僕「美鈴姉さんごめんなさい、薬剤師のパート、今日もあったんでしょ?」

美鈴「いいのいいの、可愛い弟クンのお願いだから・・・はい、おしまい」

雪沙「ありがとぉ〜!・・・せなかがスースーするぅ〜!!」

 

シャツを下ろす・・・

塗り薬を僕の前に置く美鈴姉さん。

 

美鈴「今日みたいにガリガリ掻くぐらい酷い汗疹のときはこの薬を塗ってあげて」

僕「本当に、ただの、あせもだったんですか?」

美鈴「そう、よほど悪い環境でないとあそこまでは・・・サウナにでも閉じ込められてたの?」

 

確かに雨が降るとあそこはサウナみたいになるのかも。

 

雪巳「雨が降ると雪沙、いつもこうなっちゃうのー」

美鈴「やっぱり・・・湿気が原因ね、あとは衛生面。カビとかも関係してるわね」

僕「や、やっぱり・・・」

 

そういえばあのパジャマも汚かったし、

ユニットバスもちゃんと洗ってるかどうか疑わしい・・・

 

美鈴「どうしてこんなに酷くなるまで放っておいたの?これはもう立派な虐待よ?」

僕「え?ぼ、僕にそういわれても・・・」

雪巳「だってー、お金がないからってー、ママがー・・・」

美鈴「汗疹だって、放っておくと環境によっては蕁麻疹になって一生アレルギーで苦しむことになるのよ?そのもう手前よこれ?」

僕「そこまで深刻だったんだ・・・」

 

・・・そういえば僕、雪沙ちゃんの裸を見ないように、って目を逸らしてばかりいた、

そのせいで酷い湿疹に2日も気が付かなかった・・・変な意識は持つべきじゃなかったかも知れない。

 

美鈴「まあこの先、毎日清潔にして気をつければいいわ・・・えっと・・・」

 

カバンから丸い箱を取り出した。

 

美鈴「さっきの塗り薬は症状が酷いときだけ。いつもはこれを全身につけて清潔にしなさい」

僕「なんか甘い匂い・・・それは?」

美鈴「ベビーパウダーよ、汗を抑えるために朝夜と酷く汗をかいた後につけて」

 

蓋を開けると懐かしの、肌にポンポンあてる毛のやつがある・・・

 

美鈴「湿疹の症状が出てる時には絶対つけちゃ駄目よ?肌に逆効果だから」

僕「つまり、ベビーパウダーで予防、塗り薬で治療ってこと?」

美鈴「そう、子供の時期の大事な肌だからずっと続けて・・・まあ、下の毛が生える頃までの辛抱ね」

僕「し・・・!」

美鈴「それまでは毎日。毛が生えたらもう安心していいわ」

 

しれっと言うなあ・・・三姉妹も真面目に聞いてるし。

 

美鈴「さーーーて、弟クン、次は君の番よ」

僕「え?僕はどこも悪くは・・・」

美鈴「いいからいいから!あ、お嬢ちゃんたちはちょっと待っててねー」

 

強引に引っ張られて部屋から出される僕、

隣の部屋に押し込まれ・・・廊下を確認してからドアを閉めた。

 

美鈴「さて・・・説明してもらおうかしら?」

僕「え?何を?」

美鈴「・・・わかってるでしょう?何からナニまで洗いざらいよ」

 

なんだか、やさしいけど迫力がある・・・

あいかわらず僕はこの美鈴義姉さんには逆らえない、

さすが、美鈴さん(28歳)が務めてた病院に入院した僕の兄(24歳)を

病院でたらしこんで、あっという間に結婚までこじつけた事だけはある・・・

その言葉では一言に言い表せない「押し」のテクニックは弟の僕をもねじ伏せるようだ。

 

僕「せ、説明させて・・・ください」

美鈴「よろしい、正直に言うのよ」

 

僕は初めからから今日までのいきさつをほとんど話した、

さすがに「雪巳ちゃんの胸をつかんじゃった」とか「雪菜ちゃんの陥没乳首が」とか「雪沙ちゃんのパンチラを」とかは言えないけど。

 

美鈴「・・・・・そう、よーくわかったわ」

僕「はい、僕も、もうどうしていいか・・・」

美鈴「で、弟クンはどうしたいの?」

僕「えっ!?」

美鈴「ここまで来たら、君がどこまで足を突っ込むかって事よ」

 

どこまでって・・・

まあ、僕がもうすでに足を突っ込んでるのは事実だけど、

成り行きでここまできちゃって、この後どうすればいいのか本当に困ってる。

 

美鈴「どうするか、選択はまず3つあると思うの」

僕「3つ・・・っていうと?」

美鈴「まず1つ目、今すぐあの子たちのために通報する」

 

通報・・・警察か、でも今までだって何度もそういう事あって無駄だったって聞いたけど。

 

美鈴「こういうのは積み重ねだと思うの、事ある毎にきちんとしかるべき所へ通報すれば、

最初の数回や十何回目はきかなくっても、確実に少しづつ親や警察を、悪い言い方をすれば

追い詰める、ってことになると思うの、根気も手間もかかるけど、でもそれがあの子たちのため」

僕「うーん、そう言われれば確かにそうだけど・・・」

 

でもそれだと、幼い三姉妹自身も追い詰められやしないかな・・・不安だ。

 

美鈴「2つ目、今すぐあの子たちを家から出して今後一切関わらない」

僕「ええっ!?そ、それは・・・大人として出来ないよぉ」

美鈴「な〜にハタチになったばかりの若造が言ってるのよっ!!」

 

おでこをピンッ!と弾かれる。

 

美鈴「選択肢の1つとしてはじゅうぶんある事よ?他人の揉め事には関わらない」

僕「でも・・・」

美鈴「病院に勤めてたとき、普通に路を歩いてただけなのに喧嘩に巻き込まれて死んじゃった人を見たわ」

僕「そ、それは・・・だからって目の前の可哀想な子を放っておく訳には・・・」

美鈴「他にも溺れた子供を助けたために自分が溺れ死んだ人とか・・・美談にはなっても死んだ本人は幸せにはなれないわ」

僕「じゃあ、見殺しにしろっていうんですか!?」

美鈴「自分も生きて戻る自信があるならいいわよ・・・つまり、背負いきれないなら放っておきなさいってこと」

 

うーん、ちょっと極論だけど、言いたいであろう事は、わかる。

 

美鈴「そして3つ目・・・逆に全部背負うのよ、君が」

僕「ま、まさか・・・!?」

美鈴「そのまさかよ、あの子たちを君が引き取って、面倒みるの」

僕「う・・・それは、いつまで・・・?」

美鈴「結婚するまで。しなければ一生」

 

一生・・・お、重い言葉だ。

 

僕「そんなぁ、僕まだハタチですよ!?」

美鈴「もうハタチじゃないの、法律的には立派な大人よ、オ・ト・ナ!」

 

鼻の先をピンッ、と弾かれる。

 

美鈴「君はそれだけの財力もあるし部屋もあるし、権利もあるのよ」

僕「だからって・・・それに、あの子たちやその両親の意思は・・・」

美鈴「もちろんよ、だから、あの子たちやご両親が許可すれば・・・養子に貰うことは出来るわ」

 

なんか、さっきからえらい話がとんじゃってるような・・・

こうした話術でペースを完全に握るのが美鈴さんの技なのかもしれない。

僕の兄も短い入院中にすっかり身も心も骨抜きの虜にされたそうだからなあ・・・

 

美鈴「まあ、今まで言った3つはどれも極端だけど、でもそれくらいの決意は必要よ?」

僕「はぁ・・・確かにあの子たちを『その日暮らし』みたいにはさせられないですよね・・・」

美鈴「そういうこと。あの子たちも不安でしょうし・・・で、弟クンは今の3つならどれを選ぶ?」

僕「うーーーん、急にそう言われても・・・」

美鈴「追い出したいのなら私が引き受けて、やってあげてもいいわよ?」

 

たのもしい・・・のか?

でも、追い出したら可哀想・・・かといって引き取るなんて・・・

やっぱり通報?でもそれも面倒・・・うーーーーーーーーーーーーーーーん・・・・・

 

美鈴「そうね、私なら児童相談所に直接出向いて、おせっかいでも色々とお願いするわ」

僕「どんなですか?」

美鈴「親がどれだけ酷いかの証明をして、児童虐待で逮捕してもらって子供を施設に預かってもらうの」

僕「そうするのがいいっていう話はちょっと小耳に挟んだけど、なかなかうまくいかないみたい・・・」

美鈴「こういう事に行政ってなかなか動いてくれないからね」

 

その分、他人であっても近所の人とかが動くことになるのか・・・

 

美鈴「ま、結論は早く出すことね」

僕「はい・・・そうします」

美鈴「相談があったらいつでも呼んでね」

 

やっぱり、頼りになる義姉さんだ。

 

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