也幸「・・・・・」

 

待ち構えていたのは也幸くん!

しかも、ソヨカゼと何かの板を抱えて!!

 

僕「どうしたの?」

也幸「・・・・・・・!!」

ソヨカゼ「にゃぁ〜〜〜」

 

板を置き、その上にソヨカゼを乗せる。

爪を研ぎ始めた・・・あぁ、これはネズミーのお土産の、猫用爪とぎ機だ。

 

ばりばりばり・・・

 

僕「あ、これをソヨカゼに買ってあげたの、美鈴ねえさんに見せたかったの?」

也幸「・・・ーーー!!」

美鈴「あらあら可哀想ね、ちょっと見せてもらうわね」

 

ソヨカゼを持ち上げて、

怪我してる方の腕の肉球を押さえて離して押さえて・・・

美鈴ねえさんは何して遊んでるんだ?也幸くん、すごく不安そう。

 

美鈴「あ〜〜〜、これはもう駄目ね、治らないわ」

也幸「!!!」

僕「な、何がですか?」

 

再びソヨカゼを置くと、また爪を研ぎ始めた。

 

美鈴「よーく見てごらんなさい」

僕「え・・・あれ?爪が、ちょっと引っ掛かってる?」

 

2本だけ、研ぐっていうより引きずられてる感じだ。

しゃがんで也幸くんと同じ目線になる美鈴ねえさん。

 

美鈴「きっと事故起こしたときに指も轢かれてたんでしょうねー」

也幸「ーーーーー!!!」

美鈴「もう爪は元には戻らないわ、出し入れするための靱帯や神経が切れてるみたいだから」

僕「ええっ!?人間みたいに手術でどうにかはならないんですか!?」

美鈴「無理よ、小さすぎるし細かすぎるし、何より猫だし・・・」

 

ぎゅううっ、とソヨカゼを抱きしめる也幸くん。

 

美鈴「也幸くん、ソヨカゼは平気よ、爪が2本だけ出たままになってても、生活に支障は無いわ」

也幸「・・・・・(うるうる)」

美鈴「獲物を捕まえる力がほんのちょっとだけ減ってるかも知れないけど、飼い猫だから関係ないし」

僕「そもそも、もうおじいさん猫だから動きも鈍いですからね」

美鈴「猫は生命力が凄く強いから・・・例え歳取って目が見えなくなっても、音と気配で狩りはできるものよ」

 

あぁ、ぼろぼろと涙をこぼしてる也幸くん、

その頬を舐めてあげるソヨカゼ・・・爪2本だけで、こんなに傷ついちゃうんだ。

 

僕「獣医さん、なんで教えてくれなかったんだろう・・・」

美鈴「急患で教える程の大きい事とは思わなかったんでしょ、次行った時に教えてくれるはずよ」

僕「じゃあ気づかなかった訳じゃないんですね」

美鈴「怪我してる側の腕だし消毒もしてあるし・・・骨折の方が、おおごとですもの」

也幸「・・・・・(ひっく・・・ひっく・・・)」

 

そっと也幸くんの頭をなでてあげる美鈴ねえさん。

 

美鈴「爪とぎをプレゼントして、研いでる所を見てて気づいたのね?偉いわね」

也幸「・・・・・・・(えぐえぐ・・・)」

美鈴「ソヨカゼもきっと感謝してるわ、事故したときソヨカゼを連れてきてくれなかったら、死んじゃってたかも知れないわね」

也幸「・・・ーーー(ぽろぽろ・・ぼろぼろ)」

美鈴「だからソヨカゼの命の恩人よ、失った2本の爪の力以上に大事なものを也幸くんから貰ったのよ?」

 

ソヨカゼのほうが心配なのか也幸くんにスリスリしてる。

 

也幸「・・・・・ソヨカゼ・・・・・」

ソヨカゼ「にゃぁ〜〜〜(ゴロゴロゴロ)」

僕「ソヨカゼがおじいさん猫なのにこんなに元気なのも、也幸くんに何か教えたいからかも」

美鈴「さあ、もう行かなくっちゃ」

僕「あ!ネズミーのお土産があるので、車まで運びます」

 

大事な資料をとりあえず部屋まで運んで、

かわりにネズミーの美鈴さん用お土産を・・・

玄関に戻るともう靴を履いてる、一緒に外へ出る。

 

僕「わざわざ本当にありがとう」

美鈴「頑張ってね、私は今週いっぱい忙しいから」

僕「バイトとはいえ大変なんですね」

美鈴「9月から2週間ほど夏休み取るから、それまでに色々する事があるのよ」

僕「えー、9月に入ってやっと夏休みなんですか」

 

エレベーターに乗り込む。

 

僕「どこかへバカンスでも?」

美鈴「んー、とりあえずは君のお兄さんと2人っきりで部屋に篭るかなー」

僕「えー!?2人だけで、しかも部屋に、ですか!?」

美鈴「そ、何をするかは聞かないでねー、教えられないし、聞かない方が身のためよ」

僕「こ・・・こわひ・・・聞かなかった事にします」

 

恐い、を思わずこわひ、って言っちゃうくらい恐いよ。

 

美鈴「也幸くん、ほんとに良い子ねー」

僕「はい、純真で、素直・・・なのかな?とにかく良い子です」

美鈴「だからってあのままで育てちゃ駄目よ、ちゃんと、しつけはしないと」

僕「え?ソヨカゼ・・・ですか?」

美鈴「也幸くんよ!小学1年生なら、ちゃんと子供に対するしつけが必要、重要な時期よ」

 

1階について駐車場へと向かう。

 

僕「あの也幸くんが、悪い子に育つなんて、考えられないけど・・・」

美鈴「そんな決め付けは偏見よ、育てるにあたって危険だわ」

僕「でも也幸くんは、あのままのびのびと自然体で育てた方が・・・」

美鈴「悪い子にはならなくても、常識の無い、頭のおかしな子に育っちゃうわよ?」

僕「そんな!雪沙ちゃんだって、ちゃんと面倒見てるし」

 

それにソヨカゼだって也幸君を教育・・・って猫はさすがに無理か。

 

美鈴「雪沙ちゃん小5でしょ、育ててもらう立場の子よ」

僕「じゃあ・・・どうすればいいんですか?」

美鈴「言葉や挨拶とか、人間らしい普通の事を、まずはさせた方がいいわね」

僕「無理に喋らせるの、可哀想な気が・・・それに也幸くんは也幸くんらしい方が・・・」

美鈴「そんなの虐待よ、手をあげない暴力、しつける事を放棄した、あの雛塚家の両親と同じよ!?」

 

それはまずい・・・そうか、やっぱりちゃんと教えなきゃな。

 

美鈴「車の後ろ、開けるわね」

僕「はい、詰めます・・・じゃあ也幸くんと話し合ってみます」

美鈴「面白いから、かわいいから、ってそれじゃあペットと一緒よ」

僕「そんな酷いことは考えてません!」

美鈴「だったら、甘やかすのはやめなさい・・・雪巳ちゃんたちもね」

 

お土産を入れ閉めるとエンジンがかかった。

陽射しが強いせいか、サングラスをかける美鈴ねえさん。

 

美鈴「相談には乗ってあげる、忠告もしてあげるわ、でも決断は君がしなさい」

僕「はい、わかりました」

美鈴「9月に入ったら2週間は連絡も取れなくなるから・・・資料ちゃんと、しっかり読みなさいねー!」

 

車を走らせて行った・・・

もう美鈴ねえさんの手は借りない方がいいだろう。

さあ、部屋に戻ったら、溜まった夏休みの宿題みたいな資料を整理するぞー!

 

 

・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・

 

雪菜「お兄ちゃん・・・夕食できた・・・です」

僕「もうそんな時間?早いなあ」

雪菜「もうすぐ8時・・・です」

 

まだ資料、半分も読めてないや。

 

雪沙「なりゆきぃ〜、なんでかわりに手ぇだすのぉ〜?」

也幸「!!!(キリッ)」

ソヨカゼ「にゃぁ〜〜〜」

雪沙「ソヨカゼじゃらしてるのにぃ〜、けがしてる手のかわりになりゆきが手ぇだしちゃうぅ〜」

僕「それはきっと、ソヨカゼを助けてあげてるんだよ」

 

失った2本の爪の代わりになってあげてるんだろうなー・・・って爪自体はまだついてるけど。

 

雪巳「ただいまー、お兄ちゃん、雪香お姉ちゃんがー」

僕「雪香がどうかしたの!?」

雪巳「さっき下で会ってねー、お兄ちゃんにお金返すって、これー」

僕「これ?プラスチックの箱に入った・・・キーホルダー?これがお金?」

雪巳「うんー、パチンコで勝ったからってー、これで交換できるんだってー」

 

☆パチンコ景品☆

 

ああ、換金用の景品か。

現金で返さない所が雪香らしいな、

ちゃんとこうやって持ってくるって事は、根は完全に悪い奴って事じゃなさそうなんだけどなー・・・

 

僕「いくらになるかわかんないけど明日、変えてくるよ」

雪巳「ご飯もう食べちゃったー?」

僕「まだだよ、みんなで一緒に食べよう」

 

そして、食べ終わったらまた資料の続きだ!

今夜は遅くまで起きることになりそうだなぁ・・・。

 

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