美鈴「・・・これは前にちょっと話したことがあるかも知れないけど・・・」
美鈴「・・・前に話したことがあるかも知れないけど、私が小5の頃、家庭教師のお兄さんがいたのね」
僕「お兄さんって、家庭教師って事は実の兄とかじゃないですよね」
美鈴「そう、近所の大学生、当時22歳の、一浪してるけど結構有名な大学に通ってた人なの」
美鈴「私ね、その家庭教師のお兄さんの事が、大好きになっちゃって」
美鈴「そう・・・私がませてたっていうのもあったんだけど、我慢できない理由があったの」
僕「ちょっと待ってください、家庭教師っていうのは普通、同性をつけるもんじゃあ・・・?」
美鈴「それは業者の話ね、ケチって格安で近所の人に頼んだ訳だから、性別を選り好む余裕は無かったわ」
美鈴「そのお兄さんは脊髄、血液と肝臓に病気を持ってて、いつ悪化してもおかしく無い状態だったの」
美鈴「ええ、いつ悪化するかわからない変わりに、悪化しないで済む可能性もあったから」
僕「それは・・・つらいでしょうね、なのに大学へ通うって、凄いです」
美鈴「あの人は、自分の病気を治すために自分で医者になる、っていう人だったから・・・」
美鈴「だからこそ、いつ入院しちゃうか、最悪、そのまま死んじゃうかもって思ったから・・・」
美鈴「お兄さんもそう思ってたんでしょうね、だから本当に、心の底から愛し合えたわ」
僕「だから我慢できなかった・・・大人になるのを待ってたら、お兄さんがもういなくなってるかも知れないからと」
美鈴「お兄さんも、もう死んでしまって私と会えなくなるかも知れないから」
おまけに家庭教師までして・・・心の安らぎを小5とはいえ美鈴ねえさんに求めるのも無理ないかも?
美鈴「それからは毎日のように愛し合ったわ、両親が共働きな事もあって、もう、なんでも・・・」
美鈴「多分、普通の人の一生分以上は性行為をしたと思うわ、ありとあらゆる・・・何から何まで」
僕「何から、な、ナニまで・・・・・でも、そのお兄さんは、そんな体で大丈夫だったんですか?」
美鈴「ええ、逆に元気になって、病気が治っていったの、もちろん完治する病気じゃないけど、見違えるほどに」
美鈴「それで両親の目を盗んで愛し合い続けて1年たった小6の夏に・・・」
美鈴「絶対その日は帰ってこないはずの母が、急に帰ってきちゃって・・・」
美鈴「あっという間に警察が来て・・・そのまま連れて行かれたの」
ここから先は重い話だろうから、運転をやめてもらってじっくり聞いたほうがいいな。
美鈴「でも私は幼かったし、あのお兄さんをとにかく助けたい一心で・・・」
美鈴「何もかも・・・ありのまま・・・1年間の事を、正直に、話したの」
美鈴「本当のことを言えばわかってくれる、私は決して被害者じゃない、そう思って」
美鈴「私が必死になって、話せば話すほど・・・それはあの人を追い詰める結果になったの」
美鈴「あの人を助けようと、本当に愛し合ってたって証明したかったのに・・・」
美鈴「・・・13歳未満との性行為は、合意であっても強姦罪で実刑3年なの」
美鈴「合意であっても、っていう事は、私の意志はまったく取り合ってもらえないって事なの」
幼いから判断能力、責任能力が無いって事か、で、大人に全て罪がかかると。
美鈴「私が大人になってから裁判記録を見たら、それはそれは一方的で酷い内容だったわ」
美鈴「ううん、私がお兄さんのために言った、愛し合った証言が・・・私が騙された証拠っていうことになったの」
美鈴「お兄さんが、自分の命が危ないからって私を騙したって・・・決してそういう訳じゃ・・そういう事だけじゃないのに・・・」
本当に2人だけにしかわらかないような愛情があったんだろうな・・・
美鈴「結局、私は母に見つかったあの日以来、大好きなお兄さんには二度と会えないまま・・・」
美鈴「父や母も、私は騙されただけ、たぶらかされただけ、洗脳されただけ、とか酷い事を・・・」
美鈴「いくら泣き叫んでも、私は被害者、お兄さんは犯罪者って事に、もう、もう・・・・・」
これは・・・人事じゃない、もちろん美鈴ねえさんの過去だからっていうのもあるけど、
僕にだって、あのまま警察でボロ出してたら、同じ道を歩んでたかも知れない。
美鈴「でも私はあきらめなかったの、絶対に、もう1度会ってみせるって」
美鈴「もう1度会って、あらためて恋人同士になって、ちゃんと結婚できれば、罪は消えなくても・・・」
僕「愛し合ってた事実は正しかった、っていう事に、ならなくもないですよね」
美鈴「お兄さんの身の潔白を少しでも晴らすには、それしかないと思って・・・」
美鈴「それで私は猛勉強したわ、お兄さんに会いたいがためだけに」
美鈴「ううん、きっとどうやってもお兄さんの居場所は教えてもらえないでしょうし」
美鈴「・・・私が看護婦になった理由は、そこにあるのよ、お兄さんの病気があったから・・・」
美鈴「もちろん同級生に心臓病の子がいて死んじゃったのも影響してるんだけど、それも含めて看護婦になりたくて」
僕「看護婦なら、病院から調べれば、出所したお兄さんがどこに通院してるかわかるかも知れませんからね」
美鈴「お兄さんのためだけに・・・看護学校を卒業して、ようやく病院に勤めることになって・・・」
美鈴「・・・あちこちの入院・通院の資料を探したけど、なかなか見つけることはできなかったの」
もう2度と会わせないために、そういう事を強いるっていうの、聞いたことあるかも?
僕「なかなか、っていう事は、最終的には見つかったんですか?」
美鈴「ええ・・・パソコンやインターネットが普及して、資料がデータベース化されて、ようやく」
美鈴「・・・・・すでに、いなかったわ・・・仮出所したその日に、病気が悪化して、そのまま・・・」
美鈴「私って馬鹿ね、せっかく看護婦になっても、通院や入院する間もなく死んじゃったら、会えやしないのに」
美鈴「・・・形見の1つも貰えなかったわ、1年間の思い出の品は全部、親に捨てられちゃったし」
美鈴「もっと酷いのは、刑務所から私に手紙が送られてきてたらしいの、それも全部、黙って燃やされてて・・・」
親にしてみれば、ごく当然の行動なんだろうけど、聞いてるだけですごく胸がつらくなる。
美鈴「親や警察が言うような事は、言葉の理解はできるの、大人になるまで待たなかったお兄さんが悪いとか・・・」
僕「本当に愛し合ってるなら、我慢できたはず、みたいなことですよね」
美鈴「私からしたら親も警察も鬼よ!お兄さんのおかげで・・・今の・・・今の私があるん・・・だから・・・」
美鈴「それで・・・立ち直るのに何年もかかったけど・・次に愛し合う人ができたら、どんな事があっても、絶対に別れないようにしようって誓ったわ」
美鈴「正確には『別れられなくしよう』ね、それで出会ったのが、初恋のお兄さんに似た面影の・・・」
美鈴「そうよ、一目でこの人ってキュンときて、後は汗拭くフリしていろんな事したり」
美鈴「さんざんじらして、夜中に口では言えないような事を口でしたりとか・・・」
美鈴「雪絵ちゃん雪音ちゃんの誤解されるような場面見られちゃったんだから、まあ犯罪者って決め付けてきたでしょうね」
美鈴「そうよ、事情を聞くのが目的じゃなく、君を逮捕するのが目的で任意同行したんでしょうから」
美鈴「警察は犯人ってきめつけてくるから、犯行を認めさせたいがために、嘘でも平気でつくわよ?」
美鈴「雪絵ちゃんや雪音ちゃん、それに雪巳ちゃんたちがこんな事言ってたってカマかけられなかった?」
僕「そこまでは・・・でも、証拠や証言がいっぱいあるとか、通報があるとか」
美鈴「やっぱり・・・自白させたいために嘘八百並べる警察もいるから、気をつけなさい」
美鈴「手を回すって程のことじゃないけど・・・君が変に自白させられる前に、打てる手を全部打ったって感じね」
美鈴「君って人が良すぎるから、言われるがままに自白調書に署名しちゃいそうで恐かったのよねー」
追い詰められたら、早く楽になりたいって、書いちゃうかも・・・
美鈴「雪菜ちゃんから連絡があって警察署についた時、すでに女の子5人とも事情聴取受けてて」
僕「5人っていうと雪巳ちゃん雪菜ちゃん雪沙ちゃん雪絵ちゃん雪音ちゃんですね」
美鈴「警察は自分たちに都合のいい証言のみを抽出しようとするから、理論的かつ物理的に崩していかないといけないの」
僕「本当の事実より、言葉の一部分だけ抜き出されたら、どうとでもなるでしょうね」
美鈴「だからこそ、こっちは事実を揃えないといけないの、だからまず雪絵ちゃん雪音ちゃんが君に裸にされたって訳じゃない証明ね」
僕が捕まらない、捕まえてはいけない証拠をこっちは揃えるっていう事か。
美鈴「ただ雪絵ちゃん雪音ちゃんは証明できても、警察が来たのは雪巳ちゃんたちが監禁されてるって件だから・・・」
美鈴「あら、雪巳ちゃんたちが君に脅されてて、監禁されてないって言ったとしたら?」
僕「そんな!どっちかっていうなら、むしろ僕は押し付けられている方なのに」
美鈴「だ・か・ら、雛塚家のご両親にわざわざおいでいただいたのよ、嫌がってるのを無理矢理ね」
美鈴「雪巳ちゃんたちが監禁されてた場合、被害届を出すのはご両親だから、その両親がしっかり許可出してたとなると」
美鈴「と、言いたいでしょうけど、簡単にはいかないの、親が許可出してても虐待されてたら親に関係なく刑事事件よ」
僕「そういえばニュースで親が子供に売春させてたとかいう事件を見た覚えがあります」
美鈴「だから今度はあの子たちが虐待されてない、快適にちゃんと生活してる証拠が必要になるの」
美鈴「警察は親の虐待から子供を保護する時、まずはそういう事例の履歴を調べるの」
美鈴「そう、だから先手を打って、事情を話して弟クンの潔白を証言してもらったの」
僕「でも、雛塚家が雪巳ちゃんたちを酷い生活させてたのは事実だから・・・」
美鈴「大事なのはそこじゃなくって、弟クンが雪巳ちゃんたちを保護してるっていう事実よ」
そうか・・・その証言で、警察が雪巳ちゃんたちを保護しなきゃいけなくなる理由は消えるのか。