雪巳「お兄ちゃーん、朝だよーーー」

老猫「にゃーーー、にゃーーーーー」

雪巳「もう遅いよー?10時回ってるよー」

 

ん・・・うるさい・・・

雪巳ちゃんの声はいいんだけど・・・猫がうるさい・・・

 

僕「んー・・・おはよう」

雪巳「おはよー、朝ごはんできてるよー」

老猫「にゃーにゃーにゃーーーー」

僕「猫どうしたの・・・あ、也幸くん」

也幸「・・・・・」

 

老猫の前でじーっと座ってる、

結局、うちに泊まってたんだっけ、

心配そうに腕の怪我を見てる。

 

僕「あー・・・麻酔が切れて痛いんだろうなぁ」

也幸「・・・・・(くすん)」

僕「痛み止めを飲ませなきゃ・・・餌にまぜよう」

 

ちゃんと食べてくれるといいけど・・・

 

猫缶をあけて真ん中にチューブの薬を混ぜる、

これでよし・・・ここまで混ぜればわからないだろ。

 

僕「ほら・・・あれ?名前なんだっけ」

雪巳「ソヨカゼだよー」

僕「よし、ソヨカゼ!朝御飯だよ、痛みもやわらぐよ」

也幸「・・・(コクコク)」

老猫「ぶにゃん!(ぷいっ)」

 

あー、そっぽむいちゃった。

混ぜても匂いでわかっちゃうのかなー?

 

『ぴんぽーーーん!』

 

こんな朝からインターフォンが!?

誰だろう、宅急便?でも初島で買ったお土産は持ち帰ったはず・・・

 

とたとたとた・・・

 

雪沙「ぃや〜〜〜〜〜!」

僕「ど、どうしたの?」

雪沙「だってぇ〜〜〜」

 

玄関の小型モニターを指さす雪沙ちゃん、

そこに映っていたのは・・・げ!管理人だ!!

 

僕「雪沙ちゃんは奥に隠れてて!」

雪沙「だいどころでまってるねぇ〜〜」

僕「うん・・・さて、どうするかな」

 

面倒くさいけど、19階まで降りてこよう。

インターフォンに返事はせず玄関を出て急いで階段を降りる。

直接来た僕に管理人はちょっと驚いたがとたんに険しい表情になった。

 

僕「あの、なんでしょうか?」

管理人「いやねぇ、ゆうべ、猫の声がうるさいって苦情がきたんですよ」

僕「ええっ!?猫の声・・・・ですか」

 

あれだけぎゃーぎゃー喚いてたら、

そりゃあ苦情は出るよな、しかもエレベーターの前で。

 

管理人「それで話を聞いて回っているんですが・・・」

僕「それは・・・ご苦労様です」

管理人「いやねぇ、本当は今日は日曜ですから私も休みなんですけど、苦情がきてはねぇ・・・」

 

う〜ん、しらばっくれても、

このそぶりだと何か掴んでそうだな。

しょうがない、ここは正直に話すしかないか。

 

僕「実は・・・」

管理人「えーっ!?オーナー、まさか!?」

僕「ええ、一時的に怪我をした猫をですね」

 

鬼の首でも取ったような表情してるよ。

 

管理人「そりゃーまずいでしょう!オーナー、マンションの規則違反ですよ!?」

僕「いや、でも、その、ちょっとだけ・・・」

管理人「あきれましたね、あなたオーナー失格だ」

 

なんでそこまで言われなきゃいけないんだよ。

 

管理人「オーナー、あなたが持ち込んだんですか?」

僕「ええ、怪我してて治療してもらって、動けないみたいなんで・・・」

管理人「困りましたねぇ、そういう事をされては。オーナーがそんなのでどうするんですかい?」

 

あー、なんか凄く腹がたってきたぞ。

 

僕「申し訳ないです、でもせめて猫の怪我が治るまで我慢してもらえませんか?」

管理人「私が我慢してもしょうがないんですよ、規約は規約ですから!」

僕「あーもう!じゃあ友達の家か親戚の家にでも預けますよ!」

 

それで頭を下げればもういいだろう。

 

管理人「そこまでしなくても・・・仕方がありませんね、私が預かりましょう」

僕「え?管理人さんがですか?」

管理人「ええ、管理人なら規約も関係ないでしょう、管理する側ですから」

僕「管理人さんが面倒みてくれるんですか?」

管理人「ええ、ですから、あの子たちもいつでも猫を見に遊びに来てもいいと伝えてください」

 

・・・やっぱりそれが目的かー!!

 

管理人「では猫をひきとりましょう、あの子たちも一緒に来てもらって・・・」

僕「ちょ、ちょっと待ってください!勝手にそんなこと決めないでくださ・・・あれ?」

 

エレベーターが開いて、中から出てきたのは・・・

 

美鈴「あら管理人さん、おはようございます」

僕「美鈴ねえさん!」

管理人「あっ、はい、おはようございます」

 

助け舟になってくれるかな・・・?

 

美鈴「一体どうしたんですか?エレベーター乗ってても声が聞こえてきましたけど」

管理人「実は私が、オーナーが連れてきた猫を預かる事になりまして・・・」

僕「まだそんなこと決めてないって!」

管理人「いやぁ困りましたよ、オーナーがゆうべ怪我した猫を連れ込んで、その鳴き声で苦情が殺到して」

美鈴「まぁそんな事があったの?弟クン、電話くれれば良かったのに」

 

そうだった、美鈴ねえさんに相談するって選択肢もあったんだ、

でもあの時は猫を助けなくっちゃって必死だったから頭が回らなかった、

それに美鈴ねえさんに頼りすぎてるから、何でもホイホイ電話するのに抵抗もあったんだと思う。

 

美鈴「ではその苦情を入れた方にお詫びに回りたいので、どの部屋かお聞かせ願いますか?」

管理人「いやねぇ・・・電話だったのでどの部屋かまでは・・・」

美鈴「あら、苦情が殺到したんですわよね?だったら何号室か、1軒くらいは・・・」

管理人「それは、その・・・個人情報に関する事ですから」

美鈴「あら、オーナーが情報を開示して欲しいっていうのよ?ねえ弟クン?」

 

あっという間に立場が逆転してきたぞ!?

 

僕「ええ、僕に個人情報を隠すのは意味ないと思いますが」

管理人「しかし、嫌でしょう、こういう事でギスギスするのは」

美鈴「つまり管理人さんが事を穏やかに治めてくださるのですね?」

管理人「そ、そうです!ですから、事を内々に治めるなら、私も盾になって・・・」

美鈴「では猫の事は忘れてください、苦情があれば直接、ウチで対処しますわ」

 

お?管理人がちょっとオタオタしてる。

 

管理人「しかしこのマンションはペット禁止!オーナーがそれを破っては・・・」

美鈴「あら、オーナーがOKならペット飼ってもいいはずですわよ?」

管理人「ちょっと!そんな規約はありませんが!?」

美鈴「ええそうでしょうね、オーナーには規約は適応されませんから」

管理人「でもペット不可で賃貸契約しているマンションでしょう!道理がつきませんよ!」

 

必死になってる、顔も紅くなってるな、管理人さんちょっとかわいそう。

 

美鈴「そもそもこのマンションは20階がオーナーの自宅です、いわば縦の隣宅です、マンション契約者とは別です」

管理人「でも猫が鳴いてたのは19階でしょう、私は見ましたよ?」

美鈴「それはあくまで通路、私道です、しかもオーナーの私道であれば、オーナー判断になります」

管理人「私はこのマンションの管理を任されている以上、私の判断に従ってもらわなくては・・・」

美鈴「その管理人を雇用しているのはオーナーです、判断の権限でいえばオーナーの方が上ですよ?」

 

すごいや美鈴ねえさん、何でも物知りだなぁ。

 

管理人「私を、脅す気ですかい!?」

美鈴「いえ、事実を言っているだけですわ、何なら管理委託をもっと話のわかる業者さんに・・・」

管理人「いや、で、では、オーナー!後でちゃんと話をつけましょう!」

 

分が悪いからって逃げてっちゃった。

エレベーターが閉まって降りるのを確認してから20階への鍵をあける。

 

僕「ありがとう美鈴姉さん、本当に助かりました」

美鈴「何オロオロしてるのよ、ここは君の持ってるマンションなんだから、もっと胸張りなさい!」 

僕「はい・・・でもよくマンションの規約とか色々知ってましたね」

美鈴「あら知らないわよ?まぁ、大体あってると思うけど」

僕「じゃあ、結構ハッタリとかもあったんですか!?」

 

階段を上がり玄関へ・・・

 

美鈴「だ・か・ら、堂々としなさいって事よ、勢いで押されちゃ間違ってる事でも言いくるめられるわ」

僕「じゃあ、はっきりこっちが正しいって主張すれば・・・」

美鈴「弟クンは人が良過ぎるから付け込まれるのよ、いい?管理人と後で話しつける必要なんてないから」

 

ガチャ、とあけると雪菜ちゃんが迎えてくれてる、

きっと心配でモニターを見てたんだろうな、雪沙ちゃんも安心させなきゃ。

 

美鈴「あら雪菜ちゃんおはよう、初島どうだった?」

雪菜「はい・・おはよう・・・です・・・楽しかった・・・・・です」

老猫「みにゃあああ〜〜〜〜〜」

僕「また叫んでる・・・玄関まで泣き声が響いてるよ」

美鈴「この声が噂の猫ちゃんね、じゃあ見せていただくわ」

 

僕の部屋へ行くと也幸くんがオロオロしてる、

何とか薬入りの餌を食べてもらおうと、一生懸命勧めてるけど・・・

 

老猫「ふにゃぁっぁああああ(ぷーーーいっ)」

也幸「・・・・・・・!!!」

美鈴「あらあら、腕が痛くて朝が食べられないみたいね」

僕「じゃあ、どうやって薬を飲ませればいいんでしょう?」

美鈴「このチューブが薬ね、私に任せて・・・」

 

チューブを指に出して・・・それを、猫の鼻頭につけた!?

 

老猫「にゃっ!!」

 

ぺろっ、と舌で舐め取った!

あっという間に飲み込んじゃったよ・・・

 

雪沙「すごぉ〜い、まほぉ〜みたぁ〜い」

美鈴「こんなもんよ、邪魔だからって飲んじゃったわ」

僕「こんなに簡単に・・・餌に混ぜる必要なかったんですね」

美鈴「痛みが和らげばそれでも食べるでしょうけど、痛いと食事自体が辛いんでしょうね」

雪菜「美鈴お姉さん・・・ありがとう・・・・・です」

也幸「・・・(コクコクコク)」

老猫「ふにゃぁ〜〜〜・・・」

 

痛みが和らいできたのか、目を瞑っちゃった。

 

美鈴「放っておけば食べるでしょ、みんなは朝ごはんもう食べたの?」

雪菜「まだ・・・です」

雪沙「みすずおね〜さんもいっしょにたべるぅ〜?」

美鈴「私は食べてきたわ・・・今日はちょっと様子を見に来ただけだから」

僕「あ!初島のお土産渡さなきゃ」

 

ひょっとしたらお土産を取りにきてくれたのかな?

感じからしてそれだけじゃないような気もするけど・・・

 

美鈴「まぁ!ありがとういただくわ、じゃあ車まで一緒に運んでちょうだい」

僕「はい・・・みんなはもう先に御飯食べててもいいよ」

美鈴「雪巳ちゃんは台所かしら?」

雪沙「そ〜だよぉ〜、なにかつくってたぁ〜」

僕「え?まだ料理作ってる最中なの?」

雪菜「終わったはず・・・・です」

美鈴「じゃあちょっとご挨拶だけしていくわね」

也幸「・・・・・(ぎゅ〜〜〜)」

美鈴「もう!服引っ張っちゃ、だーめ!」

 

みんなで台所へ行くと、そこには・・・

 

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