美鈴「・・・これは前にちょっと話したことがあるかも知れないけど・・・」

僕「あああああーーーーーーー!!」

美鈴「な、なあに!?どうしたのよ!?」

 

思い出した!!!

 

僕「あの女の刑事!どこかで会ったと思ったら!!」

美鈴「思ったら!?」

僕「マザー牧場に1人で来てた、お姉さんだ!!!」

 

ということは、その頃から僕をマーク!?

だとしたら、日本の警察、まさに、お・そ・る・べ・し!!!

 

美鈴「・・・話を続けていいかしら?」

僕「あ、ごめんなさい!どうぞ・・・」

 

急に思い出して、話の出鼻を挫いちゃった。

 

美鈴「・・・前に話したことがあるかも知れないけど、私が小5の頃、家庭教師のお兄さんがいたのね」

僕「お兄さんって、家庭教師って事は実の兄とかじゃないですよね」

美鈴「そう、近所の大学生、当時22歳の、一浪してるけど結構有名な大学に通ってた人なの」

 

そのお兄さんが、どうしたんだろう?

 

美鈴「私ね、その家庭教師のお兄さんの事が、大好きになっちゃって」

僕「・・・なっちゃったんですか」

美鈴「ええ、それで小5の夏休みに・・・・・結ばれたの」

 

えええええーーーーー!!

 

僕「は、早い、ですね」

美鈴「そう・・・私がませてたっていうのもあったんだけど、我慢できない理由があったの」

僕「ちょっと待ってください、家庭教師っていうのは普通、同性をつけるもんじゃあ・・・?」

美鈴「それは業者の話ね、ケチって格安で近所の人に頼んだ訳だから、性別を選り好む余裕は無かったわ」

僕「それじゃあ仕方がないですね・・・それで理由って?」

 

淡々と話す美鈴ねえさん。

 

美鈴「そのお兄さんは脊髄、血液と肝臓に病気を持ってて、いつ悪化してもおかしく無い状態だったの」

僕「それなのに・・・その人は大学へ通っていたんですか」

美鈴「ええ、いつ悪化するかわからない変わりに、悪化しないで済む可能性もあったから」

僕「それは・・・つらいでしょうね、なのに大学へ通うって、凄いです」

美鈴「あの人は、自分の病気を治すために自分で医者になる、っていう人だったから・・・」

 

凄く寂しそうな目だ。

 

美鈴「だからこそ、いつ入院しちゃうか、最悪、そのまま死んじゃうかもって思ったから・・・」

僕「大好きなお兄さんが元気なうちに、っていう事ですね」

美鈴「お兄さんもそう思ってたんでしょうね、だから本当に、心の底から愛し合えたわ」

僕「だから我慢できなかった・・・大人になるのを待ってたら、お兄さんがもういなくなってるかも知れないからと」

美鈴「お兄さんも、もう死んでしまって私と会えなくなるかも知れないから」

 

死の恐怖と戦いながら受験して合格して大学へ行って・・・

おまけに家庭教師までして・・・心の安らぎを小5とはいえ美鈴ねえさんに求めるのも無理ないかも?

 

美鈴「それからは毎日のように愛し合ったわ、両親が共働きな事もあって、もう、なんでも・・・」

僕「な、なんでも、って・・・」

美鈴「多分、普通の人の一生分以上は性行為をしたと思うわ、ありとあらゆる・・・何から何まで」

僕「何から、な、ナニまで・・・・・でも、そのお兄さんは、そんな体で大丈夫だったんですか?」

美鈴「ええ、逆に元気になって、病気が治っていったの、もちろん完治する病気じゃないけど、見違えるほどに」

 

幼くても、愛の力は偉大なんだな。

 

美鈴「それで両親の目を盗んで愛し合い続けて1年たった小6の夏に・・・」

僕「あ、美鈴ねえさん、な、涙が・・・」

美鈴「絶対その日は帰ってこないはずの母が、急に帰ってきちゃって・・・」

僕「見つかっちゃったん・・・ですか」

美鈴「あっという間に警察が来て・・・そのまま連れて行かれたの」

 

涙をぬぐいながら車を横へ止める美鈴ねえさん、

ここから先は重い話だろうから、運転をやめてもらってじっくり聞いたほうがいいな。

 

僕「それで・・・どうなっちゃったんですか?」

美鈴「私も被害者って事で、警察に色々と聞かれたわ」

僕「・・・・・どう話していいか、難しいですね、その場合」

美鈴「でも私は幼かったし、あのお兄さんをとにかく助けたい一心で・・・」

僕「何もなかった、とか、誤解だ、とか言ったんですか?」

 

うつむきながら首を横に振った。

 

美鈴「何もかも・・・ありのまま・・・1年間の事を、正直に、話したの」

僕「それは・・・・・きついですね」

美鈴「本当のことを言えばわかってくれる、私は決して被害者じゃない、そう思って」

僕「思いっきり・・・逆効果になっちゃったんじゃ・・・」

美鈴「私が必死になって、話せば話すほど・・・それはあの人を追い詰める結果になったの」

 

もう涙が止まらない感じだ・・・ハンカチでぬぐってる。

 

美鈴「あの人を助けようと、本当に愛し合ってたって証明したかったのに・・・」

僕「聞いてもらえなかったんですか」

美鈴「・・・13歳未満との性行為は、合意であっても強姦罪で実刑3年なの」

僕「う・・・それは・・・・・厳しい、刑、ですね」

美鈴「合意であっても、っていう事は、私の意志はまったく取り合ってもらえないって事なの」

 

幼いから判断能力、責任能力が無いって事か、で、大人に全て罪がかかると。

 

美鈴「私が大人になってから裁判記録を見たら、それはそれは一方的で酷い内容だったわ」

僕「美鈴さんが証言できないなら、仕方が無いですよね」

美鈴「ううん、私がお兄さんのために言った、愛し合った証言が・・・私が騙された証拠っていうことになったの」

僕「騙されていたん・・・ですか?」

美鈴「お兄さんが、自分の命が危ないからって私を騙したって・・・決してそういう訳じゃ・・そういう事だけじゃないのに・・・」

 

きっと、そのお兄さんと美鈴ねえさんとの間には、

騙す騙さないだなんて事は次元が低く感じるような、

本当に2人だけにしかわらかないような愛情があったんだろうな・・・

 

美鈴「結局、私は母に見つかったあの日以来、大好きなお兄さんには二度と会えないまま・・・」

僕「・・・・・つらい・・・ですね」

美鈴「父や母も、私は騙されただけ、たぶらかされただけ、洗脳されただけ、とか酷い事を・・・」

僕「・・・取り合ってもらえないでしょうね」

美鈴「いくら泣き叫んでも、私は被害者、お兄さんは犯罪者って事に、もう、もう・・・・・」

 

当時の新聞とか見たら、大きく載っていそうだ・・・

これは・・・人事じゃない、もちろん美鈴ねえさんの過去だからっていうのもあるけど、

僕にだって、あのまま警察でボロ出してたら、同じ道を歩んでたかも知れない。

 

美鈴「でも私はあきらめなかったの、絶対に、もう1度会ってみせるって」

僕「会って・・・・・どうするん・・ですか」

美鈴「もう1度会って、あらためて恋人同士になって、ちゃんと結婚できれば、罪は消えなくても・・・」 

僕「愛し合ってた事実は正しかった、っていう事に、ならなくもないですよね」

美鈴「お兄さんの身の潔白を少しでも晴らすには、それしかないと思って・・・」

 

それからどうなったんだろう。

 

美鈴「それで私は猛勉強したわ、お兄さんに会いたいがためだけに」

僕「良い成績を取ったら親も認めてくれる、とか?」

美鈴「ううん、きっとどうやってもお兄さんの居場所は教えてもらえないでしょうし」

僕「そのお兄さんの方からも会いには来れないでしょうね」

美鈴「・・・私が看護婦になった理由は、そこにあるのよ、お兄さんの病気があったから・・・」

 

なるほど!病院でなら、そのお兄さんに会えるかも知れない!

 

美鈴「もちろん同級生に心臓病の子がいて死んじゃったのも影響してるんだけど、それも含めて看護婦になりたくて」

僕「看護婦なら、病院から調べれば、出所したお兄さんがどこに通院してるかわかるかも知れませんからね」

美鈴「お兄さんのためだけに・・・看護学校を卒業して、ようやく病院に勤めることになって・・・」

僕「それで、見つかったんですか?」

美鈴「・・・あちこちの入院・通院の資料を探したけど、なかなか見つけることはできなかったの」

 

・・・他の、違う県とかに引っ越しちゃったんだろうか?

もう2度と会わせないために、そういう事を強いるっていうの、聞いたことあるかも?

 

僕「なかなか、っていう事は、最終的には見つかったんですか?」

美鈴「ええ・・・パソコンやインターネットが普及して、資料がデータベース化されて、ようやく」

僕「どこに、いたんですか?」

美鈴「・・・・・すでに、いなかったわ・・・仮出所したその日に、病気が悪化して、そのまま・・・」

僕「そのまま・・・ってことは、その日のうちに・・・」

 

両手で顔を覆う美鈴ねえさん。

 

美鈴「私って馬鹿ね、せっかく看護婦になっても、通院や入院する間もなく死んじゃったら、会えやしないのに」

僕「でも、どうなったかがわかっただけでも・・・」

美鈴「・・・形見の1つも貰えなかったわ、1年間の思い出の品は全部、親に捨てられちゃったし」

僕「つらすぎますね・・・」

美鈴「もっと酷いのは、刑務所から私に手紙が送られてきてたらしいの、それも全部、黙って燃やされてて・・・」

 

親にしてみれば、ごく当然の行動なんだろうけど、聞いてるだけですごく胸がつらくなる。

 

美鈴「親や警察が言うような事は、言葉の理解はできるの、大人になるまで待たなかったお兄さんが悪いとか・・・」

僕「本当に愛し合ってるなら、我慢できたはず、みたいなことですよね」

美鈴「私からしたら親も警察も鬼よ!お兄さんのおかげで・・・今の・・・今の私があるん・・・だから・・・」

僕「・・・・・・・・・」

美鈴「それで・・・立ち直るのに何年もかかったけど・・次に愛し合う人ができたら、どんな事があっても、絶対に別れないようにしようって誓ったわ」

 

次に・・・僕の兄かな?

 

美鈴「正確には『別れられなくしよう』ね、それで出会ったのが、初恋のお兄さんに似た面影の・・・」

僕「そういう訳だったんですか」

美鈴「そうよ、一目でこの人ってキュンときて、後は汗拭くフリしていろんな事したり」

僕「そういえば兄の入院、個室だったからなぁ・・・」

美鈴「さんざんじらして、夜中に口では言えないような事を口でしたりとか・・・」

 

だんだん下ネタにはしってきたぞ!

 

僕「も、もうそのへんでいいです、僕の兄の話は」

美鈴「そう」

僕「なんか生々しくて・・・」

 

ゆっくり車を再出発させる。

 

美鈴「弟クンも警察で、さんざん絞られたでしょ?」

僕「いろんな意味で、恐かった、です」

美鈴「雪絵ちゃん雪音ちゃんの誤解されるような場面見られちゃったんだから、まあ犯罪者って決め付けてきたでしょうね」

僕「いくら説明しても、取り合ってくれないんですもん」

美鈴「そうよ、事情を聞くのが目的じゃなく、君を逮捕するのが目的で任意同行したんでしょうから」

 

ええっ、そんなにピンチだった!?

 

美鈴「警察は犯人ってきめつけてくるから、犯行を認めさせたいがために、嘘でも平気でつくわよ?」

僕「そんなことがあるんですか?」

美鈴「雪絵ちゃんや雪音ちゃん、それに雪巳ちゃんたちがこんな事言ってたってカマかけられなかった?」

僕「そこまでは・・・でも、証拠や証言がいっぱいあるとか、通報があるとか」

美鈴「やっぱり・・・自白させたいために嘘八百並べる警察もいるから、気をつけなさい」

 

じゃあ、そのへんも全部捏造って可能性もある訳か。

 

美鈴「ほんっと、君を救出するの、大変だったんだから」

僕「すみません・・・色々と手を回してくれたみたいで」

美鈴「手を回すって程のことじゃないけど・・・君が変に自白させられる前に、打てる手を全部打ったって感じね」

僕「そんな、時間との戦いみたいな」

美鈴「君って人が良すぎるから、言われるがままに自白調書に署名しちゃいそうで恐かったのよねー」

 

確かにああいう閉塞した空間だと、

追い詰められたら、早く楽になりたいって、書いちゃうかも・・・

 

美鈴「雪菜ちゃんから連絡があって警察署についた時、すでに女の子5人とも事情聴取受けてて」

僕「5人っていうと雪巳ちゃん雪菜ちゃん雪沙ちゃん雪絵ちゃん雪音ちゃんですね」

美鈴「警察は自分たちに都合のいい証言のみを抽出しようとするから、理論的かつ物理的に崩していかないといけないの」

僕「本当の事実より、言葉の一部分だけ抜き出されたら、どうとでもなるでしょうね」

美鈴「だからこそ、こっちは事実を揃えないといけないの、だからまず雪絵ちゃん雪音ちゃんが君に裸にされたって訳じゃない証明ね」

 

本当は証拠をそろえるのって警察の仕事なのに、

警察が僕を捕まえたいだけの証拠を集めようってするならば、

僕が捕まらない、捕まえてはいけない証拠をこっちは揃えるっていう事か。

 

美鈴「ただ雪絵ちゃん雪音ちゃんは証明できても、警察が来たのは雪巳ちゃんたちが監禁されてるって件だから・・・」

僕「それだったら雪巳ちゃんたちがしっかり言ってくれれば」

美鈴「あら、雪巳ちゃんたちが君に脅されてて、監禁されてないって言ったとしたら?」

僕「そんな!どっちかっていうなら、むしろ僕は押し付けられている方なのに」

美鈴「だ・か・ら、雛塚家のご両親にわざわざおいでいただいたのよ、嫌がってるのを無理矢理ね」

 

あのビッグマザーとバーサーカーなら、大変だったろうな。

 

美鈴「雪巳ちゃんたちが監禁されてた場合、被害届を出すのはご両親だから、その両親がしっかり許可出してたとなると」

僕「捕まえられませんね、無実だ」

美鈴「と、言いたいでしょうけど、簡単にはいかないの、親が許可出してても虐待されてたら親に関係なく刑事事件よ」

僕「そういえばニュースで親が子供に売春させてたとかいう事件を見た覚えがあります」

美鈴「だから今度はあの子たちが虐待されてない、快適にちゃんと生活してる証拠が必要になるの」

 

わかった!そこで児童相談所のあの2人が!

 

美鈴「警察は親の虐待から子供を保護する時、まずはそういう事例の履歴を調べるの」

僕「となると、警察が問い合わせるのは、児童相談所ですよね」

美鈴「そう、だから先手を打って、事情を話して弟クンの潔白を証言してもらったの」

僕「でも、雛塚家が雪巳ちゃんたちを酷い生活させてたのは事実だから・・・」 

美鈴「大事なのはそこじゃなくって、弟クンが雪巳ちゃんたちを保護してるっていう事実よ」

 

そうか・・・その証言で、警察が雪巳ちゃんたちを保護しなきゃいけなくなる理由は消えるのか。

 

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