にも渡したいね」

 

その分まで領収書で切っていいんだろうか?ま、いっか。

 

僕「最後の食事、美味しかった・・・人間としての」

霧子「やはり気持ち的に違うようですわね、インキュバスの皆さん、口々にそうおっしゃいます」

僕「うん、でもそれと同じくらい、インキュバスになって最初の食事も違うかも知れない」

 

そして、その食事こそ、霧子さんの手料理が食べたいな。

 

霧子「・・・思い残した事とか、しておきたい事は・・・」

僕「特には・・・東京のアトリエの整理は明日だし」

霧子「それと、何か疑問に感じる事があれば、何でもおっしゃってください、お答えします」

 

疑問・・・疑問ねえ、

ようこそフィルムで粗方は理解できたし・・・そうだ!

 

僕「本当に何でも聞いていいですか?」

霧子「ええ、私が知っている事でよろしければ」

僕「その、怒ったりしないで下さいね、じゃあ、聞きますけど・・・」

 

沈黙ののち、思い切って・・・・・小さな声で、問う。

 

僕「霧子さんって・・・・・年齢、いくつ?」

霧子「・・・・・・・・・・・・・・戸籍上は26歳という事になっておりますわ(にこにこ)」

僕「は、ははは・・・・・はい、わかりました」

 

こわい・・・こんなに怖い笑顔は、はじめてだ・・・

 

霧子「では会計を済ませて領収書をいただいいてきますわ」

僕「お願いします・・・んーー・・・ちょっとだけ横になりたいな」

霧子「あ、携帯が・・・もしもし?久喜さん!はい、はい、まあそれは・・・」

 

話しながら出ていった、

そして座敷の個室に残された僕・・・

う〜食べた食べた、でもこの後、霧子さんに食べられちゃうんだよなぁ・・・

 

僕「・・・・・すっごいドキドキしてる・・・」

 

この心臓を止められて、1度殺されちゃうんだ。

障害が残らないようにすぐ蘇生してもらえるとはいえ、

人間としての人生がここで一旦終わる・・・まだ現実味が無いや。

 

僕「魔物の近代化、人間社会への完全なる溶け込み、凄いなぁ」

 

このままうまく立ち振る舞えば、人間を征服できるんじゃないだろうか?

そう、人間の男が全員、僕みたいなインキュバスになりたい希望を持てば・・・

さすがに僕みたいな物好きはそんなにいないかな?やろうとすれば、また魔女狩りみたいな事が起こるんだろうな。

 

僕「・・・実際に政治家、女性議員にサキュバスがいてもおかしくない・・・」

 

昔でも、海外、ヨーロッパとかって王妃が実は国を操ってたってあるよな、

ジャンヌダルクがサキュバスだったんだ、マリーアントワネットとか、大統領夫人とか・・・

でも、これだけ大規模に組織的な活動してて、よくばれないよな?僕が漏らしたらどうなるんだろう?

 

僕「淫魔法とかで禁じられてるんだろうけど・・・」

霧子「お待たせいたしましたわ、行きましょう」

僕「はいっ!じゃあ、その・・・ホテル、はまだ早いのかな?」

霧子「久喜さんから、予約完了のお電話をいただきました、もう入れるそうです」

僕「そっか・・・行きます!ごちそうさまでした!!」

 

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