あくる日。

 

僕「もう午後3時半か・・・」

 

なんとなくぼーっと部屋でテレビを見る、

そういえば夏の高校野球はどこが勝ったんだっけ?

そんなのも気にしてられないくらい慌しい夏だったな、そう、外でも・・・

 

ミーンミンミンミン、ミーンミンミンミンミン・・・

 

夏の暑さを訴えかけるようにセミが鳴いている。

そして、それよりもけたたましいのがベランダの三姉妹だ。

 

雪巳「そんなに暴れたら底がやぶけちゃうー?」

雪菜「雪沙・・・はしゃがないの・・・眼鏡落ちちゃう・・・」

雪沙「気持ちいい〜〜〜このプールだいすきぃ〜〜」

 

フリーマーケットで買ったビニールプールに水をいれ、

ベランダに出して浸かる三姉妹・・・しかもどういう訳か水着もつけずに。

すなわち全裸だ、だから見るわけにはいかない、よってなおさら声がうるさく感じる。

 

雪沙「おにぃちゃんもいっしょにおよご〜よぉ〜」

雪菜「もう1人・・・お兄ちゃんくらいなら・・・入れるです・・・」

雪巳「せっかく買ったんだから、入らないともったいないよー?」

 

に、逃げよう・・・

眩しい日差しとその下の眩しすぎる裸体から、僕は黙って逃げ出す。

部屋を出て、そのまま玄関へ・・・ちょっと外をぶらついて落ち着こう。

 

僕「どこへ行こうかな・・・公園?あとは漫画喫茶か・・・」

 

エレベーターから降りると丁度管理人さんが掃除してる。

 

僕「ご苦労様です」

管理人「・・・・・」

 

無視かよ!

まあ、今は敵とでも思ってるんだろうな。

夏休みが終ったらどうなるか・・・本当、どうなるんだろう?あの三姉妹は。

 

僕「決めるのは僕だけどね・・・」

 

でもまだ、あのビニールプールに、

裸の三姉妹の中に飛び込む勇気はなかった、

勇気というより倫理観だろう、あそこでタガが外れるようなら僕は・・・

 

僕「もう駄目だよな・・・いや、すでにもう、駄目かもしんない」

 

♪〜♪〜♪〜〜〜

 

僕「あれ?携帯が鳴ってる」

 

サイフと一緒に持ってきてよかった。

取るとなにやら騒がしい音をバックに聞こえて来た声は・・・

 

雪香「ちょ、ちょっとちょっと、助けにきてよー!」

僕「え?雪香か?お前・・・助けてって!?」

雪香「はやくっ!場所は、駅南口の、ミラクルセブンって・・・・・はやく助けて!」

僕「落ち着け!一体何があったんだ?説明してくれよ!」

雪香「はやく!はやくーっ!きゃーーーーー!!」

 

プツッ、ツー、ツー、ツー・・・

 

僕「な、なに事だぁ!?」

 

とりあえず急いでいこう!

駐輪場からバイクに乗って、僕は駅前へと飛ばした。

 

 

ブロロロロロロ・・・・・

 

 

僕「南口前・・・どこかに泊めよう、このパチンコ屋でいいかな?」

 

お店の名前は・・・ミラクルセブン、ってここか!

この中って事は、雪香のやつ、女子高生のくせにパチンコ!?

それで補導でもされたんだろうか?中に入ってざっと見回すと・・・

 

僕「いたよ・・・普通に打ってる」

 

しかもタバコ吸いながら!

 

雪香「おっ、来た!おっせーよ」

僕「どうしたんだよ、それが心配して来た人間に対する態度か!?」

雪香「えっ、なにー?聞こえなーい・・・それよりさ、やばいんだー」

 

と言いながら500円玉をパチンコ機に入れた。

 

雪香「昨日ちょーっと3万ばかし体で稼いだんだけどー、今朝からここ並んで打ったのにボロ負けー」

僕「あきれた奴だなぁ、今に始まった事じゃないけど」

雪香「昼飯食べ終わったらお金なくなっちゃってー、でさー、この隣の台のお兄さんに借りたのー」

 

う・・・パンチパーマでいかにも怖そうだ。

 

僕「お昼の時にお金下ろせばよかったんじゃ?」

雪香「ばっかじゃねーの?口座まだ作れるわけねーじゃん」

僕「あっ、そうか・・・ってパチンコはいいのかよ!」

雪香「そういう訳だからさ、2万だけちょろっと貸してくんない?」

僕「あきれた、助けてー!ってそういう用件かよ!」

 

さて、帰るか・・・

 

雪香「ちょちょちょっと、どこいくんさ!」

僕「あーパチンコの音がうるさきて聞こえなーい」

雪香「やばいって!アタシ、生きて帰れなくなっちゃうってば!」

 

た、確かに隣のパンチパーマさんはヤバそうだが・・・

 

雪香「それとも妹は助けて姉のアタシは助けられないってわけー?」

僕「お前の場合は自業自得だろ!」

パンチパーマ「おい!話が違うんじゃねーか?金返せよコラ!」

雪香「だからコイツが払いまーす」

僕「え?こら逃げるな!しかもコイツってなんだコイツって!」

 

耳元で雪香がささやく・・・

 

雪香「助けてよー、このままじゃヤバい事務所に連れてかれちゃうー」

僕「お前が悪いんだろうが!」

雪香「マジお願い!体バラバラにされちゃうー」

 

まったくもう・・・

よりによってこんなヤバそうな人から借りやがって、

これじゃあ払ってやるしか選択肢がなさそうじゃないか・・・・・

 

僕「今回だけだぞ・・・」

 

財布を覗くと2万2千円入ってる、

昨日の帰りに下ろしといて良かったなー。

 

僕「すいません、それじゃあ・・・」

 

パンチパーマの事務所在住っぽい人に渡そうと2万円を出すと、

横から雪香がスッと抜き取り、そのうち1万円をヤバそうな人に渡す。

 

雪香「はい、これで返したかんね、あんがと」

僕「え?雪香お前、2万円借りたんじゃ・・・?」

雪香「台変えよーっと♪」

 

僅かに残った玉を握り締めて逃げていった、

あいつ・・・借りたのは1万で、さらに1万円で遊ぶために!

 

僕「雪香め!」

 

と、他の台を探すがどこにもいない・・・

くまなく探しても、女性専用の台を探しても・・・

あいつ、台を変えるとかいって、お店まで変えたんじゃ!?

 

僕「こういう逃げ足はあいかわらず速いな、あんにゃろ・・・」

 

・・・・・・・・・家に帰ろう。

 

 

 

 

 

バイクでマンションに戻ると、

駐車場に雛塚家の子供たちが集まってる。

隆幸に雪音に雪絵に也幸くん・・・上を見上げてる?

 

僕「何だろ・・・え?え?わ!!!」

 

ひゅーーーーーーーーーー・・・・・どさっ!!

 

何かマンションの上から落ちてきた!

それを拾いに行く隆幸くんたち・・・よく見るとそれは、

おせんべいとか、カステラとかの袋・・・開けてむしゃむしゃ食べてる。

 

びゅーーーーーー・・・どさどさどさっ!!!

 

カールとか、チーズ鱈・・・今度は落としてくる場所がわかった、

最上階、すなわちうちの窓じゃん!ということは落としたのは・・・・・

落ちたものも、こないだスーパーで買い置きした物ばかりだし・・・これは注意しないと!

 

隆幸「あ、やべー!」

 

1人だけ逃げた隆幸、

あとのちっちゃい子はまだムシャムシャ食べてる。

・・・まあ怒るならあの子たちよりも、上だ。

 

也幸「・・・・・」

僕「え?くれるの?いいよいいよ」

也幸「・・・・・・・・・」

 

バイクを駐輪しエレベーターに乗る、

急いで部屋に戻ると下着姿の三姉妹がくつろいでる。

 

雪巳「あー、おかえりー」

雪菜「ベランダの・・・もう片付けた・・・です」

雪沙「ばんごはんつくるねぇ〜」

僕「こら!誰だ、窓からお菓子落としたのは!」

三姉妹「・・・・・・・」

 

この反応からすると、三人とも共犯か・・・

 

僕「危ないだろ!怪我したらどうするんだ」

雪沙「え〜、でもおかしだから、いたくないよ〜?」

僕「自転車や車の前に落ちて、びっくりして事故とか起きたらどうするんだ!」 

雪巳「いつも下はちゃんと確認してるよー?」

僕「確認だけの問題じゃない!どんな物でも20階から落としたら・・・」

雪菜「ごめんなさい・・・です」

僕「もし、次やったらここから出てってもらうから」

 

みるみる表情が泣きそうになる三姉妹!

しまった、『出ていってもらう』って言葉は脅迫になるから使いたくないんだった。

それに、じゃあ悪い事しないならここにずっといられるって事になる訳で・・・まずいこと言っちゃったな。

 

雪沙「ごめんなさぁ〜〜〜い!!」

雪菜「もうしない・・・・です・・・ぐすっ・・」

雪巳「私が悪いのー、だからー、私がお仕置きされてもいいからー」

 

お、お仕置き・・・

って変な想像しちゃったじゃないか!

何か一気に怒る気持ちが醒めちゃったというか萎えちゃったというか。

 

僕「まあ、わかってくれたらいいんだよ、わかったら・・・」

 

目に涙をいっぱいためてる三姉妹を見たら、もう怒れない。

お菓子を盗んだようなもんだけど、その分、この子たちのを無しにすれば、それでいいか。

 

僕「・・・汗かいたからお風呂入ってくる、邪魔しないでね」

 

お詫びに背中流すー、とか言われないように釘をさしとかないとな。

 

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