・・・・・ん〜・・・ふわふわぽかぽかした感覚・・・

体が宙に浮いてるみたい、心地いい・・・最高級のベッドで寝てるみたいだ、

やわらかく包み込まれて、記憶に無いはずの、子宮の中にいるみたい・・・安らぐ、落ち着く、まどろむ・・・

 

僕「・・・・・んんっ・・・・・ん?」

霧子「・・・・・zzz・・・・・」

僕「ここは・・・はぁう!霧子さんに、また抱かれて眠ってた!」

 

しかもいつのまにか布団の中、

メイドパジャマで眠る霧子さんの胸に甘えるようにして・・・

こたつで眠っちゃったあと、引っ張ってこられたんだろう、は、はずかしいっ・・・

 

僕「そうだ、まだ歯を磨いてないや・・・」

 

起こさないようにゆっくりと這い出す、

離れちゃうのが名残惜しいけど・・・そうだ!!

今のうちに、最後の証拠品、欠けた歯を捜してみよう!

 

僕「無いとは思うけど・・・」

 

まあ、無ければ無いでスッキリしよう。

そのためにも、くまなく探さないと・・・まずは畳から・・・

隙間とかに無いかな?あと壁際・・・綺麗に掃除されてるなあ、当たり前か。

 

僕「でもこの畳、洋間の上に置かれてないか?まあ、しない方法でもないけど・・・」

 

でも感覚的にちょっと変だな?

畳を置いたのがつい最近のような・・・

確証は無いけど、言葉にできないそんな気配が・・・

 

ズキッ!

 

僕「つつっ・・頭痛は我慢、我慢・・・」

 

夢で僕が、刺されてもたれかかってた壁はどこだ?

このへんかな?でも、そこにはタンスが・・・後ろは・・・

隙間とか覗いても何も無さそうだ、じゃあ次はコタツの中かな?

 

僕「潜ってみよう」

 

んー・・・スイッチがちゃんと切られてる、

向こう側もめくって・・・そもそも夢じゃコタツは無かったんだから、

あるならこの下だ、でもそんなのが挟まってるような感じはしない・・・あれ?こたつの反対側から覗いてるのは!

 

霧子「どうなされたんですか!?」

僕「い、いえ、その、あの、べ、べつ、に・・・」

霧子「何かをお探しですか?」

 

気まずい・・・どう誤魔化そう。

 

僕「にゃ、にゃあぁ〜」

霧子「はいっ?」

僕「猫の気持ちになってみたくて・・・」

 

苦しいな・・・に、逃げよう。

 

僕「は、歯を磨いて、自分の部屋で寝ます!」

霧子「そうですか、ではおやすみなさいませ」

僕「ごちそうさまでした!凄くおいしかったです!」

 

慌てて部屋を出ようとドアの前へ行くと、

霧子さんのスリッパを蹴飛ばしてしまった!

それを直すと、丁度、畳のへりの下に何かが挟まってるのが目に付いた。

 

僕「・・・・・あった」

霧子「何が、あったんですか?」

僕「んしょ、んしょ・・・・・抜けた!これ、間違いない!」

 

夢の中で僕が折られた前歯だ!

 

僕「見てください、強盗にやられた時の、僕の歯です!」

霧子「はい?それ・・・石か何かですか?」

僕「いえ、間違いなく・・あぐう!いだだだだだだ!!!」

 

今までに無い程の頭痛が襲ってきた!

落としそうになる歯をぎゅっ、と握り締める・・・

慌てて霧子さんが僕の後頭部をさすってくれている。

 

霧子「きっと牛の骨の一部ですね、料理に使った余りの・・・」

僕「そ、そうだ!証拠が・・・ポケットの中に、メモが・・・」

霧子「証拠って?落ち着いてください、何を言ってらっしゃるのか、私・・・」

 

ポケットをまさぐる・・・

あれ?無い!メモが無い!

入れてきたはずなのに!この歯が見つかったら証拠になるってメモが!!

 

僕「なんで無いんだ!?あつつつ・・・」

霧子「お客様、頭痛が酷くて錯乱してらっしゃるようですわね、お水をお持ちします」

僕「絶対おかしい・・・でも、ポケットに確かに入れたメモが・・え?メモって何だっけ?」

 

ああ、忘れていく!

頭痛が大事なことを忘れさせていくぅ・・・

 

僕「・・・・・・・はぁ、はぁ、はぁ・・・・・」

 

ズキズキズキズキズキ・・・

 

僕「離さないぞ・・・この歯は・・・最後の証拠なんだから・・・」

 

急いで水を持ってきてくれた霧子さん、

それを一気に飲み干して落ち着き、手のひらの歯を見る。

 

霧子「ではそれは捨てておきますね」

僕「いえっ!これは・・・持っておきます」

霧子「はあ・・・」

 

危うく奪われそうになったのをポケットへ・・・

今度は消えないように握ったまま部屋を出る、

心配そうにこちらを見続ける霧子さんを無視するように廊下へ・・・

 

僕「おやすみなさい・・・」

霧子「おやすみなさい、ませ・・・」

 

 

自室に戻り机の上に歯を置く、

これは、僕が夢の中で強盗に襲われたとき、

霧子さんを助けに入って折られた歯だ、間違いない!

 

ズキズキズキン!!

 

僕「ぐぅお・・・くそっ・・・そうだ!」

 

メモがもう1つあるはずだ!

それが無ければ、僕はもう頭がおかしくなってるのかも知れない、

でもあったら、あれは夢ではなく、本当にあった出来事・・・意を決して引き出しをあげる!

 

僕「えい!」

 

ガラッ!!

 

僕「・・・・・・・・あった!!」

 

頭痛があっという間に治まり、

霞のように広がっていた頭の中のモヤモヤが晴れていく!

おかしな呪いを打ち破ったかのような爽快感が身も心も軽くする!

 

僕「どうやら、何かに勝ったみたいだ」

 

疑問が晴れた!

・・・いや、逆に謎が深まった。

もう頭痛は来ないみたいだから整理して考えよう。

 

僕「・・・ふう、変な汗が出ちゃったな・・・」

 

首筋を拭きながら腰掛ける。

2日前の夜、旭川で強盗殺人した4人組がガラスを割って入ってきた、

そして霧子さんや僕を襲って、霧子さんは犯され、僕はライフルで撃たれた。

 

僕「で、その時に折られた歯が、ここにある、と」

 

さらに霧子さんの部屋で胸にナイフを刺されて、

死ぬ間際かな?霧子さんが、大きな翼を広げて男の上に・・・

まわりはミイラみたいに干からびた男たち・・・霧子さん、天使みたいだったなぁ・・・

 

僕「でも何だろう?背筋がゾクゾクする」

 

肝心なのはここからだ、

翌日、凄い頭痛に襲われて霧子さんに看病された、

犯人グループは近くで全裸死体で発見された、車がスリップしたとかで。

 

僕「割れたはずのガラスは直ってて、ライフルの薬莢は見つけたんだよな」

 

翌日、札幌からわざわざ女医さんが来てくれて、

よくわからない診察っぽい事をして・・・具体的には何もされてないような?

シップを貼ってくれたくらいだよな?それでムチウチ症とか言って、カルテにはラクガキを描いてて・・・

 

僕「本当にお医者さんだったのかなあ・・・?」

 

あとでネット検索してみるか・・・

で、ロビーで盗み聞きした話は何だっけ?

2年間僕を治し続けなくてはいけないとか、

そのせいでかわからないけど、霧子さんが2年ここに住んで欲しいとか、

インクリボンに似た言葉も何か言っていたよな?このへん頭痛のせいで記憶が曖昧だ。

 

僕「で、襲われたときのメイド服と眼鏡が破損した状態で、ゴミ捨て場に・・・」

 

まだ回収されてないよな?

持ってこようか・・・いや、その前に試してみたい事がある、

通用するかどうかわからないけど、霧子さんに、カマかけてみよう。

 

僕「霧吹きと・・・あと絵の具で水に色を、薄く付けよう」

 

霧子さん、もう寝ちゃってるかな?

廊下を覗いてみる・・・静かだ、でもロビーが明るい?

そーっと、そぉーっと廊下を歩いて見てみると・・・霧子さんがインターネットしてる。

 

僕「・・・・・」

 

丁度いいや、準備しよう。

試してみて、失敗しても疑ってる意思は通じるはずだ、

もし騙されてたなら怒っていいはずだし・・・でも嫌な予感がするんだよなぁ・・・

 

霧子「・・・はいメール送信、これでいいわね・・・」

僕「あの、霧子さん」

霧子「は、はいっ!?お加減は、いかがですか?」

僕「ちょっと待っててね、調べたい事があるんだ」

霧子「なんで・・・しょう・・・か?」

 

洗い場で準備の仕上げをし、

霧吹きを持ってロビーへ来た、

ちょっと不安そうに僕を見ている霧子さん。

 

僕「見ていてくださいね・・・このへんかな・・・」

 

シュッ、シュッ、シュッ・・・

 

霧吹きを床と壁にかける、

薄いピンク色がまんべんなく浮かぶ・・・

まあ、最初からそういう色の水を作ったんだけど。

 

僕「やっぱり・・・間違い無い!」

霧子「何がですか?」

僕「ここで大量の血が流れた跡があります!ルミノール反応です!」

霧子「ルミ・ノー・・・ル?」

僕「はい、特殊な薬品をかけると、3日以内についた血の跡が浮かび上がってくるんです!」

 

口から出任せも、言い切ってしまえば現実味を帯びるものだ。

 

霧子「つまり、どういう事でしょうか?」

僕「ここで大量の血、僕の血がいっぱい出た証拠です!」

霧子「え?え?え?それって、そんなことって・・・」

 

あきらかに動揺している、

うまくいったかな?本当は絵の具だし、

本物のルミノール反応は部屋を暗くすると薬品が反応して光るんだけど・・・。

 

僕「やっぱりあれは、夢じゃなくって本当にあった事なんですね、霧子さん・・・」

霧子「あ、あの、そのっ、ど、どうしましょ、あ、あぁ・・・」

僕「本当のことを言ってください、霧子さん、あの夜・・・いったい、何があったんですか!?」

 

・・・問い詰めたはいいものの、

急に湧き出す恐怖感、なぜか膝が震えてきた。

霧子さんは顔を伏せたのち、ゆっくりとこちらを見る、その表情は・・・・・怖い。

 

僕「・・・・・きり・・・こ・・・さん?」

霧子「お客様・・・何を言いたいのですか?」

僕「何をって、あれは、本当にあった事件で、それで・・・」

霧子「本当だとして、どうしたいのですか?どうしようというのでしょうか?

僕「どうって、どうするって、どうしたいって、言われても・・・」

 

一転して立場が入れ替わったみたいだ!

開き直ったかのように僕へ詰め寄ってくる、

メイドというよりは、冷たい女教師っていう感じで・・・

 

霧子「望みは何ですか?脅したいのでしょうか?」

僕「ななななな、なにを・・・霧子さん、何を言ってるのか、わからないよ・・・」

霧子「はっきりしてくださいませ、そうすれば私も、はっきりさせますわ」

 

後ずさりする僕・・・

あう、背中が壁に・・・夕方の露天風呂と同じだ、

でも恐怖感は、その時の何十、何百倍・・・ああう・・・正直に・・・言おう。

 

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