連れてこられたのは交番ではなく、

警察署の取調べ室だった・・・さっきの背広の人が恐い顔で向かいに座って僕にあれこれ質問する。

 

僕「だからちゃんとご両親の許可を得て、うちに住まわせてるだけですから!」

背広「だからって、あんな事をしていい訳はないでしょう」

僕「何度も言わせないでください!あれは前からあの子たちが勝手に・・・」

背広「ほう、前から・・・今、前からとおっしゃいましたね?いつからですか?」

僕「えっと7月の・・・とにかく!あれは僕がやらせたんじゃないですから!」

 

何度も同じ事を聞いては、神経を逆なでするような言い方をしてくる・・・

わざと怒らせているとしか思えない、それに乗せられる方も悪いけど、どうしようもない。

 

背広「こちらも何の証拠もなく動いてる訳じゃないんですから、ちゃんと通報があったんですから」

僕「それは何かの間違いです!なんであの子たちが勝手にした、いたずらみたいな事で僕がこんな目に・・・」

背広「こんな目って言われましてもお話を聞いてるだけです、それとも『こんな目』とまで言うような心当たりがあるんですか?」

僕「心当たりって・・・じゃあその証拠を見せてくださいよ!」

背広「証拠はあります、お見せはできませんが内容は一部、お教えしましょう」

 

何かのコピーを見て恐い顔になってる。

 

背広「あのお子さんたちの学校でアンケートを取ったとき、貴方が少女の下着を盗んでいると書かれていまして」

僕「ええーーー!?その、その証拠はあるんですか?無いでしょう?してないんですから!」

背広「さらに、少女を監禁しているという通報も電話でありまして・・・それで周辺を捜査いたしまして、証言が沢山出ました」

僕「どこのどいつですかそれは!・・・証言って、いったいどんな!」

背広「言わなくても、心当たりがあるでしょう!ほら、もう証拠は出揃ってるんですよ!?」

 

ひどい・・・犯人って決め付けてる・・・

 

背広「ちょっと席を外しましょう、よーく考えて、本当のことを言うんですな」

 

取調室を出ていった、

部屋には筆記の婦警さんと僕だけ・・・

下着なんて盗んでない、でもあの子たちとの関係を胸張って何も無いって言えるかというと・・・

 

僕「・・・・・・・うぅ」

 

まずい、泣きそうになってきた・・・

雪巳ちゃんたちとの、3姉妹の少女と甘い甘い生活を送った結末が、これか!?

養子だとか、あの子たちを守るとか言ってた僕なんて、外の目から見たら、所詮はこんな扱いなのか・・・

 

僕「ぅ・・・ぅぅ・・・・・」

 

涙がこぼれてきた・・・

駄目だ、泣いたら、ある事ない事なんでも認めちゃいそうだ!

あの子たちを、そして自分を信じるしかない!やましい事なんて・・・・・な・・・・

 

背広「落ち着いたかね?」

僕「・・・・・あの子たちは・・雪巳ちゃんたちは・・・」

背広「ああ、保護したよ、みんなね」

僕「え?・・・保護って、あの子たちは、普通にお手伝いとして働きにきてるだけで・・・」

背広「それだよ、小中学生の労働は保護者と警察署の許可が必要なのはご存知ないのかね?」

 

ええーーーー!?

 

背広「その手続きをしていないだけで、すでに労働基準法違反だ」

僕「そんなー!ちゃんと両親の許可は・・・」

背広「許可証はあるのかね?両親に一筆貰ったのかね?」

僕「いえ・・・でも、遊びに連れて行っていいって許可証はあります!」

背広「ほう、だったら見せてもらいたいね、まあそれはあくまで容疑の1つだから置いておこう」

 

罪を1つ確定させた、て感じでほくそえんでる・・・

 

背広「いやー、今時の幼い少女は進んでいてねー、この前もね、中学生の少女が大人とラブホテルから出てきた所で捕まってねえ」

僕「・・・・・」

背広「お金の受け渡ししてないからって言うんだが、同意でも金銭の授受がなくても、中学生が相手ってだけで男は児童福祉法違反なんだよねぇ」

僕「・・・・・何が言いたいんですか」

背広「洗いざらい全部言った方が、君のためだし、あの少女たちの将来のためでもあるんだよ?」

 

な、何を言わせたいんだっ!!!

 

背広「いやー君は凄いね、監禁とまでは言わなくても、あんな少女たちを囲って・・・」

僕「困ってたから、両親同意のもと、住まわせてただけです!!」 

背広「・・・さて、私はあの少女たちに色々聞いてくるとしよう・・・また後でじっくり聞くから、今夜は泊まりになるよ」

 

もう嫌だ・・・

机に腕を置き、その上でうつ伏せになる・・・

みるみるうちに腕が涙で濡れるのがわかる・・・ううぅ・・・・・

 

僕「・・・・・・・・・ひっく・・・ひっく・・・」

 

なんで20歳にもなって

こんなふうに泣かなきゃいけないんだ・・・

帰りたい・・・でも泊まりになるって・・・逮捕されちゃうんだろうか・・・

 

・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

女性「さて・・・顔を上げてください」

 

いつのまにか向かいから声が・・・

顔をあげると、お姉さんとおばさんの境いって感じの人が座ってる、

警察のバッジつけてるから、この人も警部とか警部補とか刑事とかそういう人なんだろうか?

 

女性「・・・私の顔に、見覚えがありませんか?」

僕「え?」

女性「よーーーく見てください、お会いした事、ありませんか?」

 

誰だ!?

言われてみると、

どこかで見たような見てないような・・・

 

たたたたた・・・

 

警官「失礼します!!」

 

警察官が入ってきて目の前の人に何か耳打ち・・・

遅れて背広の人が来た、戻ってきたと言うべきか・・・

 

背広「いやぁすまないね、君の疑いはとりあえず晴れたよ」

僕「は!?」

背広「君のお姉さんが待っているよ」

 

美鈴ねえさんだ!!

 

女性「警部、まだ私の話が・・・」

背広「いいんだ、嫌疑はもう晴れたから!帰っていいよ」

僕「その・・・労働基準法違反とか言ってたのは!?」

背広「一緒に住んでいてのお手伝いなら、何も問題は無いよ、さあさあ」

僕「はい!じゃあ・・・失礼します!!」

 

警察官の案内で1階のロビーへ行くと・・・

いた!美鈴ねえさんに、雪巳ちゃんに雪菜ちゃんに雪沙ちゃん、

雪絵ちゃんに雪音ちゃんに、ビッグマザーに酒飲みファーザーに、

児童福祉相談所の人たちまで!オールスターキャストで揃っている!!

僕を見て雪巳ちゃん雪菜ちゃん雪沙ちゃんが走ってとびついてきた!!!

 

雪巳「お兄ちゃーーーん!!」

雪菜「お兄ちゃん!お兄ちゃん!」

雪沙「おにぃちゃんだ、おにぃちゃんだぁ〜!!」

 

三人とも押し倒さんばかりだ!

 

雛塚母「まったくもー警察のくせにウチの娘を誘拐して!ただじゃおかないからね!」

美鈴「これはあきらかに任意同行を超えた職権乱用ですので、のちほど正式に抗議させていただきます」

警官「まあまあ、こうしてもう話を聞き終わって、帰っていただくんですから・・・」

美鈴「当然です!義弟に何かあったら、国家賠償請求の手続きを取らせてもらいますから!」

雛塚母「で、帰りはちゃんと警察で送ってくれるんでしょうね?さっさと車を用意しなっ!!」

 

うわ、すごい!

ビッグマザーと美鈴ねえさんが、

タッグを組んで警察に抗議している!!

あの2人で揃って文句言われたら、そりゃあ僕も解放される訳だ・・・

恐るべし最凶タッグ、いや、最強タッグ!ちゃんとお礼を言わないと・・・

 

僕「ご迷惑をおかけしました」

雛塚父「いや、こちらこそ・・・もっとちゃんと書面を残すべきでした」

雛塚母「まったく、あんたがちゃんとしてりゃ、私たちもこんな所呼び出されなくて済んだんだからねっ!」

僕「はい、本当にすみません」

美鈴「相談所の方々も必死に弟クンの無実を主張してくれたのよ?」

 

相談所の職員さんにも頭を深く下げる。

 

僕「本当にすみません・・・」

職員女「いえいえ、私たちは事実を伝えただけですから」

職員男「まさかこんな事になるとは、私どもも、びっくりしました」

 

三姉妹は、あいかわらず僕にぎゅうううっと抱きついてる。

 

警官「車の用意ができました」

職員男「では私どもは事務所の車で来たのでそのまま帰らせていただきます」

職員女「明日か明後日あたり、あらためてお宅までお伺いしてよろしいでしょうか?」

僕「はい、それはもう・・・」

雛塚母「ほらほら、もうこんな所に用は無いよ!さっさと帰るよ!!」

 

うん、正直ここから1秒でも早く出たい。

 

雪絵「ここつまんなぁ〜い」

雪音「おうちへかえるぅ〜」

 

まとわりつく三姉妹も僕を外へと引っ張り出す。

 

雪沙「おにぃちゃん、めがまっかぁ〜」

雪菜「はやく・・・一緒に帰る・・・です」

雪巳「私たち、一生懸命、お兄ちゃんが無実だって証明したんだよー」

 

三姉妹も取り調べというか事情聴取を受けたんだろう、

嫌な気分にもなっただろうに・・・なのに、こんなにも僕を心配してくれている。

 

美鈴「弟クンは私と帰ります、雪巳ちゃんたちはお母さんたちと帰ってね」

雪巳「えー、お兄ちゃんと一緒にー」

僕「・・・・・ごめん、美鈴ねえさんと、2人で帰らせて」

雛塚母「ほらアンタ、行くよ!ふらふらしないのっ!!」

雛塚父「おっと・・・まだ酒が抜けきってない・・・ぁうっ・・・」

 

渋々と警察の用意したワンボックスカーに入る三姉妹、いや五姉妹、と雛塚夫婦。

そして僕は美鈴ねえさんの車へ入り出発・・・児童相談所も含め3台が警察署を後にした。

 

美鈴「・・・・・災難だったわね」

僕「・・・・・」

美鈴「はいリンゴジュース、これ飲んで落ち着きなさい」

 

缶を受け取り開けようとすると、

ぽたっ、ぽたっ、と雫が指に落ちる・・・

堰を切ったように軽い嗚咽と震えがあふれ出す・・・

 

僕「う・・・ぅ・・・ぅ・・・・・」

美鈴「まったくもう・・・警察ってあいかわらずね」

僕「・・・・・ぅ・・・ぅうぅ・・・」

美鈴「弟クンも任意同行なんだから、うまく振舞えば連れて行かれる事なかったのに」

僕「・・・・・・・・・・・・・・はぃ・・・・・」

美鈴「とは言っても無理よね、警察もそういう所はプロなんだし、弟クンの心理をうまく突いたんでしょうし」

僕「ついていかない方が・・・よかったん・・・ですか」

 

でも、あれは逃げられないよな・・・

 

美鈴「・・・弟クンには先に話しておくべきだったわね」

僕「え?何を・・・・です・・か?」

美鈴「私の過去をよ、君のお兄さんにしか話してないような、私のつらい過去の話」

僕「いつの・・・・・話、ですか?」

美鈴「私が小学校5年から6年にかけての話よ、聞いてくれる?黙って聞いてるだけでいいから」

 

どんな話なんだろう・・・?

 

もどる めくる