僕の部屋に戻ってきた。三姉妹はすっかりくつろぎきっていて、
まるでここが自分達の家でもあるかのようにゴロゴロしている。
美鈴「さ、みんな集まって」
三姉妹の前に座る美鈴姉さん、
どうするんだろう?まさかこれから追い出すんだろうか。
美鈴「さて・・・出てって」
僕「え・・・え、僕!?」
それは僕に向けられた言葉だった。
美鈴「これから健康診断をするから。まずさっきの汗疹の子からね・・・ほら、シャツを脱いで」
雪沙「はぁ〜〜〜い」
持ってきたカバンから聴診器を出す、
元ナースだからってそんなのまで持ってるんだ・・・
って僕の方を見て少しムッとする美鈴姉さん。
美鈴「この後、他の子にも脱いでもらうんだから、早く出てって!」
僕「あ、は、はい、そっかそっか、じゃあ・・・」
慌てて出る僕。
そういうことか・・・
確かにあの子たち、体が心配だもんな・・アバラも浮いてたし。
いつのまにか僕はあの子たちが朝まで寝ていた部屋に入っていた。
今朝は驚いたなぁ、疲れていつのまにか寝ちゃって、起きたらあれだもん・・・
それより、これから僕がどうするかっていう事だ、あの子たちを・・・・・
窓に映った自分の顔を見ながら考える。
これ以上、泊め続けるのはやめた方がいいだろう、
だからといってあの子たちを放っておくわけにはいかない・・・
でも、通報されて何とかなるならとっくになってるはずだ、
だからってあきらめる訳にはいけない、こまめに状況をしかるべき所に通報するか、
もっと言えばあの家族自体をもう追い出す時期にきているのかも知れない、家賃滞納・・・・・
ガラッ、とフスマを開けて来客用の布団をひく、
もうこんな時間だし、あんな家にはとても戻れないだろう。
・・・って、この甘さがいけないのか?ひょっとして僕、あの子たちに泊まって欲しい??
僕「い、いやいや、そんなはずじゃ・・・」
首を振って雑念を払う。
僕「今夜が最後・・・今夜が本当に最後だ」
自分にそう言い聞かす・・・
確かに全て見なかった、知らなかった事にして、
今後一切関わらなければ楽だ、美鈴姉さんも選択肢としてそう言った。
あの子たちを養子に、だなんて現実離れした夢の中みたいな話は所詮、冗談だろう。
でも・・・でも、今更、これから全て無かった事に僕自身、出来るのだろうか・・・?
僕「・・・・・かわいそうだよなぁ、やっぱり・・・」
そう思ったのは何度目だろう?
・・・・・そうだ、僕はもうハタチ、大人なんだ・・・
やっぱり大人は大人らしく、しかるべき事を、しよう。
美鈴「弟クン〜〜〜、もう終わったわよ〜〜〜」
廊下に美鈴姉さんの声が響く、
戻って大丈夫みたいだ・・・自分の部屋に再度、戻った。
僕「どうでした?この子たち」
美鈴「うん、まあ、ね、雪沙ちゃんには下痢止めもあげたし」
僕「ありがとう、わざわざ・・・」
美鈴さんはもう家を出る格好になっている。
美鈴「じゃあ、おじょうちゃん達、おやすみね」
雪沙「うん、ありがと〜〜」
雪菜「おやすみなさい・・・」
雪巳「おやすみーーー!!」
僕「あ、また何かあったら電話します・・・」
すれ違いざま、耳元で囁かれる。
美鈴「・・・・・車まで」
玄関までついていく僕、
ちょっと戻って三姉妹に告げる。
僕「布団敷いてあるから、もう遅いから寝てね」
雪沙「んー、ありがと〜〜」
雪菜「・・・・・はい」
雪巳「もうちょっとしたらねー」
靴を履き傘を手にした美鈴姉さんにあわててついて行く僕、
19階まで階段を降り、エレベーターに乗る・・・美鈴さんの表情、キリッとしてる。
僕「ありがとう、あの子たちの健康診断まで・・・」
美鈴「まあね、ああした方が良かったから」
僕「良かったって・・・?」
美鈴「ほら、私と弟クンとで別の部屋で話合ってたでしょ?それで戻ったらあの子たち、すごく不安な表情になってたから」
僕「そう・・・ですか?気づかなかった・・・ゴロゴロくつろいでるだけに見えたけど」
エレベーターが1階についた、
駐車場に通じるマンションの裏玄関へと歩く・・・
美鈴「だから、君との相談はあの子たちの健康面の相談をしてた、っていう事にしたの」
僕「そこまで気遣って・・・」
美鈴「あの年頃の子は本当に繊細だからね・・・ついでにそれとなくあの子たちの気持ちも聞きだしたわ」
僕「ええっ!?」
美鈴「本当に軽くだけどね・・・あの子たち、また通報されやしないかって事を物凄く心配してたわ」
傘を差して駐車場を横断する。
強い雨が傘にぶつかってボツボツと激しい音がする。
美鈴「親に怒られるんでしょうねぇ・・・でも、あきらかに酷い暴力の怪我は見当たらなかったわ」
僕「つまり、殴られたりはしてないってこと・・・?」
美鈴「そう、雪沙ちゃんの汗疹くらい。あれはあれで虐待には変わりないんだけど」
そうか、裸にしたのはそれもチェックするためだったのか・・・
美鈴「あの子たちは通報して欲しくないみたい、あの子たちに気に入られたいなら通報しない方がいいかもね」
僕「き、気に入る気に入らないの問題じゃあないんじゃ・・・?」
美鈴「だったら通報しなさい、そうすればもうあの子たちは弟クンの所へは来なくなるわ、多分」
車についた、まだもうちょっと話をしたい・・・
反対側に回って助手席に乗る僕。出かけるつもりは無かったんだけど。
美鈴「あの子たち、弟クンももう気づいてると思うけど、君の家に住みたいみたいよ」
僕「だろうとは・・・思いました」
美鈴「どうするの?引き取る?養子に貰ってみる?そのかわり1度貰ったら途中で投げ出す事は許されないわよ」
僕「またそんな冗談を・・・あ、そうだ、コンビニに連れてってください、すぐそこだけど」
美鈴「・・・・・冗談じゃないんだけど」
エンジンをかけ、車が走り出した。
美鈴「あの子たちの下心、わかるでしょ?」
僕「あ・・・うん、食事とお風呂と宿、あとくつろげる部屋・・・」
美鈴「君にも責任はあるわよ、調子にのって、もてなしすぎちゃって。相手は子供よ、遠慮なんて知らないわ」
僕「それは、わかります、でも、僕も、つい、うれしくなっちゃって・・・」
美鈴「・・・・・あの子たち、子供は子供でも、もう思春期に入りかけだから、わかる事はわかるわ」
わかることはわかる・・・わかる事は・・・って?
美鈴「あの子たちの裸を見ないようにしなくちゃ、っていう態度もあの子たちは分かってるのよ?」
僕「え?だって、あの子たち、特に雪沙ちゃんや雪菜ちゃんは、はじらいとか無いみたいで・・・」
美鈴「もうあのくらいの子は男の子の視線に敏感よ、それが『見ないようにする視線』でもね」
なんだか恥ずかしいな・・・
あ、もうコンビニについちゃった。
美鈴「言いたい事は、あの子たちは幼いからといって、馬鹿ではないっていうこと」
僕「うん・・・なんとなーく・・・わかる気がする」
美鈴「特に雪菜ちゃん・・・あの子は勘も鋭いし洞察力もあるわ」
僕「ええ?あのボーッとした雪菜ちゃんが??」
美鈴「あの子はトロいだけで、そうとう頭は切れるわ、だから私もここまで気を使ったの」
・・・・・男の僕じゃわからなかった、美鈴姉さんは同じ女性だからわかるのかなぁ?
美鈴「ほら、コンビニ行ってらっしゃい、帰りもマンションの前まで送ってあげるから」
僕「あ・・・はい、すぐ戻ります」
車から出てコンビニに入る、
さっき食べられなかったガリガリくん・・・あった!
しかも4種類!増えてる!種無しスイカ味が!やったぁあ!!
ガリガリくんを4種類も同時に一気に食べられるなんて、なんていう幸せなんだろう?
と、さっさと買って車へ戻る・・・すぐに発車される。
僕「・・・何から何までありがとう」
美鈴「・・・・・まあ、何でも相談して」
僕「うん・・・あの子たち、僕が思ってるより大人なんだね」
美鈴「子供よぉ、子供は子供。子供に変わりはないわ、それは忘れちゃ駄目」
僕「え?さっきと言ってる事が・・・」
大人で子供で・・・子供で大人?
美鈴「私は1度もあの子たちが大人だなんて言ってないし、思ってもないわ」
僕「はぁ・・・」
美鈴「弟クンだってそう、まだ子供よ」
僕「はい・・・そうです」
美鈴「でも君は大人」
どっちなんだ・・・あ、マンションについた。
美鈴「つまり、人間はいろんな部分部分で別々な成長をしてるってこと」
僕「うーーーん、今夜ゆっくり考えます」
美鈴「悩みなさい、まだ若いんだから。じゃあね」
僕をマンションの前に置いて、
美鈴さんはかっこよく去っていった・・・
僕「ただいま〜〜」
雪巳「おかえりなさーーい」
雪菜「あ・・・アイス・・・」
雪沙「もう1本くれるのぉ〜?」
僕「ち、違うよ!美鈴姉さんにコンビニまで連れてってもらって、新しく自分のを買ったの!」
ガサゴソとアイスを取り出す。
僕「いっただっきまーす!」
がぶがぶとアイスを食べる食べる食べる食べる!
くぅ〜〜〜〜〜っ、おいちい・・・舌が冷たくなってきた、頭もキンキン・・・

雪菜「あの、これ・・・」
僕「ん?あ!当たりじゃん!」
雪菜「うん、私のソーダ味、当たった・・・どうしよう」
僕「あげるよ、明日にでも貰っておいで」
雪菜「・・・・・ありがとう」
どうしよう、って無邪気だなぁ・・・・・
こうしてこの日は過ぎていった・・・・・
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