バス停で並んで考え込む也幸くん、

どうしてあんなに舞奈ちゃんはおしゃべりなんだろう?

ふと、よく鳴く猫を思い出す、ひっきりなしに鳴いてくる猫・・・

お腹が空いてたり、遊んで欲しかったり、怪我をしていたり、怒っててもずっと唸ってる。

必ず何かの苦痛を伴っている・・・だから舞奈ちゃんも、何かが苦しくて也幸くんに話をしているに違いないと思った。

 

ブルルルル・・・キキッ

 

バスが来て子供料金100円を入れた、

席の一番後ろ、一番端っこに座ってさらに考える。

舞奈ちゃんが苦しくて話しかけていて、話すことで楽になっているのなら、

ずっとずっと話を聞いてあげて楽にしてあげたい、だから公園には毎日通ってあげないといけない、

いつまで続くかわからないけど・・・1度だけ、夏休み最後の日にお別れしそうになった時は涙をこらえるので必死だった。

 

也幸「・・・・・(じわっ)」

 

思い出すと今でも胸が締め付けられる。

遠くへ引っ越しちゃうかもって聞かされて、

舞奈ちゃんにお別れのバイバイをいっぱい、いっぱい振った・・あんな思いはもう、したくない。

だから2年生になっても3年、4年、クラスが変わっても学校が別々になっても、公園で話を聞いてあげよう。

そう誓った也幸くんが、舞奈ちゃんがお喋りな本当の理由・両親が仲が悪くて冷戦状態のため舞奈ちゃんがひっきりなしに喋って、

何とか沈黙の家庭に賑やかさを醸し出そうとしていたため、というのを知るのは中学に入ってから聞かされる事となるのであった。

 

車内アナウンス「まもなく終点・・・」

 

駅の前でバスが止まった、

一番最後に降りる・・・帽子をくいっと上げて駅名を確かめる、

ここからまず東京駅へ行かなくては・・・とりあえず切符売り場に並んでみた。

 

也幸「・・・・・?」

 

タッチパネルとにらめっこする、

どこをどう押していいのか皆目検討がつかない、

とりあえず赤いボタンを押すが何も起きない、それは取り消しボタンだ。

 

おじさん「おや、どうしたんだい?」

 

ちょっとカビくさい匂いの知らないおじさんがやってきた。

 

おじさん「切符を買いたいのかい?じゃあね、おじさんが買ってあげよう」

也幸「!?」

おじさん「どこまで行くんだい?人の邪魔になるからあっちでお話しよう」

 

直感的にわかる・・・この人、悪い人だ!

 

也幸「!!!」

 

てけてけてけてけてけ〜〜〜!!

 

おじさん「ちょっと待ちなさい・・・・・ちっ!」

 

こういう危機感知能力はさすが、天賦の才能だ。

 

也幸「ーーーーー!!!」

 

たたたたた・・・どしん!

 

女子高生A「きゃっ!なになにー!?」

女子高生B「なんかつっこんできたー」

女子高生C「どうしたの?君、いくつ?」

 

これもひとつの才能なのか、逃げた先は女子高生のお姉さんたちだった。

 

也幸「ー!ーー!−−−!!」

 

猫猫園のパスが入った迷子札を見せ付ける。

 

女子高生A「なにこれ・・・ねこねこえん?」

女子高生B「裏も何か書いてある・・・とうきょうえき、そのあと、とみうらえき・・・」

女子高生C「富浦って千葉の下のほうだよねー?うっそー1人で行くのー?」

也幸「!!!(コクコクコク!!!)」

女子高生A「こっから東京駅は真っ直ぐだけど・・・香織、あんた駅には入るんでしょ?ホームまで送ってあげなよ」

 

なんだか良い展開に目をうるうるさせる也幸くん。

 

女子高生C「別にいいけど・・・君、お金はあるの?」

也幸「・・・・・!(パチンっ!さっ!)」

女子高生C「んー・・・わかった、じゃ、買ってあげるけど乗ってからは知らないからね」

 

ガマ口から1000円札だけを抜いて富浦駅までの子供料金を買ってもらう・・・

戻ってきた香織お姉さんは細かいおつりを也幸くんに返す、ありがとう、という感じでコクコク頷く。

 

女子高生A「じゃー香織お願いね」

女子高生B「明日の朝練、遅れちゃ駄目だからー」」

女子高生C「うんー!じゃあ・・・なり、ゆき、くん?いこうっ」

 

きゅうっ、とスカートを握る!

 

女子高生C「きゃっ!?もう・・・手はこっち!」

 

ぎゃくに、ぎゅうっ、と手を握られる。

改札へ・・・なかなか入るタイミングが掴めないでいると、

後ろで香織お姉さんが切符を入れてくれた、開いたゲートを駆け抜ける!

 

女子高生C「ちょっ、どこまで行くの!」

 

慌てて追いかけてくれた、

走り出すと止まらない也幸くん・・・

再び手を握られ東京行きの電車が入るホームへと連行される。

 

女子高生C「・・・次に来る電車に乗るの、わかった?」

也幸「!!!(コクコクコク)」

女子高生C「ついたら駅員さんか親切そうな人に富浦行きの乗換えを教えてもらってね」

也幸「!!!!!(コクコクコクコクコク!!)」

女子高生C「私は反対側だから、さよならー」

 

目いっぱい手を振る也幸くん!

程なくして電車が入り、急いで乗り込む・・・

空いてる席は無い、しょうがないから反対側の扉に背をつけて、ぼーっと立つ事にした。

 

也幸「・・・・・」

 

ぼーっとしながら考える、

もらわれていった猫たちは也幸くんを覚えているのだろうか?

せっかく会っても、ぷーいっ、とそっぽを向かれたら・・・也幸くんは泣いちゃうだろう。

 

ガタンゴトン・・・ガタンゴトン・・・

 

でも、それはしょうがない事なんだと思う、

だってもう完全に「よその家の猫」なんだから・・・

公園でいつも会っていた猫が急に来なくなった時を思い出し、じわっ、と目に涙が止まる。

 

プシューーッ

 

也幸「!!!」

 

もたれていた扉が開き、

リュックから仰向けに落ちそうになる!

 

女性「きゃっ!?」

 

知らない眼鏡のお姉ちゃんが支えてくれた!

 

女性「どうしたのー?ボクぅー」

也幸「!!!」

男性「どうしたんだ由優?」

女性「このボクがバックで倒れてきてー・・・」

也幸「・・・・・!!」

 

直感的にわかる!

この胸のおっきな香水臭いお姉ちゃん、

ものすっごーーーーっく、悪いお姉ちゃんだ!

 

也幸「!!(たたたーーっ)」

女性「あん!何よー助けてあげたのにー」

男性「急いでるんだろ、さあ乗ろう」

女性「・・・でも、私もあんな子供欲しいなぁ・・・ねぇ・・・」

男性「なんだよ急に・・・指輪買ってとか言い出すしよぉ

 

慌てて別の車両に乗り込んだ也幸くん!

あのお姉ちゃんは絶対に悪いことしてる、

そういう目に見えないオーラをビンビンに感じ取っていたのだった。

 

也幸「・・・・・」

 

同じおっぱいが大きくても雪巳お姉ちゃんと、どうしてこうも違うのだろう?

不思議がる也幸くんだったが、目と目が合ったらわかってしまうのだから、しょうがない。

嘘をついているか目を見たらわかる、といつか雪菜お姉ちゃんが言ってたのを思い出した。

たまに雪沙お姉ちゃんが「うそぢゃないってぇ〜」と言いながら嘘をついている事が何度かある、

その時はきまって声が微かに震え、言った後に変な間が入る・・・そういう微妙な空気を也幸君は感じ取っているのだ。

 

車内アナウンス「まもなく終点、東京〜東京〜」

 

とうきょう、という言葉にビクッと反応する!

 

也幸「!!!」

 

迷子札の裏を何度も何度も確認する!

ここを降りて、次は「とみうら」という駅まで行かなきゃいけない!

どきどきしながら扉の前で足踏みする・・・試練を乗り越えるたびに猫猫園が近づく!大冒険はまだ始まったばかりなんだ!!

 

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