僕「はい、お土産のカステラ」

雪香「わー、あんがと、病院食ってマジ甘さが足りなくてさー」

僕「明日、退院なんだって?・・なんだよね?」

雪香「まあね、丁度ウィークリーマンションも明日までだからさ」

僕「ウチは駄目だぞ、雪巳ちゃんたちだって明日で出て行くんだから」

 

・・・ちょっとポカーンとしてる。

 

雪香「そっか・・・そうなんだ」

僕「うん、元々そういう約束だったし」

雪香「んーーー・・・ひょっとしてアタシのせい?」

僕「ううん全然、それとはまた別の、大人の事情ってやつだよ」

雪香「そっか・・・雪菜はそれでいいの?」

 

複雑な表情で黙り込んでる。

 

雪香「・・・雪菜にゃ大人の事情はまだ早いみたいだね」

僕「でもまあ、仕方がないから」

雪香「仕方が無い、か・・私がこうなったのも、仕方が無いよね」

僕「そんな言い方しなくても・・・雪香、ちゃんは、その・・・」

雪香「決めた!もう9月から、ちゃんとする!何から何まで、ちゃんとするよ」

 

カステラを頬張りながら拳を握ってる。

 

僕「何をどうするの?」

雪香「んー、荷物まとめて、とりあえず帰るかな」

僕「あの、雛塚家へ!?荷物入るかなー」

雪香「そんなにないし、余分なのは外へ出すよ」

僕「寝る場所とか大変だろうけど・・・・・がんばって」

 

そろそろいいかな。

 

僕「雪菜ちゃん、帰り大丈夫だよね?」

雪菜「バス・・・乗って帰る・・・です」

僕「じゃあ僕はこれで、明日は何時に退院?」

雪香「午前中だから来なくていーよ、荷物まとめる作業あるから」

僕「頑張って、元気出してね!またな」

 

廊下へ出る・・・さあ帰ろう。

 

雪菜「お兄ちゃん・・・」

 

あれ?追いかけてきた?

 

僕「どうしたの?あ、バス代?」

雪菜「それはあるです・・・あの・・・耳を・・・」

僕「どうしたの?はい」

 

なんだろう

 

雪菜「・・・ふぅぅぅぅ〜〜〜」

 

ゾクゾクゾクッ!!

 

雪菜「あきらめない・・です・・ぜったい・・に」

 

そうつぶやいて、

吐息の嵐を残し病室へ戻った・・・

こ・・こわひ・・・雪巳ちゃんが言ってたの、これの事かぁ・・・・・

 

・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

僕「家に帰った・・・あれ?」

 

玄関に大人の靴が2足、

もう相談所の方が上がってるんだ!

 

雪巳「おかえりー、お茶出しておいたよー」

僕「ありがとう」

雪巳「ごゆっくりー」

 

入るとすでに来客室で座っている。

 

職員女「すみません、暑かったものですからつい、早く・・・」

僕「いえいいんです、僕も早く決断を伝えたかったですから」

職員男「では、お決めになられたのですね!?」

 

うわー・・・期待されてる、でもそれを裏切っちゃうんだ・・・

 

僕「・・・あの子たちとも話したんですが・・・養子の件は、無かった事で」

職員女「え!?それはまたな、なんで」

僕「昨日、警察にまた取り調べまがいの事をされまして、それでよく考えた結果・・・」

職員男「ちょっと待ってください、冷静に考えましょうよ」

僕「いえ、やっぱり風当たりが強いですし、それにここの管理人が逮捕された事で目が向けられてますから」

 

・・・・・また重い空気だ。

 

職員男「新聞で読みましたが・・・やはりあれは、きつかったですねえ」

僕「はい、だからといって時間を置く物でもないと思うんです」

職員女「わかりました、でしたら私たちも、次のケースを考える事にしたしますわ」

僕「どういう事、でしょうか?」

職員女「9月から改善されないようなら、雛塚家を児童虐待で告発しようと思っています」

 

うわ・・・すごい展開だ。

 

僕「それで・・・あの子たちはどうなるんでしょう?」

職員男「しかるべき保護施設から学校へ通うことになるでしょうね」

職員女「場合によってはあのご両親も逮捕対象になるかも知れません」

僕「そんな事になったら、下の家、誰もいなくなるんじゃ・・・」

職員男「仕方がないと思います、兄弟姉妹も離れ離れになりますが、それも仕方がないと」

 

まずい・・でも、だからって、どうしようもないよ・・・・・

 

職員男「それで、雛塚家の方にはもう行かれたのですか?」

僕「え?いえ何も言ってませんが・・・言わないと、まずいですよね」

職員女「・・・わかりました、こちらとしては想定外でしたので、持ち帰って考えます」

僕「もう帰られるんですか、すみませんわざわざ・・・」

職員男「我々は雛塚家へ寄って行きますが、どうなされますか?」

 

・・・・・ついていくか。

 

僕「じゃあ行きます」

 

一緒に玄関を出る・・・

1階について雛塚家へ、

チャイムを押す・・・反応が無いな。

 

僕「すみませーん、すみませぇーん」

 

・・・・・誰も出てこない?

中はドタバタしてるから、きっと出渋ってるだけだろう。

 

僕「雛塚さん、お話がー・・・」

 

ガチャッ

 

僕「あ、雅幸くん」

雅幸「・・・・・」

職員女「お父さんかお母さんいるかしら?」

雅幸「お母さん・・・ゴミ捨て場・・・」

僕「そうなの?ありがとう」

 

また使えそうなものでも漁ってるのかな・・・

職員さんたちと行くと・・・あれ?何か仕分けしてないか?

 

ビッグマザー「ほらほらどいた!ちゃんと分別して出直しなっ!」

僕「あのー・・・」

ビッグマザー「まったくもう、管理人がいなくなったせいで、回収されなくて、臭いったりゃあらしないわよ!」

職員男「まとめてくださってるんですか?」

ビッグマザー「誰もやらないんじゃしょうがないでしょ!嫌々やってるのよ!まったくもうっ!!」

 

すごい・・・あのビッグマザーが・・・・・びっくりした。

 

僕「あの・・・」

ビッグマザー「なんだいっ!?」

 

うわ、ギロリと睨まれた!

 

僕「その、8月いっぱいをもって、雪巳ちゃんたちを、お返しします」

ビッグマザー「あっそ・・・ふんっ」

僕「その・・・・・・それで・・・あの・・・」

ビッグマザー「用件はそれだけ?だったらさっさといきな!」

僕「は、はい、じゃあ僕は、これで!!」

 

職員さんたちを置き去りにするように逃げた!

まあ、後は任せよう、待ってても長くなりそうだし・・・

本当にこれで済んだのだろうか?ビッグマザー的には、きっといいんだろう・・・たぶん。

 

僕「戻ろう・・・」

 

・・・

・・・

・・・

 

僕「ただいまー」

雪巳「私たち、施設に入れられちゃうのー?」

雪沙「はなればなれになっちゃうのぉ〜〜?」

 

あっちゃー・・・こっそり聞かれちゃってたか。

 

僕「そうとは決まってないよ、君たちの両親がちゃんとすれば・・・」

雪巳「絶対無理ー、どう考えても無理ー、逮捕されちゃうのー?」

雪沙「やだよぉ〜、も〜ひっこせるところないっていってたもぉ〜ん」

 

だからって・・・無理なものは、無理だ。

 

僕「・・・雪香ちゃんが真面目にやるって言ってたから、働きに出たらみんなを・・・」

雪巳「そんなのあてにならないよー、どうしたらいいのー?」

雪沙「たすけてぇ〜、おにぃちゃんおねがいぃ〜、たすけてよぉ〜〜〜」

 

きつい・・・これは、きっつい・・・・・

 

雪巳「養子とかじゃなくって住むのも駄目ー?」

雪沙「おかねいっぱいかしてくれたら、おとなになったらかえすぅ〜」

僕「駄目・・・もうそこは、君たちの家庭の事情だから、立ち入れないよ・・・」

 

薄情と言われてもいい、

でも、養子に貰わないって決めた以上、

何があってもねじ曲げちゃ駄目だ!駄目なんだ!!

 

僕「部屋に・・・戻るよ」

 

入ると也幸くんが、

ソヨカゼの胸にスリスリしながら泣いてる。

そうか、下手をすると也幸くんだって、舞奈ちゃんとお別れになっちゃうんだ。

 

僕「也幸くん・・・」

也幸「〜〜〜〜〜(しくしくしくしくしく)」

僕「ソヨカゼは必ず幸せにするから、也幸くんも幸せになるんだよ」

 

あぁ・・みんなの幸せは、どこにあるんだろう・・・・・。

 

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