夕日を背にバイクを走らせマンションに帰ってきた。

大学では夕べの美鈴ねえさんの言葉が頭の中でぐるぐる回っていた・・・

どうするべきか・・・そして僕の出した結論は、言いたいことを言う、そう・・・直接対決だ。

 

雛塚家のビッグマザーに、きっちり言うべき事を言う!

どこまで出来るかわからないけど、はっきりあの子たちのために注意しなくちゃ。

変に言いくるめられないようにして・・・逆にまともに聞いてくれるかどうかも不安だ。

でも、こういうのは積み重ねが大事なんだよな、最初は駄目でもずっと言い続ければ・・・

もうあんな痩せてる姿、見たくないし公園やコンビニで寝てる姿も二度と見なくて済むように・・・

 

バイクを止めて・・・あ、またあいつら自転車いじってる!

雛塚家の三悪兄弟・・・自転車のチェーンキーの暗証番号をクルクル回してる、

1つづつ1つづつ、ずらしては引き、ずらしては引き・・・根気よくやればいつか当たってしまう。

 

僕「こらーーーーー!!!」

 

逃げる逃げる・・・

まったく素早いなあ。

でも、僕がいなくなったら、またやるんだろうな・・・

 

 

雛塚家へと向かう、

廊下では・・・あれ?またか・・・

管理人さんとビッグマザーが、また口論してら。

 

管理人「ですから!延滞している家賃をですね・・・」

雛塚母「引き落とさない方が悪いんじゃないの!!」

管理人「その引き落としが残金ゼロで出来ないって言ってるんですよ!」

雛塚母「そんなの知らないねっ!誰か引き落としたのを盗んだんじゃないのかいっ!?」

管理人「そんなことないですから!」

 

あいかわらずムチャクチャな内容だなあ。

 

管理人「あっ、オーナー!」

雛塚母「・・・そうそう!思い出したわ!!」

管理人「ちょっと雛塚さん!逃げないでくださいよ!」

雛塚母「逃げないわよ!・・・家賃はこの子が払うわ」

僕「ええっ!?ぼ、ぼ、ぼくううううう!?」

 

なんでやねん・・・

って、なぜか関西弁でつぶやいてしまった。

 

雛塚母「ゆうべもうちの娘たちがお世話になったみたいで・・・ねぇーーー」

僕「は、はい・・・」

 

ビッグマザーの変にかしこまった丁寧な声色・・・気持ち悪い。

 

雛塚母「うちの娘たち、このボウヤの家に奉公に出すから!」

僕「ほ、ほうこう!?」

雛塚母「そうよ、住み込みの奉公、メイドに出したから!その給料でこのボウヤが家賃払うことになってんのよ!」

僕「そんな約束した覚えは・・・」

雛塚母「何よ!ゆうべうちの娘が世話したでしょ?夏休みいっぱい三人をあんたんとこへメイドに出すから、家賃頼んだわよ!!」

 

なんという展開!!

 

僕「ちょっと待ってください!あの子たち、ゆうべも外で寝ようとして・・・」

雛塚母「あんたが雇わなくても雪巳も雪菜も雪沙も家に入れないからね!ワカッタラデテケー!」

 

扉を開けてバタンッ、と逃げるように雛塚家へ入っていった・・・

あいかわらずな人だ、ミスターポーゴとジャイアンのママをたしたような・・・

って、奉公ってどういうことだよ!夏休みいっぱいメイドにって、家賃が僕って!?

 

ぴんぽーんぴんぽーんぴんぽーん

 

呼び鈴を押す管理人さん!

しばらくしてから声だけがドアごしに響く。

 

雛塚母「なんだい?まだなんかあるのかい!?」

管理人「いいかげんに家賃払っていただけないと、強制撤去してもらいますよ!」

雛塚母「そんな金があるんなら家賃にしときな!!」

 

すごい理論だなあ・・・

あ!ランドセル姿の雪沙ちゃんだ。

 

雪沙「あ〜!おにぃちゃ〜ん」

僕「雪沙ちゃん、おかえり」

雪沙「ただいまぁ〜♪」

 

その声が聞こえたのかドアの向こうから再び声が。

 

雛塚母「雪沙!うちに入るんじゃないよ!」

雪沙「ええ〜?なんでぇ〜〜?」

雛塚母「お前は今日からそこのお兄ちゃんに奉公に出るんだから!」

雪沙「ほ〜こ〜〜〜?」

雛塚母「メイドになるんだよ!そのお兄ちゃんの世話をして、住まわせてもらいな!」

 

小5の娘になんてこと言うんだ・・・

雪沙ちゃん、泣いちゃうぞ・・・ひどい・・・

 

雪沙「う・・・う・・・・・」

 

や、やばい、ここで大泣きされたら面倒だ。

 

雪沙「うわ〜〜〜〜い!うれしい〜〜〜!!」

 

ずこっ

 

雛塚母「夏休み終わるまで帰ってくるんじゃないよっ!!」

雪沙「は〜〜〜〜〜い♪」

 

おいおいおいおいおいおい!!!!!

 

雪沙「おにぃちゃ〜ん、ゆきさ、がんばってはたらくぅ〜」

僕「ちょ、ちょちょちょっと!!」

 

ぴとっ、って僕の腰にぴったりくっついちゃった・・・

 

管理人「困ったね〜」

僕「は、はい、こまり・・・ました」

管理人「・・・・・おじょうちゃん、おじいさんと一緒に行こうか」

雪沙「や!お兄ちゃんがいい!」

管理人「そうかいそうかい・・・」

 

管理人さんが僕に耳打ちする。

 

管理人「・・・警察か児童相談所へ連れてってくれるかい?」

僕「う〜〜〜〜ん」

雪沙「いやあ!ゆきさ、おにぃちゃんのおうちでメイドするのぉ〜!!」

 

ば、ばっちり聞こえちゃってるよ・・・

 

僕「まあ、相談所でもまたすぐ戻されちゃうだろうし、うちで今夜も泊めますよ」

管理人「いいんですか?」

僕「はい、親の了承もある訳ですし・・・」

 

本当ならゆうべ美鈴姉さんが言った通り、

根気よく児童相談所に連れ続けるのがいいんだろうけど、

雪沙ちゃん本気で嫌がってるし・・だって、僕の後ろに隠れて震えてる・・・

僕は逆に管理人さんに耳打ちする。

 

僕「・・・それに、うちに置いた方が児童相談所との話もスムーズに出来ると思いますから」

管理人「・・・・・・そうですか、ありがたい!では相談所には連絡しておきますので・・・」

僕「はい・・・」

 

雪沙「そ〜だんしょ、いやぁ〜!!」

 

ボカッ!!

 

管理人「いてっ!!」

 

蹴った!!

そのままエレベーターの方へ・・・

乗って、急いでボタン連打して閉めて・・上へ・・・

 

僕「大丈夫ですか!?」

管理人「ええ・・あー痛い・・なんて子だ」

僕「とりあえず、親の同意のもと、僕が保護しておきますから・・・」

管理人「よろしくお願いします」

僕「はい・・・」

 

エレベーターは19階まで上がって止まっていた・・・

 

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