結局、夕食の時間になってもまだ僕は霧子さんの布団で脱力していた。

 

霧子「はい、あーーーん」

僕「あ〜〜〜〜〜ん・・・んぐんぐ」

霧子「美味しいですかー、明日、いらっしゃるお客様に出そうと思っているのですが」

僕「うん、凄く美味しいです!こんなにうまいカレーって初めてかも」

霧子「これを1日寝かせれば、もっとコクが出て美味しくなりますよー」

 

さらにふ〜ふ〜しながらもう1口・・・

口の中でとろける美味しさ、と同時に頬も緩む。

 

僕「すみません、今日は何だか病人みたいで・・・」

霧子「いえ、いいんですわよ?明日にはもう普通に動けるはずですわ」

僕「でも今日は結局、なーんにもできなかった・・・」

霧子「そんな事はありませんわ!今朝、かなりエネルギーを蓄えさせていただいて・・・」

僕「・・・慣れれば僕の、餌の回復も早くなるんでしょうか?毎日これだと申し訳ないですから・・・」

 

少し表情が曇る霧子さん、

それを振り払うように次のカレーをよそってくれる。

 

霧子「もう平気ですわ、1週間も薬のいらない生活を過ごせば、その後の薬の量も元に戻せますから」

僕「元にって事は、少ない時の量って事ですよね?」

霧子「はい、禁断症状も、もうかなり抑えられると思いますわ、おかげさまで」

 

・・・・・だからといって、これではい、おしまい、という事にはしたくない。

あれだけ頑張って霧子さんの気持ちに応えたんだ、でもそれをどうして、あっさり流そうとしてるのだろうか?

もちろん僕をインキュバスにしたくないからだろう、恐怖で僕を逃がそうとしたのも、きっとそれもあるだろう。だけど・・・・・

 

僕「霧子さんのためなら、僕はいつでも、どこでも、この身を捧げます!」

霧子「気持ちは伝わりましたわ、でも・・・もし後悔なさっても、人間には戻れなくなりますのよ?」

僕「残りの人生半分を失ってでも、僕は、霧子さんのために生きたいんです!・・・あ、生きるって、人間としてではなく・・・」

 

はあっ、とため息が聞こえてきた、

呆れたとか困ったとかいうよりも、

何となく、観念したときに出るような感じだ。

 

霧子「サキュバスを抱くという恐怖に、もうこりごりと思ってくださればと考えたのですが・・・」

僕「むしろ・・・もっともっと怖く、もっともっともっと恐怖を・・・霧子さんの出す恐怖に、その、愛を感じるんです」

霧子「・・・人間の感覚は敏感ですわね、今も昔も・・・ではお客様が全て帰る月曜日まで、待っていただけますでしょうか?」

 

待ってほしい、ということは・・・!

 

僕「じゃあ月曜になったら!?」

霧子「・・・それまで私も、そしてあなたも、よーく考えていただきたいのです、もう1度」

僕「わかりました、霧子さんが考えろというのならば、必死に考え抜きます!」

霧子「そしてあらためて、月曜の夜に確認しましょう、その後どうするかも含めて」

僕「はいっ!じゃあ月曜の夜までに、風景画もめいっぱい進めておきます!」

 

これはきっと前向きな冷却期間だ!

土日と忙しい中、僕も霧子さんも仕事に集中しなきゃいけないし、

夜に変な声が漏れたら大変だから・・・でも月曜になれば、きっと・・・きっと!

 

霧子「はい、あ〜〜〜ん」

僕「んぐ・・・んぐ・・・んぐ・・・」

霧子「まあ、ごはんつぶが・・いただきますね」

 

すでにもう新婚さんみたいなんだし、

安心していいよな?よし、頑張ろう!!

 

僕「食べ終わったら、霧子さんの絵の続きをしたいです!」

霧子「それもいいですが、癒すエネルギーを注入しないと・・・」

僕「あ!そうですね、朝食の後もやってもらったし」

霧子「それが終わったら部屋までお運びしましょう」

僕「その、できれば・・・サキュバスの姿で飛びながら運んで欲しいなー、なんて・・・」

 

・・・ちょっとまずい事を言っちゃったかな?

サキュバスという種族を物珍しく感じてる、と思われたらどうしよう?

表情は・・・普通のままだ、これで困った顔とかしてくれれば、わかりやすかったのに。

 

霧子「そうですわね、お風呂もそうして運んでさしあげますわ」

僕「ありがとう・・・その、嫌なら嫌ってはっきり言ってくださいね」

霧子「はい、あーん・・・お水もいかがですかー?どうぞー」

 

そうだな、月曜の夜に、いろんな事の確認もしよう、

もちろん今後の事、どういう表現が嫌いでどういう表現ならいいのか、

僕はどう過ごしていけばいいのか、霧子さんに喜んでもらうにはどうすればいいのか・・・。

 

僕「あ〜〜〜〜〜〜ん・・・・・おいしいっ!!」

 

 

 

そして土日、僕は若旦那のように働いた。

まだ体力が戻りきってないながらも雪かきや風呂掃除、

料理の手伝いや壊れていた古いテレビの補修まで・・・

霧子さんに喜んで欲しくて、霧子さんとこれからずっと一緒に過ごしたくて、

はりきっていたというより、はしゃいでいたのかも知れない、そして月曜朝、全ての家族が帰っていった。

 

僕「終わった〜・・・って言っても部屋の掃除がまだあるけど」

霧子「ありがとうございます、本当に助かりましたわ、後は私がやりますから」

僕「そうですか?そのあたりは霧子さんの専門でしょうから、わかりました、じゃあ絵を描いてきます」

霧子「はい、今夜は私もモデルを再開させていただきますわ」

僕「そうですね、よろしくお願いします・・・では行ってきます」

 

今日は雪も止んでいて、太陽も出ている。

反射で目を傷めないようにしなきゃな、準備、準備・・・

霧子さんも土日と、活き活きして働いてたよな、体調が凄く良い感じに。

やっぱり薬がいらないから、精を補充して気力も充実したっていう所だろう。

僕は土曜はまだちょっと力が入りきらなかったけど、日曜、そして今日は完全に復調した。

 

僕「1回吸われたくらいなら平気、って本当なんだな・・・」

 

よし、準備完了!とロビーへ行くとインターネット中の霧子さん、ちょっと何か考えてる表情だ。

 

霧子「あの、ご相談があるのですが」

僕「はい、なんでしょう?」

霧子「12月からの予約が多くありまして、それで・・・」

僕「あ!そうですね、じゃあ今の部屋は11月いっぱいまでで、12月からは・・・」

霧子「本当に、よろしいのでしょうか?私としては物凄く助かりますが」

 

そう語る霧子さんは、

喜びと戸惑いがまだ入り混じってるようだ。

 

僕「治療のために、絵のために、働きながら泊まるんですが構いません、でも・・・」

霧子「平日で部屋に空きができる日は使っていただいて構いませんので」

僕「それ以外は霧子さんの部屋ですよね?確か香奈々ちゃんもお手伝いで泊まりに来るんじゃ?」

霧子「ええ、それほど窮屈でもないと思います、こたつを横へどかせば3人分の布団を敷いても余裕はありますから」

僕「そうじゃなくって、いくらちっちゃくても、中2の女の子が、こんな男と一緒の部屋で寝るのはまずいんじゃないかと・・・」

 

考え込む霧子さん、普通に考えたらまずい事だよなこれって?

 

霧子「今の時代はそういう事を気になさるんでしたわね」

僕「ロビーで寝る・・・は来てるお客さんの邪魔になっちゃうかな」

霧子「香奈々ちゃんは平気ですよー、逆に喜ぶと思います」

僕「ええー!?う〜ん・・・絵を描きながら考えます、それでは・・・」

霧子「はいー、では12月分の予約に関しては3室目は保留にしておきますので」

 

・・・雪の上を歩きながら考える。

今夜、霧子さんがちゃんと僕をインキュバスにしてくれるなら、

一緒の部屋で寝るのはいいけど、その、新婚の部屋に他人が、中2少女が一緒に泊まるのは、

いくらなんでも・・・霧子さんだって香奈々ちゃんがいるのに吸う行為はできないだろうし。

邪魔になっちゃうのは可哀想だ、ならちゃんとお金払ってでも僕の部屋を確保しておいた方が・・・

 

僕「香奈々ちゃんに通いにしてもらうのは駄目かな」

 

ガソリン代がかかっちゃうか・・・

いざとなったら香奈々ちゃんがいる間は我慢、でいいけど、

北海道の冬休みって早いし長い気がする、新婚さんにそれは酷だよなぁ・・・

 

僕「新婚・・・餌になるって事は、結婚はしてもらえるんだろうか?」

 

戸籍とかどうなってるんだ?

結婚したとして精を吸うという事は子供はできるのか?

サキュバスへの謎は尽きない・・・そのへんの追求は、後で追々わかるだろう、

まずは今夜だ、ちゃんと話し合って・・・きっちりインキュバスに、餌にしてもらおう、

ここまで来たら後悔はない、でも霧子さん、まだ抵抗ありそうな気がする、霧子さんだってはしゃいでる感じなのに。

 

僕「ついた・・・・・さ、今日も頼むよタンチョウヅルのみんな」

 

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