僕「な、也幸くんっ!?」

也幸「・・・・・」

僕「こんな所で、何してるの!?」

 

ぐいっ、とカードを僕に見せつける。

 

僕「え?それは・・・猫猫園の永久フリーパス!」

也幸「・・・(コクコク)」

僕「ひょっとして、猫猫園へ行こうと歩いて・・・?」

也幸「・・・・・(コクコクコクコク)」

僕「千葉の房総だよ?歩いてなんて行ける訳ないよ!?」

 

・・・困った顔をしながらも、

電車の架線を見上げながらそれに沿って歩いていく。

きっと線路の横をなぞって歩いていけば、いつかつくと思っているんじゃ・・・?

 

僕「歩いて行くなんて駄目だよ、迷子になっちゃうよ?」

也幸「・・・(ぶんぶん)」

僕「そんなに行きたいの?」

也幸「・・・・・(コクコクコクッ)」

僕「まったく、無茶だなぁ・・・」

 

このまま放っておいても、

多分途中であきらめて引き返して、

いつもの公園あたりで野良猫相手に遊んでるだろうけど、

万が一、引き返すタイミングを無くして遠くへ行き過ぎちゃったら、

帰れなくなったり連れ去られたりしないとも限らない・・・って、また歩いてっちゃう!

 

僕「あーもう、わかったわかった!今から連れてってあげるよ!」

也幸「!!!!!」

僕「今回は特別だよ?」

也幸「!!!!!!!!!!(コクコクコクコクコク!!!!!)」

僕「そんなにうなずいちゃ、脳みそが掻き混ざっちゃうよ」

 

今から電車だと1時間前後かかる・・・

猫猫園って夜6時か7時までだったよな?

5時半についたとして、6時閉園だったら30分しかいられない。

 

僕「明日じゃ駄目?」

也幸「・・・(ぶるんぶるん)」

僕「今日だと30分しかいられないかも知れないけど、それでもいいの?」

也幸「・・・・・(コクッ)」

僕「わかった、急いで行こう」

 

也幸くんにはここんとこ三姉妹から守ってくれてる恩義があるし、

これは風俗へなんか行くなっていう神様のおぼしめしか何かかもな。

さあ、ご機嫌になった也幸くんと一緒に駅へ行こう・・・あぁ・・・さようなら、禁断の果実・・・・・

 

 

 

 

ガタンゴトン・・ガタンゴトン・・・

 

JRの特急に乗り換えて猫猫園へ向かう、

也幸くんは永久入場券をちらちら見ながら窓の外を見てはソワソワ・・・

楽しみなんだろうな、ゆうべネットで猫猫園ライブカメラ見せたから行きたくなったのかも。

 

車内販売「コーヒーにジュース、お弁当にお菓子、新聞に雑誌はいかがでしょうか〜」

也幸「!!!!!」

僕「・・・そういえば夕食の時間だよな、つくまで1時間かかるし、お弁当食べる?」

也幸「!!!(コクコクコク)」

僕「よし・・・すみませーん、お弁当2つにお茶2つ」

 

適当な幕の内弁当を買う、

受け取ると嬉しそうに開ける也幸くん、

何の変哲も無い中身なのに、凄いご馳走に見えるようだ。

 

僕「つくまでまだまだ時間があるから、ゆっくり食べなよ」

也幸「・・・・・(ぱくぱく)」

僕「はやっ!はいお茶・・・あーあ、梅干そのまま飲み込んじゃった」

也幸「・・・・・・・・(ガツガツガツガツ)」

僕「種ごと飲み込むとお腹の中で芽が出て、おへそから樹が生えちゃうよ?」

也幸「!!!!!」

僕「ははは、うそ、うそ」

 

1時間、退屈せずに済みそうだ。

 

ガタンゴトン・・・ガタンゴトン・・・ガタンゴトン・・・・・

 

 

 

 

 

僕「さあ目的の駅についたよ!」

也幸「!!!!」

僕「こらこら、走っては遠いって、タクシーで行こう」

 

時間は5時を回ったばかりか、

タクシーで10〜20分だから間に合った感じだ。

急いで乗り込んで行き先を告げる。さて、とりあえず家に電話しよう。

 

僕「さすがにもう誰か帰ってきてるだろう・・・」

 

携帯で自宅へかける・・・

 

トゥルルルル・・・トゥルルルル・・・トゥルルルル・・・ガチャッ

 

音声「ただいま留守にしております、ピーッと鳴ったら・・・」

僕「もしもーし、僕だけど誰かいるー?雪巳ちゃーん、雪菜ちゃーん、雪沙ちゃーーーん!」

 

ガチャッ

 

雪菜「はい・・・お兄ちゃ・・ん?」

僕「良かった・・・僕だけど、今、也幸くんと猫猫園に向かってるんだ」

雪菜「也幸・・・だけ・・です・・か」

僕「うん、それで遅くなりそうだから夕食はいらないよ、雛塚家にも言っておいて欲しいんだけど」

雪菜「わかった・・・・・です」

 

しっかりものの雪菜ちゃんに任せておけば、大丈夫だろう。

あとでみんなにお土産を・・・って言っても猫猫園ならソヨカゼのお土産くらいしかないか。

 

僕「帰る時間決まったらまた電話するね」

雪菜「私も・・・行きたかった・・・です」

僕「いや、急に也幸くんがさ・・・じゃあ後でね!」

 

切っちゃおう!

・・・やましい訳じゃないんだけど、

也幸くん相手に嫉妬までされたんじゃ、きりがないよ。まあ、かわいいけど。

 

ブロロロロロロ・・・・・

 

 

 

 

僕「あ、見えてきた」

也幸「!!!(バンバン!)」

僕「こらこら!窓を叩いちゃ駄目!」

 

・・・帰り用にこのタクシー会社の電話番号控えておこう。

猫猫園の駐車場にタクシーが入り正門で降ろしてもらう、

代金を払って、っと・・・中からは親子連れがぞろぞろ出てきてる。

 

僕「ええっと・・・あれ!?入場券売り場が閉まってる」

也幸「ー!ー!−!」

僕「也幸くんはいいけど僕のチケット買わなくちゃ・・・えっと・・・」

 

なになに・・・営業時間、10:00〜17:00・・・午後5時まで!?

 

僕「いま5時18分だから・・・ぎりぎりアウトか」

也幸「!!!!!」

僕「閉園だって、あーあ・・・これなら出る前に電話で聞けばよかったね」

也幸「・・・・・(たたたたた・・)」

僕「こら!出口から入っていっちゃ駄目!!」

 

中にはまだ数名のお客さんと、

掃除や片づけをしはじめている従業員さんたちがいる。

 

也幸「ーー!!−−−!!!」

園長「おや、君は確か・・・」

僕「す、すみませんっ!!」

 

猫のトイレを清掃する園長さんに、

永久パスポートを見せて何か訴えかけてる也幸くん、

でもウーウーうなってるだけじゃあ伝わらないよな・・・

 

園長「覚えてますよ、ミケオくんを持ってきてくださった・・・」

僕「もうそんな名前がついてるんですか」

園長「いえ、名前は一般公募しようと思いまして、仮で・・・」

僕「いい名前がつくといいですね、それで今日は見に来たんですけどこんな時間に・・あれ?」

也幸「!!!!!」

 

あああ!三毛のお母さん猫を見つけて走っていっちゃった!

そのまわりには、あの子猫たち・・・ちゃんとミケオくんも!也幸くんちょっと泣いてる。

 

僕「ごめんなさい、どうしても一目だけでも見たいってきかくなって」

園長「いいですよ、ゴタゴタうるさい音しますけど、鍵を閉める9時までいても」

僕「いいんですか!?」

園長「ええ、そのかわり、まずは消毒を・・・」

僕「あ!そうでした、すみません・・・也幸くん!いていいかわりに手の消毒しなさいって!」

 

すでに母猫や子猫に顔を舐められまくって猫流の消毒されてる・・・

でも良かった、本当に特別な特例だろうけど、来てみるもんだな。

也幸くんの日頃の行いの良さかな・・・僕はただいるのが悪く思えてきちゃった。

 

僕「ありがとうございます、その、僕に何かできるお手伝いがあれば・・・」

園長「では消毒が終わったらまず猫を運ぶの手伝っていただけますか?」

僕「はい、なんなりと!」

 

也幸くんが遊んでる間、僕は猫猫園の臨時お手伝いさんをしたのだった。

 

 

 

 

 

園長「ご苦労様でした」

僕「ふぅ・・・猫の餌ってこれだけ運ぶと腰にきますね」

園長「明日の朝もありますからね、自然に足腰が鍛えられますよ」

僕「すみません、足手まといになっちゃったかも・・・9時過ぎてますし」

園長「いいんですよ、それより坊やは・・・?」

 

あれ?どこへ行ったんだろう?

・・・・・いたいた!和室で母猫子猫と一緒に丸くなって寝てる!

ほんっと、この一家に溶け込んじゃってるな・・・でも、もう時間切れだ。

 

僕「也幸くん、帰るよ」

也幸「・・・・・(目ごしごし)」

僕「夏休み終ったら、また来よう」

也幸「・・・・・・・・・(コクン)」

僕「じゃあ猫ちゃんたちが起きないうちにバイバイしよう」

 

園長さんと一緒に正門を出る、

しっかり鍵がかけられて・・・これで中は猫だけだ。

 

僕「さて、タクシー呼ばなくちゃ」

園長「よろしければ駅まで送りましょうか?」

僕「ええ?そこまでしてもらっていいんですか??」

園長「もちろんです、通り道ですし、さあ」

僕「ありがとうございます!よかったね、也幸くん」

也幸「・・・・・zzz・・・」

 

あーあ、僕の背中でもう寝ちゃってる。

電車の中もきっと熟睡だろうなぁ・・・でも、本当に来て良かったよ。

あの猫たちのように、也幸くんも、そして三姉妹も、雛塚家みんなも、幸せになるといいなぁ・・・。

 

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