僕「ん〜〜〜・・・気持ちのいい朝だ」

 

清々しい空気・・・

頭痛がまったく無い、意識もスッキリしている。

ほんと、呪いが解けたって感じだ、風邪の完治に似ている。

 

僕「時間は・・・8時過ぎか、朝食は何かな?」

 

夕べのもつ鍋は美味しかったなぁ、

食後のマッサージも凄く気持ちよかった、

またお願いしたい・・・ロビーを覗くと霧子さんが掃除をしている。

 

霧子「あら、おはようございます」

僕「おはようです・・・今日は洗剤でモップがけですか」

霧子「ええ、あらためて、念入りに綺麗にしようと思いまして・・・」

 

あ、汚れを落としているのは、夜中の・・・!

 

僕「すみません僕のせいで!絵の具がついちゃって」

霧子「え?・・・絵の具!?」

僕「はい!ごめんなさい、吹きかけたのがそのまま・・・やります、やります」

 

ルミノール反応とか嘘ついて霧吹きでつけた、

薄いピンクの絵の具・・・置いてあった雑巾で丁寧に・・・

はっ!霧子さんが、にこにこしながらもコメカミをピクピクさせて、怒ってる!

 

霧子「騙していらしたのです・・・ね?」

僕「ははは・・・まあ、お互い様ということで・・・ごめんなさい」

霧子「まったくもう・・・私がどれだけ焦ったか・・・」

僕「そ、そ、そういえば、あんなに血を流したのに、輸血とかはしなくて良かったんですか?」

霧子「ええ、強盗から吸い取ったエネルギーは血も含まれますから、それを注ぎましたので」

 

う・・・嫌だなあ、輸血じゃないにしても。

霧子さんの中で一旦、浄化された血なのかな?

それともエネルギーというものが僕の中であらためて血を作り出したのか・・・

 

ブッブー!!

 

僕「あれ?車のクラクションが・・・」

霧子「食料とお薬ですわ、今日は早いですわね」

僕「わ!いま気がついた、外は凄い雪だ!!」

 

カランカラン

 

香奈々「お姉ちゃんおっはよー、お兄ちゃんもおっはよー」

 

大きなダンボールを軽々と持ってやってきた香奈々ちゃん、

セーラー服の肩には、車からちょっと移動しただけなのに、もう雪が少し積もってる。

それを払ってあげる霧子さん、受け取って中を確認・・・香奈々ちゃんがそこからひょいと何かを抜いた。

 

香奈々「お兄ちゃんこれー、お土産ー」

僕「ありがとう、何かな・・・わ!クッキーだ!」

香奈々「私が焼いたのー、焼きすぎちゃってー」

 

と言いながら顔を少し紅くしてる、

照れくさいのかな?いや、雪で寒いだけかも・・・

 

霧子「香奈々ちゃん、私のベッドはどう?」

香奈々「うんー、おっきくって寝心地いいよー、私のコタツはー?」

霧子「暖かくて気に入ったわ、交換してくれてありがとうね」

 

交換・・・?

そうか!わかった!

管理人室にあったベッドと、香奈々ちゃんのコタツを取り替えたのか!!

 

香奈々「霧子ねーちゃん、ママに何か頼むことなーいー?」

霧子「んー、直接言うわ、ちょっとだけ込み入った話もあるし」

香奈々「わかったぁ」

 

カランコロンと玄関を開けて香奈々ちゃんのお母さんの車へ・・・

 

香奈々「ねーお兄ちゃーん」

僕「どうしたのかな?」

香奈々「もーすぐ冬休みだから、こっちでお手伝いするねー」

僕「そっか、偉いね中2なのに、アルバイトするんだ」

香奈々「うんー、霧子お姉ちゃんの部屋に泊まるんだー」

 

そっか、親戚の家に遊びに行くみたいなものなんだろうな、

確か中2じゃ労働させちゃいけないし・・・ベットを香奈々ちゃんに渡したのも、

霧子さんの部屋で、布団を並べて寝られるようにかな?もちろん僕への偽装もあったんだろうけど。

 

香奈々「そーそーお兄ちゃん、アンケートなんだけどいいかなぁ」

僕「いいよ、何でも聞いてごらん」

香奈々「じゃあ聞くけど、お兄ちゃんって・・・怒らないでねぇ」

僕「怒らないよ、香奈々ちゃんの質問だったら、喜んで答えてあげる」

香奈々「本当にー?絶対だよぉ、お兄ちゃんって・・・・・ど〜て〜?」

 

ぶほっ!!!!!

 

僕「こらぁ!」

香奈々「にゃはははは、おこっちゃった〜♪」

僕「中2がそんな事、聞くんじゃない!見た目なんて小学生のくせに!」

 

カランカラン・・・

 

霧子「まあ楽しそうですわね」

香奈々「じゃあガッコ行ってくるねぇ」

霧子「気をつけてね、雪が滑りやすいから」

香奈々「ママの運転、上手だからぁ〜」

僕「車で送ってもらうのか、良い身分だなぁ」

 

ま、この大雪なら仕方ないか、

こっちへ来るついでって事もあるんだろうし。

 

ブロロロロ・・・・・

 

助手席で手を振りながら去って行った香奈々ちゃん、

アンケートには答えてないけど・・・ま、いっか、からかっただけだろうし。

 

霧子「香奈々ちゃんと何を話してらしたんですか?」

僕「いやその、他愛もない・・・冬休みに手伝いに来るとかなんとか」

霧子「ええ、夏にも来ていただいて、色々と助かりましたわ」

 

こっちでは一緒に寝てるんだよな?

じゃあ香奈々ちゃんは霧子さんの正体を知ってるのだろうか?

寝ぼけて正体を見せたりは・・・そんな事はないか、まあ見られても夢と思わせられるんだし。

 

僕「あのコタツ、香奈々ちゃんのだったんですね、じゃあ畳は?」

霧子「ホテルの和室から失敬しました、埃を叩き落すのに時間はかかりましたが・・・」

僕「なるほど、あの潰れた、霧子さんが副支配人をやってたホテルですよね」

 

きっと香奈々ちゃんの車で運んだのだろう、

もしくはサキュバスの姿で、畳を抱きながら空を飛んで・・・

想像するとシュールだ、そう思うともう1度サキュバスの姿を見てみたくなったぞ。

 

霧子「ではお掃除は中断して、朝食にいたしましょうか」

僕「はい、その前に、その・・・」

霧子「何でしょうか?どうかなさいましたか?」

 

・・・・・やっぱり言えないや。

 

僕「絵の具をちゃんと落としてからにします!染み付くとまずいので」

霧子「ではお願いしますわ、終わったら、また私の部屋にいたしましょうか」

僕「そうですね、食べに行きます」

 

サキュバスの姿をまた見るって事は、

もう1度、下着姿になってもらうって事だもんな、

朝からそんなお願いはできない、じゃあもう1度見せてもらうには、どうしたらいいんだろう?

 

僕「・・・あーもうゴシゴシしないと取れないやこの絵の具!」

 

自業自得とはいえ、大変だ・・・・・。

 

 

 

朝食が終わり、歯を磨きながら考える。

 

僕「やっぱり、もう1度見てみたい・・・」

 

あの黒く大きな翼、

ひょっとして夢だったんじゃないかと思える、

もうそんな魔法だか呪文だか暗示だかは解けたはずなのに・・・

 

僕「ゾクゾクしたよな・・・」

 

特に翼が広がっていく瞬間・・・

そのゾクゾクが恐怖なのか綺麗さなのか神秘さなのか、

驚きなのか面白さなのか・・・面白いって事はないか、とにかく背筋が凍って鳥肌が立った。

 

僕「まさかお金払って見せてもらう訳には・・・見世物小屋じゃあるまいし」

 

いや待てよ?

変な考えじゃない形で、

お金を払って見せてもらう方法がある!

 

ガラガラガラ・・・ペッ

 

僕「ふう・・・すっきりした」

 

歯磨きを終えて部屋に戻ると、

丁度、霧子さんが待っていた、しかも僕のベッドの上で。

 

霧子「おじゃましていますわ」

僕「はい・・・食器はもう洗ったんですね」

霧子「この後はお掃除の続きですが、その前に・・・」

 

いらっしゃい、という感じでベッドで両腕を広げている。

 

霧子「朝の治療ですわ、癒しますので頭をこちらへ」

僕「はい・・・マッサージじゃなかったんですか?」

霧子「もうばれてしまいましたもの、やり易い方法でやらせていただきます」

 

ポワッ、と右手を光らせている、

あれがサキュバスのエネルギーって物なんだろう、

頭部に注入して、魔法みたいなので修復した脳を馴染ませる治療だ。

 

僕「わかりました・・・あの、膝枕とかじゃ駄目なんですか?」

霧子「できれば私の胸に顔をうずめていただいた方がベストの形になりますの」

僕「うつぶせとかよりそっちの方が、霧子さんがやり易いっていうのなら・・・」

 

緊張しつつも霧子さんの大きすぎる胸に顔を・・・

駄目だ、恥ずかしくて突っ込めない!乗せるだけが精一杯かな・・・

 

霧子「もっとこう首を安定させるように・・・」

 

ぐいっ

 

僕「!?」

 

ばふっ!!

 

僕「むぐう!」

霧子「あら、少し息苦しかったですか?ではずらして・・・」

僕「ん・・・ぷはぁ・・・わかり、ました・・・」

 

結局、首を霧子さんの谷間に乗せる感じだ。

メイド服ごしとはいえ、凄い感触だぁ、ぼよんぼよん・・・

でも人間じゃない・・あ・・・ぽわっ、と後頭部が暖かくなってきた・・・

 

霧子「脳は修復しましたが、まだまだ時間がかかりますから・・・」

僕「はひぃ・・・きもちいぃ・・・ですぅ・・・」

霧子「よろしければ来月、服部先生から医学的な説明を受けてはいかがでしょうか」

僕「今度は、ほんとの・・です・・よね・・・・・んん・・・」

霧子「眠くなったら眠ってかまいませんから・・・終わったらあらためてマッサージいたしましょうか・・・」

 

そうだ・・・あの話を切り出さなきゃ。

 

僕「実は・・・お願いがあるん・・です・・・」

霧子「何でしょうか?また質問でしょうか?」

僕「いえ・・・僕の、絵のモデルになって欲しいんです・・・」

霧子「まあ、でも今は描きかけの風景画があるのでは?」

僕「でも、今日みたいな大雪では描けないし、かといって丸一日、絵筆を握らない日は作りたくないので・・・」

 

2作同時なんて無茶な話だけど、こうすれば・・・

 

霧子「私なんかで、その、モデルになるのでしょうか?」

僕「霧子さんくらいの美人なら、凄く良い絵が描けます!」

霧子「・・・そうですね、2年間、このような辺境に住んでいただくとなると、退屈もするでしょうから・・・」

僕「もちろん霧子さんも退屈しないように、モデルの時間は体調とか気分に合わせますから」

霧子「ただ、私たち種族は写真を残すという行為は好みません、公的書類や身分証明は仕方ありませんが・・・でも絵なら・・・」

 

ちょっと乗り気みたいだ!でも問題はここからなんだよなぁ・・・

 

僕「・・・絵が売れたら半分払います、完成までのモデル料も、そんなに多くは出せませんが・・・」

霧子「いえかまいませんわ、天候が悪い日の、空いている時間のみという事でしたら」

僕「でも、その、モデル料は払わないといけないんです、だって、描かせて欲しいのは・・・ヌードですから」

霧子「裸・・・ですか?私の・・・それは・・・少し考えさせていただきたいですわね」

僕「それも、ただの裸じゃなく、できれば、言いにくいんですが、さ、さ・・・サキュバスの、姿で・・・」

 

あきらかに戸惑いの表情となった霧子さん。

 

霧子「それは、真面目におっしゃってるんですわよね?」

僕「当然です、凄く神秘的、幻想的で、絵にしてみたいと」

霧子「そして、それを、お売りになられるんですわよね?」

僕「あ・・・やっぱり駄目でしょうか?変な噂とか立っちゃうのかな・・・」

霧子「モデルになってさしあげる事については、喜んでお受けしたいのですが・・・どうしましょう」

 

やっぱり無理があったかな・・・

でも、絵にしてみたいっていうのは本心だ、

もう1度見てみたい好奇心だけじゃなく、それ以上の、

創作意欲としてサキュバスに挑戦してみたい、画家生命に懸けて!!

 

僕「・・・・・嫌ならはっきり言ってください、嫌々やっていると、モデルやっている時、表情に出ちゃいますから」

霧子「いえ、引っかかっているのはそこではありません・・・あまりに似すぎると写真と同じ事になってしまいますから・・・」

僕「じゃあ、このペンションに飾るっていうのはどうですか?・・・あっ、それだと霧子さんが買う事になっちゃうのか」

霧子「買う・・・売る・・・・・そうですわ!では私たちの、同族の方に買っていただきましょう、それなら大丈夫だと思います」

僕「セールスに行かなきゃいけない時は、僕もついて行きますから!いざとなったら僕が体で払います!・・変な意味じゃなく、働いて・・・」

 

やさしく、僕の後頭部をなでてくれる霧子さん。

 

霧子「ではモデルはお引き受けしますわ、今日でしたら昼食後で、よろしいですわね?」

僕「はっ・・・はい、お願いします!!!」

 

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