僕「これで少しは取り戻せたかな・・・」

 

2日ぶりに絵の続きを終え、

タンチョウヅルに感謝しながらペンションへと戻る。

頭痛も特に出なかったのは、霧子さんの念入りなマッサージのおかげだろう。

 

僕「働きながら2年、じっくり描くのもいいかも知れないな・・・」

 

それにはまず、今のこの絵を仕上げて売らなければいけない、

ちゃんと「出来る」所を見せないと、それこそペンションのヌシか、

霧子さんのヒモみたいな状況になりかねな・・・ん?なんだろう?何か動いてるぞ!?

 

僕「あれってペンションのゴミ捨て場だよな・・・」

 

もぞもぞと不気味な動き・・・近づいてみるとそれは・・・

 

僕「こらキタキツネめ!!」

狐「キャインキャイン!!」

僕「まったくもう・・・野犬と一緒だな」

 

あーあ、ほじくり返しちゃって・・・

しょうがない、僕が片付けてあげるしかないな。

回収は明日だし・・・うっぷ、結構な量があるな、く、くさい・・・

 

確か僕と霧子さんのゴミしかないよな?

あとは女医さんが来たけど・・・あーあゴミ袋が破られて、

中が丸見え・・・一番奥にあったであろうソレが特に変な匂いを放っている。

 

僕「これは何だろう・・・・・黒い服?びりびりだな」

 

キタキツネが噛んだにしては破かれ過ぎてる、

よーく見るとこれは・・・見覚えがあるぞ?そうだ、メイド服だ!

霧子さんがいつも着てるタイプの・・・うっぷ、何かついてカビカビになってる。

 

僕「この浪人生の押入れにあるような匂いは・・・・・まさか!」

 

夢の中で、天使の姿をした霧子さんが、

裂かれたメイド服を着ていたよな?汁まみれになりながら・・・

 

ズキン!

 

僕「はぁう!なんでここで頭痛が・・・」

 

次から次へと『夢で見た証拠品』が出てくる、

ただこれがもしデジャヴだとしたら、見た瞬間に、

これはあの時の・・・っていう記憶を創り出した事になる。

 

僕「なら・・・そうだ!割れたガラスだ!」

 

隣の燃えないゴミをあさる!

ここから割れたガラスか例の薬莢が出てくれば、

夢じゃなく、あれは現実の出来事って確信が持てる!

 

ゴソゴソゴソ・・・

 

僕「ないな・・・ガラスは燃えないというより別の区分なのかな」

 

このへんは食材のパックみたいだ、空けた後の・・・

こっちの袋は・・・ボタン?あ、メイド服についてたやつかな?

律儀に外して分別してるんだ・・・その一番奥に何かある・・・針金っぽい?これは・・・

 

僕「・・・・・あった、決定的なものが」

 

これは・・・折れ曲がった眼鏡!!

霧子さんがあの悪夢の夜につけていた、

ツルが曲がってレンズが傷ついてる眼鏡だ!!

 

ズキンズキン!!

 

僕「ぐああっっ!!」

 

何か危険を知らせるような頭痛!

これは・・・証拠品だよな、持って行こう・・・

ううぅ・・・散らかしたゴミ捨て場を片付けなきゃいけないのに、頭がぁ・・・

 

ズキズキズキズキズキ・・・・・

 

僕「・・・・・はぁ、はぁ、はぁ・・・」

 

落ち着いてきた、

なぜか眼鏡を置いて手から離したら頭痛が治まった。

さあ、元に戻そう・・・そして後で霧子さんに聞かなきゃ、本当のことを・・・

 

僕「あれ?本当のことって・・・なんだ!?」

 

あれ?この眼鏡は確かに霧子さんがつけてたものではある、

でも、夢の中で見た霧子さんが、これと同じ破損してたっていう証拠はなんだ!?

今、夢でそう見たから間違いない、っていう確信さえデジャヴだとしたら・・・見つけてしまってからでは、そう思えてしまう。

 

僕「まてまてまておかしいぞ?この頭痛もおかしいぞ?」

 

頭痛が無理に「やっぱり夢だったんだよ」って事にしようとしてるみたいだ、

見つけた眼鏡はかなりの証拠なのに、その証拠を見つけた自信さえ急に流れていった、

結局、僕はおかしな一人芝居を延々と続けているのでは?という気に・・・う〜ん、わけがわからなくなってきた。

 

僕「眼鏡を持って帰って考えよう」

 

おそるおそる手にすると・・・

 

ズキンズキンズキン!!

 

僕「がぁあぁあああ!だめだぁっ」

 

持って帰ろう、という意思が激痛で削り取られた!

不可解だけど、あきらめるしかなさそうだ、仕方が無い、

どうせ回収は明日の朝だし・・・わざとゴミ捨て場の裏に隠すように置いてその場を離れる。

 

僕「お風呂に入って、考えよう・・・」

 

 

 

ザバーーーーーッ

 

僕「ん〜・・・夕日を見ながらの露天風呂もいいなぁ〜」

 

そうだ、しっかり首まで浸かって血行を良くしないと・・・

これから寒さが厳しくなる、また首の筋を違えないように、

長めに入ろうかな、打たせ湯とかあったらいいんだけど・・・

 

ガラガラガラ・・・

 

霧子「失礼しますわ」

僕「きり・・こ・・さんっ・・・」

霧子「今日もお背中を・・・あとマッサージもさせていただきたくて」

 

相変わらず凄い迫力のメイド水着・・・

でもなんだろう?エッチな気分にならない事もないけど、

それとは違うゾクゾクとしたものが背筋を走り抜けた、これは・・・恐怖心!!

 

僕「あの、そ、その・・・」

 

ゆっくりと風呂の中で後ずさりすると、

逆にすたすたと近づいてくる、あいかわらず眼鏡をかけたまま・・・

ちゃぷん、と足を湯に入れた!さらに恐怖心が強くなる!こんな感覚、今までなかったのに!

 

霧子「そんなに逃げなくても・・・別に食べようとしている訳ではないんですから」

僕「で、でもその、ほら、ま、まだ明るいし、それに、まだゆっくり浸かっていたいから・・・あう」

霧子「背中が端っこについてしまいましたわ、もう逃げられませんよー・・・ふふふ」

 

お、襲われてないかこれって!?

お湯の中を滑るようにこっちへ来て、

迫力がすごい、ぼいーんとしたおっぱいが・・・いや、

その迫力も確かに凄いけど、この何とも表現し辛い怖さは何だろう?

とんでもない事をされてしまいそうな、取り返しがつかない状態にされそうな恐怖・・・!!

 

霧子「つかまえ・・・たあっ!」

僕「わあああああああ!!!」

 

両肩を捕まえられただけなのに、

大きな鷹の足にとらえられたウサギのような気分になる!

心臓がバクバク・・・でも、そのまま肩をもみもみされると、一気に力が抜けていく・・・

 

霧子「どうですかー?」

僕「あ・・・きもち、いいっ・・・ですっ・・・」

霧子「ではこちらに背中を向けてくださいねぇ」

 

近づいてきた時はあんなに怖かったのに、

いざ揉まれはじめると、とろけるような快感に浸ってしまう・・・

不思議だ、魔法みたいだ、そしてその変化が逆に、さらなる怖さを感じる・・・

 

霧子「首も念入りに揉みますからぁ、回しますね・・・」

僕「ん・・・いいいぃぃ・・・あ、そうだ、きり、こ、さんっ」

霧子「はい?どうなさいました?」

 

ゴミ捨て場の事を切り出そうとすると、

こめかみがピクピク動いて鈍い頭痛が・・・

でもマッサージされながらだから、そんなに酷くはない・・・

 

僕「ゴミ置き場、キタキツネが荒らしてましたから・・・片付けておきました・・・」

霧子「まあ、それは、わざわざ、ありがとうございます!はい、後ろへ反らしてください」

僕「んぐっ・・・それで、ビリビリに破かれた、メイド服があったんですが、あれは、いったい・・・」

 

あああ、首の両サイド、頚動脈のあたりを指でグリグリされると、気持ちよすぎるぅっ!!

 

霧子「あれでしたら、灯油を運んでいる時につまずいて被ってしまいまして、古かった事もあって捨てましたわ」

僕「そ、それであんな変な感じに汚れていたんですか・・・ああう・・・こめかみのマッサージも、気持ちいい・・・」

霧子「あのまま捨てては燃えるゴミとしては出せないんですよー、ちゃんと切り刻まないと、大きなゴミと扱われて回収されませんから」

僕「律儀なんですね、ボタンとか金具も外してあったみたいですし・・・んあぁ・・・コリがやわらかくなってきてるぅ・・・」

霧子「それと、あのままで捨てると拾って何に使われるかわかりませんから、下着も捨てるときは裂いてからなんですよ」

 

説得力のある説明、気持ちいい事をされながら聞かされてるからか、妙に納得できてしまう。

 

僕「なるほど・・・あと壊れた眼鏡も捨てちゃうんですね、ちょっともったいな・・あっ・・・耳の下のツボも、いいいぃぃぃぃぃ」

霧子「眼鏡も度が合わなくなってきてましたから、今のこの眼鏡が丁度いいんですわよ」

 

そうなのか・・・あれ?その眼鏡って、さらに古い眼鏡だったんじゃ!?

いつ、いつつ・・・偏頭痛がぶり返してきた!・・・あ、そうか、レンズだけ代えたのか、きっとそうだ。

納得して自分に言い聞かせると頭痛も治まっていった・・・この頭痛もおかしいよな、なぜか推理を邪魔してるみたいだ。

 

霧子「さあ次は体を洗わせていただきますね、隅々と・・・」

僕「あ・・・・・あっ!そうだ、もう出なきゃ!ごめんなさい!じゃ!」

 

バシャバシャバシャ!!

 

霧子「んもう・・・夕食のお鍋は私の部屋ですから、後でお呼びしますねー」

僕「は、はいぃ・・・・・・」

 

あぶないあぶない、

首とかこめかみとかのマッサージで、

あんまり気持ち良過ぎて、思いっきり勃起しちゃってたよ。

 

僕「水を飲んで落ち着こう・・・」

霧子「はい、どうぞ」

僕「ありがとう・・んぐ・・んぐ・・んんん!!」

 

い、いつのまに!

しかも、にこにこしながら素っ裸の僕に水を渡してくれた!

慌てて後ろを向ける、と、バスタオルで背中拭いてくれる・・・

 

僕「あ、ありがとうございます、前は、自分でやりますから・・・」

 

・・・・・拭き終わったかな?

と、ゆっくり振り返ると・・・あれ?いない?

バスタオルが下に落ちてるだけ、蒸発したみたいに消えている。

 

僕「ひょっとして霧子さんの正体は・・・・・忍者!?」

 

くの一な霧子さんを想像して、ちょっと楽しくなった。

そうだな、あんまり深刻に考えるより、今はせっかくのこのペンションを楽しもう、

絵も再開できたんだし・・・鍋かぁ、石狩鍋かな?すきやきって可能性もある、想像しただけでお腹が空いてきた!

 

僕「変な疑いはこのさい、忘れちゃおうかな」

 

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