僕「いちちちち・・・しみるしみる」

美鈴「何よマキロンくらい、90万円が助かった事に比べれば」

僕「でも、痛いのは痛いんですもん」

 

家について、美鈴ねえさんに治療をしてもらっている。

三姉妹に聞かれたくない話しが山盛りなので、使ってない部屋に座布団2枚だけひいて・・・

 

美鈴「シップ貼るから上脱ぎなさい」

僕「はい・・・あー痛い・・・酷い目にあった・・・」

美鈴「美人局の宝石詐欺ね、いつかこんな目に会うんじゃないかって前々から心配してたわ」

僕「でも、大学の合コンで知り合った女の子だったから・・・」

美鈴「あの様子じゃ罪悪感無いでしょうね、単なるバイト感覚。いつか絶対酷い目に遭うわ」

 

・・・援助交際しまくってる雪香みたいなもんか。

そう考えると、外見は三姉妹を足して大人にしたような感じだったけど、

中身はビッグマザーと雪香と三悪兄弟をまぜてさらに性悪にしたようなものか・・・でも胸大きかったなぁ・・・

 

美鈴「・・・ちょっと、何ズボンの前を膨らましてるのよ」

僕「い、いや、これは・・・」

美鈴「あの美人局に未練でもあるの?ああやって着飾ってたけど実際はあんなのタレ乳で黒乳首よ」

僕「わ、わかるんですか!?そんな所まで!」 

美鈴「そう思って諦めなさいって事!それとも90万円払ってでもする価値のある女だったのかしら!?」

 

パシンッ!!

 

僕「いてててて・・・背中叩かないで・・・」

美鈴「シップ貼っただけよ・・・これに懲りたらお金の怖さとありがたみをよく考える事ね」

僕「はい・・・これからは気をつけます・・・」

 

そう考えると被害がこれだけで済んだと思わなきゃな・・・

 

美鈴「あそこに何か忘れ物したとかないわよね?」

僕「はい・・・あ!ひとつだけ・・・ジャングル大帝のTシャツ!」

美鈴「そんなもの、くれてやりなさい!それにもう着たくないでしょ?」

僕「確かに・・・ちょっと女性不信になりそう・・・」

美鈴「でも助けてくれたのは雪菜ちゃんたちよ?」

 

と、美鈴ねえさんも・・・

 

僕「美鈴ねえさん・・・ありがとう」

 

 

 

 

 

僕の部屋に戻るとみんな今日観た劇団十期の話題で盛り上がってる。

 

雪巳「ねー美鈴さーん、私も劇団十期に入りたーい」

美鈴「あら、大変よー?大学出てさらに研修所に行かないといけないわよ」

雪菜「私は・・・するとしたら・・・お話書く方・・・です」

雪沙「でもぉ、ゆきさくらいの子もでてたよぉ〜?」

美鈴「子役だって5歳とか6歳の時から鍛えて、やっと10歳とかでデビューできるのよ」

 

そうか、10歳の子役でもキャリア4年とかなのか、大変そうだ。

 

僕「でも雪巳ちゃん、ダンスとかは鍛えたらいけそうだよね」

雪巳「セリフ覚えるのも頑張るー」

雪沙「ゆきさもいまからきたえたら16でデビューできるぅ〜?」

美鈴「ん〜、あそこは凄く厳しいから普通じゃ無理よ、例えば劇団十期の座長さんにしてもこんな話があるのね」

雪菜「どんな話・・・ですか」

 

ひょっとして、座長さんが劇団の女優を片っ端から・・・とか!?

 

美鈴「座長の志染先生が『明日は朝10時からリハーサルを始めましょう』って言ったとするわね」

雪沙「リハーサルって、れんしゅぅ〜?」

美鈴「そう、で、雪巳ちゃんだったら何時にそのリハーサルに行く?」

雪巳「朝9時30分かなぁ〜」

美鈴「それくらいの時間に志染先生が入ると思って朝9時に来たとするでしょ?でも実は・・・」

僕「まさか、それでも遅い!?」

美鈴「そう、志染先生はすでに朝8時に来てリハーサル前の個別指導をしている訳」

雪菜「なんだか・・・罠みたい・・・です」

美鈴「で、8時までに来てなかった人はリハーサルに出れないだけじゃなく、もう即クビよ」

 

ひ、ひでぇ・・・暴君だ!!

 

雪巳「そんなのわからないよー」

美鈴「そういう世界なの、雪巳ちゃん、ついていける?」

雪巳「絶対むりー」

僕「でも、そういった事を耐え抜けば、デビューできて後は楽ができると」

美鈴「楽なものですか、デビューしてからはもっと大変よ」

 

並べられたチラシからオペラ座の怪人を持ってくる美鈴さん。

 

美鈴「劇団十期の劇団員は制約も多いわ、スキー禁止、自転車禁止、個人的な海外旅行禁止・・・」

雪菜「どうして禁止・・・ですか」

美鈴「大事な役者さんが怪我したら大変だからよ、例えばこのオペラ座の怪人」

雪巳「名前だけ聞いたことあるー」

美鈴「劇団員が見習い含めて1000人近くいても、この怪人役をやれる人は今2人しかいないのよ」

 

ええっ!?なんでだ!?

 

僕「確か劇って、主役のプリンシパルだとかいうのに対して、控えの役者が全ての役にいていつでも交代できるっていう・・・」

美鈴「それは普通の劇団ならね。でも、座長の志染先生は厳しいから、この難しい役をやれるのはこの人とこの人だけ!ってなっちゃうの」

雪沙「ぢゃ〜、もうひとりのひとはおやすみぃ〜?」

美鈴「ううん、他の劇場で違う劇の違う役をやっているわ、だからアンダースタディ(代役)は無いの、現にジャングル大帝の劇が名古屋と東京でやってた時、

   名古屋の悪いライオン役の人が交通事故で出れなくなって、わざわざ東京で別の劇の役をやっていた人を新幹線で呼びつけたの、

   もちろんすぐには来れないから名古屋の会場では3時間遅れになっちゃって、その間、トークショーやミニ即興劇で時間をもたせたり、

   入場料は全員払い戻し、だから3時間待てば無料で劇が見れたの、さらに終わった後、劇団員が出口で全員ペコペコ謝っていたそうよ」

雪菜「そこまでするん・・・ですね」

美鈴「当然、代わりに来た人がいれば東京で本来その人がやるべきだった役が空く訳で、そこにはさらに他の芝居の稽古中だった人を強引に入れたり・・・」

僕「歯車が一つ崩れると大変なんですね」

美鈴「そうよ、だから体調管理も大変、週に1度ある休日は本当に『体を休める』ための日で1日潰れちゃうわ」

 

あーあ、雪巳ちゃんがしょんぼりした表情になってる。

也幸くんがとことこやってきてその雪巳ちゃんの頭をなでなで・・・

 

美鈴「日本中に10個も劇場があるうえに地方を回る劇もあるからほんっと大変よ」

僕「詳しいですね」

美鈴「むかーし、ちょっと追っかけてたから・・・私が通ってた頃はオペラ座の怪人、怪人役は1人しかいなかったのよ」

雪沙「ぢゃ〜かぜひいちゃったらぁ〜?」

美鈴「中止ね、事故で入院とかになったら退院するまで中止、払い戻しで大変な事になるわ」

僕「それは凄いプレッシャーだ・・・」

美鈴「それでもその人は3年半ずっと怪人役を1人で毎日演じ続けたの、それはそれは迫力あったわぁ・・・」

 

うっとりしてる・・・美鈴ねえさんが、うっとりしてる!!

 

美鈴「ま、その人は3年半怪人やった後『そろそろ違う役をやりたい』って座長の志染先生に言ったら即クビになったけどね」

雪菜「ひどい・・・かわいそう・・・です」

美鈴「君のやりたい役とお客様が君に演じて欲しい役は一緒じゃない、それもわからん君はクビだー!って」

雪巳「もうわかったー、あきらめるー」

美鈴「それがいいわ、雪巳ちゃんには雪巳ちゃんに合ったお仕事があるはずだから」

 

あーあ、あきらめちゃった。

でも、それだけ大変なんだって話を聞けて勉強になっただろう。

と同時にこれは僕への教訓か!?あの一見完璧に見えた詐欺女にうつつをぬかすよりもっと自分に合った相手をっていう・・・

 

僕「考えすぎかな・・・」

美鈴「いけないこんな時間だわ、帰って夕飯作らなくっちゃ!」

雪菜「助けてくれて・・・ありがとう・・・です」

美鈴「こちらこそ、弟クンの大ピンチを救ってくれてありがとう」

雪巳「ありがとー」

雪沙「またすくってねぇ〜」

也幸「・・・・・(手ぶんぶん)」

僕「下まで送ります」

美鈴「いいわ、それより今夜はその子たちに慰めてもらいなさい!じゃあね」

 

そう言い残して美鈴ねえさんは本当の夫の所へと帰っていった・・・

もうこれ以上、手間をかけさせないように気をつけよう・・・特にああいう美人局は、もうこりごりだ。

 

雪巳「夕御飯、お昼の残りだけどいいよねー?」

僕「う、うん、僕は食べない予定だったから、贅沢は言わないよ」

雪菜「暖めてくる・・・です」

雪沙「おにぃちゃぁ〜ん、このぱすわぁどってなぁにぃ?」

僕「ん?ジャングル大帝の劇のキャスト表か、配ってたやつ・・・秘密の扉パスワード?」

 

公式サイトのアドレスが載ってる、

どれどれ、早速繋いでみよう・・・劇団十期公式サイト、

ジャングル大帝の秘密の扉、と・・・あった、ここに打ち込むのか・・・・よし!

 

僕「打ち込んだよ」

雪沙「あ〜、子供ライオンの役の人だぁ」

僕「お、メイクが完成するまで、か・・・なかなか面白いね」

雪沙「インターネットっておもしろ〜い」

僕「そうだね・・・あ、そうだ、也幸くんおいで」

 

老猫のひげをつんつんしてはソヨカゼに迷惑そうな顔をされてた也幸くんが、

呼ばれて僕のほうへ来た、膝にのせて、っと・・・検索ワード、猫猫園、っと・・・よし繋がった!

 

僕「前の子猫ちゃんたちが貰われていった、猫猫園のホームページだよ」

也幸「!!!」

僕「あの子たちいるかな・・・あった、三毛猫のオス登場!だって」

也幸「ー!ー!ーー!」

僕「ライブカメラコーナーもある、今現在の猫猫園の中が見れるよ、ちょっと待ってね」

 

・・・・・映った!

猫猫園の園内だ!ライブカメラを自由に動かしてズームインもできる。

 

僕「どこかなどこかな・・・」

也幸「!!!(ぱしぱし)」

僕「画面を指で叩かない!ここ?じゃあズームするね」

 

・・・・・お母さん猫が籠に入って寝てる!

子猫は・・・いた、ちゃんと3匹、畳の上で遊んでる!

貴重な三毛猫のオスも・・・也幸くん、ちょっと目がうるんでる。

 

僕「元気そうでよかったね」

也幸「!!!(コクコクコク)」

僕「またいつか観に行こうね」

也幸「・・・・・・・」

僕「あーあ、モニターに釘付けになっちゃった」

 

・・・でもこうして也幸くんに良い事をしていると、

詐欺女にひっかかった傷心も少しは塞がるな、本当、家族って大事だ。

当分はこの子たちの面倒に専念するかなぁ・・・うん、そうしようっと。

 

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