僕「行く前に、一応、メモしておこう」
これから霧子さんの部屋で夕食をいただくけど、
疑問が本当に全て解消された訳ではない、とはいえすぐ反論というか、
解説に納得させられてしまい、あの夢が現実である物証は、おそらくあと1つしか無いだろう。
僕「夢の中で欠けた、僕の歯が見つかったら、霧子さんが天使だったのは現実・・・と」
こうやって前もって書き記しておけば、
もしまた物証が見つかった後で頭痛が起き「あれ?見つかる前に本当にこの記憶ってあったっけ?」と疑ってしまうという、
頭が勝手にデジャヴにしてしまう現象を防げるだろう、机の中に入れて・・・あともう1枚別にメモしてポケットにも入れておこう。
僕「これで見つからなかったら、もう夢だったって事でいいや」
ひょっとしたら、霧子さんを疑うと偏頭痛が出るんじゃなくって、
ありもしない記憶を思い出そうとしてるから、夢の出来事を現実と思い込もうとしてるから、
偏頭痛が起きてるのかも知れない、だったら、折れたはずの歯という決定的な物が出なければ、もう忘れてしまおう。
僕「本物・・・だよな?」
あらためて自分の前歯を指でさわってみる。
これ以上疑ったら、頭がおかしくなりそうだ、
きっとさっきの恐怖感もそういう部類なんだろう。
僕「画家とか芸術家は、精神を病みやすいって言うしな・・・」
よし、霧子さんの料理で元気になろう!
廊下へ出て霧子さんの部屋へと向かう、うん、恐怖心は無い、
霧子さんが幽霊な訳がない・・・憑り殺されてみたい気持ちも、無くはないけど。
コンコン
霧子「どうぞー」
僕「失礼します・・・」
中を見回して驚いた、ここって・・・和室だ。
霧子「すでにお鍋ができてますよ、こちらへどうぞ」
僕「は・・・はい」
部屋にはコタツ・・・こんなのあったっけ?
管理人室に入るの自体は初めて、前に薬を打ってるのを覗いたことはあるけど・・・
その時は無かったよな?あとベット、夢の中では霧子さんが犯されていたベットが無い!
前に覗いたときは・・・ベットがあったかなかったか、そこまで覚えてないというか、見てないだろう。
大きな布団が畳んであるだけ、つまり、この部屋って夢で僕が殺されそうになった部屋と、まるで違う・・・のかな?
霧子「どういたしました?ぼーっとしてらして」
僕「い、いえ、その、女性の部屋は緊張して・・・」
霧子「大した部屋ではありませんから、さあどうぞ」
なんだ、やっぱりあれは夢だったんだな、
見覚えのあるロビーとかは夢にも出てくるけど、
霧子さんの部屋の中までは記憶は鮮明じゃないから、脳が作り出してたんだろう。
霧子「じゃーん、今夜はもつ鍋ですよー」
僕「おいしそう・・・これはニラですよね、あと・・・」
霧子「ニンニクの芽ですよ、ではよそいますね」
若奥様気分で器へ入れてくれる、
ご飯も大盛り、新婚家庭みたいで、くすぐったい。
僕「このこたつって、長く使ってるんですか?」
霧子「ええ、もう3年くらいずっと」
僕「・・・ベットとかは使わないんですね」
霧子「畳の上で寝るのが好きですから・・・はいお茶もどうぞ」
僕「ありがと・・・あちっ!あ、おしぼりすみません」
前にこっそり部屋を覗いたとき、
注射をしてたときって、和室じゃなかった気がする、
でも、はっきり本当にそうか?と問われれば自信はないし、
何よりあの苦しみながら注射を打ってた場面だって、ひょっとすれば、
夢の中での出来事かも知れない、もう何が何だかわからない、なら考えなければいっか。
僕「いただきます!」
霧子「はいどうぞ、私もいただきますわね」
僕「ペンションって支給する人も一緒に食事してくれるから、家庭的で良いです」
霧子「全ての宿がそうとは限りませんが、黙々と食べるよりは良いかと」
僕「はふはふ・・・本当に美味しい!よく煮込んである感じがします!」
よし、これを機会に色々と聞いてみるかな。
僕「霧子さんはいつからこのペンションへ?」
霧子「そうですね、スキー場のホテルが閉鎖されてからですから、4年目になります」
僕「へー、大きいホテルだったんですよね?」
霧子「はい、ただ親会社が色々ありまして・・・」
僕「あーニュースで見たことあります、大きいグループの会長がインサイダー取引で逮捕されたとか」
それで確か、所持してた北海道のゴルフ場やスキー場を、ほとんど整理したんだっけ。
僕「じゃあそこの、一流企業のエリートだったんですか!?」
霧子「とんでもない!そちらへメイドとして派遣されていただけですわ、社員でしたらここに残れませんもの」
僕「そうですよね・・・じゃあこの土地が気に入ってペンションを?」
霧子「はい、ゼロから・・・いえ、温泉はそのホテルが掘ったものを引いて使わせていただいてるので、1からですわね」
僕「なるほど・・・霧子さんのメイドとしての素晴らしさは、そのホテルで鍛えられてたものなんですね」
でも逆にスキー場が閉鎖されてなかったら、
この素晴らしいペンションも無かったんだろうな・・・
僕「・・・凄くおいしい!ホテルでは厨房の仕事とかもしてらしたんですか?」
霧子「まあ色々ですね、場所が場所ですから従業員も多くはなかったですから、副支配人として・・・」
僕「そ、そんな偉い人だったんですか!し、失礼しました・・・メイドで副支配人って、凄いや・・・」
・・・あっという間にお鍋もご飯もなくなっていく。
霧子「おかわり、よそいましょうか?」
僕「ありがとうございます・・・スキー場とホテル自体は繁盛していたんですよね?」
霧子「ええ、親会社と切り離してもやっていけるはずだったんですが・・・」
僕「まさか霧子さんが買い取る訳にもいきませんからね、金額も凄いでしょうし」
霧子「ですからこのペンションを・・・ホテルからいただいたお給料を溜めて建てたんですの」
そうだったんだ、女性が1人で大変だっただろうな。
僕「もったいないですねスキー場」
霧子「でも逆に静かになって良かったかも知れませんわ」
僕「確かに・・・夜は除雪車の音しか聞こえませんからね」
霧子「あれ、ホテルがあった頃の名残りなんですよ、本来はホテルまでの道を除雪していただいてるんですの」
僕「へー・・・じゃあ閉鎖されても契約か何かが残ってるのかな・・・ふう、ごちそうさまでした!」
あー食べた食べた・・・満腹だ。
僕「ちょっと仰向けになってもいいですか?」
霧子「どうぞどうぞ、では片付けますわね」
僕「はい・・・ふううぅぅ・・・極楽極楽・・・」
天国気分だ、じゃあ霧子さんは、さながら天使かな?
・・・そんな夢を見た気がするけど、それはもう忘れよう。
でも、ここにずっと居たいっていう気持ちは出てきちゃったかも・・・
霧子「絵の完成はいつになりそうなんですか?」
僕「んー・・・春までには終わらせないと」
霧子「じゃあ春まではいてくださるのですわね?」
僕「ま、まあ・・・でも1度くらいは東京に戻ろうかな」
霧子「あら、じゃあもしよろしかったら、東京を案内していただきたいですわ」
・・・・・霧子さん、僕にアプローチしてるんだかしてないんだか・・・
男関係の事を聞きたくもあるし、聞いちゃいけない気もするし、どうなんだろう?
2年くらいここにいて欲しいって、寂しいんだろうか?彼氏がいないのが不思議だ、この場所を考慮しても。
僕「霧子さんって・なん・・・」
霧子「はい?」
僕「いえ、なん・・・なんか、なにか薬を飲んでましたよね?」
何歳ですか?と聞こうとして失礼だと思い、
慌てて薬の話に切り替えた、でもこれも失礼な質問だったかな?
霧子「ええ、生まれもっての、先天性の、血液の病気です、詳しい名前は忘れました」
僕「ご、ごめんなさい、余計なことを聞いてしまって・・・」
霧子「いえ、いいのですわ、心配してくださっての質問でしょうから」
血液の病気・・・あれ?その話、夢の中でも・・・
ズキン!
僕「あつつつつ・・・」
霧子「まあ!痛むんですの?マッサージしますね」
僕「はい・・・ありがとうございますぅ・・・」
首の後ろを丁寧にもまれると、
目がとろけて自然に瞑ってしまう・・・
ああ、癒されてる、ポワッと暖かい波動みたいなのに・・・
霧子「念入りにしますねえ、30分くらいはしましょう」
僕「ありがとう・・ござい・・・ますぅ・・・」
霧子「そのまま寝ちゃってもいいですから・・・」
そう言われると・・・ふぁぁぁ・・・
なんだか眠く・・心地よすぎて・・・んん・・・・・
お言葉に甘えて・・・寝ちゃおう・・ん・・んんん・・・・・
僕「・・・・・・・・・」
きゅっ、きゅっ、もみもみもみ・・・・・
霧子「心も体も楽にしてくださいね・・・」
僕「・・・っ・・・・・・・・・」
霧子「そう、力を抜いてぇ〜・・・・・」
まるで催眠術にかかったように、
僕は眠りの中へと落ちていったのだった・・・・・。
もどる |
めくる |