僕「もう夜10時半か・・・」

 

お風呂の前後も霧子さんの様子を見に行っては、

体を拭いたりお水を飲ませたり・・・でも、ようやく落ち着いてきたのかな?

さっきはもう自分で注射を打てるからって、追い出されるような格好になった。

 

僕「これで良くなればいいけど・・・」

 

コンコン

 

僕「はいっ!?」

霧子「失礼します」

 

ガチャッ・・・

 

僕「霧子さん、その格好・・・!」

霧子「モデルをさせていただきに・・・」

 

黒いバスローブ姿でやってきた、

なんかホストが冬に外で羽織ってるやつみたいだ、

それをゆっくり脱ぐと中はすでに裸・・・!

 

僕「無理しないでください!」

霧子「いえ、もう大丈夫ですわ、すっかり良くなりましたの」

僕「本当・・・・・ですか」

 

その返事を見せ付けるかのように、

黒い翼と黒い尻尾を出し始めた・・・美しい。

 

霧子「1日でも間を空けるのは、忍びないので・・・」

僕「そ、そこまで言うなら・・・わかりました、急いで準備します」

霧子「では座って待たせていただきますね」

 

すっかり寝るつもりだったからなあ・・・

ガチャガチャと慌しく画材道具を用意する、

お水も・・・うっ、霧子さんの腕、注射の痕が多くて痛々しい。

 

霧子「・・・・・」

 

ぼーっと、ではなく、きりり、と待つ霧子さん、

薬の量が多くなったって事は注射の回数も多いのだろうか?

生まれ持っての病気なら仕方がない・・・まさかサキュバスになったのも、病気で!?

 

僕「・・・・・はい準備完了です、では・・・よろしくお願いします」

 

ポーズの微調整をする・・・

今まで描いてたのと合わせて・・・

・・・・・今になって気がついた、霧子さん、ここ数日で・・・痩せてる!

 

霧子「・・・・・・・・・・」

 

間違いない、絵と比べて、あきらかにスリムになっている、

しかも、無駄な肉が取れた、とかじゃなくって、あきらかに線が細くなってる!

これはまずいかも・・・霧子さんの気付かない所で、何か悪い病状が悪化してるのかも知れない。

 

僕「・・・・・」

 

とりあえず翼だけ取り掛かる、

霧子さんの希望が僕に絵を続けて欲しいなら、

それはとりあえず、今日は受け入れる、でも・・・15分が限度だな。

 

・・・・・5分経過

・・・・・10分経過

・・・・・15分経過、もうちょっとだけ・・・

・・・・・20分経過、あともう少し、もう少し・・・

・・・・・25分経過、さすがにもう今日はやめておこう。

 

僕「ありがとうございました」

霧子「は、はぁ・・・」

僕「すみません、その・・・・・眠くて」

 

まさか、痛々しくて、とは言えない。

 

霧子「申し訳ございません、私が来るのが遅かったばかりに・・・」

僕「わわ!頭を下げないでください!25分でも、かなり良い感じで、集中して描けましたから!」

霧子「明日は体調を万全にしますので、どうか・・・どうか明日も・・・」

 

どうしてこんなにも一生懸命なんだろう?

真面目なんだろうな、サキュバスなのに・・・

魔族とか魔物とかいう呼び方をしない方が良いのがよくわかる。

 

僕「・・・無理して欲しくないので正直に言います、気を悪くしたらごめんなさい」

霧子「はい、なんでしょうか?」

僕「実は・・・霧子さんの体調がここ数日悪いために、絵の霧子さんと、合わなくなってきているのです」

霧子「まあそれは・・・すみません、モデル失格ですわね」

僕「いえ、違うんです、僕の技量の問題もありますし、モデルさんにもよくある事ですから」

 

こうでも言わないと、休んでもらえないからな。

 

僕「今日は体形とあまり関係のない翼を中心に描かせていただきましたが、明日からは体を癒すのに集中してください」

霧子「では・・・お休みになってしまうのでしょうか?」

僕「そうですね、風景画の仕上げも夜にやりたいですし・・・」

 

・・・感付いたのか、少し悲しそうな表情だ。

 

霧子「わかりました・・・では早く元に戻るようにいたします」

僕「そうしてください、ペンションの仕事もその分、僕が頑張りますから」

霧子「・・・明後日からお客様が2家族いらっしゃるので、助かりますわ、ありがとうございます」

 

そっか、忙しくなるのか、

じゃあ明日は丸々、休んでもらった方がいいかも?

お客さんの準備なんかもさせてもらえる部分はどんどんやろう。

 

僕「ではそろそろ・・・」

霧子「はい・・・失礼いたします、おやすみなさいませ・・・」

僕「おやすみなさい・・・ありがとうございました・・・」

 

しゅるしゅると翼としっぽを引っ込めながら、

バスローブを羽織って出て行った・・・う〜〜〜ん・・・

明日は早く起きて、掃除とか、できれば朝食も作っちゃおうかな。

 

僕「・・・もし回復しないようなら、霧子さんには悪いけど、砂丘病院に相談しよう」

 

として今夜は、とりあえず・・・・・寝よう。

 

コンコン

 

僕「はい?忘れ物ですか?」

霧子「ええ、マッサージを・・・」

僕「あ!明日に・・・は駄目なんですよね?」

霧子「はい、癒すエネルギーの注入を怠ると、大変なことに・・・」

僕「わかりました、では、お願いします」

 

って、霧子さん、その格好のままは恥ずかしい・・・

本当なら僕が恥ずかしがる必要は無いんだけど、

霧子さんは無表情に近い感じでこっちへ・・・また恐怖感が襲ってきた。

 

僕「・・・・ひっ・・・」

霧子「どうなされ・・・ました・・か」

僕「いえ・・・その・・・あの・・・」

 

羽織ってるバスローブが両方の乳房を縦に半分ずつ隠してる、

下は何も履いてないまま・・・一歩間違えたら変態さんだけど、

それとは違う趣きの、そう、あのローブで包まれて、食べられてしまうような恐怖・・・!

 

霧子「さあ・・・・・」

 

逃げるように後ずさりすると、そこはベッド・・・

迫ってきた霧子さんが力を入れずに僕の両肩を倒すと、

見えない魔法で引っ張られたかのように激しく背中から落ちた。

 

僕「ぁ・・・はぃ・・・おてやわ・・らか・・に・・・」

 

まるで犯されようとしてるみたいだ、

それがなぜか僕を性的に燃え上がらせる、

しかもそれは霧子さんを犯したい、ではなく、犯されたいという欲望・・・!

 

霧子「今夜も震えてらっしゃいますね」

僕「それは、その、魔法の快感が、日に日に強くなってきてるから・・・」

霧子「癒しのエネルギーなんですから、怖くありませんよー、ほぉら・・・」

 

そう言いながらやってくる霧子さんが怖い!

サキュバスの姿が見たくて、見たらすっかり心を奪われて、

なのに人間の姿でこうやって迫られると極端に怖さが増す不思議・・・!

 

僕「い、癒してるエネルギーって、僕の体に、悪いことは、何もないんですよねっ!?」

霧子「そうですね、別に麻薬のようなものでは、ありませんから・・・」

僕「それを聞いて、あん、しん、し、ま、し・・・た・・でも・・・でも・・・・・!!」

 

あああ、霧子さんの顔が、どんどん僕の顔に降りてくる!

このままだと、キスされちゃう!?そんな・・・胸の鼓動がさらに高まる!

綺麗な唇・・・眼鏡をかけたままゆっくりと・・・ひいっ!た、たべられちゃう!唇を、奪われるうううぅぅ!!

 

コツンッ

 

僕「ひっ!?」

霧子「今日はこちらからも癒しますねー・・・」

 

重なったのは、唇ではなく、おでこだった。

同時にこめかみにも両手の指がつけられ、ぽわっ、と暖かくなる・・・

癒しのエネルギーが両サイドに加えおでこからも、じわじわと赤外線治療のように流れ込んでくる・・・

 

僕「あああああぁぁぁ・・・」

 

心地よさに全身の力が抜けていく・・・

極端な恐怖心も安らいで行き、一気に眠くなる・・・

復元修復された脳の細胞がじわじわと馴染まされてるのを、感じる・・・

 

霧子「では今夜はこのまま眠っていただきましょうか・・・」

僕「は・・・はいぃ・・・」

霧子「では私の目をよーく見て・・・ほーーーら・・・・・」

 

ああぁ・・・この瞳・・・

人間と一緒のようで・・・人間ではないのがわかる・・・

魔族、いや、夢魔の持つであろう、暗示をかけるための瞳に思えてくる・・・

 

僕「あああぁぁ・・・」

霧子「もう目がまどろんできましたよー・・・そのまま・・・閉じて・・・」

僕「はいいいいぃぃぃ・・・・・」

 

強い強い催眠術に落とされる快感・・・

目を閉じているのに見つめられ続けているのがわかる、

まぶたを通り抜けて、まだまだ瞳の中に吸い込まれ続けているようだ・・・

 

霧子「・・・もっと・・・これからも、もっともっと強くしますからね・・・」

僕「・・・・・・・・・」

霧子「そうすれば・・・治りも早くなりますから・・必ず・・・元の体にして・・・」

僕「・・・・・zzzzz・・・・・」

霧子「元の体に戻して・・・そして・・・その後は・・・・・」

 

あっという間に眠りの世界へと吸い込まれていった僕、

その間際に聞こえた霧子さんの声が、なぜか寂しそうに思えたのだった・・・・・。

 

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