遅い昼食を終えた足で、

人魚島エリアの外れへやってきた。

滝の裏側にいる人魚姫と写真を撮るためだ。

 

僕「結構並んでるなー」

雪菜「20分待ちって出てる・・・です」

雪絵「にんぎょさんにほんごしゃべれるぅ〜?」

雪音「おさかなだから、ぶくぶくゆ〜のかなぁ〜」

也幸「・・・・・・・・」

 

列で期待に胸を膨らませてる雪絵ちゃん雪音ちゃんと、

どっちかっていうと、ただ無関心に並んでる也幸くん。

いや、無関心なんじゃなく、無心、無我の境地だな、何も考えてないだけか。

 

僕「也幸くん、何がいても逃げちゃ駄目だよ」

也幸「・・・・・」

雪菜「目つむっちゃった・・・です」

僕「恐いのが来ても、これなら大丈夫ってこと?」

也幸「・・・(コクッ)」

 

ちょっとは進歩したというか、

このまま寝ちゃうんじゃないか?

なんてぼーっとしているうちに僕らの順番がきた。

 

女性従業員「はーい、では人魚姫はこちらになりまーす」

雪菜「也幸・・目をあけても・・・平気・・・」

也幸「・・・・・?(ぱちくり)」

 

うん、確かに。

厚化粧でケバいおばさ・・・お姉さまだけど、

普通の人間に下半身を尾ひれ風の服?袋?に入れた感じ、

着ぐるみじゃなく単なるコスプレみたいなもんだから大丈夫だろう。

也幸くんがトコトコと歩み寄って・・・ぱたぱた動く尾ひれを突っついてる。

 

人魚姫「ハーイ!グッドイブニーン!!」

雪絵「はろぉ〜」雪音「ぐっばぁ〜い」

僕「こら!もう別れてどうするの!」

雪菜「駄目・・・也幸・・・引っ張っちゃだめ・・・」

也幸「・・・・・(ぐいぐい)」

 

ぬ、脱がそうとしてる・・・

慌てて也幸くんを止める、まったくもう・・・

 

女性従業員「ではお写真ですが、1000円でフォトフレームをご用意していますー」

僕「特製の写真を撮ってくれるんだって、特別な写真入れと一緒に貰えるよ」

雪菜「ネズミーさんの家で・・・撮ってもらって買ったのと一緒です・・・」

雪絵「え〜、カメラあるよねぇ〜」雪音「もったいないぃ〜」也幸「・・・(コクッ)」

僕「うーん・・・じゃあ両方撮ろう!雪菜ちゃん、使いきりカメラ貸して」

 

みんなを人魚姫のまわりに並ばせる。

 

女性従業員「お撮りしますよ、お兄さんもどうぞー」

僕「いえいいんです、僕が入ってないのも1枚欲しいので」

雪菜「也幸じっとしてて・・・」雪絵「いいよぉ〜」雪音「とってぇ〜」

 

はいポーズ、と・・・念のためもう1枚・・・よし!

 

僕「じゃあ僕を入れて有料のをお願いします」

人魚姫「オー、ハンサムボーイ!」

僕「ははは・・・センキュー、マーメイドビューティフォー」

 

適当に愛想笑いしておこう。

 

女性従業員「はいー、ではこちらのネズミーさんの人形を見てくださいねー」

也幸「・・・・・!!」

僕「こら!人魚姫さんの背中に隠れないの!」

雪菜「私の前に座って・・・」

女性従業員「いきますよー、さんーにぃーいちぃーネズミー!!」

 

ジュポッ!!

 

女性従業員「もう1枚いきまーす、さんーにぃーいちぃーネズミー!!」

 

ジュポッ!!

 

女性従業員「はーい、ありがとうございましたー、出口はあちらでーす」

僕「ほら、お別れの挨拶をして!」

雪絵「え〜もうぅ〜?」雪音「はやいぃ〜〜」

僕「写真撮影するだけのアトラクションだから!」

人魚姫「グッバァーイ!!」也幸「・・・・・!!(手ぶんぶん)」

 

追い出されるように滝の裏を抜けた、

後ろの列も詰まってたからなー、しょうがない。

写真受取所は、あそこか・・・出来上がりまで30分、他で時間を潰そう。

 

雪菜「お兄ちゃん・・・ありがとう・・・」

僕「うん、それで次はどこへ行こうか」

雪菜「乗ってない・・・新しいエレベーターのがいい・・・です」

 

そうだ、それがあったんだ。

混んでそうだけど様子だけでも見に行こう、

也幸くんがフラッシュの残像にまだ目をショボショボさせてる。

 

僕「手、握ってあげるよ」

也幸「・・・(コクコク)」

雪絵「ぢゃあこっちの手ぇにぎるぅ〜」

雪音「ゆきねはゆきなおねぇちゃんの手ぇ〜」

雪菜「じゃあ・・・私も・・・」

 

みんなで手を繋いで歩く事になっちゃった、

でもなんだか楽しくって、家族って感じで楽しいな。

 

 

 

ひときわ高いビル、

「恐怖のエレベーター」まで歩いてきたのはいいけど、何か様子が変だ。

 

僕「別に並んではいない・・・よな?」

 

新アトラクションなら行列になってるはずなのに、その気配は無い。

 

雪菜「あそこ・・ポスター・・・」

僕「アトラクションの紹介ポスターだ、どれどれ・・・」

 

『ニューアトラクション恐怖のエレベーター、9月4日落下スタート!!』

 

僕「あー、これはまだオープン前だ」

雪絵「のれないのぉ〜?」雪音「みるだけぇ〜?」

雪菜「でもせっかく来たから・・・写真だけでも・・・です」

也幸「ーーー!!ーーーーー!!!ーーーーー!!!!!」

僕「どうしたの!ぐいぐい引っ張って、服がのびちゃう」

 

必死に何かを訴えかける也幸くんに引っ張られ、

仕方無しに行くとなにやら凄く怪しい人影がうろついてる。

何と表現していいんだろうか?ネズミー大好き!を地で行ってるマニアさんたちだ。

 

僕「こら也幸くん!その人たちは見世物じゃないから」

雪菜「ここ・・・従業員さんの入り口みたい・・・です」

僕「そうだね、本来の、恐怖のエレベーターの入り口は花壇で塞がってる」

雪絵「ここだとしたすぎてしゃしんとれない〜」雪音「もっとひろいところぉ〜」

也幸「・・・・・・・・・」

 

あーあ、従業員出入り口の前で佇む也幸くん、何がしたいんだろ?

 

僕「トイレはここじゃないよ」

雪菜「あの・・・お兄ちゃん・・・」

僕「どうしたの?ひょっとして・・・恐い?」

 

確かに現実:2、夢の世界:8な割合の人たちがたむろってるからな。

 

雪菜「ここの人たち・・何か待ってる・・・です」

僕「え?なんで?どうしてそう思うの?」

雪菜「・・・あの人・・・じっと・・・みてる・・・」

 

頭の先から足の先まで高価そうなネズミーグッズをまぶした、

三十代後半のおばさんがじーっと20万円くらいはしそうなネズミー時計を見てる。

他の「着ぐるみきてないのに巨大アヒルくん」なネズミー大好きウキャキャッキャおじさん(勝手に命名)も、

ひらひらなゴスロリというよりゴスアザラシなお姉さんも、時計をチラチラしながら従業員出入り口を気にして・・・あ、扉が開いた!

 

女性従業員「・・・えー、只今より30分だけ『恐怖のエレベーター』をプレオープンいたします!」

 

これかあああああああああああああああああ!!!

 

女性従業員「プレオープンですので出入り口はこちらの従業員専用・・・」

 

なんて説明してるうちにマニアな方々はもう並んじゃった、

僕らも慌てて後ろにつく・・・それにしても也幸くんって、なんて嗅覚なんだ!

普通ならあの集団を前にしたら逃げちゃうだろうに、迷うことなく真っ直ぐ、しかも僕を引っ張ってまで・・・

 

マニアおばさん「やっぱり今日だったわ、昨日が住浜海上保険のプレショー、明日がホテルパンナコッタ招待ツアー、ばっちり今日だったわ」

マニアおじさん「・・・機材準備完了・・・オープンしたら撮影禁止だからな・・・音声テストテスト、あーあーあー・・・」

マニアねえさん「そもそもこのアトラクションはアメリカのネズミーワールドで『ミステリーストーリーホテル』として1998年にですね・・・」

 

賑やかになったかと思ったらマニアな皆さんは思い思いに独り言をしてらっしゃる、

従業員のお姉さんは広いところへ行って呼び込み・・・僕らの後ろにはラッキーとばかり普通の家族連れやカップルが並ぶ。

丁度僕らがこの世とあの世・・・いや、夢と現実・・・違うな、マニアと一般人の境目に立たされているような感じだ。

 

僕「也幸くん、偉い偉い偉い」

雪絵「なでなでぇ〜」雪音「いいこいいこぉ〜」

也幸「・・・・・・♪」

雪菜「どうやったら今日・・・するってわかるです・・か」

僕「きっとマニアになると、どこかから情報を聞きつけるんだと思う」

 

しかも凄い情報収集能力で・・・

これだけ固まって待ってたって事は、もう慣れた物なんだろうな。

関心はするけど、ちょっと近寄り難い・・・奥から今度は男性従業員がホテルマンの格好でやってきた。

 

男性従業員「それではご案内いたします、まずは30名様・・・」

 

マニアツアーズに乗っかっちゃった、

まあいいや、おとなしくしてれば噛まれはしないだろう。

 

雪絵「のれるぉ〜?」雪音「ほんとにぃ〜?」

僕「そうだよ・・・新築の匂いがする、遊園地でも一緒なんだな」

雪菜「あ・・・ここロビーみたい・・・です」

也幸「・・・・・(キョロキョロ)」

僕「色んな絵や銅像が飾ってあるね、見てるだけで飽きないよ」

 

何よりオープン前のアトラクションにお試しで乗れるのが嬉しい!

 

マニアおばさん「こっちが通常の並び列、あっちがパス所持者の・・・」

マニアおじさん「・・・・・・・・(パシャパシャ!パシャパシャパシャ!!)」

マニアねえさん「アメリカのネズミーワールドとはストーリーが違うから、本場はもっと蜘蛛の巣が・・・」

 

きっとマニアな皆さんも、こう見えて、はしゃいでいるに違いない!

 

男性従業員「それでは只今より恐怖のエレベーターにご乗車いただきます・・・」

 

 

<・・・ここから先はシークレット!!・・・>

 

 

プシューーー・・・

 

僕「ついた・・・終わった・・・」

雪菜「すごかった・・・・・すごくすごかった・・・です」

雪絵「あははははぁ〜」雪音「おもしろかったぁ〜」

僕「・・・あれ?也幸くん?也幸くん?・・・也幸くーーーん」

也幸「・・・・・・・・・」

 

放心状態だ。

 

男性従業員「お気をつけてお降りくださいませ」

 

也幸くんを持ち運ぶように乗り物から外す、

ちょっとふらつきながらも外へ・・・あ、写真売り場だ!

さっき乗ってた様子が写真になるみたい、でも残念、9月4日から販売って書いてある。

 

マニアおばさん「んー、他のライドによっては落下パターンが違いそうね、あさってまた来ようっと」

マニアおじさん「・・・よし撮れてる、あとは出口までの装飾の写真撮影だけだな、フィルムあと2本か」

マニアねえさん「ネズミーワールドの方が速度も上下回数も時間も上ね、日本人向けは甘い甘い甘ちゃんだわー」

 

う〜ん・・・素直な心と感動は大人になっても無くしたくないな、まあ、僕ももう20歳だけど。

外へ出るとまぶしい・・・さっきぶつぶつ言ってたマニアさん達はもういない、日光にでも溶けてしまったのかな?

 

雪絵「もぉいっかいのるぅ〜」雪音「またならぼぉよぉ〜」

僕「え?いいけど・・・あ、もう駄目みたい、ほら」

雪菜「本日は終了しました、って出てるです・・・」

僕「うん、列の最後尾にプラカードで出てるね、ほんと也幸くんお手柄だよ」

也幸「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

い、いつまで放心状態なんだろうか・・・・・。

 

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