僕「霧子さんが、心配で・・・何か事件に巻き込まれたり、僕のせいで何かしてくれてるなら・・・」

霧子「世の中には、知らない方が良い事もあるのです、でないと命に関わりますよ」

僕「だからって!それに僕の体のことも、ちゃんと知りたいし!もし本当は死んでたりしてたら・・・」

霧子「死んではいません、事件のこともほぼ全て解決です、お客様、あなたが何も言いさえしなければ」

僕「何もって・・・口止めするなら、なぜどうして、何を言っちゃいけないのか、知っておきたいんです!」

 

やばい、危険信号が頭の中でピコピコ点滅してる!

非常サイレンが大音量でうなってる!逃げたい!怖い!

でも霧子さんが、ダンッ!と両手を僕の顔の、両脇の壁に付き立て、迫力ある顔で迫ってくる!

 

霧子「・・・・・私の目を見てください」

僕「は・・・・はぁ・・・」

霧子「逸らさないで!・・・それだけではないでしょう?」

僕「本当のことを、知りたい、だけです!命の恩人なら、お礼も言わなきゃ・・・」

霧子「誰にも何も言わない、夢のことは全て忘れる、これが私への何よりのお礼です」

 

うう・・・言葉で強引にねじ伏せられそうだ、

しかも、言う通りにしないと、とんでもない目にあいそうな予感、悪寒・・・!!

膝だけでなく、腕も、いや、全身が怖さで震えてきた、どうしよう・・・どうしよう!

 

僕「忘れ・・・られないんです」

霧子「何がですか?」

僕「霧子さんの・・・あの・・・天使の羽根が・・・」

霧子「・・・・・・・・は?」

僕「あの夜、強盗を、その、おか・・倒してたときの、綺麗な大きな翼が・・・」

 

そうだ、霧子さんが知りたい僕の本心って、この事だろう、

もちろんあの夜の真実を知り、霧子さんにきっちりお礼を言いたいのもあるけど、

本当は、霧子さんがなぜあの美しい、大きな大きな翼を持っていたのか、それを知りたかったから・・・!

 

霧子「・・・・・わかりました、お見せしましょう、ただし・・・」

僕「ただ・・・し?」

霧子「見た以上は私たちの、特殊な種族の世界を知る事になりますから、絶対に・・・」

僕「秘密にします!本当に、誰にも言いません!」

霧子「さらに、今後のことは私の言う通りにしてください、絶対にです、良いですね?」

 

・・・どういう内容か詳しく聞いておきたい所だけど、

細かい判断をできるような状況じゃないなこれは・・・よし、しょうがない。

 

僕「わかりました、言う通りにします、2年間住めば良いんですよね?治療のために」

霧子「そうです・・・では、私の本当の姿を、お見せいたしましょう」

僕「え?・・・き、霧子さん?え?わ、わ、わわわ!!」

 

メイドパジャマを脱ぎ、

眼鏡と黒の下着姿だけになった、

さらにブラの後ろ、ホックも外して・・・

 

霧子「ご覧くださいませ・・これが・・・私ですわ・・・」

 

少し前かがみになる霧子さん、

目を瞑り、精神を統一しているかのよう・・・

と、背中から何かが盛り上がり、みるみるうちに広がっていく!!

 

僕「うわ・・わ・・・わ・・・・・」

 

バサバサバサ・・・

☆真実の姿☆

それは紛れも無く、大きな大きな翼・・・

でも、僕が夢で・・・いや、あの夜に瀕死の状態で、

セピア色の景色で見た羽根とはあきらかに違う!違うというより、

想像をはるかに凌駕するものだ!天使の羽根だと思い込んでいたそれは、

漆黒の、カラスのように黒光りし、巨大なコウモリのような形をした翼だった!

 

霧子「私は・・・サキュバス・・・人を吸い生きる種族・・・」

僕「サキュバスって・・・聞いたことあるような・・・あ・・・悪魔!?」

霧子「そう呼ぶ人間もいますが・・・天使でも悪魔でもなく・・・あえて言うならば・・・魔族、魔物、でしょうか」

 

ひぃぃぃぃぃ・・・

流血と意識朦朧で色の区別がつかなかったから、

綺麗な天使の羽根だとばかり・・・でも、これはこれで、また別の角度で・・・・・美しい。

 

霧子「・・・・・驚かれましたか?」

 

顔を上げる霧子さん、

眼鏡がきらーんと光る・・・

と、とんでもない正体だった、開けてはいけないパンドラの箱・・・!

 

僕「びっくり・・しま・・し・・た」

霧子「では説明しましょう、あの夜、何があったのか」

僕「はい・・・お願いし・・・ます」

 

少しだけずれた眼鏡を直す霧子さん。

 

霧子「強盗に襲われた時、私はお客様を守るために、どうにか退治しようと考えました」

僕「霧子さん1人で、ですか?どうやって・・・」

霧子「私たち種族は、男性の精、精気を吸い取って自らのエネルギーにする事ができます」

 

・・・そうだ思い出した、サキュバスって、ドラキュラの女版、血じゃなく精を吸うやつだ。

 

霧子「ですから私の部屋で誘惑し、順番に精を吸って衰弱させ・・・」

僕「じゃあ襲われたのは、計画というか計算通りだったんですね」

霧子「その時は吸い尽くして殺そうとまでは思いませんでした」

僕「そんな事、わかる訳ないから僕が霧子さんを助けようと行っちゃって」

霧子「銃声が聞こえた時にはまずいと思いました、撃たれた場所によっては取り返しがつきませんから」

 

じゃあ、あのままロビーで待ってれば良かったのか?

そんな事できるはずがない!気を失っていたならまだしも、

男として、霧子さんを命がけで助ける以外の選択肢なんて、無い。

 

僕「じゃあ、刺されてから見た霧子さんの姿は、精を吸っている所だったんですね」

霧子「はい、お客様が死んでしまうかもと思い、一刻の猶予もありませんでしたから」

僕「それで、吸いすぎて・・・殺しちゃったん・・・ですか」

霧子「重傷や重体の回復には膨大なエネルギーが必要ですから、急いで吸い尽くすしかありませんでした」

僕「その後、そのエネルギーを使って、僕を治療してくださったんですか」

 

ぽわっ、と手のひらを光らせて見せる霧子さん。

 

霧子「サキュバスの、精を補充して出す事ができるエネルギー、わかりやすく言えば魔法ですね」

僕「魔法・・・回復魔法・・・ホイミとかべホイミとかザオリクとかケアルとか・・・」

霧子「それで撃たれた頭部と刺された胸を回復して・・・まだ死んでいなかったので何とかなりましたが・・・」

僕「もう外見は何ともないけど、中はまだ痛むって事は、完治はしてないんですか?」

霧子「はい、再生させた脳は急に細胞を増やして造った物ですから、馴染むまでかなりの時間がかかります」

 

そうか、それが2年かかるのか。

 

霧子「あとは死体を外へ出し、車が暴走したように見せかけて・・・」

僕「事故を装って捨ててきた訳ですね」

霧子「はい、そして残ったエネルギーで割れたガラスを元の形に戻しました」

僕「そんな事までできるんですか・・・VTRの逆再生みたいな感じですか?」

霧子「そうですね、しかしここで私のエネルギーは尽きてしまいまして・・・」

 

そうか、男4人分のエネルギーを吸ったといっても、

これだけ大変な作業をしたんだ、瀕死の人間を1人助けて、

おまけにガラスまで物理的に割れたのを戻したんだ、尽きるはずだ。

 

僕「えっと、じゃあ、その事件を、夢じゃないって疑おうとすると頭痛が出たのは、これも魔法?」

霧子「魔法というか、まあ、魔法で痛みを抑えてるのもありますが、サキュバスの特性というものがありまして」

僕「特性・・・精を吸う以外に・・・確か空も飛べるんでしたっけ」

霧子「ええ、それと・・・サキュバスというのは魔物の中でも夢魔というものに分類されています」

僕「む・・ま・・・・・夢の魔物・・・あ!夢を自由に操れるんでしたっけ」

 

バッサバッサと軽く飛んで、浮いて見せてくれる。

 

霧子「正確に申し上げますと、昔から、サキュバスは人間の男性の精を吸った後、それを夢だったと認識させるのです」

僕「なるほど、思い描いた夢を見せるんじゃなく、した行為を夢の中の出来事だと思わせるんですね、強い暗示だ」

霧子「あの強盗殺人犯も、精をぎりぎりまで吸って衰弱させた後、警察に突き出そうと・・・全ては夢の中の出来事にしてしまって」

僕「でも僕は夢じゃないって気付いてしまった・・・エネルギーが足りなかったのでしょうか?」

霧子「足りないというよりも、傷ついた頭部・・・特に脳の物理的回復と、それと記憶を夢にする魔法ですね、それを両方同時には、完全に出来なかったということです」

 

ふむふむ、じゃあ怪我の治療を優先したから、記憶の方が完全に夢と暗示される事ができなかったのか、

それでも気がつくにはかなり時間がかかったよな、頭痛が消えたのは、そういった暗示が解けたからだろう。

 

僕「じゃあ、あの女医さんは?」

霧子「服部先生はお客様の病状を回復・安定させにきました、私ではまだ不十分でしたので」

僕「そういえば夢を疑うどうこうじゃなくって頭が痛かったような・・・」

霧子「はい、私のしたのはあくまでも応急処置で荒いものでしたから、服部先生で仕上げを、手術のようなものですわ」

僕「あ!目を瞑ってって言われて首の後ろや後頭部を揉まれたとき!あれだけで、治療してたんですか!?」

 

おそらく霧子さんとは回復魔法の質と量が段違いなんだろうな、

今にして思えば凄く楽になったから・・・シップのせいだとばかり思ってたけど。

 

霧子「あの治療のおかげで、毎日2回、私がエネルギーを延髄から送り込めば、もう頭痛も出ませんし2年後には完治致しますわ」

僕「何にもしていないようで、凄く大事なことをしてくださってたんですね、じゃあ、あのカルテもサキュバス語か何か?」

霧子「いいえ、あれは普通の医者を装って、嘘の診断を言うための演出で、カルテを書いていたように見せていただけかと」

 

そっか・・・かわいいコックさんの大軍に、意味は無かったのか。

 

僕「ええっと、整理させてください、じゃあ、女医さんに治してもらってからの頭痛は・・・」

霧子「夢に思わせる暗示が抵抗して、まだ完全に治りきっていない脳を締め付けていたのだと思います」

僕「見えない孫悟空の輪っかみたいだ・・・2つの魔法の副作用みたいなのもあるんでしょうか」

霧子「しかし、もうその暗示は破られましたから、あの夜を思い出しても頭痛は出ないはずです」

僕「わかりました、疑問は、謎は解けました、と同時に新しい謎も・・・それは今は、とりあえずいいです」

 

ただ、この説明まで夢の出来事にされちゃったら嫌だな。

 

霧子「わかっていただけたようで嬉しいです、それでは今度は私からのお願いです」

僕「はい、何でも言う通りにするって、約束は約束でしたから・・・」

霧子「では、私が責任を持って、2年間、ここで治療を施させてくださいませ」

僕「わかりました、できれば絵を売るときは一緒に東京へ来て欲しいけど・・・」

霧子「そのくらいの融通はききますが、1日以上癒さないでいると脳が深刻な状況になりますから」

 

怖いなぁ、まるで爆弾を脳に抱えてるみたいだ。

 

霧子「それと、物凄く大切なお願いがひとつありまして・・・」

僕「なんでしょう?ま、まさか、その、え、えさに、な、れ、と・・・?」

霧子「私の正体、そしてあの夜の事は、絶対に誰にも言わないでいただきたいのです」

僕「言いません!言ったとしても、信じてもらえる訳がないです!」

霧子「確かにそうですが、噂という物は本当に恐ろしい魔物です、変な噂が広まれば、変なお客様が・・!」

 

魔物が恐れるほどの魔物か・・・

うーん、でもそれって餌が集まって嬉しいんじゃないかな?

 

霧子「現に、熱海にメイドホテルを建てた所、初日から変な噂が流れて、それはもう口では言えないような事に・・・」

僕「でも、その方がいいというか、サキュバスって精を吸って生きているんですよね?」

霧子「私たちの存在が表になってしまえば、あっという間に滅ぼされてしまいます」

僕「言われてみれば確かに、人間にとっては怖い存在・・・じゃあいっその事、風俗店を経営してみたら?」

霧子「とんでもない!吸う行為は風俗店といえど、人間の、日本の法律違反です、そんな事はできませんわ」

 

随分と現代社会に溶け込んでるんだな・・・

そういった詳しい事も、色々と聞いてみたい。

 

僕「わかりました、言う通りにします、最後に確認したいんですけど・・・」

霧子「はい?何でしょうか?」

僕「その翼・・・触ってみてもいいですか?」

 

その言葉にようやく着地した。

 

霧子「どうぞ」

僕「失礼します・・・うーーーーん・・・羽根っていっても、材質は水かきみたいだ」

霧子「元々、鳥もコウモリも手が変化して翼になりましたから」

僕「じゃあ生物学的に言えば、腕が4本あるようなものなんですね」

霧子「あとはこちらも自由に出し入れできますの」

 

黒くて長いしっぽ・・・しなやかなムチみたいだ。

 

霧子「では私は正体がばれてしまった事をメールしますので、先にお休みください」

僕「はい・・・って、霧子さんも僕の部屋へ来て、一緒に!?」

霧子「あら、そういたしましょうか?どちらでも構いませんが」

僕「いえっ!今夜は、一人で、寝ます・・・おやすみなさい・・・」

霧子「おやすみなさいませ、良い夢を・・・」

 

夢魔に良い夢を、なんて言われちゃった。

 

霧子「さっきお礼のメールを出したばかりだから、タイトルは追伸でいいわね・・・メールメール・・・」

僕「も、もうひとつ、しつこくてごめんなさい、もうひとつだけ質問が・・・」

霧子「はいー、襲いに行ったりしませんから安心して大丈夫ですよー」

僕「あう・・・その、朝になったらこの事も全部、夢になってるなんて事は・・・」

霧子「それはもうありません、知っていただいた方が、都合が良くなりましたので」

 

そっか、なるほど・・・

襲ってくれないのか、ちょっとガッカリ、

じゃなくって!安心した、僕の捜査は無駄にならなくて済みそうだ。

 

僕「・・・ではでは・・・・・」

 

うーーーーん、

霧子さんの正体はサキュバス・・・

あの女医さんもって事だよな?想像すると凄いかも・・・・・。

 

僕「やばい、霧子さんのあの姿が目に焼きついて、眠れないかも」

 

・・・真実を知った夜は、こうして更けていったのだった。

 

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