美鈴「決め手の物証になったのは、相談所の方が持ってた承諾証ね」

僕「え?・・・・・あ!雛塚のお父さんに書いてもらってた!」

美鈴「そう、夏休み期間、どこへ遊びに連れても構わないっていう・・・」

僕「てっきり雪菜ちゃんあたりが持ってるかと思ってたら」

美鈴「本当は駄目よ、こんな大事なもの、相談所の方とはいえ渡しっぱなしにしてちゃあ」

 

そうだよな、警察の人が来た時点でそれ見せてたら済んでたのかも知れないし。

 

美鈴「悪気はなかったんでしょうけど、相談所もあれを持っておきたかったんでしょ」

僕「こういう事があった時のために?」

美鈴「そうね、何か事件になったとき、悪い言い方をすれば責任逃れのために」

僕「じゃあ僕を助けたのは、相談所も監禁を見落としてた訳じゃないっていう証明のために・・・」

美鈴「そこまで言うことないわ、あくまでも君の人徳よ、それがあったから、みんな君を助けに来たのよ」

 

そうか・・・ちゃんと雪巳ちゃんたちの面倒を見てたから、無事に出られたんだ。

 

美鈴「これだけ人と証拠が揃えば、あとは畳み掛けるだけだったわ」

僕「みんな、頑張ってくれたんですね」

美鈴「最後の決定的な物証になったのは、君が雪巳ちゃんたちを養子に貰うっていう手続きの書類や資料ね」

僕「え?でもまだ提出もしてないのに・・・」

美鈴「だからよ、弟クンはこれから雪巳ちゃんたちを養子にもらおうかっていう大事な時期なのよ」

 

つまり、こういう事で養子が流れる可能性が出るって事か。

 

美鈴「せっかく弟クンが養子にもらってみんな幸せになろうって時に警察がそれを壊したとしたら?」

僕「それは・・・責任問題になるかも知れませんね」

美鈴「そうよ、警察はちょっとでも責任を問われそうになったらすぐ退くわ、無責任なくらいに」

僕「だからすぐに解放されたんですか、あんなにあっけなく」

美鈴「最近は冤罪が多すぎて問題になってるから、昔なら1度任意同行しちゃうと、とりあえず逮捕したでしょうね」

 

とりあえず逮捕、って居酒屋のビールじゃあるまいし!

 

美鈴「警察だけじゃなく、みんな、今回の事が理由で養子が流れたらまずいと思ってるから」

僕「みんな・・・じゃあ、美鈴ねえさんもですか?」

美鈴「んー・・・そうね、あの子たち、とても他人事だとは思えないから」

僕「ははは・・・もうすぐマンションだ」

美鈴「私も行くわ、君ももちろんだけど雪巳ちゃんたちだってショック受けてるはずだから」

 

そうだよな、小5〜中1の女の子だったら、

警察で事情を聞かれるだけでも、じゅうぶんショックだ。

 

美鈴「・・・・・さあついたわ、降りましょう」

僕「・・・・・」

美鈴「行くわよ・・・ほら、降りて降りて」

 

駐車場について歩き出すと、

急に体中が重くなり、足がおっくうになる。

全身を気だるい感覚が襲い、登山でもしてるかのように息が切れる。

 

美鈴「・・・・・大丈夫?」

僕「・・・・・・・・・」

美鈴「緊張の糸が切れたのね・・・部屋についたらベットに入るといいわ」

僕「・・・・・・・・・・・・・・うぅ・・・」

美鈴「困ったわね、これじゃあエレベーターも乗れないわね・・・」

 

急にいろんな感情がこみ上げてきた、

涙が・・また・・・膝がガクガクしてきた・・・あぅ・・・

 

美鈴「・・・先に部屋へ行ってるから、車まで戻る?」

僕「・・・・・いえ・・・いいで・・・す」

美鈴「・・・いい所に花壇があるわ、ここなら人目もつかないでしょうし・・・」

僕「すみま・・・・・せん」 

美鈴「私は雪巳ちゃんたちに色々話しておくから、歩けるようになったら部屋に戻るのよ、いいわね」

 

僕を置いて裏口からエレベーターへ・・・

ありがたい・・・今はとにかく・・・ひとりに・・なり・・た・・い・・・・・

 

僕「ぅ・・・ぅ・・・・ぅぁぁぁぁぁ・・・・・」

 

 

・・・・・

 

・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

いつのまにかあたりはもう、すっかり暗くなっている。

この感じだと日が沈んでから結構経っているはずだ、でも、でも・・・・・

 

僕「・・・・・・・・・・」

 

体が重くて動けない、

いや、動かしたくない、

重いのは体じゃなくて・・・・・心だ。

 

僕「・・・・・ぅ・・・ぅ・・・・・」

 

また涙が込み上げてきた、

こんなにも自分が弱い人間だとは思いもよらなかった、

きっと今までは、三姉妹が助けてくれてたから・・・でも・・・でも・・・

 

僕「・・・・・・・・もぅ・・・ぃゃ・・だ・・・」

 

何もかもが嫌になっている自分がいる、

胸の奥をズドーンと重い暗い深い何かが鎮座して動かない、

不安感、嫌悪感、恐怖感、苛立ち、ありとあらゆるストレスが台風のように体中で暴れている。

 

僕「・・・・・・・・ぁぅぅ・・・ぅ・・・ぅぁ・・・」

 

そろそろ戻らないといけないのはわかっている、

でも、でも、誰にも会いたくない、何もしたくない、

三姉妹に会う事すら、物凄く大きなストレスに感じてしまっている。

 

僕「・・・会って・・・何て言えばいいんだろう・・・」

 

家に戻って三姉妹と顔を合わせるのも辛い、

会ったら何か言わなくちゃいけない、でも言う事すら嫌だ、

何て言うか考えることすらしたくない、それに三姉妹が今の僕を見たらどんな顔をするだろう、

本当なら僕がちゃんと安心させてあげなきゃいけないのに、いま、助けて欲しいのは、僕だ!!

だからといって、三姉妹に気を使わせる事すらもストレスになる、つまり、もう、何があっても、嫌な気分にしかなれない・・・

 

僕「・・・・・時間が・・・解決してくれる・・はず・・だけ・・ど・・・」

 

一晩経てば、朝になっても駄目でもその翌日になれば、

胸もずいぶんと楽になるはずだ、それはわかりきっている、

でも、でも辛いのは今だ!何もかもから逃げ出したいような、

胃のむかつきから、心の重圧から、気が狂いそうなこのストレスから、

いっそ誰も知らない町へ走り出したいような・・でも、その走り出す事すら心が重すぎて出来ない!

 

僕「・・・・・・うっく・・うっく・・・・・うぅぅ・・・・・」

 

・・・・・・・・・あれ?

気配が・・・僕の前に、誰かが立っている?

ゆっくり顔を上げると、そこにいたのは、なんと・・・!!

 

也幸「・・・・・」

僕「!!!」

也幸「!!!!!」

 

僕がビクッと驚いたら、

それにビクッと釣られて驚く也幸くん!

いつから立っていたんだろう?よく見つけたもんだ僕を。

 

也幸「・・・・・(さっ)」

 

何かを差し出してくれた、

小さな手が開くとそこにあるのは・・・

 

僕「あ・・・・・飴!?」

也幸「・・・(コクッ)」

僕「くれる・・・の?」

也幸「!!!(コクコクコク!!!)」

僕「あ・・・ありがとう」

 

ちょっと溶けかかってる大きな飴玉、

あ、これっていつだったかデパート行った時、

北海道フェアで也幸くんが袋にいそいそと詰めてたやつだ!

 

僕「本当に・・・・・いいの?」

也幸「・・・(コックリ)」

僕「じゃあ・・・いただくよ」

 

たたたたたた・・・

 

僕が口に入れるのを見届けるとマンションの中へ駆けていった、

ひょっとしたらこれ、兄達から守った最後の1個だったのかも・・・?

そう思うと口の中に広がる甘味が、涙で弱りきった僕の、心の芯を奮い立たせてくれるようだ。

 

僕「・・・ん・・・ん・・・・・・」

 

これを全部溶かしたら、上へ戻ろう。

 

・・・・・ころころころ・・・

・・・・・・・・・ころころ・・・れろれろれろ・・・

・・・・・・・・・・・・・・ちゅううっ・・・かりっ・・・ころころころ・・・・・

 

僕「・・・・・・ん・・・よし、終わった」

 

ポツ、ポツ、ポツ・・・

 

僕「・・・丁度雨も降ってきた、入れって事か」

 

・・・・・ザザーーーーー・・・

 

人の気配が無いのを見計らってエレベーターに乗る、

19階につくと警察にしょっぴかれたのを思い出す・・・

それを振り払うように20階へのキーを開け、重い足を上げて階段を登る。

 

僕「・・・・・」

 

黙ったまま玄関を入ると、

音に気づいた三姉妹がやってくる、

でも顔を見れない・・・僕はうつむいたまま、つぶやくように言った。

 

僕「ごめん・・・・・1人にさせて・・・ほしい」

 

そのまま部屋に入り鍵をかける。

中は暗い、電気がついてないって事は、

僕が出て行ったそのままなんだろうか?

そのまま繋がった寝室へ・・・うん、誰もいない、

ソヨカゼや也幸くんがいたら出ていってもらうとこだったけど・・・

 

僕「布団かぶって・・・寝よう」

 

食欲も無い、

お風呂場へ行く気力もない、

とにかく今は横になって、心の回復を・・・・・待とう。

 

僕「・・・・・・・ぅぅぅぅぅ・・・・・」

 

こんな弱い心で・・・・・

三姉妹を養子に貰うなんて事は・・・・・

で・・で・・・でき・・・・できな・・・・・・い・・・・・・・・・・。

 

もどる めくる