ぴんぽ〜〜ん

 

雪巳「はーーーい」

 

授業が午前中で終わり、

早く帰ってきた雪巳ちゃんが玄関へと駆ける、

誰だろう?雪菜ちゃん雪沙ちゃんはまだ今日まで給食あるからまだ授業中だろうし、

そもそもその2人ならいちいちベル押さなくても入ってこれる・・・美鈴さんだってそうだし、

他に考えられるのは管理人さんか、雛塚家の家族か・・・変な勧誘か。勧誘なら雪巳ちゃんどうするんだろう?

 

雪巳「お兄ちゃーん、郵便やさんだよー」

僕「え?じゃあ、上がってきてもらって」

雪巳「もう開けたよー」

 

玄関へ行くとドアをノックする音が聞こえる。

 

ガチャッ

 

郵便局員「速達です」

 

受け取って見ると鮮やかな色の大きい封筒・・・

お城の絵が描いてある、これは・・・ネズミーランドからだ!

 

雪巳「どーしたのー?」

僕「ネズミーランドから速達が来たんだ」

 

机の上で封筒を開ける・・・

中はホテル・パンナコッタの宿泊の案内状だ!

色々と注意事項が書いてあるみたいだけど・・・後は・・・

 

雪巳「これかわいいー!」

僕「それは・・・ああ、チケットを入れるケースだね」

雪巳「これがチケットー?」

僕「あれ?・・・あ、それはホテルへの入場パスみたい」

雪巳「ホテルにも入場券があるんだー、これは何のカード?」

僕「そっちは・・・ネズミーリゾートトレイン・・・何だろうね?」

雪巳「電車の切符ー?きっと中で使えるんだよー」

僕「紙もいっぱいある・・・ホテル宿泊の確認証と・・あれ?別で封筒が入ってる」

雪巳「みせてみせてー」

僕「待って!・・・保護者の方へ、ってあるから、僕しか見ちゃいけないみたい」

 

一緒に送られてきたミニガイドに目を奪われる雪巳ちゃん、

その間に胸元でその秘密の封筒を開ける・・・中は・・・駐車場の案内か、関係ないや。

後は料金の支払い方法・・・クレジットにすると手続きはチェックインの時だけで済むみたい、

いちいちチェックアウトしなくて済む・・・それに、これは・・・キャラクター訪問サービス???

あなたのお部屋にネズミーやミミー、ダックンやブーブーベアーが・・・1キャラクター3万円!!!

・・・・・の所をスポンサー様は1万円、って凄い商売してるなあ、さすがネズミーランド、殿様商売してるよ。

ご希望のキャラクター名、合計数、合計料金、訪問日時をこの紙に書いてフロントへ、か・・・うーん、値段が高い・・・

でも、雪巳ちゃんたち、喜ぶだろうなーーー・・・一生に一度の良い思い出になるに違いない・・・うまく心理を突いてるなぁ。

 

雪巳「どしたのー?」

僕「え?いや、料金についてとか、支払い方法とか、あと駐車場のこととか」

雪巳「高いのー?みせてー」

僕「だーめ!こういうのは大人の事情なんだから」

雪巳「でもここにホテルの料金書いてあるよー?」

 

ほんとだ、同封されてたミニガイドにしっかりと!

 

雪巳「どこの部屋なのー?」

僕「えっと・・・さあ、どこだっけ?まあ、当日までのお楽しみで」

雪巳「楽しみだなー、宿題もうすぐ終わるから待ってねー」

 

・・・そうだよな、それだけこの子たちも頑張ってるんだ、

ネズミーさんくらい部屋に呼んで、喜ばせてあげよう!

本当なら3万円なのが1万円で済むんだし、ここまできたらお金を渋ってる場合じゃないし。

 

・・・・・ひょっとして俺、ネズミーランドの手のひらの上、か?

 

 

 

 

 

ぴんぽーーん

 

お、今度は誰だ?

 

雪巳「私出るねー」

僕「待って!・・・僕が出る」

 

今度こそ新聞勧誘か何かかも知れないし・・・

と、玄関へ行きモニターを見るとそこには・・・雪菜ちゃん!?

ランドセル背負ったまま・・もうそんな時間か、って入ってくればいいのに。

 

僕「どうしたの?入っておいでよ」

雪菜「お兄ちゃん・・・来て、すぐ・・・はやく・・・」

僕「え?ひょっとして鍵を無くしたとか?」

雪菜「ううん・・・はやく・・・おねがい・・・」

僕「わ、わかった、すぐ行く」

 

何だかすごく急いでるみたい、

まさか雪沙ちゃんに何かあったとか!?

靴を履いて鍵も持たずに玄関を出て階段を降りる!

階段下のドアも開けて・・・雪菜ちゃんは・・・エレベーターの前だ、

降りるボタンを押して待ってる、僕はその隣に立って一緒に乗り込む。

 

僕「何があったの?」

雪菜「早くしないと・・・」

僕「誰か怪我とか?」

雪菜「ううん・・・はやく・・はやく・・・」

僕「落ち着いて、冷静に!そんなに急いでどうしたの?」

 

いくら聞いても雪菜ちゃんは急いで焦ってばかり・・・

何がどうしたのか気になるけど、とにかく今はついていくしか・・・

エレベーターが1階につくと、エントランスから外へ向かって歩く見覚えのある男性の姿が・・・!!

 

雪菜「おとうさん・・・」

雛塚父「お、雪菜じゃないか、どうだ?元気にやっているか?」

雪菜「うん・・・幸せ・・・」

雛塚父「娘が本当にお世話になっております」

僕「あ、いえ・・・こちらこそ・・・」

 

父親の胸に飛び込んでる雪菜ちゃん、

やっぱり親子だな・・・って、お父さん今、シラフみたいだ。

 

雛塚父「おっ、眼鏡買ってもらったのか?」

雪菜「うん・・・服も・・・ちゃんと働いてるから・・・」

雛塚父「そうかそうか、うちの事は何も心配いらないから、しっかりやるんだぞ」

 

しっかりと胸に甘える安心しきった表情・・・

あんな顔、僕に見せた事ないや・・・やっぱり血のつながりには勝てない。

・・・・・そうだ!今しかない!このチャンスしかない!今こそ、許可を貰う絶好のチャンスだ!

 

僕「あの、それで、来週、雪巳ちゃんと雪菜ちゃんと雪沙ちゃんを、遊園地に連れて行こうと思っているんです」

雛塚父「それはありがたい!何から何まですみません」

僕「ああっ、そんなにぺこぺこしないで・・それで、遊園地の近くのホテルに、娘さんたちと一緒に宿泊したいんですが」

雛塚父「どうぞどうぞ、雪菜、しっかりこのお兄さんの世話をするんだぞ」

雪菜「うん・・・わかってる」

僕「責任持って事故の無いようにしますから」

雛塚父「私なんか、そういう事をまったくしてやれなくって・・・本当に感謝します」

 

ペコペコバッタになってるお父さん、こっちがお礼したいくらいなのに。

 

僕「では、連れて行ってもいいんですよ・・・ね?」

雛塚父「ええ、お任せします」

僕「・・・一応、お母さんの方にも話をしておいた方が・・・いいですか?」

雛塚父「いえ、それはしない方がいいでしょう、お土産とか他のも連れてけとかうるさいでしょうから」

僕「大丈夫ですか?」

雛塚父「ウチの事は私が責任持ちます!何なら一筆入れましょうか」

雪菜「あ・・・私のノート使って・・・」

 

ランドセルを開けてノートをあさる、

どれもボロボロ・・・その中に1冊だけあるまだ新しいノートを出して、

鉛筆と一緒に雛塚父に渡し、サラサラを書いてもらう・・・

 

雛塚父「これでよろしいでしょうか?」

僕「えっと・・・夏休みの間、自由にどこへ連れて行っても宿泊してもかまいません・・・雛塚勲・・・名前もありますね」

雛塚父「ええ、貴方の名前も入れておきましょう、そうすれば問題ないはずです、失礼、お名前は・・・?」

 

僕の名前も書き入れてもらって・・・

ハンコは無いけどこれで立派な証書になるはずだ。

 

雛塚父「どこへ連れて行ってもかまいませんので、どんどん連れて行ってやってください」

僕「遊園地以外もですか?」

雛塚父「こういう機会はもう嫁に出るまで無いでしょうから」

僕「わかりました、とにかく娘さん達が悲しむような事は絶対に無いようにしますから」

雛塚父「よろしくお願いします・・雪菜も、ちゃんと頭を下げて!」

 

ああっ、ペコペコバッタが親子に・・・

 

雛塚父「それでは私はこれで・・・よろしくお願いします・・・」

僕「はいっ、お任せください」

雪菜「お父さん・・・・・いってらっしゃい・・・」

 

ぺこぺこぺこぺこしながら出掛けて行った・・・

ふうっ、酔って無いときはあんなに腰の低い良い人なのになあ・・・

本当、お酒の魔力って恐いや・・・さて、これで親からの公認を貰ったぞ!!

 

雪菜「お兄ちゃん・・・ネズミーランド・・・行けるよ・・ね?」

僕「あっ、うん!ありがとう!そっか、このために『待って』って言ってたり急がせたり・・・」

 

くい、くいっ、と雪菜ちゃんの袖を引っ張る手が視界に入る、

いつのまにか雛塚家の、雪巳ちゃんたちの弟かな?おとなしい感じの方の・・・

 

雪菜「まさゆき・・・」

雅幸「ゆきなねえちゃん・・・やくそくどおり・・・教えたよ・・・」

雪菜「ありがとうね・・・」

雅幸「だから僕も・・・ネズミーランド、つれてってよ・・・」

雪菜「だめ・・・500円あげたよね・・・それが全部だから・・・」

 

500円?・・・・・あ、そうか、

雪菜ちゃん、ひょっとしてこのために、弟妹を雇っていた!?

シラフ状態になったらって・・・そのために1人に500円も・・・!!

 

雅幸「・・・・・広幸お兄ちゃんたちに、取られちゃったもん・・・お金・・・」

雪菜「・・・・・・・・・・うそついてるでしょ・・・うそついてる・・・」

雅幸「・・・ほんと・・・だよ」

雪菜「取られたの・・・たかゆきたちだけだよね・・・うそは、だめ・・・」

雅幸「だって、だって・・・僕も・・・行きたいから・・・教えたのに・・・」

 

ガスッ!!

 

僕「ぐあっ!!」

 

タタタタタタタタ・・・・・

 

また僕を蹴って逃げてった・・・

 

雪菜「お兄ちゃん、ごめんね・・ごめんなさい・・・です」

僕「うー、痛い・・・部屋に戻ろう・・・上に・・・」

 

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