僕「雪菜ちゃん!雪菜ちゃん!」

雪菜「・・・・・・・あっ・・・」

 

ようやく目を覚ました雪菜ちゃん、

椅子に座ったまま膝の上には本・・・

確かに雨風は防げるし灯りもついてるけど、

夜、誰にも気づかれにくい代わりに逆に危険だよ。

・・・あれ?よく見ると眼鏡が片方割れててツルも曲がってる・・・?

 

僕「雪菜ちゃん、眼鏡どうしたの?」

雪菜「・・彦幸・・・お兄ちゃんに・・・家で・・踏まれ・・・たの」

僕「小学生がこんな所で寝てちゃ駄目だよ!さあ、行くよ!」

 

大雨の中、2人の少女を連れてマンションへ向かう・・・

雛塚家へちゃんと入れないと・・・いつか絶対とんでもない目にあうと思う。

大きめの傘とはいえ3人が入るには小さい・・・靴下を濡らしながら、マンション内の雛塚家の前についた。

 

雪巳「あ、雅幸・・・」

 

ドアの前で佇む少年、彼も小学生高学年くらいだ。

おとなしい感じの雰囲気で、おとなしい口調で言う。

 

雅幸「雪巳お姉ちゃん・・・」

雪巳「ここにいるとまた管理人さんに怒られるよー」

雅幸「でも、お父さんが・・・」

 

暗い顔・・・父親がどうしたんだろうか?

 

僕「とにかく、中に・・・」

雪巳「えー・・・」

雪菜「・・・いや・・・」

 

・・・あれ?家の中が騒がしい・・・

 

僕「中、どうなってるの?」

 

口をつむいで下を向く三人・・・

沈黙ののち、雪巳ちゃんが鍵を取り出してドアを開けた、

むわっとした嫌な湿気と空気が倍増している、その中では・・・・

 

男「おら〜〜酒もってこ〜〜〜い!!」

 

ドカドカドカ!バシッ!ガチャン!!

 

奥の部屋で暴れているオッサンがいる!

一升瓶片手に・・・入り口付近では幼い子供が固まって寝ている。

 

僕「あれが・・・・お父さん?」

雪巳「・・・・・うんー」

 

酷い・・・

まるで「バーサーカー」のような酔っ払いぶりだ。

 

雛塚父「おらおら〜〜!やってられっかってんだ!!ヒック」

 

ビュン!!

 

僕「うわっ!?」

 

結構厚い本がとんできた・・・危ない。

僕はあわててドアを閉める、こういうことだったのか・・・

 

僕「雪巳ちゃん、お父さんいつもああなの?」

雪巳「三日に二日はー・・・ああなるのー」

僕「そうか・・・じゃあ、仕方ないな・・・」

 

考え込む・・・う〜〜〜ん、

もう僕の家に連れて帰る訳にはいかないし・・・

かといって、雛塚家がこんな状態じゃあなあ・・・・・

 

雪菜「雪巳お姉ちゃん、雪沙が・・・」

雪巳「うんー・・・そうだよねー・・・」

僕「えっ!?雪沙ちゃん、どうかしたの?」

 

雪巳と雪菜の表情が本当に心配そうだ。

 

僕「どこに・・・いるの?」

雪巳「すぐそこだよー、いつもの場所ー」

雪菜「・・・・・お兄ちゃん・・・」

 

僕の服を引っ張る雪菜。

 

僕「どうしたの?」

雪菜「雪沙だけでも・・・助けて・・・かわいそう・・・」

雪巳「うんー・・・今日は、特にかわいそうなことにー・・・なってるのー」

 

すごく意味ありげ、意味深げだ。

眼鏡が割れちゃってる雪菜ちゃんもじゅうぶん可哀想に思えるんだけど・・・

 

僕「・・・・・雪沙ちゃん、連れてこれる?」

雪巳「うんー・・・たぶんー」

 

再びガチャリと玄関を開ける。

 

雛塚父「おらーーーおいおいおい!酒のつまみはまだかーーー!!」

 

バーサーカーな雛塚父、うるさい・・・

こんな狭い所であんなに暴れて・・・両隣が引っ越すはずだ。

雪巳は足元の少女をどかせ、トイレのノブを回す・・・開かない。

 

雪巳「雪沙!ゆー・きー・さー!」

 

コンコンコンとドアを叩く・・・

ん?トイレの中からも何か聞こえるぞ?

 

雪巳「ゆきさーーーーー」

雪沙「・・・ん〜〜、ん〜〜〜〜〜・・・」

 

・・・・・・・・カチャ!

 

鍵があいた!?

 

雪巳「ゆきさっ!!」

 

その中で見たものは・・・・・

 

雪沙「かゆいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!」

 

ユニットバスのお風呂の上で、

風呂の蓋に背中を一心不乱にこするつけている雪沙ちゃんだった!!

 

雪巳「ほら、いくよー!!」

 

狭い中でモソモソとダンゴムシみたいにのたうつ雪沙を強引に抱き上げる雪巳、

水色のパジャマごしに背中をかいてあげる・・・あれ?この前洗ったパジャマは?

と思ったら足元で寝てる少女が着ている、みんなで回し着なんだな・・・と雪巳と雪沙が玄関を出ると・・・

 

僕「うわっ!?」

 

覗き込んでいた僕の下からすごい勢いで掛け入る体!

さっき玄関の外にいた少年が間を縫うようにしてユニットバスに入り込み、

カチャ、と鍵をかける音がした・・・あっという間の出来事だ。

 

雪巳「雅幸ー!?」

雅幸「もう、ここは僕がとったから・・・」

 

そうか、ユニットバスは数少ない安全地帯だもんな、

それを雪沙ちゃんが出たから急いでわかりにその場を奪ったってことか・・・

まあいいや、とにかく雪沙ちゃんが心配だ。

 

雪沙「かゆいよ〜かゆいよ〜かゆいよ〜」

僕「どうしたの?背中がかゆいの?

雪巳「見てー・・・」

 

雪巳が雪沙の背中をめくる。

 

僕「うわ・・・これは、ひどい・・・」

 

真っ赤に腫れあがった背中、

これは湿疹だろうか?見てるだけで大変そうだ。

 

雪沙「かゆいかゆい〜〜」

 

直接爪でぼりぼりかく雪沙、

雪巳ちゃんは上のほうをパジャマごしにかいてあげている。

 

僕「とにかく手当てしないと・・・連れてきて」

雪巳「うんー・・・」

僕「ほら、雪菜ちゃんも来て!」

雪菜「え?・・・あ・・・・はい・・・」

 

僕らはエレベーターに乗って19階まで上がる・・・

 

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