職員女「3人とも本当に良いお嬢ちゃんですね」

僕「は、はぁ、まあ・・・」

職員男「凄く好かれているようですが」

僕「それは嬉しいですけど、下の環境が悪すぎましたからね」

職員女「そうですわね、そこと比べればここは天国だって雪沙ちゃんも言ってましたし」

 

またそんなこと言ってたのか・・・

 

職員男「でもあのくらいの子ですと手がかかる事もありますよね」

僕「んー・・・どっちかっていうと僕が世話をしてもらっているくらいで」

職員女「お手伝いさんをやっているって話でしたわよね?」

僕「ええ、家事を三人がかりで・・・ちょっと早いのかも知れないけど悪いことではないと思いますよ」

職員男「それはお願いしてやってもらっているのですか?」

僕「ええっと、どうだろ、嫌々やらせては無いです、少なくとも僕は。そういう事、考えてもみなかった・・・」

職員女「一応、あの子たちは母親に言われてここへ来ているんですわよね?」

僕「そうですね、でもあの子たちはそれを凄く喜んでたから・・・義務感で嫌々奉公やらされてる感じではないです」

 

何を今更確認しているんだろう?

どこかへ報告するために、あらためて経緯をまとめてるみたいだ。

 

職員男「それで、あの子たちを養子に、という件ですが」

僕「あ、はいはいはい、ちゃんと考えてます!」

職員女「1ヶ月以上暮らしてみて、率直な感想はどうですか?」

僕「んー・・・妹が3人できたみたいで、今は凄く楽しいです」

職員男「大変だと思った事は?」

僕「それはやっぱり、よその娘さんを預かってる身だから、その、接し方がいつも大変です」

職員女「それはどう大変なのかしら?例えば?」

僕「えっと、ああいう年頃の子はデリケートだから、一緒にお風呂・・・の時間が重ならないようにとか」

 

やばい、思わず変な言葉が出ちゃいそうになったぞ!

 

僕「でもあの子たち、洗濯物一緒にしちゃうし、お風呂の順番、先でも後でもどっちでもいいっていうし」

職員男「まだあの子たち、幼い部分が残っているようですね」

職員女「逆にあなたの方が、デリケートな年頃で緊張してしまってるようですね」

僕「でも、養子に貰えばその、やっぱり兄と妹みたいに慣れると思いますし・・・」

職員女「あなた、恋人とか、つきあっている女性はいないの?」

 

痛いところを突いてくるなぁ・・・

 

僕「まだですけど、明日、大学の友達と・・・合コンに」

職員男「合コンですか、懐かしい・・・私も若い頃はよく行きましたよ」

僕「そこで恋人ができたらいいなぁって」

職員女「好みのタイプはどんな感じですか?」

僕「やっぱり僕ってよく美鈴義姉さんに『しっかりしなさい』って言われるから、美鈴さんみたいなしっかりしてくれる人かなと」

 

あれ?職員の2人の表情がなぜか安堵に包まれたような・・・

表情もぐっとやわらかくなっている、何か僕、いいこと言ったのかな?

 

職員男「素敵なお姉さんが見つかるといいですね」

僕「ええ、合コンは前から頼んでたんですけど、やっと女の子が揃ったみたいで」

職員女「じゃあ、今のうちに妹が3人いるって言うのもいいかも知れませんね」

僕「そのへんは・・・夏休みが終る頃に決めるっていうことにしてあるので」

職員男「ではこれから、下の雛塚さんの家に一緒に行きましょう」

 

え!?もう三姉妹を貰いに行くのか!?

 

職員女「こちらの、承諾書の事を一応確認しておきたいので」

僕「そ、そうですね、いるかなぁ、雛塚さんのお父さん」

職員男「お酒で暴れていなければいいんですが・・・」

僕「雪巳ちゃんたちはどうしましょう」

職員女「一緒に来ていただいた方がいいと思いますが」

 

廊下へ出て台所へ向かって声をあげる。

 

僕「みんなー、下の家へ挨拶に行くから準備してー」

雪巳「えー、カレーもうすぐできるよー?」

僕「すぐに火を止めて!みんなで行くから!」

 

さあ、僕も準備しよう。

 

僕「じゃあ僕もお土産を取ってきます」

職員男「これは私が預かっておきますね」

僕「承諾書ですね、はい、どうぞ」

職員女「では玄関で待たせていただきますわ」

僕「すぐに行きますから!」

 

僕の部屋に戻りお土産を取って、

廊下に戻ると丁度、三姉妹と也幸くんもやってきた。

 

雪巳「何しにいくのー?」

僕「旅行いってきた報告を相談所の人が立ち会ってしにいくんだよ」

雪菜「そこまでしなくても・・いいです・・・」

僕「でも相談所の人にちゃんと見てもらわないといけないからさ」

雪沙「すぐおわるよねぇ〜?」

也幸「・・・・・」

僕「也幸くんは留守番・・・は無理か、一緒に行こっ」

 

玄関で相談所の人たちとも合流し、

みんなでエレベーターに乗る・・・定員8人だから狭いや。

1階について雛塚家へ・・・僕は緊張しながらインターフォンを・・・押した!

 

・・・・・・・・・・

 

僕「反応が無い・・・ですね」

雪巳「開けた方が早いよー」

 

ドアを雪巳ちゃんが開けようとしたその時!

 

雛塚母「なんだいいったい全体!?」

 

声は、後ろだ!!

 

僕「あ、あの、その・・・」

雛塚母「そんなとこに溜まってると中に入れないよっ!邪魔っ!」

雪巳「ねーお母さーん」

雛塚母「雪巳、来たんなら晩飯くらい作っていきなっ!」

雪巳「う、うんー」

 

ひでぇ・・・

普通なら「御飯でも食べていきなさい」なのに・・・

 

職員女「すみません、先日の話なんですが・・・」

雛塚母「なんだい?私はあんたに用なんかないよ!とっとと帰りな!」

職員男「雪巳ちゃんたちが無断で外泊に連れて行かれたという事をお聞きして・・・」

雪菜「無断じゃ・・・ない・・・です」

雛塚母「うちの娘がどこで泊まろうと勝手じゃないの!あんたに口出しされる言われはないよ!」

 

・・・・やべ、ちょっとビッグマザーを心の中で応援してるかも。

 

職員女「でも先日、どこへ行ったか知らないとおっしゃって・・・」

雛塚母「知らないって言っただけで、連れてっちゃ行けないとは言ってないよっ!」

職員男「でも行き先がわからないというのは常識的に考えて不安では・・・」

雛塚母「あたしゃもうこの娘らをそっちに預けてるんだから関係ないよっ!わかったらでていきなっ!!」

僕「あ、あの・・これ、旅行のお土産・・・」

 

お茶セットを渡そうと出した瞬間、山賊のように奪われた!

 

雛塚母「ふんっ!次はもっと量のある物持ってくんだね!」

 

鍵を出してドアを開け、

入ってバタンッ!と力任せに閉じていった。

やっぱり酷いや、このビッグマザーの味方にはなれない・・・

 

職員男「あいかわらずですね」

僕「どうしましょう、もう1度インターフォンを・・・」

雪沙「きっとぉ、しつこいってひどいこといわれちゃうよぉ〜?」

職員女「他にも話をしたい事が色々あったのですが・・・」

僕「わかりました、もう1度呼びましょう!」

 

ガチャッ

 

雛塚父「どうなさいました?」

 

中から勝手にドアが開き、

今度はお父さんが出てきた、しかも酔ってない感じだ!

 

僕「こんばんわ、その・・・」

雪巳「お兄ちゃんと旅行いってきたよー」

雪菜「初島・・・静岡・・・楽しかった・・・」

雪沙「みんなにもおみやげあるのぉ〜」

雛塚父「そうかそうか・・・本当にありがとうございます」

 

ああっ、僕にまたペコペコバッタ・・・

 

僕「いえとんでもないです、その、僕の方だって楽しかったですし・・・」

職員男「すみません、これは事実でしょうか?」

職員女「この誓約書のようなものは、一体・・・」

雛塚父「これでしたら私が書きました、色々とあらぬ疑いをかけられては申し訳ないので」

雪沙「え〜、おにぃちゃん、うたがわれてたのぉ〜?」

 

・・・やっぱり相談所の人も、確認とかいってこれが捏造じゃないかと疑っていたのか!?

 

職員女「そうでしたか、先日伺った時はそのような返事はいただけなかったものですから・・・」

雛塚父「妻はああいう性格ですし、私は酔うと記憶が無くなるものでして、申し訳ない」

職員男「では旅行は公認だったという訳ですね」

雛塚父「ええ、できるならば他の子たちも、機会があればどこかへ連れてってあげて欲しい位です」

僕「わ、わかりました、善処します・・・」

 

他の子って、三悪兄弟はさすがに嫌だぞ・・・

 

雛塚父「あの、そろそろよろしいですか?お酒を買いに行きたいので」

職員女「はい、お手数をおかけいたしました」

雪巳「私はこっちの晩御飯つくってくるねー」

雪沙「ゆきさはこっちのいえ、かたずけるぅ〜」

雪菜「私は・・・お兄ちゃんと上に戻る・・・です」

 

酔ってないお父さんが外へ出て、

雪巳ちゃん雪沙ちゃんが入れ替わりで雛塚家の中へ・・・

そして僕と雪菜ちゃん、職員の2人は僕の家へ向かうべくエレベーターに乗る。

 

職員女「夏休みが終るまでにきちんとした場を設けた方がいいですわね」

僕「はい・・・その時は僕の家でやった方がいいですね」

職員男「弁護士も立てた方が良いでしょう、専門的な事もありますから」

 

・・・これって話が養子に進んでないか?

 

職員女「そうそう、この付近でも最近、不審者の情報が相次いでいるそうですわ」

職員男「何でも幼い女の子に声をかけて、家に来ないかと誘っているそうで」

僕「物騒ですね、みんながそういう事に過敏になるのもよくわかります」

 

ということは、その犯人として疑われてたのか!?

まさか・・・でも確かに何も知らない人が見たら、僕ってあやしいかも!?

 

雪菜「お兄ちゃんは・・・守ってくれる・・・です」

僕「そうだね、でも自分でもじゅうぶんに気を付けるんだよ」

雪菜「うん・・・・・はい」

 

エレベーターから降り階段を上がると・・・

 

僕「あ、雨だ」

職員男「ついに降り出してきましたか」

職員女「まぁ大変、傘持ってこなかったわ」

僕「お貸ししますよ、安物のビニール傘ですけど」

職員女「まぁ、いいんですか?ではお言葉に甘えて」

 

家に帰ると客間で荷物を手にする職員さんたち。

 

僕「忘れ物はありませんか?」

職員女「ええ、今日は・・・大丈夫のようですわ」

職員男「では明日の合コン、頑張ってくださいね」

職員女「素敵な彼女を捕まえてきてくださいねー」

僕「ははは・・・頑張ってみます」

 

何も雪菜ちゃんがいる時に、そんな事言わなくてもー!

 

職員女「それではお義姉さんによろしくお伝えください」

僕「はい、傘は・・・これを」

職員男「では次回に必ずお返ししますから、お借りしていきます」

僕「安物ですからいいですよ、下まで送りましょうか」

職員女「いえ、それでは・・・雪菜ちゃんもまたね」

雪菜「・・・・・・・・はい」

職員男「では失礼します」

 

・・・・・・・・玄関から出ていった。

ほっと一息・・・といいたい所だけど、雪菜ちゃんにやばい事聞かれたなあ、

どう言い訳しよう・・・でも小6って合コンの意味わかってるのかな?彼女を捕まえて、とか職員さん言ってたし・・・

 

僕「雪菜ちゃん、その・・・」

 

と振り向いたらもういない・・・

どこへ行ったんだろう?と思ったらカレーの匂いが香ってきた。

台所へ行くと雪菜ちゃんがカレーの仕上げに入ってる、ついでに也幸くんは椅子に座って寝てる。

 

僕「雪菜ちゃん・・・」

雪菜「カレー・・・もうちょっとでできる・・・です」

僕「う・・・・・・・・うん」

 

かけるべき言葉がみつからない・・・

僕は逃げるようにして自分の部屋へと駆け出したのだった。

 

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