返して、って・・・

雪巳ちゃんたちの弟、なんだろうな・・・

そういえば見たことあるよあの子、そうだそうだ、

大雨の日に雛塚家の前で立ってた・・・雪沙ちゃん出したら風呂場に逃げ込んだ子だ。

うーん、「返して」か・・・何だか幼い少年のその言葉に、蹴られた足より胸がほんのちょっとチクッとした・・・

 

僕「ま、気にすることないか」

 

エレベーターに乗って19階へ・・・

降りるとそこにも今度は別の少年が待っていた、

半ズボンに薄汚れたシャツ、今度は一転、活発そうだ。

 

僕「ちょっと、そこどいてもらえないかな?家に帰れないから」

少年「・・・・・ぼくも入れてよ!」

僕「え?な、なんで?」

少年「おねぇちゃんたちだけずるいよ!ぼくも入れてよ!」

僕「やっぱり君も・・・!」

 

雛塚家の弟か。

 

少年「ゆきさねぇちゃんいってたもん!ここは天国だって!ずるいよ!」

僕「ずるいとか言われても、困るんだけど」

少年「なんでぼくは入れてくれないの?ぼくもおねえちゃんたちといっしょに住む!」

僕「・・・お姉ちゃんたち、何しに来てるか知ってるの?」

少年「ここに住んでるんでしょ?だから、ぼくも弟だからいっしょに住む!開けろよ!」

 

・・・生意気な子供だなあ。

 

僕「はいはい、開けるからどいてどいて」

少年「おねえちゃんたち、ここにいるんだろ?」

僕「いるよ・・・鍵を回して、っと」

 

少年に見えないように体を入れて暗証番号を打ち込む。

 

カチャッ

 

僕「はい、君は入っちゃ駄目」

少年「なんでだよー!」

僕「はいはい、さよなら」

 

何とか一緒に入ろうとする少年を押しのけて扉を閉める!

 

少年「あけろよ!あけろよ!入れろよー!」

 

ガシャン!ガシャン!ガシャン!

 

乱暴に蹴ってるなあ・・・

にしても雪沙ちゃん、弟たちに何を吹き込んだんだ!?

ここは天国って・・・さぞかし弟たちに自慢でもしたんだろうな・・・

 

僕「ただいまー・・・」

 

ぴんぽんぴんぽんぴんぽーん

 

呼び鈴がうるさい!

モニターを見ると・・・さっきの少年が何度も何度も押してる、

スイッチ切っておこう・・・むかつくなあ・・・と部屋に戻ると・・・

 

雪沙「おかえりなさ〜い」

僕「ただいま・・・わっ!どしたの、それ」

雪沙「おにぃちゃんに貰ったお金で買ってきたの〜」

 

ビニール袋いっぱいの駄菓子!

うまい棒、チロルチョコ、もち飴、ボールガム、

キャベツ太郎にサイコロキャラメル、グッピーラムネ、ミニポテトチップス・・・

 

僕「いくら買ったの」

雪沙「せんえんだよ〜」

僕「いいけど、食べカスちらかってるよ」

雪沙「あとでちゃんとおそうじするよ〜?」

僕「う、うん・・・口も拭くんだよ・・って、そうだ!」

 

さっきの弟のこと言わなきゃ

 

僕「19階の、エレベーター降りた所に君の弟がいたんだけど」

雪沙「たかゆきでしょ〜?うるさいからほっといて〜」

僕「何か言ったでしょ、ここのこと」

雪沙「うん!どこにいるの?っていわれたから〜」

僕「自慢しちゃ駄目だよ、ここのこと」

雪沙「でも〜、心配かけたくなかったから〜」

僕「うらやましがらせちゃ駄目だよ、1階で別の弟に蹴られたよ?」

雪沙「え〜?なりゆきはそんなことしないし〜・・・まさゆきでしょ〜」

僕「誰だかわかんないけど・・・」

雪沙「まさゆき、ゆきさの双子だよ〜、おとなしいけど急にけったりするよ〜」

 

いちいち名前を覚えられない・・・

 

僕「ちゃんと弟たちに、説明するんだよ?ここに住めるのは雪沙ちゃんたちだけだって」

雪沙「ん〜・・・言ったけど、たかゆき、きかなかった〜」

僕「きくまで言うの!」

雪沙「・・・は〜〜〜い」

僕「ふう・・・つっ・・・蹴られたとこがちょっと痛みだしてきた・・・」

 

めくって見ると赤くなってるや・・・

 

雪巳「おかえりなさーい・・・足、どうかしたのー?」

僕「君の弟に蹴られた」

雪巳「えー?隆幸でしょー」

雪沙「う〜ん、まさゆきだよ〜」

雪巳「雅幸!・・・おとなしいと思ったら、急にかんしゃく起こすからー」

僕「傷っていっても切れてたりはしてないから、放っておいたら治ると思う」

雪菜「・・・・・」

 

いつのまにか黙って入ってきてた雪菜ちゃん、

足の赤く腫れた所に顔を近づける・・・

眼鏡はめてるのにそんな近くで見なくても・・・

 

雪菜「・・・ふうっ」

僕「はは、さまさなくても平気だよ」

 

・・・・・れろっ

 

僕「ひあっ!?」

 

舌を出して、舐めたっ!!

 

れろれろっ、れろーーーーーっ・・・

 

僕「く、くすぐったい・・・」

 

念入りに、薬をつけるかのように舐めてくれる・・・

なんだか、ものすごく、いやらしい感じがするなぁ・・・

 

僕「も、もういいよ、ありがとう・・・」

雪菜「・・・・・弟が・・・ごめんなさい」

雪巳「ちゃんと消毒するー?」

雪沙「あとでまさゆき、ぶっとくね〜」

僕「いいよいいよいいよ、なーんにもしなくて大丈夫!」

 

忘れよう、この痛みは・・・

 

僕「さーて、パンフレットでも見るか・・・」

雪沙「テレビ、チャンネルがありすぎてどれがいいかわかんな〜い」

雪菜「・・・・・とりあえず回そうよ」

雪巳「私も休憩しよーっと」

 

テレビを眺める3人を尻目に、

夏休み用に溜めてた旅行パンフレットを並べる・・・

とりあえずはこの三種類だな、さて・・・

 

雪沙「おにぃちゃん、それなぁに?」

僕「ん?夏休みに僕が1人旅するパンフレット」

雪沙「どこかいくの〜?」

僕「そのつもり、それをこれから選ぶの」

雪巳「見せて見せてー、わー、おっきいお船!」

 

豪華客船のパンフレットに目を輝かせてる。

 

僕「それは『にっぽん丸で行く小笠原・サイパン・グァム・タヒチクルーズ』だね」

雪巳「これに乗って行くのー?」

僕「うん、3週間の旅、ただ1人はちょぉっと寂しいかな?」

 

あらら、3人ともこっちのパンフレットに集まってきちゃった。

 

雪菜「ここ、涼しそう・・・」

僕「フィンランドとアイスランドだね、フィンランドは中3の時にヨーロッパ旅行で行ったんだ」

雪巳「どうだったー?」

僕「ムーミンワールドが良かったよ、巨大テーマパーク公園だけど」

雪沙「のりものあるの〜?」

僕「ボートくらいかな?あんまりうるさくない、静かな感じ」

雪菜「ムーミン・・・いるの?」

僕「うん、ムーミンの家、スニフの家・・・魔法の森では急にシャワー降ってくるし」

雪巳「食べ物とかはー?」

僕「普通においしいよ、レストランはもちろん、焚き火で焼く巨大ウインナーはおいしかったぁ・・・」

雪沙「たべた〜い!」

僕「ここもう一度行こうと思ったのは、このウィンナーがあんまり美味しかったからなんだ」

雪菜「でも・・・日本語、通じない・・よね?」

僕「確かにステージでムーミンの劇とかやっててそれはフィンランド語なんだけど、でもだいだい見てわかるよ」

 

みんな目を輝かせてパンフレット見てる。

 

雪菜「アイスランドは・・・行ったこと・・あるの?」

僕「幼稚園のとき。だからほとんど覚えてないんだ」

雪巳「氷の国だってー、寒すぎないー?」

僕「でも、魚が日本より豊富だし世界一大きい露天風呂・ブルーラグーンはやたら広かった記憶があるんだ」

雪沙「お肉はないの〜?」

僕「ほとんど羊の肉ばっかりみたい、人口の5倍、羊がいるらしいから」

雪菜「パンフレット・・・オーロラが綺麗」

僕「オーロラだけはしっかり記憶してるんだ、実際で見ると写真より断然綺麗だよ!」

 

ここの1人旅もいいよなあ・・・

 

雪沙「こっちのお山は〜?」

僕「そのパンフレットはネパール・チベット旅行だね」

雪巳「お寺とかあるんだー」

僕「こういう所こそ1人旅でないと行けないから」

雪菜「・・・空気が薄いみたい」

僕「あと長雨がやっかいらしいけど、まあそれも旅のうちだから」

雪沙「しゅぎょ〜するの〜?」

僕「修行っていうより、本当にのーんびりするって感じかな」

雪巳「こんな崖の上にお寺があるー」

僕「でもちゃっかりロープウェイが通ってるのが、さすが21世紀だよね」

雪菜「ほんと・・・ずるい・・・」

僕「ずるいだなんて・・・急病人とか出たら大変でしょ?」

 

とはいえ雪菜ちゃん、ちょっと核心ついてたな・・・この子ほんと、かしこい。

 

雪沙「それで〜、どこいくの〜?」

僕「うーん、どこにしようかなー」

雪菜「・・・・・あ、テレビ」

雪巳「あー!いいなー」

僕「え?なになに?」

 

テレビを見ると・・・

 

もどる めくる